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第十八話 鉱石竜

 




 天然の闘技場に到着する前よりさらに前。

 入り口に足を踏み入れる直前に交わした会話が思い出される。

 重苦しく硬質な魔力に驚いているリナリーを横目に、その魔力に対する感想が思わず口をついて出る。


「なんだこの人の神経を逆なでするような魔力は」


 敵意や拒絶、そして周囲の全てを屈服させようとする意思が込められた魔力。

 少なくともオレにはそう感じられて気分が悪い。

 ラキも低い唸り声で不快感をあらわにしている。


「リナリー、何か分からないか? ズカ爺やイグニスの助言の中に何か該当はするものは?」


「魔力だけの判断じゃ、なんとも……。でも、限りなく低い確率と言われた予想の中にあるかも知れないけど……」


「そうか……。まあ、とりあえず中に進むか。あ、リナリーはここで待ってろ。っていうか、里に戻れ。道案内の役目を果たしただけで充分だ」


「なっ、何言ってるの!? 頼んだ側の私達が何の責任も負わずに、イズミたちにだけ危険な事させるなんて出来るわけないでしょ! 何も出来ないかも知れないけど、だからこそ見届けるのが私の役目であり義務よ。だから私も絶対行く!」


「って言ってもなあ、この魔力だぞ? ここで動けなくなるのは危険過ぎる」


「そこは考えがあるの。昨日イズミの魔力もらったでしょ? その後しばらくの間、外からの魔力干渉を受け辛くなってる感じがしたの。だからイズミの魔力を少しもらえば動けるはず」


「はずって……。博打要素が強過ぎるぞ」


「大丈夫だってば。今だってイズミの近くに居るせいか分からないけど、ちゃんと動けてるし。魔力を貰えばなんとかなるって」


「確かに動きを阻害されてる感じはないみたいだな。それなら――いや、やっぱりダメだ」


「もし本当にダメだったら引き返すから、ね?」


 本当にダメな時は手遅れのような気もするけど……。


「はぁ、……わかった。もしそうなったら穴の外まで投げ飛ばすからな」



 リナリーに魔力を分けながら複雑な気分になった。

 我ながら押しに弱いな……。

 どうもこの魔力からは良くない気配がビンビン伝わってくる。

 いざとなったら全力で離脱して出直すしかないな。



 と思ったその時の事を思い出して後悔している。

 やっぱり連れてくるんじゃなかった、と。


 鍾乳洞の出口からその姿を見てから、明らかに緊張の度合いが増している。

 『鉱石竜オーレスドラゴン

 その名称を口にしてからのリナリーは様子が明らかにおかしい。

 さっきさから、しきりに、どうしよう、どうすればいい、なんとかしなきゃ、などとボソボソと掠れたような声で呟いている。


 今はまた洞窟の中まで後退してる。

 あの闘技場の奥に鎮座していたものをどうするか算段を巡らしている所だ。

 どうやらリナリーは情報を持っていそうだ。ならば聞いておくべきだろう。


「リナリー、あれが何か知ってるのか?」


「えっ? あ、し、知ってるわ……」


 自分だけの思考から復帰してオレの問いに答えたリナリーは、少し顔色が悪い。

 しかし、少しだけ落ち着きを取り戻してきたようだ。


「……便宜上、竜とは言ってるけど竜なのかどうかさえ分かっていないの。その姿が竜に似ているから、そう呼ばれているだけ」


 確かに目にしたその姿は竜としか言いようのない外見だ。

 ただし、翼はなく、体表は半透明の黒い水晶のような六角結晶の鋭利な先端が、大小隙間なく突き出している。近づくものには容赦しないと言わんばかりに、これでもかと攻撃性を主張していた。

 眠っているのかは分からないが、今の所動く気配はなさそうだった。


「鉱石を貼り付けたような見た目から『鉱石竜オーレスドラゴン』、または厄災の獣なんて呼ばれたりしてるわ」


「物騒な呼び名だな」


「それだけの事をしてるのよ……。そして間違いなくこれからする(・・)


「確定かよ……」


「魔力を持つものを襲うの。魔力をも持っているなら何でも。植物、動物、手当たり次第に魔力ごと捕食していくの。避けられない災害の筆頭、天災なんかよりずっと性質が悪いわ。意思疎通は不可能、捕捉されたら逃げる事すら適わない。まさに厄災以外の何者でもない存在なの」


「リナリーは何でアレの事知ってるんだ? 一目でアレが何か確信してたみたいだけど」


「見た事はないけど、文献や言い伝えでイヤでも知る事になるのよね……。過去の例を見ても潰された都市は一つや二つじゃない。大抵は大災害として認識されてるのは間違いないと思う。見て確信出来たのはイグニス様のおかげ」


「イグニスの? 記憶をみせてもらったとか?」


 記憶を見る能力があるなら、イグニス自身の記憶を他人に見せる事だって可能なんじゃないだろうか。


「ううん、小さい実物を何種類か見せてもらった事があるの」


「小さい実物? 子供の鉱石竜とかの事か?」


 もしかして、それの見学ツアーにでも行ったのか?


「まさか。あれは生まれた時からあの姿のはずよ。イグニス様がそう仰っていたもの。違うの、見せてもらったのは、本物をそっくりそのまま小さくしたような作り物」


「フィギュアかよ!」


「フィギュアって言うの? イズミの膝下くらいまでの大きさだったかな、本物と同じ様に動いたり鳴いたりしてたけど。なんて言ったらいいのか分からないから小さい実物って言ったの」


「すまん、違った。それはオレの知ってるフィギュアじゃない。なんだその無駄に高度な技術は……」


 魔法的な何かで動いているんだろうけど、ちょっと欲しいと思ってしまった。

 もしかしてゴーレムとかそういう感じかな。ありそうな話だ。

 イグニスが何故そんな物を作っていたのかというと、小さな頃のラキの教育も兼ねたものだったらしい。

 絶対に近づくな、戦うな、捕捉される前に全力で逃げろ、と身体もまだ小さく、経験の乏しいラキに動くミニチュアで覚え込ませていたそうだ。

 その場にいたリナリーや他の妖精たちにも、注意喚起の意味も含め一緒に講義したのだという。


「……まあ、何にしてもアレが飛びっきりの厄ネタだってのは分かった。問題はオレとラキとで対処しきれるかどうかだけど……」


 一応はラキに確認してみたところ、里の脅威になるものを排除するためには力を惜しまないらしい。

 小さい頃から世話になっていた里の住民のために、今の自分なら力になれる、とリナリーが通訳してくれた。

 どうやってそこまで詳細に? と思ったが、イグニスも同じような事してたな。

 それはいいけど、ラキは人間より人間ができてるなぁ。

 排除するという方針もだが、一時的な撤退も視野に入れた上でどうするかを検討することにした。


 そこで、弱点みたいなものはないか聞いてみたが、その辺の事は分からないらしい。

 その代わりに出てくるのは不穏な情報ばかりだ。


 厄災の獣という二つ名は伊達じゃなく、その行動は、魔力を食らうというそれだけを目的とし、本能をむき出しにしたような、まさに獣の所業だという。


 身体的特徴としては、どの鉱石竜も外皮、外殻は非常識な程に強靭なもの。

 過去の事例では、大規模な魔法を弾いただの、大きな弓矢、おそらくバリスタなのだろうが、それを

跳ね返しただのと、とにかく硬いという事を強調しているものばかりが記録に残っていると。


 そしてその魔力は、他者の魔力に干渉し行動を封じる作用を及ぼすようだ。

 当初、拒絶するような、と言っていたが、どうやらこれの事らしいというのがリナリーの見解だ。

 具体的に干渉の意思を込められていないのにも関わらず、行動が制限されたのがかなりマズイとも。

 リナリーが焦っていたのは主にこれが原因だ。

 行動を開始した鉱石竜が、最初にどこに向かうかと言えば、大量の魔力のある場所。

 目と鼻の先にある、妖精の里に向かうのはまず間違いない。

 活発化した鉱石竜の行動阻害の範囲と威力は今までの比ではなく、このままでは里の皆が気が付く前に捕捉される可能性があり、どうなるか分からないと。

 

 その話を聞いて再度洞窟の出口から慎重に様子を伺う。

 先程と変わらぬ姿でとぐろを巻いている鉱石竜、おそらく黒曜竜オブシディアと言われる種類の個体だという。

 イグニスの倍近い巨体だ。

 個体によって様々な外見的特徴を有しているが、その生態、主に攻撃方法が分かっているものは極わずか。

 やはりというか、黒曜竜オブシディアについては情報がない。

 

 マジか……。

 災害と比肩されるものを、この状態でなんとかせにゃならんのか。

 話だけ聞けば、どう考えてもラスボス級だよ。

 しかし、取り敢えずの方針は決まった。まずは里を優先して考えて行動する。


「リナリーはこの事を里に戻ってズカ爺に伝えろ」


「え、でも……」


「今朝いきなり変化があったって事は、何か次の段階にシフトした可能性が高いんじゃないか? だとすると捕食行動に出るまで時間がないかも知れない」


「そうよ……ね。でもイズミはどうするの?」


「オレとラキはここに残って監視する」


 ラキにそれでいいかと目で問いかける。


「わふっ」


 同意を込めた声だと自然と理解できた。


「って事だ。食料も一週間はなんとかなる。それで動きがなければ一旦離脱するから古道の辺りで合流しよう。もしその間に何かあれば、……足止めする」


「無茶よ! 危険すぎる!」


「って言っても、今の所これしか浮かばん。だからなるべく早く里の皆を避難させてくれよ? どうにか出来る保障はないからな」


「だったら、一緒に里に戻って――」


「対策を練ってからか? その時間があればいいけど、無いかも知れない。安心しろって、何も命をかけてやろうってわけじゃない、オレもこんな所でいきなり死にたくはないしな。かと言って何もせずに帰るってのはオレの中でなんか違う気がしてな」


「だからって……」


「何より、この魔力が気にいらん。アイツが行動を起こしたら嫌がらせの一つでもしてやる」


「……本当に無茶はしないでよね」


 オレの言い分に困ったような顔をしながら強い口調で言う。


「了解だ。長々と話込んじまったな。ほれ、この時間も惜しい。急げ!」


「うん、わかった――」


 そのセリフをリナリーが言い終えるタイミングで闘技場から轟音と振動が襲う。


 ゴガンッ!ガキンッ!


「なんだ? 何の音だ!」


 突然の大音響に全員が反射的に、その発生源を確認すべく洞窟の出口に向かう。

 そこから見たものは若干理解を超えた光景だった。

 直径にして約100メートルの闘技場。その壁に黒い巨大な、首の長いトカゲが張り付いていたのだ。

 4本の手足と長い尻尾を岩壁にめり込ませ、垂直に切り立った壁を轟音と共に登っている。

 どういう原理であの巨体で壁を移動しているのか疑問だが、そんな事は気にしている場合じゃなくなった。

 どう見てもこの壁を越えて外に向かおうとしている。

 考えるまでもなく、このままでは里に侵攻されてしまう。


「まずいっ!あの野郎ここから出て行く気だ!」


 咄嗟に足元に転がっていた拳大の石を拾い上げ、自身と石の両方に強化を施す。


「行かせるわけねえだろ! 落ちろ!」


 叫ぶのと同時に全力で放つ。

 瞬間移動したかのごとき速度で空気を切り裂き、一条の線と化す。

 ドゴンッ! という破壊音を響かせ鉱石竜の、その背中の黒水晶のような外殻を粉砕。

 しかし動きを止めるどころか全く堪えた様子がない。

 一発じゃ効果がないのかと、間髪いれずにもう一撃お見舞いすると鉱石竜が動きを止めた。

 ギャリギャリと硬いものが擦れるような音を出しながら首を巡らし、こちらを視界に捉える。

 血で出来た赤い石でも埋め込まれたとしか思えないその眼は、何の感情も宿していないかのように無機質で不気味だった。


「なかなかの面構えだな」


「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! どうするの!?」


「そんなのは決まって――」


 続く、後退するぞという言葉を発しようとして、ざわりと嫌な感覚が身体を巡った。


「――避けろ!」


 それを言い終わるより早くオレはリナリーを抱え、ラキはオレよりもワンテンポ早く実行に移す。

 ガゴッという、壁面を足場にして、それを砕く音と同時に目の前に黒い巨大な質量体が一瞬で迫る。

 巨体にあるまじき跳躍で、ほぼ反対側の壁からオレたち目掛けて突っ込んできた。

 間一髪で直撃を避け、鉱石竜はそのままの勢いで頭から壁に激突。

 ガラガラと音を立て崩れる岩壁に上半身が埋まっっていた。


「なんて気の短けえヤツだ! いきなり予備動作なしで突っ込んできやがったぞ」


 180度開いているんじゃないかと思える程開ききった、黒い乱杭歯が並ぶ口が目の前に迫ってきたのを思い出し、少し背筋が冷たくなった。


「イズミも充分気が短い!」


「当たり前だろ! 襲われたのに避けるだけなんてあり得ん!」


 間近にいたリナリーにそう言われたが、オレにも言い分はある。

 避けた瞬間に背後の壁に鉱石竜が突っ込むのは分かりきっていたから、ヤツが壁に激突後、即座にリナリーを開放、反転、接近して腰に下げていた刀で切りつけたのだ。

 隙だらけになってるのに、体勢が整うまで待つなんて必要がどこにある。

 

 が、接近しすぎて事故が起こらないとも限らないので、ひと当てしてすぐに距離を取り、会話中は石で攻撃を続けていた。

 既に10発以上ブチ当てて、砂煙が巻き上がって鉱石竜の姿がよく見えない。

 ドカドカと音的にはいい感じでダメージを与えられていそうだが、どうも手応えのようなものがない。

 ダメージソースになり得てないなら、このままでは魔力の無駄遣いになる。それもよろしくないので、手を止めて様子を見る事にした。


「やったか? ――あっ!」


「なに? どうしたの?」


「いや、こういう事を言うとな、絶対と言っていい程やってない場合か多いんだよ。それなりのダメージを与えたってパターンもあるけど、大抵は何事もなく立ち上がって来たりな」


「え、そんなの聞いたことないけど……」


「そういう事もあるってだけの話だ。それより問題は、退路が断たれた事だな」


「あっ……」


 分かりきっていたことだが、出口付近にいたオレたちに向けて突っ込んで来たのだから、その背後にあった壁もろとも出口は崩れてしまっていた。

 状況としては、この闘技場に閉じ込められてしまった形になるが壁を登って出るくらいはなんとかなるだろう。

 ただし時間さえかければ、だが。

 間違いなく戦闘中にそんな暇はありそうにない。

 これは、やるしかないのか?

 そんなオレの胸中など関係なく事態は進行していく。

 砂煙を巻き上げながら、瓦礫の中から嫌な金属的な雑音を響かせ、巨体が這い出してくる。


「リナリー、壁を越えて里に行け!」 


「二人はどうするの!」


「なんとかする! いいから行け! 早く!」


「う、うん……わかった……」


 渋々とだが頷いて、この場からの離脱を決心してくれたようだ。

 身を翻して飛び去るリナリーを視界の端に捉えながら鉱石竜に意識を向けると、魔力が動いた。

 この魔力の動きは何か知ってる気がするぞ……

 放出系の攻撃特有の魔力変化?


「しまった!」


 くそっ! 間に合え!

 ボッという低音とともに煙の中から、砲弾のような黒い物体がリナリー目掛けて射出された。

 自分の身体の鉱石を弾代わりにしたのか!

 それを阻止すべくオレは魔法障壁を射線の先に展開。


「え? きゃっ!」


 黒い鉱石の接近に寸前で気が付いたリナリーは身を丸めた姿勢で固まる。

 その鉱石の砲弾が障壁に接触して爆発。


「ラキ! ナイスだ!」


「ウォンッ!」


 オレの展開した魔力障壁は完全には役割を果たせなかった。

 射線をそらすために斜めに展開したが、軌道を僅かにそらしただけで突破されてしまったのだ。

 しかし、ほぼ同時にラキが障壁をその先に展開してさらに軌道を変え、その上で魔力弾で破壊した。

 誘導弾である可能性も全く無いとは言い切れないので、ベストな対応だ。

 オレの展開した障壁だけでもリナリーには当たらなかったかも知れないが、確実にそうだとは言い切れないので正直助かった。

 ラキはほんとに器用に魔法を使うよな。さすがだ。


 しかし、それだけでは終わらず、連続して鉱石の砲弾がこちらにも飛んできた。

 リナリーも障壁を展開しながら回避行動を取っているが、ある程度まで上昇するとそれが追いつかないくらいの攻撃を加えてくるのだ。

 オレは放たれる砲弾を避けながら、リナリーのフォローに障壁を展開しているが、このままじゃ状況が好転しない。


「リナリー! ダメだ、戻って来い!」


「わ、わかった!」


 鉱石の弾をやりすごしてなんとかこちらに戻ってきたリナリーだったが少し消耗しているようだ。

 強めの障壁を展開していたのかも知れない。

 鉱石竜から50メートル以上離れた場所に集合し、大き目の球状に展開したオレの障壁で全員を囲むようにして鉱石の砲弾を遮断する。

 この程度の攻撃なら厚めの障壁で何とかなるようだ。

 一応威力を変えられても対応出来るようにはしておくが。


「どうあってもオレたちを逃がすつもりは無いようだな」


「そうみたいね……。どうするの?」


「逃げられないなら、やるしかないだろう」


 砲弾の射出点からは眼を離さずにそう告げる。

 鉱石の砲弾を発射する際の魔力の干渉なのか、再び砂煙に覆われる視界。


 考えはある。が、どこまで実行できるか分からない。

 前提としてオレとラキに鉱石竜の意識を集中させる必要がある。

 その上で隙を見てリナリーを離脱させ、その後は相手の攻撃と自分達の攻撃で周囲の壁を破壊して、上手い具合に足場を作りオレたちも離脱。追ってきたヤツを森の中から遠距離でチクチクと嫌がらせと削りの繰り返しで進行方向の誘導。

 その後はどうするか考えていないが、今の状態よりはマシだろう。

 それを手短に説明したが、残りの役割分担をどうするかだ。


「オレはアイツの注意をひきつける。隙ができるまでリナリーはラキに張り付いててくれ。ラキも回避優先でな」


「わかった」


「ウォン」


「もし余裕があれば援護を頼むぞラキ」


 ぶっちゃけ配役はこれしか思いつかなかった。

 まずはオレにヘイトを集める作業だな。

 正面から当たる必要はない、いやらしく、ねちっこくいってみようか。


 しかし、ほぼ初めての本格戦闘がラスボス級ってどうなんだ。

 そう内心で不平を漏らしていると、砂煙の向こうから飛んでくる砲弾が途切れた。

 それを合図に強化タフ・ドライブを発動。


 鉱石竜からも魔力の動きを感じる。


「グルォォオオオオーーッ!」


 質量でもあるんじゃないかと疑いたくなるような重低音が全身にあびせられる。

 花火を真下で見たときの身体にくる衝撃を100倍にしたような密度の音が闘技場全体を震わせた。

 空気の振動と魔力の奔流によって砂煙が渦を巻いて拡散していく。


「くるぞ……!」


 その姿は黒曜竜オブシディアという竜の名を冠するに相応しい威容を誇っていた。

 赤黒いつやのある六角結晶が、更にその数を増やし巨大に成長している。

 オレの砕いた外殻部も、何事も無かったように修復し増強されたようだ。

 強力な自己修復能力か。

 外殻が厄介だという認識はここからきてるのか、それとも、これより上の状態があってそれを指して言っているのか。

 どちらにしても生半可な攻撃ではどうにもならないだろう。

 超速再生とでも言うべき能力を持った相手に何が有効なのか見極めなければならない。


 そう思考を巡らせて結界の解除と散開のタイミングを計る。


「散れっ!」


 いかにも、という姿勢から、ドンッ!という衝撃音を地面に響かせて、その牙で食らいつかんと突進してきた黒曜竜オブシディア。それを左右にかわし、オレとラキは相手を挟むように陣取る。

 目標からはお互いおよそ20メートルの距離。


 そして、まずは先制とばかりにラキが高密度の魔力弾を放つ。

 ちょっと待ちなさい! それだと黒曜竜の意識がそっちにいっちゃうでしょうが!

 って、そんな事は百も承知で、敢えて最初は自分に意識を向けさせたんだな。

 


 ならばオレはオレで役割を果たそうじゃないか。


 


長くなってしまったので2話に分けました。

なんかぶつ切り感がすごいですね(´・ω・`)

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