第二十二話 サルだとわからない魔法の世界
久しぶりに魔力切れが原因で気絶した気がする。
あの魔石ってアイテム、意外と魔力が入るんよ。
あとはどうせ寝るだけだと思って調子に乗ってガンガン込めてたら、あっという間に気絶した。
純粋な魔力切れで朝まで寝てしまったせいか、頭がふわふわする感覚がある。
身体のほうも柔らかさと暖かさとが混じった曖昧な感覚で全身が包まれている。
このままずっと寝ていたい気もするけど、そうもいかないか。
「…………」
目を開けると現実味のない光景が広がっていた。
「おい、なんだこれ……」
上半身がほぼ裸って、なんで?
何人も妖精が吸い付いてるんですけど。
「魔石は後にとっておこうってなったの。だから直絞り」
誰に向けたわけでもない突っ込みに、当然のように聞きなれた声が返される。
「言ってる意味がわからん。っていうか、どこだリナリー」
みんな密着してて顔が良く見えないから誰が誰だか。
「ここ」
パシッパシッ と右頬に小さな手の感触。
「そこに居たのか。ところで直絞りってなんだ……」
「ん~、魔石って吸い出しちゃったらそれまででしょ? せっかく込めた魔力をすぐに消費しちゃうのは勿体無いって事になったの」
あ~、つまりアレか。
保存食として確保しておこうって事か。
オレがいなくなった後、補給が出来なくなってもしばらくの間は楽しめるようにしたわけね。
「なんでこうなったかは、どうにか理解出来た。色々と言いたい事はあるけど、その前に……起き上がりたいからそろそろいいか?」
「そういう事みたいだから、今日はこの辺で解散~」
「「「「は~い」」」」
リナリーの解散宣言で、妖精たちがやっと開放してくれた。
「「「「ごちそう様でした!」」」」
みんなニカッという屈託のない、いい笑顔だ。妖精には明るい表情がよく似合う。
いやいや、そうじゃない。
「どう致しまして?」
反射的に出た言葉だが、これもなんか違うぞ。
おかしいだろ今のは。
それに今日はってなんだ?
「これ……里にいる間は続くのか?」
「そうじゃないかな? みんな美味しいって言ってわよー」
笑顔で部屋の窓から飛び去っていく妖精たちを、手を振って見送るリナリー。
口々に「美味しかったね~」とか「クセになりそう」とか言いながら妖精たちが飛び去っていくのをオレも一緒に見送った。
不幸中の幸いだったのは、今回、魔力目当てで噛み付いていたのは全員が女の子だった事だ。
同性の妖精による精神力がゴリッと削られそうな状況だけは避けられた。
どうも女子会的なノリでリナリーと親しいものが集まったようだ。
全く敵意がなかったのも原因だろうが、いくら気絶していたとは言え、密着されても気が付かなかったとは。
今後、魔力枯渇での気絶は気をつけなければいけないなコレは。
普通の睡眠状態だったら密着されるような事は許してない。
仮に敵意をもっていたら、接近すら許していない。
明らかに魔力枯渇が関係した知覚の低下だと思われる。
ちょっと居心地が良くて気を抜き過ぎてたな~。
それにしても、起きていきなり魔力が枯渇寸前ってどういう事だ。
ついでに言えば、誰だ乳首から魔力吸ってたのは! 気持ちいいじゃないか!
違う、そういうことじゃない。
「もうちょっと加減するように言ってくれ。朝から枯渇は困る」
「ん、わかった。けど、そこは『やめてくれ』じゃないんだ」
「色々と諦めた」
「そう?」
どこか楽しんでるように見えるが、そこは気にするだけ損だ。
ところでラキ、いい加減左手をねぶるのはやめてくれないか?
~~~~
大きさ、形、色、何一つ同じものがない。
その違いによって込められる魔力量が違うのが魔石という鉱石らしい。
どう見てもその辺に転がっている石にしか見えないものから。宝石の原石のようなものが混じっているもの、カットすれば宝石としても通用しそうなものまで多種多様だ。
そして純度が高いほど色が鮮やかになっていく特徴があるようだ。
「魔石って統一性がないのが当たり前なのかな、これは」
魔力を込めながらの感想はそれだった。
朝食後の鍛錬の時間を魔力回復の時間にあて、ある程度回復したところで目の前の魔石の山をどうしてくれようかと思いながら魔力充填作業を開始したのだ。
ラキも興味があるのか、オレの側に来て魔石の匂いをかいだり咥えてみたり、前足で弾いたりしている。いや、これは遊んでるだけで、オレの作業に興味があるワケじゃないな。
「ワシらは在りものを使っているだけで、ほとんど研究はしておらんからのう。その辺りの事はよく分からぬ」
「ふーむ、そうなんだ」
魔力量が多く、それほど魔石に頼らなくても充分やっていけてるというのも、あまり調査や研究をしてない理由なんだろうな。
かといって見つけた場合も、そのまま放置するのも勿体無いから集めたとかそんな感じか。
それにしても良くこれだけ集めたな。
昨日はあれから夕食の時間までレーザーブレスの練習をしばらく続けたのだが、その内容は発動時間の短縮に重点を置いたものになった。
皆、かなり慣れたようで、何人かは実戦で使っても問題ないと思えるほどまで仕上がっていた。
リナリーなんか、自力で覚えたせいか分からないけど、オレと同じかそれ以上に使いこなしていたので、それには素直に感心した。
ちなみにズカ爺はリナリーと似たようなタイミングで習得していたりする。
オレがリナリーに、妖精の瞳をパッド代わりにしたらどうか提案して、危うく蜂の巣にされそうになった時だ。
その日の講義は夕食の時間になり一区切りにして皆で食事となった。
夕食も美味いものがズラっと並んだけど、今ここで話すと長くなりそうだから止めておく。
とにかく非常に美味かった。
そして今朝から魔石への魔力充填をしていて、魔石がどういった物か詳しく調べる機会を設けようかなどと考えてしまった。
ひとつ、ふたつ貰えないかな? 後で聞いてみよう。
そう思うくらいには興味深いアイテムだ。
魔力を込める作業と平行して今日もレーザーブレスの講義。
とはいっても魔石に魔力を込める以外に、これといってやる事がない。
受講者の習熟度の確認と、質問に答えるという感じの流れに自然と落ち着いた。
わいわいと、あーでもない、こーでもないと意見を交わしながら、実際に使う時の注意点や有効な使用法の模索などをしていた、そんな時。
一着目の服が出来上がったと担当者が完成品を持ってきた。
今着ているボロボロの制服のシャツと同じ型のものだ。
一見して同じように見えるが、所々にわずかな違いが見られる。
ボタンの材質は木。プラスチックがないんだから当然か。
一番目を引くのは、縫い目がほとんどない事だ。
肩口なんかはオレが違和感を持たないように極力似せて作ったようで、わざとつなぎ目を残しているが、他の部分の縫い目がなく一体成形になっている。
見比べてみるとよく分かる。
ボタンホールも袖口も胸ポケットも、どうなってるんだと言いたくなる仕上がりになっている。
「なんというか、すごいな……同じ形のはずなのに別ものに見える」
「あなたの着ている服もすごいですよ。とても人の手で創ったとは思えない出来です」
リナリーより年上に見える、女の子というより女の人と形容したほうがよさそうな妖精が、感心するようにボロボロのオレの服をそう評した。
服を作成しているうちのひとりだが、地球の縫製技術に驚いているようだ。
「人の手はあんまり入ってないんじゃないかな」
すべて手縫いなんて事はありえない。せいぜいがミシンで送りを行うときくらいだろう。
妖精のお姉さんはオレの言葉に不思議そうに首を傾げていたが、便利な道具で作ってるからと説明すると、なんとなく理解したようだ。
「ところでさ、この服。なんか微妙に魔力が流れてる気がするけど……」
「そうじゃな、説明するのに丁度良い。今着ているものを修復に回すから、それに着替えてもらおうかの」
真新しい服に着替え、ボロボロのシャツを妖精のお姉さん手渡すと「それでは修復してきますね」と言って飛び去っていった。
「おお、着ると肌触りが違うのが良く分かる」
そう。なんといっても布の感触が違う。
絹よりサラサラとしていそうな肌触りなのだ。
「魔力が込められていると感触が多少変化するからの。そのせいで余計にそう感じるかもしれん」
「繊維の強化?」
「それもあるが、主に付与された魔法によるところが大きいのう」
「何か魔法的な機能がついてるって事?」
「修復機能が付いておる。それに付随して形状の記憶じゃな。切られたり、千切れても魔力を流せばある程度の時間で元通りに接合される。素材さえ揃っていれば、千切れたほうの端切れからでも、もう一着作る事も可能じゃ」
「無限コピー出来そうだけど、素材が必要って言うくらいだから、それが制限になるのか」
「素材自体がなかなかに貴重品での。無制限に増やすというのも難しいじゃろうな」
「素材がない状態だと、どの程度までの損傷なら許容範囲になる?」
「そうじゃな……約半分、といった所か?」
「あ~、そこまで服が損傷してたらオレも無事じゃ済まないだろうし、あんまりそこの所は気にしても意味はなさそうか」
「そうじゃな。まあ、お前さんがそこまでの攻撃をまともに喰らうとは思えんがの」
確かに、服が半分消し飛ぶような事態に陥るのは御免被りたいので全力で回避に努めるとは思う。
ちなみに貴重と言われる素材の出処だが、トラスパーレスという視認出来ないくらいの超極細の非常に丈夫な糸を吐く虫なんだそうな。
特徴を聞く限りだと、ちょっと大きめの金色のカイコに近い虫のようだ。
似てはいても蛾や蝶になるわけではなく、一年のある時期に冬眠なのか休眠なのか、のような状態になるらしく、その時に身体を覆う糸を吐くとの事。
個体数も少ない上に、糸が取れるのが年に一回程度であるため、おのずと貴重品になってしまうのだとか。
野生での生息数が極端に少ない種であるようで、何匹かこの里でも保護しているらしい。
後で見せてもらおう。
いずれはどこかでとっ捕まえて養殖だ。
食べるわけじゃないから養蚕? 待てよ、実際味とかどうなんだろう。
いや、今のところ虫とかないわ。
そこまで切羽詰まってないし。
それ以前に、そんな貴重な虫食べたら怒られそうだ。
そういえば、クイーナの服も似たような感じで魔法が付与されていたんだろうか。
修復だけじゃなく、変形とか、そういった事も出来るのかどうかちょっと気になる。
ケツ出しルックが気になってる訳じゃないぞ。
「ローブにはその機能を付ける予定じゃな。あとは実戦で役立つ機能はすべて盛り込むつもりじゃ」
「おお、楽しみだ。でもそこまでしてもらっちゃっていいの? 魔法の付与がどのくらいの手間かは分からないけど、材料自体は貴重なんじゃないの?」
「ワシらを見れば分かると思うが、それ程材料を消費せんからの。材料の備蓄は充分なのじゃよ」
そう言われると、なるほどと思う部分のほうが多いな。
身体の大きさに合わせれば自然と材料は少なくて済むし、修復機能や変形機能があるなら、下手をすれば一度作ってしまえば、一生使える服という事になるだろう。
「戦闘系の付与魔法のほうは、今まで活かす場があまりなくての。生産担当のものがここぞとばかりに張り切っておってな」
生産系廃人でもいるの?
もしかして、あのお姉さん妖精がその手のタイプだったとか?
「変な形でストレス発散に利用されたりしてそうで微妙に怖いんだけど……」
「着た者に対して害になるような効果はないはずじゃ」
はずってセリフが不安を煽るんだけどなあ。
「まあ、戦闘に支障がなければ、どんな機能でもありがたいけど」
イグニスからちらっと聞いた内容だと、そういう系統の付与魔法は支援型が多いみたいだし。
「あ、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど、こういうポケットとか無限収納にしたり出来る?」
胸のポケットを摘んで入り口をパクパクとさせるオレを見て、ズカ爺が若干渋い表情を見せた。
「う~む、出来ん事はないが、時間がかかるのう。しかし何故そんな事を聞くのじゃ? 既に持っておるじゃろう」
「あ~、これとは違う使い方がしたくてさ。これの場合、戦闘で使う小物をすぐ出せるかって言うと微妙な所なんだよね」
ズボンのポケットに入れていた無限収納を取り出し、手の平の上でポンポンと遊ばせながら。
「ズボンに入ってる状態だと目当てのものを取り出すのにコンマ1秒は確実に無駄になってる。ズボンに手を入れて無限収納の入り口を探して、そこに手を突っ込む。この作業が咄嗟の判断が必要な時にネックになりかねない」
「そのような状況に陥らぬよう祈るばかりじゃが、言いたい事は分かった」
ああ、そういう例え話しでも心配のほうが先立つんだ。
オレの行動ってそんなに無茶に見えるかね?
「こればっかりは性分だから」
「生活習慣病に加えて職業病に近いものも患っておるのう」
そう言ったズカ爺の表情は笑顔ではあるが、同時にどこか諦めたような感情もあるように見えた。
「しかしのう……先程も言ったが、時間がかかるのじゃよ。陣を描くのに一週間はかかる。加えて縮尺を変えるのも難儀な作業じゃ」
「えっ、そうなの?」
「失敗前提で作業を進めて修正していくのが手順になるが――」
そこで聞いた話はちょっと想像してなかった内容だった。
描く魔方陣は空間重複と干渉制御。袋とポケットという構造が似たもののため、これはオレの持ってる無限収納に使われている陣と同じ構成。
しかし、それを描くのにべらぼうに集中力と時間が要るらしい。
図形の線の太さ、間隔、配置、角度、ありとあらゆる要素の比率を寸分違わず再現しなければ機能を発揮する以前に、図形単体の完成を確認するために流す魔力に反応しない。
正しく描かれていれば微発光するようだが、そうでなければ魔力がまともに流れさえしない。
完成途中では判別できず、図形が完成してからそこで初めて魔力を流し製品の仕上がり確認が行える。
だが、そこで一発で完成するなんて事は在りえないという。
言ってしまえばそこからが製品製作のスタートだと。
どこがどうおかしいのか、魔力を使って気の遠くなるようなチェック作業を延々と繰り返す。
不具合の可能性を総当りで潰していくという、終わりが見えない作業に精神的な疲労が蓄積して投げ出したくなるそうだ。
事実、何度か文字通り投げ飛ばしたらしい。
必要数揃えてからは、極力作りたくないと言っているんだとか。
複製技術がなければ、精密な模写というのはそういった作業が必要になってくるのは考えてみれば当たり前かも知れない。
売っている訳でもないんだから、進んでまでやりたい作業じゃないんだろうな。
それはいいんだけど……。
あっれー?
イグニスに教えてもらった事とかなり違うぞ。
「そんなに大変だとは思わなかった……」
「時間がかかっても良いのなら請け負う事も出来るが……」
「う~ん、オレが聞きたかったのはそういう事じゃないというか何と言うか……」
疑問の色を貼り付けた表情のズカ爺に、本来の質問をする事にした。
「ただ単に付与魔法と無限収納がケンカしたりしないか聞きたかっただけなんだ。魔方陣は自前で用意できるから」
「なんと、そうじゃったか。イグニス様にそこまで教わっていたとはのう。てっきりその無限収納はイグニス様の手によるものと思っておったわい。心配せずとも互いに干渉したりはせんよ」
「そういう事なら安心して無限収納に出来るか。いや、空間の大きさ的には魔法袋か?」
「イズミって魔方陣まで覚えてたんだ。意外」
少し離れた場所で、展開した異相結界にレーザーブレスを撃っていたリナリーがこちらに興味を向けてきた。
「リナリーはオレの事、偏った性癖持った唯のバカだとか思ってないか?」
非難するような視線を送っても「さて、なんの事かしら」とでも言いたげに視線を逸らされた。
「まあいいけど。さっきの話を聞いてちょっと言い辛かったけど、この後どうせやるつもりだから先に言っといたほうがいいかなー」
顔を見合わせて疑問符を浮かべてる二人を見て迷ったが、まあいいか、言ってしまえ。
「この無限収納、製作時間、半日」
「なにっ!? どういう事じゃ!?」
おっと、やっぱりそういう反応になるのか。
「オレの持ってる能力が関係してるんだけど――」
何故そんな事が可能なのか記憶能力の事も含めて概要を説明した。
イグニスから聞いた魔方陣の説明とかなり違っていたが、どうもオレが遊びも兼ねたプリントアウトをしているのを見て、必要ない情報だと端折ったようだ。
オレなら覚えられるだろうって言っていたのは、そういう意味だったワケだ。
不満という程じゃないけど出来れば世間での一般的な認識というのも教えて欲しかったなあ。
端折り方が乱暴だよ。
予想外に手間がかかるという話を聞いて、オレの製作法をぶっちゃけるのも気が引けるどころの話じゃなかったぞ。
隠しても良かったけど、ここでそれをしてもあまり意味はないし面倒だ。
「なんとのう……そんな事が出来るのであれば、確かに先程の工程を説明した時の反応も頷けるが……」
「……やっぱりデタラメだった」
リナリーの評価に、ズカ爺も異論はないというのがありありと分かる顔をしている。
「いや、まあ記憶能力に関しては反論できないけど、まさか魔法に応用できるとは思ってなかったんだって」
そんな言い訳じみたセリフを吐きながら、上着を脱いでさっそく魔方陣を刻もうかとプリントアウト用の魔力粒子をイメージ。
確認した所、この服の素材ならば特殊魔法塗料などの、魔力を浸透させたものでなくても陣を書くのに問題はないようだ。逆に色の着いた粒子で書いたら、どうやってるんだと聞かれてしまった。
そう言われても、単純に意図した色のみを反射するようにイメージしただけだ。
結果的に色が着いてるように見えるだけで難しいイメージをした訳じゃない。
まあ、そんな事はいい。
魔方陣も思い描いた通りに書けた。無理矢理裏返したポケットに縮尺もちゃんと合わせたし、後は魔力を流すだけだ。デカいものを仕舞い込むような使い方はしないので、今ある魔力で適当な容量のものに仕上げた。
「完成っと。あ、もしかして……」
無限収納を作成しながらレーザーブレスの練習を眺めていたら、もしやと思う事が頭に浮かんだ。
「ズカ爺、ちょっと気になる事があるんだけど」
「ん、なんじゃ?」
「オレの無限収納使ってみて」
「それは構わんが、リナリーと違ってワシは使えなかったが――もしや?」
ハッとなってレーザーブレスを練習する妖精たちに目を向けた。
「そう、多分それ」
ズカ爺に無限収納を渡すと思ったとおりの結果だった。
普通にズカ爺も使えたのだ。
「えっと、どういう事?」
ズカ爺が無限収納から陶器の小物を取り出しているのを見て、リナリーが訝しむような口調で呟いた。
「イズミの魔力を吸収した事による効果……のようじゃな」
「リナリーがオレの無限収納を使えたのは、なんの事はない、オレの魔力を食べてたからって事」
「え、あ、そういう事! でも使用者権限とかどうなってるの?」
「そこがイマイチ分からない。オレの魔力を食べてない時はズカ爺は使えなかったみたいだから、機能自体は作用してるのは確実。でもオレの魔力を吸収すると使えるようになるっていうのはオレの魔力がキーになってると見て……て事はラキも使えるのか?」
「わふっ!」
遊んでいた魔石を咥え上げて無限収納に鼻を近づけると、魔石が吸い込まれた。
「当たり前のように使えたな。使用者権限とか意味ねー」
「汎用性という点から見ると、とんでもない事なんじゃがな」
言われてみれば、そうかも知れない。
普通は魔力を流した本人しか使えない。魔方陣の発動プロセスの構造上、権限譲渡の手続きを行っていないと魔力を検知しても本人の魔力以外は正常に作動しないらしい。
自分で言うのもなんだが、オレの作った無限収納は容量が無駄にデカい。
それを個人に依存した形ではなく不特定多数のものが自由に使える。これは、物質輸送の観点から見ればかなり有用なアイテムだろう。
「思ったんだけど、これ緊急避難時に役に立てられないかな?」
「避難時にとは?」
「今回の鉱石竜みたいな事が何度もあったらたまらんけど、もし逃げなきゃならない状況になった時に樹園木をまるごと放り込んで全力で撤退、とか」
「っ! それは……いや、可能か? しかしそれでは、うーむ……」
なんか難しい顔して唸り出したけど、やっぱり厳しいのかな?
「この無限収納の容量はどの程度まで収納可能かは把握しとるのかの」
「かなり広いよ。島ひとつくらいなら入るって言ってたし」
「島ひとつ……」
リナリーの呟く様子で驚いているんだろうなとは思うけど。
何故か二人とも遠い目をして無表情になってる。
「……大きいとは予想していたが、そうくるとは予想していなかったのう。しかしこれでどこまでの範囲を収納するかの問題はなくなったというわけじゃな。あとは……」
どうやって里全体を収納可能にするか。
土属性の魔法を魔方陣と併用して大規模にすれば、なんとかなりそうだという。
ある程度の大きさの樹木で試していき、技術を確立させてからという事になるようだが。
実際に里で試す訳にもいかないので最終的には、近隣の森で里と同規模の範囲を収納する事で実用可能かどうかを確認するという事になるだろう。
移動先の候補なんかも、龍脈の位置などを調べて選定していく事になる筈だ。
少し気になる事といえば、樹木は無限収納に入れても問題ないみたいだけど、どうなってるんだろうか。収納出来るものの判定基準がオレの中で曖昧で良く分かってない。
基本的に生きているものは収納出来ないとされているけど、古道で採集した植物は収納出来た。
動物と植物という違いはあるけど、どちらも生きているのに植物はOKで動物はダメ。
わからん。
細胞という単位で見れば、生物なんてのは機能が違うだけで細胞の集合体なのは変わらない筈だ。
もしかして、『動く』という事が判定基準になっていたりするんだろうか。
何かしらの線引きはされてる筈なんだけど、それがわからない。
「それは大昔から議論されている事じゃな。細胞うんぬんの話はよく分からんが、魔力が関係していると言われておる。鉱物、樹木、生物、それらの状態を魔力で読み取って判定しているのでは。とな」
あ~、やっぱり魔力が絡んでくるのか。
そりゃそうか、魔力が根幹にある世界なんだから。
「うん、よくわからないな」
「ほっほ、その辺りを気にして使っている者はおらんからのう」
「変な所を気にするよねイズミって」
「オレのいた所にはこんな技術はなかったからな。それは気になるだろう」
「しかし役立てられないかと言ったが、渡してしまって良いのかの?」
「魔力が全快したら作るから問題なし。実を言えばコレって試作品なんだ。一通り工程を覚える為にまずは完成させる必要があったから」
「試作品……はぁ、もう! いちいち反応してたらキリがないわね」
「ワシはもう割り切る事にしたぞい。あまりに連続して驚くと麻痺するというのは発見じゃった」
いつの間にか周りに集まっていた妖精たちも腕を組んでウンウンと頷いている。
その反応も何度目だろうか、心外デス。
昼食後、手の空いたものから順次オレの魔力を魔石から吸収する事になった。
オレがいるうちに出来る限り全員がオレと魔石から魔力を吸収して、再び充填した魔石は何としても保存しておくつもりのようだ。
そこまで情熱を燃やす意味が分からない。
そこは他人の嗜好だからとやかく言えないけど、ある意味尊敬できる。
里の過半数の妖精が魔力を吸収。異相結界を覚えてもらい、レーザーブレスの習得の為に数人と入れ代わりで講義に加わった。
しばらくすると先程の服飾担当のお姉さんが血相を変えて飛んできた。
「最長老様! どういう事ですか!?」
最長老様って、ああ、ズカ爺ってそうも呼ばれてるのか。
しかし、どういう事ですかって、どういう事ですか?
「何の事を言っておるのか分からんが、とにかく落ち着きなさい」
宥めるように言い、落ち着くのを待ってから続きを促した。
「……がかけるんです」
「何が欠けるというのじゃ?」
「だから! 魔方陣が書けるんです!」
あー、これは……。
「……? それは書けるじゃろう。……何?」
最初はピンと来ていなかったみたいだけど、すぐに思い至ったらしい。
「それはイメージしただけで魔方陣が描けた、という意味か?」
お姉さんがコクリと頷いた。
それを聞いたズカ爺とリナリーが揃ってオレの顔を見る。
なんでそんな、またかみたいな目で見る?
「魔力と異相結界の両方を得た事でレーザーブレス同様にイメージ法が伝達されたようじゃな。陣を描く事のないものには作用しなかったが、その素養のあるものには充分過ぎるほどの切っ掛けになったという事か。うーむ、予想されて当然の結果、なのかのう?」
オレの記憶能力ありきの技術かと思ったら、何故か適合してしまった者がいたようだ。
魔方陣が記憶に焼きつくほどの熟練者なら可能性はあるだろうという事だった。
最初はパニックに近いくらいだったお姉さんも、原因がはっきりとしたせいか完全に落ち着きを取り戻したようだ。それが証拠に、空中なのにスキップするような勢いで工房に戻っていった。
そこで話が終われば良かったが、夕食後にある事が発覚。
同じ能力を獲得した妖精たち数人が、里中に魔方陣を書きまくったのだ。
大小様々な魔方陣がトラップのごとく作動して、落とし穴に落ちそうになったり(オレだけ)、真横から雨に打たれたり、葉っぱが全身に張り付いたりと物理法則を無視したような、もはや攻撃と言って良いものがそこら中で里のみんなを襲っていた。
「ケガをするようなものはないようじゃが、どうも嬉しくて色々と種類を変えて書いているようじゃな……」
「私も魔方陣覚えようかな……」
なんでこの惨状を見て、その結論になるんだ。
その魔方陣トラップを誰に使う気だ?
それにしても、なんなんだオレの魔力は。
ああ、もう何でもありだね。
暑い日が続いてダルいですね(´・ω・`)




