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第百二十七話 ダンジョンというより……何?

今までのあらすじ


湖の底にダンジョンがあるんだって!


 その巨大な扉はラキが鼻でつついただけで反応を示した。

 生き物の纏う魔力か、それともただ触れただけで動く仕組みだったのか。

 だとしたら長い時間放置されていたのに誤作動を起こさなかった事に驚く。


 誤作動こそ起こさなかったが、グゴゴゴッと重苦しく軋むような音が足元から下腹にまで伝わる。

 というか見た目が扉だったのに、おかしな開き方したぞ。

 描かれた文様に沿って割れたかと思えば、渦を巻くように四方の壁に吸い込まれ入り口が現れたのだ。


「まあ、こういう事もあるか」


「……かなり珍しい部類かと思いますが」


 そうは言うがなトーリィ。創作物なんかだと割と見るというか。

 だが何故そんな淡泊な反応なのかと言いたげな表情がちらほら。

 ファンタジーな世界なら普通の事だと思ったが、どうも違ったようだ。

 そんなに希少な構造だという事なら、だ。


「んー、ダンジョンというよりは遺跡に近いか? って、まだ下るのか……」


 洞くつでも何気に緩い勾配で下ってきたはずだけど。

 ラキがとっとっと、と短い脚で軽快に先陣を切って下り始めると、ここでも光源不明の薄明りが周囲を照らす。


 下りの巨大な通路。結構な距離を進んだ所で、また巨大な扉が現れた。

 ここでもラキが触れた事によって扉が開く。ゴゴゴゴ……と。


「ここは左右に開くんかい」


 観音開きに突っ込みつつ先に進むと。


「これは……」


「何もない……?」


 リアの小さな呟きにラグが続けた。その言葉通りに、そこは何もない広大な空間が広がっていた。

 とはいえ完全に何もないというワケではなく。巨大な扉が開いた時から既に薄暗くはあるが空間全体を灯りが照らし出していた。

 光源が何処にあるのかハッキリしないというのは、存外不気味だというのはこの際は横に置くとして。

 巨大な柱が幾本か天井へと伸びているのが遠目に確認できる。

 そして所々に見える模様の刻まれた石畳と自然物の床。互いに浸食しているような不自然な状態が一面に広がっていた。


「ここでじっとしてても仕方ない。とりあえず進もうか」


「まあそうなんだがな」


 オレの言葉にラグが口の端を上げて応える。

 ロドたち三人は諦めたように、他の皆は苦笑気味に同意の視線をこちらへ向ける。

 そして入り口とは反対へと向き直り全員が歩き出した。


「っと、そうだ」


 数十メートル進んだ所で最後尾だったオレは立ち止まる。

 ラグがオレの行動に内心で首を傾げるように。


「どうした?」


「いや、色々へし折っておこうかなと」


 旗的な何かをね。

 入り口まで戻り無限収納エンドレッサーから出した幾つかの巨岩を開いた二つの扉に、それぞれ接するように置いた。

 そして大きな鉄杭も岩に接するようにぶっ刺しておく。床に刺さらないと思ったけど問題なかったわ。


「閉じ込められる、か?」


「ありそうだろ?」


「あるのか?」


「いや、今の所は。でもオレたちが感知できない機構が組まれてる可能性もゼロじゃないから一応って事で」


「そうか」


 ふむ、といった様子で頷くラグ。それに倣うように他の皆も「なるほど」と納得した表情を見せていた。

 冒険者の三人を除いて。


「……一般的な対応を知りたいといった理由が分かったわね……」


「確かにやる事が普通とは言えねえな……」


「全員が納得してるのが怖いんだけど……」


 ロド、マイアット、ルイーニが漏らす。

 うーん、まあ。妥当な反応かもなあ。


「あの、どういう事でしょう?」


 素直にそう口にしたのはリアだ。他の皆も同じく内心で首を傾げていたようだ。

 リアの言葉を拾ったのはロド。その表情や間で年少者の扱いというか距離の取り方が上手いと何となくだが感じた。

 

「あんな大きな物は普通は持ち歩けないでしょ?」


 ロドの言葉に「あー……」となる一同。

 拡張鞄の類を持っていたとしても巨大な岩や大きな鉄杭など普通は入れないだろうと。

 限りがある容量を無駄に出来ないのだから。


「ましてや、それを使って罠の作動を妨害するなんて発想はねえ」


 ロドの言葉にマイアットとルイーニが頷く。

 リアも含め、他の皆はそういうものかと納得する事にしたようだ。

 そこへ、ただの好奇心といった風にラグが問いを口にした。


「仮に大容量の収納具がなかったとしたらどうする?」


「それは時間的な余裕がない場合?」


「……まあ、そうだな」


「魔法で妨害しておくか。ぶっ壊す」


 土系統で無理矢理か、それがダメなら壊しておく。全く干渉できない構造物だとしたら、それはそれで面白いが。本当に干渉できないのか可能な限り検証をだな。

 良からぬ事を考えているんじゃあるまいな、といった視線を質問者であるラグから向けられるが、気のせいである。


「ちなみに時間的に余裕があるなら?」


「徹底的に人間に偽装したゴーレムを使って先行させるかな」


「徹底的に? どこまでの事を言っている?」


「見た目は当然だけど、重さや臭い、魔力の特徴や体温もだな。呼吸や汗も必要か?」


「そこまでするのか?」


「欲を言えば骨格とか内臓も再現したいな。あ、そこまでするなら死体を用意したほうが早い?」


「もはやゴーレムなのかゾンビなのか分からんな」


「案外とその辺って起源は同じだったりして。しかし使い方次第って意味でも死霊術師はホント便利そうだよなあ」


 世間話でもするような空気で会話していたが、三人の冒険者にとっては違ったらしく。

 引き攣った顔で「話題がおかしい……」と漏らしていた。そんなにおかしい?


「ま、それはともかく。なあんで物語だと、扉を放置して閉じ込められるかなあって常々疑問だったんよ。何の脈絡もなく何もない所でいきなり閉じ込められるなら……まあ、まだ分かる。でも扉なんて、あからさまに怪しいのに、どうして開けておく努力をしないのか」


 特に自動で開くような扉なら自動で閉まるだろうよ。

 なのに「しまった! 閉じ込められた!」とか馬鹿じゃないの。

 仮に次に進むために閉まるというギミックを疑うなら、敢えて受けるのも納得も出来る。少しだけな!

 他にも、どうしようもない状況で罠に嵌るのもなくはないだろう。だからこそ、目に見える地雷を放置するとかどうなんだって話だ。

 壊せよ。機能不全にしとけよ。それでも先に進めなかったら諦めるがよろしい。

 とかなんとか言ってると間抜けな罠に引っ掛かりそうな気がしないでもない。


「あんな巨大なものをどうにか出来る手段があれば、の話だがな」


「んー、そう、なのか? 備えが足りないだけのような気もするけど」


 どうやらオレが納得してない事に皆さん納得してない様子。

 いやだって、そうじゃないか?


「イズミさんのように際限なく幾つも対抗手段を取れるのは稀だと思いますけど……」


「いやいやマリス。何もその場でゴリ押ししろって言ってるワケじゃないんだ。確かにやむを得ない事情で早急に探索が必要って事なら仕方ないけど……って、やむを得ない事情って何だ?」


「((知らんがな))」


 リナリー、サイールー、ナイス突っ込み。思考が逸れる所だった。

 両肩にいるフクロウもどきからステレオで言われれば、さすがに踏みとどまる。

 二人のツッコミの事実を知らないので皆はオレの一瞬の停止に不思議がっていたが。


「……まあそれは置くとして、急ぎじゃないなら入念に調べて、あらゆる不測の事態に対応するべく備えるべきだろ?」


「まあそうなんですけどね。それはそれで色々と制限というか問題がありますよ?」


「問題って何さ。マリス」


「人員とお金です」


 ……おうふ。根本からきた。


『お金持ってる人はこれだから。ついでに時間も』


 オレが暇だと申すか。三人娘。


「そういう事だ。言うまでもないが大規模な調査や探索には金がかかる。公的な組織であっても人材が有限なのは変わりない。投入可能な期間も人数も限りがある。だからこそ少数で結果を持ち帰る者たちが重宝されるわけだが」


 どちらかと言えば、ラグはそっちを管理する側だもんなあ。


「……なんて世知辛い世の中だ。結局は金か。金なのか」


「確かに全てではないが、そこに集約されるような気はするな。あとは権力か」


「愛は世界を救わない……」


「結論が飛躍してる気もするが、世の理の側面ではあるなかもしれん」


「ラグが言うと笑えないんだけど」


 オレとラグとの遣り取りに苦笑が漏れる一同だがコレも見慣れた風景だと言わんばかりのリアクション。

 それを見て何とも言えない顔をする三人の冒険者の反応は新鮮に感じる。


 などとやってるうちに変化が訪れた。

 離れた場所で魔力の動きがあった。

 これは時限式か? 生体魔力や動体反応を検知して作動したか。オレたちが入り口からほとんど移動していない状況から考えると正解に近いだろう。

 まあある程度移動しても作動するようになっていたかもな。トリガーがひとつだけって事もないだろうし。


「ご歓談中の所、ひとつお知らせが」


「園遊会をしてるワケでは……」


 シュティーナが呟きは他の者も思う所だったようだが、それはそれとして伝える事は伝えねば。

 ご機嫌なアトラクションが用意されていたようである。


「どうやらここは魔獣の隔離区画――」


 魔獣という単語を聞いた瞬間に皆の意識が一斉に切り替わったのが分かった。


「――モンスターハウスになったらしい」





 ~~~~





 おお、みんな結構、余裕があるな。

 じゃあ、もう少しペースを上げてもいけるかな?

 今居る大広間とでも言うべき巨大な部屋には、実は幾つもの通路が伸びていたのを感知していた。

 その奥から大量の敵性体が広間に雪崩れ込む、というのが本来の予定だったように思われる。

 だが、そうはならなかった。

 オレが通路の入り口を適当なタイミングで無理矢に理塞いだのだ。

 で、順次広間へと迎え入れている。


「どう? いける?」


『む、無理ですッ!』


「平気、平気、まだいける」


『鬼ーッ! 人でなしーッ! 外道ーッ!』


「人でなしは許すが、外道は許さん。きりきり働け」


『いゃーッ』


 まずは上空から三人娘に、どうかと確認してみたが大丈夫そうだな。

 だんだんと『悲鳴を上げながら、どうにかこうにか対処する』というスタイルがデフォになってきているような気がする。

 そう考えると意外と余裕ありそうだな。


 今、みんなが戦ってるのはケルピーみたいなヤツとデカいザリガニことクレイヴィッシュと、名前は知らないが、こちらもデカいカニである。


 水でできた身体の。


 見た目はそのままケルピーだが倒すと水になって崩れてしまうので、「みたいなヤツ」としか表現できない。

 どういう原理なのか見当もつかないが、倒すまで本物にしか見えなかったのだ。

 どうも色だけじゃなく質感も再現されているらしい。殻や体毛、表皮、そして内臓や骨まで。

 ご丁寧にも、生物としての弱点や特性まで模倣しいるらしい。まさに魔法のような、を地で行く状況。


 水製のゴーレム?

 だとしても、そこまで再現する意味があるか?

 今それを考えた所で意味はない、か。

 本物と区別がつかないなら本物として扱えばいいだけだ。


「リア、もう少しだけタイミングや配置をずらして攻撃に緩急をつけるようにすると相手を誘導しやすいぞ」


「はいッ」


 三体のゴーレムで応戦しているリアの上空でアドバイスを送る。

 

 シュティーナ、トーリィ、セヴィの三人は連携を主眼に置いての立ち回り、のつもりだったようだが、いつの間にかお互いを邪魔しない動きで効率重視に変更した模様。まだ連携が必要な相手じゃなかったみたいだな。


 ラグは、まあ。人間やめてるよね。

 最初は遠距離で色々と試していたようだけど、接近戦に移行してからも何かを模索しているような動きだ。

 手加減の仕方でも試してるのかな?


 制限がある中、皆しっかりと対処できてるな。

 下手に壁や天井が壊れると水没する危険もある。

 火炎系の魔法は酸素の消費という意味でも選択肢が減るし土系も気を遣う。水系は何とか使えるが効きが悪い。当然、力任せな大規模なのはダメ。風系が割と使えるがこちらも火炎系と似た感じで空気の偏りによる気圧の変化などにも気を配りながらと、魔法を使うのはそこそこ面倒な具合になっている。

 広大な空間といえど、水の底の密閉されたような場所で好き勝手はできないという事だ。


 忘れちゃいけない冒険者の三人も、なかなかの手際である。


「なんか周りの手際がおかしいんだけどーッ!?」


「ルイーニ、それは考えるな! ロドの動きに合わせろッ!」


「分かってるってばっ!」


 とかなんとか愚痴っぽい叫びが聞こえるが、対応はしっかりとしたものだった。

 中堅とかベテラン冒険者の動きだと誰もが納得するものだろう。


「あなたは戦わない、のッ!?」


 ロングソードで巨大ガニを真っ二つにしつつ、ロドが上空のオレへと言葉を投げてきた。

 オレが空中にいる事に最初は目を白黒させていたが、気にしない事にしたようだ。


「オレたちは、まあ全体管理だよ。事故が起きないように」


「正直、手を貸して欲しいくらいなんだけど?」


「貸してもいいけど勿体なくない? 経験って意味で」


「……そういう事。未知の場所でそれを実行するのが信じられないけど」


 一応、迎え入れる数を調整してるから手を貸してると言えなくもないけど当人たちにしてみたら、それどころじゃないって話だわな。

 切れ目なく調整してるからねえ。


 ふーむ、段々と強いのが押し寄せてる気もするけど……ま、いける所までいってみようか!





 ~~~~





 訪れた静寂。


「お、終わったの……?」


 それはフラグになる台詞ですぜ、ルイーニさん。

 だがまあ正解。幾本もある通路からはもう水製ゴーレムは現れる気配はない。

 おそらく打ち止めと思われる。


「しばらくは大丈夫、かなあ?」


「そこは確証が欲しいんだけど……」


 オレの曖昧な言葉に、疲れを滲ませた顔で期待できない要求を口から漏らすルイーニ。

 いや実際、確定できないのよ。材料は腐る程まわりにあるし、動力源の魔力が尽きたとも思えない。

 かといってシステムが異常をきたしたというのも考えられない。何しろ長期間の放置プレイに耐えた施設である。

 となれば、あとは一定条件を満たしたとか最初から予定通りの動きであったとか、そんな所だろう。


「イズミが言うなら、そうなんだろう。それに、いざとなったらラキの態度で判断できるだろうしな」


「わふっ」


「え、酷くない? それはオレの事は信用してないという事では?」


「イズミが絡むと予測が困難だ」


「風評被害」


「事実だ」


 ぬう。オレ以外の認識が既にそれで固定されてるのは納得いかん。

 冒険者三人は「なるほど……」と何かに得心がいった風な様子。呟きを拾えば「確かに稀にいるよな、そういうの」とか「気にする事柄がズレてると割とその傾向があるわね……」とかなんとか。


「まあいいや……いや、良くはないけど。それよりも、取り敢えず何かないか調べる方向で?」


「……そうだな。これだけとも思えんのも確かだからな」


 割と殺意高めのモンスターハウスだったから生贄前提って可能性もなくはないが、どういう仕掛けがあるかくらいは軽くでも調べておくべきだろう。


 周辺を簡単に調査してみたが、はっきりいって何がどう怪しいのか判断できない事に気付いた。

 何しろ目にする全てのものが怪しく見える。

 既知の場所であったとしても怪しいと思えば怪しく見えてしまうのだから、未知の場所など全てが疑わしく感じるのも無理のない事かもしれない。


 とはいえ、このまま帰るのも、どうなんだと。


「取り敢えず突き当たるまで奥に進んでみる? ここで引き返してもいいけど、それだと怪しい集団から吸い上げた情報の裏付けにはなあ」


 冒険者三人が「怪しい集団……」と複雑な顔をしていたが、それは置いて。

 奥のほうは薄ぼんやりとしか見えない。 感知で行き止まりなのは分かっているが、偽装されたような扉があるかどうかまでは分からない。

 まあ結局の所、うまく偽装されていたら、どうにもならないが。

 だけど――


「まだ何かの仕掛けがある可能性か」


 んだんだ。さっきの罠の発動を見れば、こちらの行動に何かしらのリアクションがあるかもしれない。

 ラグのオレの内心を読み取ったような台詞だったが、皆も異存はないようだ。


 そして入り口から結構な距離を進んできたはいいが。

 何もない行き止まり? 人工物と自然物が浸食しあったような壁があるだけ。

 だが三人娘が壁に触れようとした、その時。


「わっ!?」


 床と壁の境目から電子回路のような光の線が波打つように広がった。

 そしてガゴンッ……という音が響くや、やや距離が離れた場所に地面からせりあがる壁。


「これって……」


「囲まれた?」


 セヴィが周囲を見渡し零れた言葉に、シュティーナが拾うように続く。

 ゴウン……と大きな音が響いたかと思うと足元が振動を始める。激しくはないが力強い振動。


「え、動いて、る……?」


 それは誰の呟きだったか。だがその言葉通り確かに動いてる。

 最初は何がどう動いてるのか把握し辛かったが、床がかなりの範囲で沈み込むように動いているようだった。それも斜め下の方向へと。

 壁も少しづつだが奥へと持ち上がっていく。


「これは……斜行エレベーター? デカ過ぎだろ」


 しばらくして、それが巨大なトンネルを斜めに降りていくものだと誰もが理解できる光景だった。

 オレの斜行エレベーターという言葉にはピンと来ていなかったようだが、何を言いたいかは理解出来たらしい。

 

 動いた床の範囲は40メートル四方くらいか? 斜行エレベーターとしては結構な規模のように思える。何を運ぶつもりだったんだ、いったい。

 しかも台座が移動するためのレールらしきものもない。


「……これだけのものが王都から、それほど離れていない所にあったとはな」


「他国にその情報があったというのも少しショックです……」


 王族ふたりの言葉は立場的なものからくる、落胆と悔しさをない交ぜにしたようなものだった。


「タイミングだけの話って場合だってあるだろうけどな。全く資料がないって事はないんじゃないか? その資料にしたって、まとめ方次第で優先度や重要度に違いが出るだろ? 単に見落としだったら問題かもしれないけど何か事情があった可能性だってあるわけだし」


 意図的に消されてたら、そもそも把握するのも無理だろう。


「敢えて触れずにいた、と?」


「そそ、知る人間が居れば必ず漏れるのが情報というなら、なくはないんじゃないか?」


「だとしても、こうして後に困惑する事態になるなら、情報は管理すべきだったと思うが、それも結果論か」


「まあ今更言っても仕方ないってヤツだな」


 などと語っている今も下降を続けるエレベーター。

 周囲を警戒しながらも、とりとめのない話題が続く。

 続くが……。


「長い……ッ」


「寒いッ!」


「そして眠いッ!」


 三人娘が思わずといった風に、白い息とともに零した言葉は全員が同意するところだった。

 時間にすれば、それ程ではないはずだが徐々に加速していたようで現在は結構な速度で下降している。

 そして代り映えのしない景色も相まって余計に長く感じてしまう。

 加えて気温が予想外に下がってきているのも錯覚に拍車をかけているのかもしれない。

 眠いのは身体を動かした後に体温が低下した事と、睡眠時間が十分でなかった事も影響していると思われる。


「しかし、ここまで来て今更だけど、本当にダンジョンで何かを起動させるつもりだったのかね?」


「どうでしょう……捕まった方たちは、そのつもりだったようですが……」


 オレの誰に向けたというワケでもない呟きにシュティーナも同様の疑問を感じる様子で応えた。

 捕まえた者たちから得た情報の中身はと言えば、湖底にあるダンジョンで何かしらのシステムを起動させるというもの。

 何かしら、というのはダンジョン毎に、その機構は様々らしく断定は出来ないという話だった。

 魔力の扱いに長けた者が必要だというのは一致しているようだが。

 そして長期間閉ざされたダンジョンならば休眠しているだけでシステムは健在だろうと。

 朽ちていたり壊れていたとしても膨大な量の魔力で干渉すれば修復が可能かもしれないという。


「いい加減と言うか希望的観測に縋り過ぎてる気がするんだよなあ。ダンジョンというよりは遺跡に近いけど、それはいい。調査員や攻略に必要な腕利きも揃えたようだし、ある程度の成果は見込んでの計画だったんだろう」


「長期的な計画だったのでは?」


「確かにトーリィの言う通り、その可能性もある。この一回だけで目的を果たすなんてのは普通は無理だと考えるよな。先遣隊の規模も妥当かどうか判断し辛いから、どの可能性も排除できないわけだけど。ただなあ」


 言葉を切ると何か大きな懸念があるのか? という視線が集まる。


「さっきのモンスターハウスの攻略の見積もりってどうなってたんだ? さすがに情報に抜けがあったとは思えないんだけど」


 捕まえたヤツらがあれを突破できたかというと、そこはかなり疑問が残る。

 ロドたち三人の様子からして、他の冒険者がいたとしても調査員を護衛しながらでは些か厳しいのではなかろうか。


「確かに疑問だが、そもそもあの反応が通常かどうかも怪しいがな」


「どういう事さラグ」


「扉の動きを妨害したり模倣魔獣の動きを制限したりしていただろう。それがどう影響するのかが予測がつかないという話だ」


「あ、あー……想定外の事をしたから過剰反応をしたって? まさか。ここを造ったような連中が、あの程度の事を想定してないとは思えないんだけど」


「だといいがな」


「えぇ……」


「どちらにしてもだ。既に、どんな予想も意味はないのかもしれんぞ」


「出たとこ勝負かあ。あれ、あんまり普段と変わらんな」


「それもどうなんだ」


「ただ今の話で思ったんだが、トンネルに入る前に壁で囲われた意味が気になるな」


『意味?』


 斜行エレベーターの単なる動作ギミックだと思っていたが……。


「あ、なんか嫌な予感してきたぞ」





 ~~~~




 まだ止まらないぞ、おい。

 エレベーターは下降を続け、もしかしたら直線距離にして3千メートル以上の深さまで到達しているのでは? と感じる程だ。

 実際は殺風景なトンネルの移動で、体感時間と移動距離がかなり狂っているような気もするが。

 

 どうも非常に大きな螺旋を描いた構造のトンネルのようだった。

 そういえば移動中の雑談では冒険者三人がセヴィの戦闘能力について聞いて目を剥いたり、引き攣っていたりと忙しそうだったな。


 気温もぐんぐん下がって今では間違いなくマイナス10℃以下だろう。

 途中から魔法で全員が温度調節で凌いでいたので正確な所は不明だが、周囲の景色から現在はマイナス20℃を下回ってるかも知れない。


「あ、ちょっと遅くなってきた……?」


「ほんとだ。この旅にも終わりが」


「概ね不満のない人生でした」


 勝手に終わるな。トンネルを黄泉路にでも例えたんか?

 三人娘がそう言いたくなる気持ちも分からんではない。

 行く先に見えるコキュートスを連想させるような、氷に閉ざされた空間のせいかもしれない。

 

 ある種の荘厳な雰囲気を醸し出している、その場所。

 先程の巨大空間にも引けを取らない広さだった。


「これはこれで大発見だと思うけど……」


 地下の巨大空間に対しての感想なのか、そうロドが呟く。そしてエレベーターが、まるで床へと同化するようにして停止した。

 台座ごと大きな窪みへはまった形だが、その事に意識を向ける者はいないようだった。

 なぜなら――


「何、あれ……」


 言ったルイーニの足が吸い寄せられるように数歩進む。

 霧のような冷気の向こうに見えたのは、氷に閉じ込められた巨大な生物だった。


「ドラ、ゴン……?」


 そう見える何か。氷の屈折で視認できない部分も多々あるものの異様に禍々しい事だけは嫌でも解る。

 ほぼ全員があっけに取られていたが事態は待ってくれないようだ。

 ピシッピシッと、遠くに聞こえる音がやけに響く。


「これはお約束ってヤツ?」


「何を呑気な事を」


 ラグが眉を寄せオレにツッコむが、その間にも何かが割れる音が鳴り響き、次第に音が大きくなってきた。


「いやはや、どうも一連の仕掛けが、これのために仕向けられてたようだな」


「どういう事だ?」


「モンスターハウスも本来はエレベーターまでの誘導で、その後の壁で囲ったのもセーフゾーンみたいな新設設計とかじゃなく、逃がさないためだったんだろうなって」

 

 要はやっぱり生贄だったのではないか、と。色んな意味で嫌な予感が当選したワケだね。

 その説明に表情が渋くなるラグ。


「冷静に話してる場合じゃなくない!?」


 ルイーニがオレたちの様子に、たまらず叫ぶ。


「そうね……どこまで有効かはさておき、ここは撤退すべきじゃない?」


「だな。正直あんなのとは、まともに遣り合いたくねえ」


 ロドの提案にマイアットが乗る形で心情を吐露する。

 こうしてる間にもバキバキッとかガキンッとか、氷が派手に割れる音が聞こえる。


「そうだな。ここは――」


 一時退却して様子見か増援の要請が無難ではあるだろう。皆もその方向へ意識が傾きつつあるのが分かる。オレの言葉の続きを予想してのものだろう。


 だがッ!!


「先手必勝ッ!!」


「わふッ」


 ラキとの連携攻撃! くらえ、溶岩弾ッ!!


『ええッ!?』


 何その「撤退する流れじゃなかった!?」 みたいな顔は。

 いやいや、やるよ? やらない理由がない!





ほんと遅くなりました(´・ω・`)


いろいろダメな感じでしたが、何とか持ち直したような、そうでないような


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