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第十九話 厄災

中途半端な所で切ってしまったので続きを。


楽しんでいただけたら幸いです。

 




 ラキに遅れること数瞬。


 足元に転がっている瓦礫を踏みつけ強化を施し蹴り飛ばす。

 黒曜竜の脇腹に着弾を待たずに左後ろ足に接近すべくダッシュ。

 ドカッ! という音だけを確認し、接近した左後ろ足を神樹の刀で袈裟切り、そして横なぎの連撃で外殻をそぎ落とす。

 強化した石でも破壊出来たのだから神樹の刀なら斬れて当然だ。

 しかし大木を切り倒す時のように切れ目を入れたつもりだがビクともしない。

 それどころかあっという間に塞がってしまった。

 そぎ落とした外殻も、磁石のように吸い寄せ吸収してしまうというのは笑えない冗談だ。


 とにかく愚痴っても仕方ない。色々な攻撃を試してみるしかないだろう。

 手数を増やしていけば、オレにも意識を向けさせるという目的も果たせるし。

 それはいいけど、強化タフ・ドライブのおかげか、身体能力の向上以外にも思考速度も上昇している感じがするのは気のせいか?

 まあ、マイナスに作用してなければなんだっていい。

 考え付く限りの攻撃をお見舞いしてやろう。


 などと考えていたが、当然のごとく反撃もされる。

 体表の鉱石を先程より小さくして散弾のようにばら撒く黒曜竜。

 ドドドドドッ! と連続して打ち出される銃弾というより砲弾に近い大きさのそれをスピードにモノをいわせて回避していく。回避しきれないものは障壁頼りだ。

 ラキのほうでも同じ反撃を受けているのか、やはり似たような音が聞こえてきた。


「同時に相手をしても関係ないってか」


 側面からの散弾に加え、尻尾を振り回しての攻撃もなかなか厄介だ。

 攻撃箇所も色々と変え、弱点のようなものはないか探るために接近して斬りつけると、それらの反撃で邪魔をされ、なかなか成果が上がらない。


 しかし、その反撃はいまだ直撃を許していない。ならば、もっと深く斬り込むために腹の下に入るくらいの勢いで接近を試みる。

 張られた弾幕を強化時特有の高速移動ですり抜けて、黒曜竜のほぼ真下まで行く事に成功。

 今度は完全に後ろ足を切断する勢いで刀を、ほぼ真横にした袈裟切りで振り抜く。

 振り抜いた姿勢のまま今度は肩、『こう』を使い、全体重と瞬間的な踏み込みでその後ろ足に衝撃を加える。

 直径1メートル以上はありそうな足が、その衝撃でだるま落としのようにズレて切断面があらわになり、バランスを崩した黒曜竜は短くなった足でドズンッ! と足をついた。


「グルオオオォォォ!」


 斬られた痛みか、怒りか、その両方か、耳が痛くなるような音量の叫び。

 意図せず食らった鼓膜への攻撃を気にする暇もなく、黒曜竜の次の攻撃が繰り出される。

 ヒットアンドアウェイを動きの基本にしていたが深く踏み込んでいたせいで、巨大な尻尾での薙ぎ払いで回避行動に割り込まれた。

 先端が若干太くなったその尻尾は身体以上に鋭利な結晶が高密度で生えている。

 完全にはかわしきれないと悟ったオレは体勢を低くして刀のしのぎの部分を使って軌道をそらすために這わせるように刀を尻尾の動きに合わせる。

 ここで黒曜竜が想定していなかった行動に出たために虚をつかれる。

 しのぎと接触した瞬間に尻尾の軌道をほんの少し変え、刀に引っ掛けるように仕掛けてきたのだ。


「なにッ!? ――うおっ!」


 引っ掛けられたくらいで得物を奪われるなんて事はなかったが、思いもしない結果に見舞われた。

 接触している角度が変わった事によって刃が吸い寄せられるように尻尾を斬ってしまったのだ。

 切り落とすまではいかなかったが結果として刀と尻尾がお互いをすり抜けるような形でトゲだらけの尻尾がオレの身体をかすっていった。


「あぶねぇ! 切れ味が良すぎるとこういう事があるのか!?」


 触れただけで刃を向けた方向に刀を持っていかれるとは思わなかった。

 扱いには充分気を付けてるつもりだったが、これほどの切れ味を持った刀は今まで使った事がない。

 扱いなれていない事がこんな形で裏目に出るとは。それに、あのタイミングで尻尾の軌道を変えてくるというのにも驚かされた。

 そして今のオレのスピードについてこれるのも想定内ではあるが面白くない。


 デカイ図体して結構早いなコイツ。

 おそらく強化なしで戦ったら、手に負えないだろう。

 おまけに再生スピードも尋常じゃない。切り離したはずの左足がもう治りかけている。

 新たに生やした訳では無く、くっつけただけのようだが、それでも反則的だ。


 感心してばかりもいられない。

 次の一手を打つために違う攻撃も織り交ぜていこう。

 尻尾の攻撃と同時に目まぐるしく身体の方向を変え移動を繰り返す黒曜竜、ラキは当然の事としてオレもなんとか側面の位置をキープ出来ている。

 このまま、攻略の糸口をと思っていたが、そう簡単に事は運ばないらしい。


 頭部付近に魔力が集中するのを察知したかと思ったら、ものすごい勢いで首を振り回し、ブレスを撃ってきた。

 ちょこまかと避けるオレたちに業を煮やしたのか、狙いなど定めずにほぼ一周薙ぎ払ったのだ。

 消し飛べと言わんばかりの攻撃だったが、大量の魔力の集中を察知した段階で異相結界を展開し、事無きを得た。


「危ねえ! ラキ無事か!?」


「ウォンッ!」


 無事なようだ。でも、どうやって今の攻撃をやり過ごしたんだ?

 持ち前の超速で範囲外まで退避したのか?

 それとも、ラキも異相結界を? ラキも使えたっけ?

 まあ、無事ならなんでもいい。

 

 それにしても、やってくれる。食う事を優先しているなら消し飛ばし系の攻撃はないと思っていたがお構いなしか。

 クールタイムが必要なのか知らないが、連続では撃てないようだが。

 しかし面倒だ。あの首、切り飛ばしてしまいたい。

 少しでも範囲に入ると噛み付き攻撃はしてくるし、口からとんでもない密度の散弾も撃ってくる。

 切り飛ばして勝負がつけばいいが、なんとなくそうはならない気がする。

 驚異的な再生能力もってるヤツって、首を落としても普通に治りそうなイメージがあるんだよな。


 隙があれば当然切り飛ばすが、ここは当初の予定通りねちっこく有効打を探す事にしよう。

 というわけでお返しだ。


 相変わらず放たれる散弾を障壁で防御しつつ、左手に魔力を集中させる。

 圧縮に圧縮を重ね、拳程の大きさになったそれから放たれる一閃。

 激しく暴れまわっているせいで狙いであった身体の中心からはズレたが首元に命中し、更に貫通。


「ルオオオオオオォォッ!」


 体表をいくら斬りつけても堪える様子はなかったが、先程の足を切り落とした時と同様に多少は堪えたようだ。

 一応貫通する事を想定して対面のラキに当たらないように角度を変えて撃っている。

 オレが何を放ったかと言うと、簡単に説明すれば、細くしたブレスだ。

 標準のブレスを撃つにはまだ時間がかかりすぎるため、短時間で、かつ貫通力のある攻撃手段をと考え出したものだ。

 魔力粒子の密度を極限まで圧縮して、レーザーのように変化させたブレス。

 

 『レーザーブレス』


 …………。

 病気が再発していそうなネーミングだが、これしか思いつかなかったんだからしょうがない。

 発動時間を短縮させる為の苦肉の策だったが、魔力消費量も多くないし、込める魔力量で回数は変わるが、大体2、3発は撃てる。なかなかいい感じの技だ。

 とは言え決定打にはなっていない。

 そこそこの連射は可能だが、対面のラキの事を考えると乱射は出来ないし横薙ぎも不可だ。

 ケツからぶち込みたいが尻尾の攻撃のせいで位置取りが難しい。

 ラキと同じ方向から攻撃すればとも考えたが、それで一網打尽にされたら目も当てられない。

 そうならないために挟撃の形にして的を分散させたのだから、それをしては意味が無い。


 まあ、攻撃しまくるだけだ。

 今は相手のターンにしない事が重要だからな。

 そこで今度は別の事を検証するために行動に移す。

 

 何度か攻撃と離脱を繰り返し、タイミングを計る。

 きた!

 狙いは尻尾による薙ぎ払い。位置も申し分ない。

 尻尾による叩きつけるような攻撃も織り交ぜられた中から、それに狙いを絞り、体勢を低くして潜り込むように前進と同時に上段斬り。


「せぁッ!!」


 ほぼ根元から切断された尻尾が大きな音をたてて地面に転がる。

 そしてこの検証のために背負い袋からズボンのポケットに入れ替えていた無限収納エンドレッサーを素早く取り出し、しばらくビタンビタンと動いていた切断した尻尾をまるごと収納してやった。


「グオオオオーッ!」 


 よく叫ぶヤツだ。

 自分の身体を切り落とされたら叫びもするか。

 その上、収納されてるからな。

 くっつけて再生するのを邪魔したわけだから余計にイラっときただろう。

 収納出来るかどうかは一種の賭けだったが問題はなかったようだ。


 そう、検証の内容とは身体の一部を失くしてもどこまで再生するのか、という事。

 無限に再生出来るのか、そうではないのか。

 できれば無限再生なんてのは考えたくない。生物かどうかも怪しいが、こうして活動している限りは何かしらのエネルギーを消費しているはずだ。

 想像もつかない未知のエネルギーの可能性も無いわけじゃないが、この世界の常識から考えて、魔力を使っての活動と再生、というのが正解だろう。

 ならばその魔力を再生に向けさせて大量に消費してもらおうというわけだ。

 ただ、懸念があるとすれば、龍脈のエネルギーを常時魔力に変換されていると何度身体の一部を切り落としても徒労に終わる。

 そう考えるとこの場所での戦闘は条件としては最悪だ。何しろここでその力を吸い上げていたのだから。


 検証しきっていない事をあれこれ考えても仕方ない。

 出来る事があるうちはやってやろうじゃいか。

 幸い、オレにヘイトを集めるのも成功しているようだし。


 検証するとは言っても、黙って再生されるのを見ていた訳じゃない。

 切り落とした根元の部分にも容赦なく攻撃を加えている。

 念願だった、ケツからレーザーブレスもお見舞いしてやった。

 だというのに、やはりと言うのが正しいのか、瞬く間に元通りになってしまった。


 ある程度再生して伸びてきたら、その先端が尖った状態を利用して突き刺し攻撃をしてきたのには思わず舌打ちしてしまった。

 そして避けた先端がドスドスと地面に突き刺さるたびに、その長さがみるみるうちに元通りになったのだ。

 地面から龍脈の力を吸い上げたのか、身体の構成物質を吸収したのか、その再生速度は驚異的と言わざるを得ない。


「治るの早すぎだろ!」


 その後、イラついたとしか思えない黒曜竜のブレス、散弾、尻尾の攻撃をなんとか凌いで2度尻尾を切り落とす。それを収納したところで不穏な魔力の動きを感じたので、警戒を強める。

 

「順調に尻尾は回収したけど、堪えてるのか? 怒らせる事には成功してるみたいだけど」


 成果としては疑問になり、そうひとりごちたそのタイミングで、黒曜竜が上空に向けて雄叫びを上げた。

 その口から吐き出された意思を持ったような魔力が黒い霧と化し周囲を覆う。


「くっ! これか……! 行動を封じるってのは」


 自然と眉間に力が入るのが自覚できるほどの鬱陶しい感覚。

 明確な意味を持たされた魔力の作用が全身に及ぶ。

 

「ラキ! リナリー!」


「大丈夫! 動ける!」


 リナリーの声がしっかりと耳まで届いた。動ける、と言ったのは主にラキの事だと推察できる。心配した事態にはなっていないようだ。

 動くなという強制的な命令で精神に作用しているような不快感と、物理的に身体の動きを制限されてるような違和感が絶え間なく波のように襲ってくる。

 これは……ゲームとかでいう所の、拘束バインド系の魔法か?


 確かにこれは色々と面倒だ。

 こちらで対応しなければいけないことが増えるのは骨が折れる。

 手間が増えるのは正直勘弁願いたい。

 しかし、そうも言っていられない。何もしなければエサになってしまう。


 阻害されているマイナス分が帳消しになるまで、強化タフ・ドライブを重ね掛けしていく。

 後少しだという所で黒い霧の中から尻尾の攻撃が迫る。

 回避が間に合わず直撃。


「がっ!」


 モロに叩きつけられた尻尾によって20メートルは離れていた壁まで吹き飛ばされてしまった。

 壁にめり込む程の衝撃。

 くそ、障壁は間に合ったがこれは効く。障壁がクッションになってなければこの時点でヤバかった。

 拘束を打ち消す事に気を取られて油断した。

 だが、それでは終わらなかった。


「基本に忠実なヤツめ!」


 悪態をつきながら急いで異相結界を展開。

 黒曜竜は壁にめり込んだ状態のオレに対し、追い討ちとしてブレスを撃ってきた。

 敵が大きな隙を晒したならば、畳み掛ける。その基本を押さえた行動に舌打ちどころか、ちゃぶ台をひっくり返したくなった。


「イズミッ!」


「ウォンッ!」


 二人の声がかすかに聞こえたが、このブレスの轟音の中では無事を伝える術がない。

 まあいい、ブレスが撃ち終わったら、倍にして返してやる。

 色々とやられて、ちょっと頭にきてる。

 後のことなんか知った事か。限界まで強化だ。


 ブレスを遮る異相結界の内側で筋肉と骨、全身のあらゆる器官が悲鳴を上げる寸前まで強化。

 そろそろブレスも切れるか?

 しかし空間座標に固定した異相結界は少し不便だな。なんとか出来ないもんかね。


 今置かれた状況から、若干関係の無い事を考えているとブレスの密度が薄くなってきた。

 よし、行くか。


「ラキッ! 離れてろ!」


 異相結界の脇をすり抜け、飛び出す。


「イズミ!」


 続く、「無事だった!」というリナリーのセリフに


「なんとかな!」


 と、叫びながら黒曜竜に向かって猛ダッシュ。

 紅い眼がオレを捉えたが、相変わらず感情が読み取れない。

 しかし、その咆哮は敵意に満ちていた。


「グルオオオオーッ!」


「うるせーッ!! 黙ってろ!」


 一瞬で接近したオレは散弾と噛み付きをかわし、首の付け根辺り、丁度、左前足の辺りまで潜り込む。そしてそこから首に向かって上方に切っ先を突き入れる。

 そのまま前方に振りぬき、更に切り上げて完全に首を切り落とした。

 かと思えたが、落ちる寸前に魔力の触手のようなものが両方の切断面から伸び、あっという間にくっついてしまった。


「さすがに尻尾とは訳が違うか!」


 本当は首を切り落としたら、こちらも収納してしまおうと考えていたが、そうはいかなかったようだ。

 ならばと正面からは移動して前足に攻撃だ。

 黒曜竜は今のオレのスピードについてこれてない。

 首を振り散弾も放ってくるが俺を的にするには遅すぎる。

 さらに右側面に移動し距離をとり、次なる攻撃を仕掛ける。


 オレは自分の周囲に4つ、5つと魔力球を形成。


(レーザーブレスで機動力を削ぐ)


 晒している側面の前後の足を薙ぎ払いと撃ち抜きで、消し飛ばすまで連射。

 その場に固定砲台として魔力球を追加して半分横倒しになった黒曜竜の身体にレーザーブレスを放ち、オレ自身は後方に高速移動後に尻尾を切り落とした。もちろん収納も忘れない。

 一旦距離を取り、移動を繰り返しながら牽制でレーザーブレスを撃つ。


 しかし、ここまでやっても状況に変化がない。

 いや、徐々にだが再生速度が遅くなっているか?

 微かな変化だが確かに遅くなっている。遅くはなっているが、ではどこまでやれば再生しなくなるのかという話だ。

 ネガティブになりかけていた所に、またも魔力の変化の兆候。


「グルルルルッ!!」


 首を下げ前傾の姿勢で四肢に力が込められた状態で小刻みに震えている。

 なんだ? 何かでかい攻撃でもする気か? それとも第二形態にでもなるのか?

 待ってやる義理はないけどな。


 10個の魔力球から撃ちだすレーザーブレスのタイミングに合わせてダッシュ。

 今度はオレ自身の周囲で一定距離を保つ条件付けをプラス。

 10個の魔力球を従えて再度接近。


 ここまで流れ弾の回避に専念していたラキも援護射撃をしてくれている。

 背中に集中させていたレーザーブレスを見て、オレの意図を察したのか、ラキもそこへ魔力弾を集中させた。

 いい感じに背中のトゲを刈り取れた。

 先程から同じ姿勢で踏ん張っている黒曜竜だが散弾による迎撃の手は緩めていない。

 だが、それはもう飽きたネタだ。

 そんなもので止められると思うなよ。


 ダムッ! と踏み込んで接近時の速度をそのままに跳躍。


「食らえっ!」


 黒曜竜の真上から一気に下降、逆手に持ち替えた刀を背中に思い切り突き立てた。

 黒い外殻の隙間から見えた赤い水晶のようなものに刀を刺した瞬間


 バガンッ!!


「なっ!?」


 大爆発。至近距離で喰らったせいで、そうとしか思えなかったが、一つ間違えれば消し飛んでたんじゃないかというくらいの爆発がオレを襲った。

 盛大に吹き飛ばされたが意識を失う程ではなかったのでなんとか着地には成功。

 障壁を張ったままでいたのが功を奏したようだ。

 とはいっても手足に身体、とにかく全部痛い。全身が切り刻まれたような状態だ。

 それ程深い傷がないのが不幸中の幸いか。

 いや待て、そこらじゅう出血しているが、そんなことより!


「ああっ! 一張羅が!」


 服が思いっきり破れてる!

 これしかないのに!

 オレが叫んだ後に何やらリナリーの声が聞こえたような気がしたが、耳鳴りがしていてよく聞き取れなかった。

 オレとは違い今の攻撃を喰らった訳でもないしヤバイ状況という事もないはずだ。

 ラキとの会話が聞こえてきただけだろう。


 それにしても何だ、今の攻撃は。

 赤いものが見えたせいで目が吸い寄せられて、ついそこを突き刺してしまったが、赤い水晶のような物が爆発の原因か?

 まさか、トゲを刈り取った先にあんな罠があるとは……。


 いや、罠じゃなかった。

 ブルブルと全身を震わせる黒曜竜の外殻がバキンッ! と音を鳴らしながら弾け、それを押しのけるように一際大きな赤い六角結晶がせり出してくる。

 肩や背、首や尻尾、全身から現れたそれは明らかに今までと違った魔力を纏っている。

 どうやらオレが罠かと疑った赤い結晶は、単なる外殻の強化だったようだ。


「――ズミ、イズミ! 止血はしたわよ!」


「ん、おお! 助かる」


 黒曜竜の変化に警戒していたが、気が付いた時には障壁の中にいた。

 いつの間にか、すぐ側まで来ていたラキの障壁だった。その頭の上に立ったリナリーが傷の手当をしてくれたようだ。

 一家に一台、フ○薬品並みの気配りがあり難い。

 って、リナリーは回復手段を持ってたのか。

 若干の驚きが顔に出ていたのか


「今すぐ完治は無理だけど、こんな状況でも応急処置くらいなら」


 と、処置の内容を回答代わりにオレに告げる。


「充分だ。っていうかこの隙に外に出るべきだったぞ」


「血だらけの人を放って行けるわけないでしょ! ……それに、何か予想外の事をして来そうで怖くて動くに動けなかったのよ……」


「まあ、あれを見ちまうと確かにな……」


 全身が更に赤みを帯びて、身体中から突き出ている真紅の巨大な六角結晶が外見の凶悪さを増すのに一役かっている。しかも、間違いなく見た目だけの変化じゃないだろう。

 口から出る低い唸り声によって空気も微かに振動している。そしてその口からは唸り声だけじゃなくドス黒い魔力の霧が漏れ出している。

 常時、拘束するつもりか?


「あれが本来の姿なのか、追い詰められた結果そうならざるを得なかったのか……。できれば後者であって欲しいけど。どっちにしても簡単にはいかないだろうな」


 ここまでくると相手の攻撃を誘導するなんて事が出来るか怪しくなってきたぞ。

 自分達の攻撃で壁を破壊していくのも難しいかも知れない。黒曜竜から一瞬とはいえ目を切るのはリスクが高い気がするのだ。いくらラキが速いとはいってもリナリーが一緒なのだから危ない橋を渡らせる訳にはいかないだろう。

 ヤバイ、八方塞がりになりかけてるか?


 いや……そもそも面倒な事を考える必要なんてない、倒せばいいだけだ!

 

 やられまくって頭にもきている。不快な魔力も、行動原理もここで野放しにするにはあまりに気分が悪い。ここで仕留めてしまえば里に害を及ぼす事もなくなる。

 それに、あちらさんもやる気のようだ。


「ゴガアアアアアアーーーッ!!」


 それを合図にオレとラキは再び相手を挟むように移動。

 しかし、それは黒曜竜の攻撃によって阻まれる。

 オレの移動方向に合わせてホーミングするように、その牙を剥き出して噛み付き攻撃を仕掛けてきた。


「なにっ!」


 速い。

 オレはその攻撃を障壁を盾にして滑らせつつ回避したが、続く攻撃が行動の選択肢を消失させる。

 肩からせり出した六角結晶がオレを貫かんと迫る。


「くそったれっ!」


 ここでオレは身体を覆うようにしていた障壁を刀を中心にして板状に展開。

 接触寸前のギリギリで、という状態だった。

 肝を冷やされたお返しとばかりに羽子板状の障壁で結晶をぶっ叩く。

 その反動で距離を稼ごうという腹だ。


 ゴガンッ!!


 羽子板の衝撃音と爆発音の重奏でわけの分からない音がする。

 赤い水晶の爆発も利用出来ないかと思っていたが期待を裏切らない反応。

 無傷という訳にはいかなかったが距離をとる事は出来た。

 しかし……


「面倒な身体に変身しやがって」


 こちらの攻撃に反応、あるいは接触で爆発とは、明らかに近接戦闘の迎撃用の装備だろうそれは。

 まさか、オレ専用に身体を作り変えたという事もないだろうが、串刺しにした挙げ句に爆発って凶悪過ぎる。

 速度で追いつかれたのも何気に厄介だ。

 厄介だが対処法はある。簡単だ、更に強化して速度を上げればいい。

 これ以上強化をしたら筋肉痛では済まなそうだが、出し惜しみして負けるなんてのはアホのやる事だろう。

 後の事はリナリーの回復魔法に期待するとしよう。


 ミシミシと全身が軋む。

 黒曜竜の攻撃を羽子板障壁で強引に防ぎつつ強化タフ・ドライブを重ね掛けというより圧縮したようなイメージで自身の高速化を図る。全身の筋繊維が金属の繊維に置き換わっていくような奇妙な感覚。

 いつまでこの状態でいられるか分からない。

 ここからは時間との勝負だ。


 スピードは対処済み。あとはあの身体の赤い結晶をどうするか。

 決まっている。破壊する。

 攻撃を止め、いなし、かいくぐり、黒曜竜に最接近。

 肩から突き出ている赤い六角結晶を羽子板で強打。

 結晶の破壊と同時に爆発。

 しかし、爆散するはずの結晶の破片は大部分が羽子板障壁によって阻まれ、黒曜竜の身体の内側に向かう。


「ゴアアアアッ!」

 

 障壁を突き抜けた破片でこちらも多少は被弾するが爆発の威力をゼロ距離から黒曜竜自身に喰らわせる。

 障壁の強度にさえ不備がなければ防御と攻撃が同時に行える一石二鳥の方法だ。

 続けてもう一箇所も攻撃。


 黒曜竜が怯んだ隙にラキからも援護の魔法。

 ここが勝負所と見たのか、とんでもない波状攻撃をぶちかました。

 魔力弾でオレへの影響がない背中の結晶を破壊、その後黒曜竜の後ろ足に向けて火炎弾を撃ち、効果が薄いと見るや今度はその足元を砂地に変化させる。

 あり地獄の巣のように、すり鉢状になった地面に下半身を引きずり込み大量の水を流し入れて泥状になったそこへ、先程より強力な火炎弾数発。

 水蒸気爆発も利用して下半身の結晶を根こそぎ破壊した。

 そこで終わるかと思っていたら、最後に冷気による下半身の氷漬けのおまけ付きだった。


 怖ッ、ラキ怖っ!

 何種類の魔法使ったのさ?

 怖いのは笑い顔だけじゃなかった。


 窪地になったそこから上半身を出した格好になった黒曜竜の腹にレーザーブレスを撃ちこみ、正面から突っ込む。腹は一度も刀で斬る機会はなかったが、これでどうなるか。

 焦っているのか、怒りに任せてなのか今までにない苛烈な口撃・・を繰り返す黒曜竜。


 顔の真下に潜り込み、羽子板の逆袈裟切りで顎を跳ね上げる。

 瞬時に羽子板を消し、振り上げた刀を踏み込みんで腹に向かって斬り下ろす。


「ガァッ!」


 悲鳴にも似た叫び声に、一瞬疑問が沸いた。

 ここが弱点なのか? いや、レーザーブレスで何度も同じような場所は貫いてるはず。

 迷ってる時間も惜しい。有効なら有効で攻撃するだけだ。


 何度も同じところを斬りつけ削ぎ落としていく。

 その間の頭部によるオレに対するあらゆる攻撃は、ラキの特大魔力弾で邪魔されている。

 だが接近した事で爪の攻撃が届く範囲にいるためこちらの攻撃も思うようにいかない。

 いつの間にか赤い水晶の爪に変化し、小さい事を活かしてかすぐに補充されてしまう為、障壁での防御を余儀なくされる。

 隙を突いて斬りつけても浅い傷ばかりだ。

 これはマズイかもしれない。ラキの魔力だって無限じゃない。いずれラキの援護はなくなる。

 そうなれば、また振り出しにもどってしまう。

 いやラキの援護が期待出来なくなる分、振り出し所ではなくなる。


 そんな懸念が頭をよぎる。

 しかし、その懸念が掻き消える状況の変化が訪れる。

 

 ドドザッ!


 黒曜竜の両腕が切り落とされたのだ。


 待て、どうやった?

 ラキがやったのは間違いない。

 だが考えるより先に動け。この一手を逃す訳にはいかない。

 落とされた腕を羽子板を使ってゴルフスイングよろしく腹に向けてナイスショット。

 一発、二発と腹にぶち込むと結構な規模の爆発がおきた。


「グゴオオオ」


 この戦いが始まってから初めて黒曜竜が大きな隙を見せる。

 グラグラと揺れているその姿に、何がそんなに効いたのかと思わず攻撃の手を緩めてしまった。

 大きなヒビが入り外殻が剥がれ落ちた腹部の奥に、正確には心臓がありそうな位置に六角結晶よりも鮮やかな赤色をした球状のものが露出していた。


 あれか、あれがコイツの弱点か!

 露出した事によって魔力の流れが分かる。

 球状の物体から魔力が全身に流れ、またそこへと戻ってきている。

 血を魔力に変えただけで、まさに心臓と同じ機能のようだ。


 あれを砕けば!


 じわじわと球状物体の周辺が修復しはじめている。


「させるか! ここで決めるッ!!」


 これが最後だと直感が叫び、それに従い最高速で突っ込む。

 だが黒曜竜も、そうはさせじと大量の六角結晶を身体の前面から生み出した。

 治りかけの腕も合わせて上半身全てでオレに覆いかぶさるように倒れてくる。


「ここへ来てそれか!」


 障壁を半球状に最高出力で展開。

 

 ドドドドドドドドッ!!


 強烈な負荷が全身を襲う。

 重量と攻撃、その両方が障壁の物理防御を突破しようとオレの精神力ごと削っている。


「くっ、残る魔力全部使ってやるならこれしかねえだろ!」


 障壁の内側でブレスの発動準備開始。

 ただし、通常の球状で前方に放つのではなく、オレ自身の周囲で滞留させる状態で。

 言わば、障壁をブレスの魔力粒子に置き換える状態だ。

 黒曜竜が結晶を次々生み出し障壁を消耗させているのを見て、やり返せないかと思いついたのがこれだ。

 魔力粒子を絶え間なく供給すれば突破するのは可能なはずだ。

 ネックになるのは魔力残量だが、他に手はない。

 発動準備完了。


「障壁解除! いくぞ!」


 障壁より二周りは小さい球状のブレスを纏い、次々繰り出される結晶の爆発をかき消していく。

 数歩進めば赤い心臓にブレスの攻撃が届くはずなのに凄まじい物量になかなか歩を進められない。

 

 猛烈な数の爆発をブレスで蒸発させ、漸く心臓まで辿り着いた。

 たった数歩がこれほど長いとは。


 左手を伸ばし、それに合わせてブレスの障壁も変形した。

 あとはブレスでこの心臓を消し飛ばすだけだ。

 そう思ったのもつかの間、キィンという音がしただけでブレスが届いているはずなのに変化がない。

 

「まさか……異相結界か?」


 一番いやなものが最後の最後に出てきやがった。

 球状の心臓の表面に小さな六角形のパネルがびっしり張り付いている。


「ここまできて終われるかーっ!!」


 刀の切っ先でブレスを押し込むように心臓に突き立てる。

 キィィィィィと甲高い音をさせ、火花のようなものを弾けさせてブレスの粒子とせめぎ合っている。

 数秒か数分か、どれだけの時間が経過したのかは分からないが、その時はきた。

 パキィィインという澄んだ響きと共に結界の一部が砕け散った。


「うおおおおおおっ!」


 そして、その開いた小さな結界の穴に刀を深々と突き刺した。





 六角結晶の爆発も止み、ほぼ時を同じくしてブレスの結界も限界を迎えた。


「やっと……終わったぞ」


 オレは、あまりの疲労にその場にへたり込んでしまった。

 見上げると黒曜竜は覆いかぶさる姿勢のまま固まっていた。

 再生能力を発揮してこの状態からでも復活してくるかと思ったが、それもなさそうだ。

 完全に魔力の動きが消失している。

 多分、これ以上はないだろう。

 

「イズミ!」


「ウォン! ウォン!」


 ラキがリナリーを頭に乗せたまま駆け寄ってきた。

 最後の黒曜竜の攻撃のとばっちりをくってなかったようで安心した。


「無茶し過ぎよ! 死んだと思ったじゃない!」


「なんで泣きそうな顔してんだよ。死ぬわけないだろ」


「クゥン……」


「ラキもそんな心配そうな顔するなよ」


 苦笑気味に答えるが、確かにギリギリだったからな。

 そう思うのも当たり前か。

 と、それよりも


「すまん、念のためにこれにソイツを詰め込んでおいてくれ」


 そう言って無限収納エンドレッサーをポケットから取り出す。

 へたり込んだ状態でこれ以上動けない。


「え、うん、わかった」


「それと、……ね」


「ね?」


「眠い……」


 ああ、これは魔力枯渇だ……。


「しばらく、寝……る」


 座っているのも限界になり倒れ込む。


「ちょ、ちょっと! イズミ!」


「リナリー、ひざ、まく、ら……」


「で、出来るわけないでしょ!」


 そりゃそうか……リナリーが潰れちまうよ……な。

 



 オレはそこで猛烈な眠気に意識を手放した。





戦闘シーン、難しいですね……


次回更新、時間がかかるかも知れません(´・ω・`)

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