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第十二話 狭いながらも楽しい○○ヤ

 


 

 ジュウジュウと音を立てて焼ける肉のにおいを嗅ぎながら刀を砥ぐ。

 その横ではラキがヨダレを垂らすのを必死に我慢しながら、おすわりの姿勢で肉系野菜を凝視している。

 女の子なんだからヨダレはやめなさい。ってイヌ科の動物には無理な相談か。


 先日話題に上ったスパイスと岩塩を森の中で探し出し、岩塩を利用して肉焼き専用の岩塩プレートを作ってみたので、それを使った料理を試食してみる事にしたのだ。

 作ったといっても、比較的平らな岩塩を石を使ってゴリゴリ削って仕上げた程度。


 完成した岩塩プレートを魔法で熱して肉系野菜を焼く。

 スパイス類はまだ乾燥させていないものもあるので今は置いておく。


 何故こんな事をしているかというと、生活環境の改善を図ろうと思ったからだ。

 ここで生活するようになって二週間以上経ち、しばらくは滞在する事が決定している。

 なので、いい加減野宿みたいな生活をどうにかしなきゃと、手を付けられる所からやっていこうという事に。


 食生活の改善の為に、まずは手始めに調味料の充実を。そして食器などの生活雑貨の製作、広場の脇に居住空間の確保と、魔法の練習も兼ねてやりたいことが沢山ありすぎる。


 ブレスの習得で及第点をもらったのが二日前。

 次の日はブレスの復習と異相結界の展開の練習。

 とりあえず今日はブレス漬けから開放されての初日だ。

 

 午前中に強化タフ・ドライブを使い、ラキの案内で森の中を探索して食材と共に岩塩とスパイスやハーブ類を収集。そして岩塩を加工。

 昼食にその岩塩プレートを使って調理をしていたというのがこれまでの流れだ。


「ん、できた。ほいよ」


 焼きあがった肉系植物を、その辺から採ってきた皿代わりの葉っぱに乗せてラキの前に置く。


「ウォンッ!」

 

 置いた瞬間に消える食材。

 食事中に戦闘機動するほど待ちきれなかった? まだあるから。

 適度な大きさに切り分けたそれを、ラキと一緒に頬張る。


「……やっぱり塩分は欠かせないよなあ」


 減塩どころか無塩生活を思い出して遠い目になるのは致し方ない。

 改めて塩のありがたみを食材と共に噛み締める。

 塩気が足りないと思った時のために、削った岩塩を用意するのも忘れない。

 何事も無駄はよくない。

 尖った感じはなく、まろやかな塩気とでもいうのか、岩塩で味付けした肉系植物は――ってこのサツマイモみたいなヤツはなんて名前だ? 説明が面倒臭いな。

 とにかく非常に美味かった。


 もう習慣のようになっているが、神樹の葉も食卓に並んでいる。

 そういえば、と神樹の葉に含まれる魔力について気になった事をイグニスに確認してみた。

 以前、オレの中に神樹の魔力が混ざってるみたいな事を言っていたが、それは不純物にならないのかということだ。

 説明によれば、感情のおりが不純物として現れる現象とは違い、神樹の魔力は不純物には当たらないという事らしい。

 

「言わば神樹風味のイズミ味の魔力という所じゃな」


 なんだ神樹風味のイズミ味って。


 どこぞのお菓子のキャッチコピーみたいだけど、どうやらその神樹風味というのがアクセントになってオレの魔力の味を際立たせていると、そういう事のようだ。

 そんな風に説明されても、全くわからん。


 よく考えれば、こちらに来てから果物か野菜しか食べていないから期間限定ながらベジタリアンと言えなくもない。

 肉の食感と味がしたら、それはもう肉だと思うが理屈の上では菜食だ。


 それと、ここ何日かでこの神樹の葉を使い、ちょっと検証していることがある。

 どの程度までキャスロを減らしても腹を壊さないか実験中だ。

 キャスロのレシピをまだ再現出来ないという事で、これ以上の消費を抑える為の策だ。

 そこで問題になるのが、腹を壊した時のために至急トイレが必要になるという事。

 まずそれをなんとかしないといけない。


 何故今頃トイレの話になるのかと問われれば、必要なかったからとしか答えられない。

 そう、実はルテティアに着いて、まだ一度も固形物を排出していない。

 つまり野外放出をしなくて済んでいるのだ。

 平たく言うと野○ソである。

 尋常ではないという開放感に常習性があるとまで言われる、あの野グ○。


 幸運な事に節約したキャスロでもここまで何事もなかった。

 しかし、減らした事でそろそろ出口に到達しそうな気配がする。

 肛門の門番が実家にでも帰っていたのだろう、しばらく居なかったのだが、そろそろ現場復帰しそうな勢いなのだ。 


『気にせずに、その辺の茂みで済ませば良かろう』


 とイグニスは言っていたが、気にするなと言われても多少は他人の目というのが気になる。

 両親とのサバイバル時には全く気にならなかったが、やはり家族でない者の近くでは気が引ける。

 何より神域などと呼ばれている場所で、そんなものを野ざらしにしていいのかと。

 イグニスの口ぶりでは、気にせず、ぶっ放してもいいという事だが、オレの気持ち的にそれはよろしくない。穴を掘って埋めればいいじゃないかと思うかも知れないが……なんかイヤ。

 という訳でトイレの建設は急務である。


 完成予想としては小さな小屋を作り、その床に深めの穴を掘って便器は洋式。

 結局は穴を掘るんだけど、問題はそこじゃない。仕切りが欲しいんだよ。

 そして快適なトイレ生活の為には頑丈な陶器が必要だ。

 そこで練習も兼ねて、まずはコップや皿なんかを陶器で作ろうと思う。


 この森の土が陶芸に適した土かどうか分からない。

 魔法で成分調整とか出来れば適しているかどうかなんて関係無いかもしれないが、そんな魔法は使えないし、あるかどうかさえ知らない。何より陶芸に適した土の成分というのが分からない。

 とはいえ、それは日本で陶芸をする場合に役に立つかも知れない知識や技術だ。

 ここは日本とはまるで環境が違い、魔力というファンタジーな力学が働いている世界である。

 普通の陶芸の知識が役に立つかどうかも分からないと言うなら、いっそ常識は捨ててしまってもいいかも知れない。

 素人がどこまで出来るか分からないが、思いっきり魔力に頼らせてもらおう。


 森の中からなんとなく勘でポイントを決め、そこの土を堀り、粘土っぽい土を手に入れた。

 その土をこれでもかと魔力で捏ねくり回す。

 菊練りでもしようかと考えたが魔力を使ったほうが早いので止めた。

 皿とコップの形に造形していく。それぞれ10個。

 造形と同時に圧縮もかけて空気も可能な限り抜いている。

 そして水分を飛ばす魔法を使って強制的に乾燥。

 あまり変化がない。圧縮したことによって水分もかなり抜けていたようだ。

 強引に乾燥させたこの時点で割れるかと思ったが、そうはならなかったので一安心だ。


 あとは焼成だ。素焼きと本焼きが待っている。

 釉薬を用意して使おうか迷ったが、うまく焼成出来るかどうか実験のようなものだから今は必要ない、というより釉薬の材料もないし。

 それに陶芸本来の手順を踏んでいないので、どうなるか全く予想できない。

 焼く前の今の状態にしても魔力を込めた圧縮と強制乾燥した結果、既に見た目がオレの知ってる完成前の陶器とはかなり違う。土とは思えないほど硬くテッカテカになっているのだ。


 焼成の目的が水分の除去のみならこれで完成でいいかもしれないが、確か土のガラス成分を結合させて焼き締めるのが目的だったはずで、この状態でその変化が起きているか分からない。

 なので一応は熱してみる。


 内部の成分変化が目的なら火を使う必要はないだろう。

 直接陶器の温度を上げてしまえ。


 試しに皿一個だけを焼く。

 石の上に置いて、魔力を流し温度を上昇させる。

 せっかく作ったので出来れば割りたくないが、これも実験と割り切って一気に上昇。

 徐々に地肌の色が変わり白みを帯びてくる。

 そこで温度上昇をやめ、しばらくその状態を保ち様子を見る。

 なんの変化も見られなくなって数分後、そろそろいいかと熱するのをやめる。


「ここまではうまくいってるけど、どうなんだコレ」


 出来上がったモノの完成度が今の時点では判断できず、考えていたことがそのまま口に出る。

 隣でじっと見ていたラキは「クゥン?」と首を傾げてオレと一緒に皿を見つめている。


「自由時間が欲しいと言っていたが、やりたい事とはそれか。えらく迂遠な事をしておるな」


 熱した皿が冷めるのを待っていたらイグニスがそんな事を言ってきた。

 さっきまで丸まって魔力を動かしてたから、また漫画でも読んでいたのかも知れないが、オレがちまちまと何かやっているので気になったようだ。


「言ったろ、トイレ作るって。それで今、試作の試作で造ったヤツの第一号が完成したから出来栄えを確かめるために冷めるの待ってたんだよ」


 言いながら触れるかどうか確認する。触れるくらいには冷めたようだ。

 窯全体が冷えるまで待たなくて良い分、楽でいいな。


「おお、なかなかうまく出来た! 素人が作ったにしては上出来。で、迂遠って?」


 爪で弾くとキンッといい音がする。面倒なので本焼きで一気に焼いてしまったが問題ないようだ。

 結構適当に作ったのに予想以上の出来だ。ファンタジーバンザイ。


「直接作ってしまえば良かろうに何故別の物を作る?」


「それなりにいい物が作りたいからなあ。やっぱりトイレは快適で落ち着ける空間がいい」


 尻繋がりって訳じゃないけどトイレにもそれなりに拘りはある。


「聞きたいのはそこではないが」


「ん? 食器も欲しかったし練習も兼ねて、だな。オレみたいな素人でも十分な強度のヤツが作れるかも不安だったし」


「ならば金属で作ってしまえばよかろう。そのほうが丈夫なものが作れるのではないか?」


「食器類に関して言えば金属の無機質な感じより、こっちのほうが趣きがあってよくないか? オレは好きなんだけど」


 オレに技術があれば漆器類だって作ってみたいと思うくらい、こういった工芸品は好きだし親しみを感じてる。

 いま完成したものはツヤツヤで、見ようによっては金属に見えなくもないんだけど。

 

「まあ、陶器製以外は便器とは認めないけど!」


「そこはどうでもよい」


 なんでだ。


「それに金属を使いたくても、その金属がないんじゃな。ここって金属なんて手に入るのか?」


「鉱床というわけではないが、それなりの埋蔵量ではあるの」


「でもどうやって手に入れんの? 掘るの?」


「それこそ迂遠じゃ。抽出ピックアップという魔法を使えば、どんな鉱物でも思いのまま、とまではいかんが使い勝手はよいぞ」


「あ、やっぱりそういうのあるんだな」


 物質ごとに干渉できるなら、そういった事も出来そうだとは思ってたけど予想通りだった。

 それにしても、便器を作るっていう話からいつの間にか鉱夫にジョブチェンジみたいな事になってる。

 どうやって地中や岩石中の鉱物を探し出すのか。

 そして単一物質としてどう取り出すのか。


「まずは実物を見て、その物質の特徴を魔力の側面から把握することからじゃな。木と土では魔力を通した時に違いがあるのは分かっておろう? その違いから物質を特定するのじゃ」


 その説明と同時に地面に魔力を流し始めた。

 波紋のように広がるそれは、直径はゆうに100メートルを超え地中奥深くまで浸透していく。

 これは魔力を使ったビーコンってとこか?


「――この辺りでよいか」


 何に対して言ったのか一瞬理解に迷うセリフと同時に魔力の波動が変化する。

 間を置かず微細な振動が足元から伝わる。

 

「おいおいおい……」


 背景画にゴゴゴッという効果音が着かないのが不思議なほどの大きさの岩が土を押しのけて現れた。

 高さが5メートル程に達してもまだ全体が現れない。

 先っちょだけ出てきたような感じだ。


「この中には何種類かの鉱物が含まれておる。練習には丁度良いじゃろう」


「もうちょっと手ごろな大きさのヤツはなかったのか……。それに、こんなデカい物どうやってここまで動かしたんだ?」


 オレの疑問に答えた内容としては、それほど複雑な事はしていないという。

 原理としては液状化現象と近いものを利用して巨岩を浮上させたらしい。

 岩の周囲の物質を振動させ摩擦を減らし、魔力を使って動かした土によって持ち上げる。

 振動、移動、圧縮、硬化を魔力で作用させながら自重によって沈む岩を支えつつ、というなかなか面倒な方法のようだ。もちろん岩自体も魔力で引っ張りながら。

 使用する魔力量で対象の大きさや距離は変わってくるとか。

 限定された環境下でなら有効だとは思うけど使い所に困る魔法だよな。


「基本的に抽出ピックアップは魔力を浸透させられる範囲で使うのが望ましい。距離が近いほうが少量の魔力で純度の高いものが抽出できる。といっても効率と精度を無視すれば、その限りではないがの」


 目の前にある岩山と言っていいほどの岩に向かって何やら魔力を流し始めた。

 しばらくするとイグニスの手元近くの土の上に小石程の大きさの塊が数種類並ぶ。

 黒、褐色、緑銅色、銀、そして、どこからどう見ても金色をした塊。まさか本物の金がこんなに簡単に抽出できるのか?ああ、真鍮の可能性もあるのか。

 あとは赤みを帯びた銀色をした塊もある。


「ミスリル銀、火緋色金ヒヒイロカネ、クロリアス鋼、オリハルコン、アダマンタイト、スタッドクロム――硬くて丈夫な金属というと、こんな所かのう」


「ひとつもオレの理解できる金属がねえ……」


 いや、空想上という条件が付くなら聞いたことのある金属もあるけど……。

 銀の塊がミスリル銀。ほぼイメージ通りで分かり易い。

 金色の金属がオリハルコン。

 精神感応力を備えた鉱物。純金かと思ったらそうじゃなかった。

 黒、というか漆黒の金属がアダマンタイト。

 黒と表現したが、そこだけ空間に黒い穴が空いてるように見える。光を全く反射しないので、こんな風に見えるんだとか。

 赤みを帯びた銀が火緋色金。

 表面が揺らいで見えるのは表面に接触している空気の層の密度がバラバラで陽炎のように揺れているからだという。

 褐色をしたのがクロリアス鋼。

 パッと見、錆びてるようにしか見えなかったが、これが地金の色らしい。このあたりから聞いたことのない金属だ。

 緑銅色がスタッドクロム。

 キラキラとした光の粉を散りばめたような緑色をした鉱物。

 どれもとにかく硬い。そして精製に魔力が不可欠で、それぞれ特徴的なな魔力特性をもっているようで魔性金属とも呼ばれているらしい。

 とりあえず今は魔力特性のほうは横に置いて、物質のもつ固有パターンというやつを把握する事にしようか。

 

「確かに違いがあるな。見た目や感触以上に違いがはっきりしてる」


 手に持って魔力を流してみたが、その違いに驚く。

 視覚や触覚で受ける感覚の違いより明確な差異を魔力では感じる。

 なんとも表現し辛い感覚だが、これで固有パターンというものがどんな物かは理解できた。


「その物質固有のパターンを覚えれば探査も容易い」


 この探査の魔法、本来の使い道は鉱山での採掘ポイントの特定などだろう。

 鉱石の分布調査をして坑道の進路決定の際に重宝しそうな魔法だ。


「薄く広く魔力を浸透させて調べればいいんだな」


 岩山に向かって魔力を流すと確かに何かがあるのが分かる。

 今しがた確認したばかりの金属の固有波とでも言うべきものが魔力を介して伝わってきた。

 ここまでやって肝心な事に気が付いた。


「どうすればいい?」


 固有パターンを捕らえた後の行動を聞いてなかった。


「変な固定観念に囚われてはおらぬか? 空気中や衣類から水分を集めるのとそう変わらぬイメージで出来るはずだがの」


「え、固体と液体で同じ真似が出来るとは思えないんだけど……」


「問題ない。この六つの金属は特に魔力との親和性が高い。故に、それ以外の金属では不可能なことが行える。だからこその魔性金属、とも言える」


「それでこの六種類だったわけか」


 それを聞いて何かつかえが取れたような気がしたと思った途端に対象にしたものが集まってくる気配が生じた。慌てて掌の上、数十センチでそれを塊にするイメージを加えると、ピンポン玉程の大きさの緑色をしたキラキラの塊が現れ徐々に拳大の大きさまで育つ。 

 印象の強かったスタッドクロムが抽出ピックアップによって採掘? 出来たようだ。


「ふぅ……何とかなったな。気になる事と言えば、えらく魔力を消費したって事くらいか」


「そうじゃな、大抵は液体や植物からの成分抽出に使われるもので、それほど魔力は要求されん。所謂、錬金術系の魔法技術じゃ。しかし金属を集めようとすれば魔力消費も増える。」


 抽出ピックアップの仕様を聞いて成分ごとに魔力要求量が変わるのは魔法の性質上ありそうな事だと納得した。

 他の金属も同じ様に抽出してみたが、どれも結構な魔力を消費した。


 このまま武器や鎧の形にして使ってもその辺の一般的な鉄や鋼などよりは上のものが出来上がるが、やはり正規の手順を踏んで仕上げなければ性能を発揮できない。

 火を入れるのは当然として、特殊な触媒を使ったり、手間のかかる処理工程など、ちょっと普通の金属加工ではしないような事をしないと特性が無駄になってしまう。

 逆に、それさえやってしまえばかなりエグイ性能の武器防具が作成可能だという。


 しかし、実際の所オレには神樹製の武器があるので武器の素材として使うかは微妙だ。

 防具としての使い道はどうかというと、異相結界があるためそれも微妙。

 いい使用法のアイデアが無い訳じゃないが、それもあくまで補助的なもので、職人の手を借りなければ作れないだろうから今は無理だ。


 結局、魔法の訓練という意味でしか、今は使い所がない魔法だ。


「いずれ街に出た時にでも換金すれば良かろう。素材として全く売れないという事はないはずじゃ」


 確かに一文無しでこの世界に来たオレとしては金目のものがあるのは助かる。

 考えていたのはファンタジー系では定番の、魔獣系の素材をなんとかして手に入れて、それを売って凌げないか、という方法。

 収入を得る手段が複数あるのは何かと心強い。


「じゃあ、慣れるついでに集めておくか」


 素材の確保と、ある程度探査と抽出ピックアップに慣れるまで同じ作業を続けることにした。






 ~~~~






 不確かではあるが換金物資になりそうなものを手に入れたので、本来の目的に戻る。

 皿を数枚と茶碗、どんぶり、コップ、というか湯のみだなコレは。それぞれ幾つか製作して、ついでに土鍋や手鍋も作った。

 慣れればある程度の量産は可能になった。


 今日はここでタイムアップ。

 夕食の時間になり、武術鍛錬と新たに日課に加わった刀の砥ぎ。

 明日の予定を申告して、多少の雑談でその日は終える。


 余談だが、ここの所雑談内容がイグニスの読んだ漫画や小説の感想の比率が高くなっている。

 どうも、常識が違う世界の空想物語が面白いらしい。

 一種のカルチャーショックみたいなものだろうか?

 魔力のない世界の人間の発想が新鮮に感じるようで、その事について色々とオレに感想を聞いてくるのだ。

 中でも何故か異様にドラ○もんに対して食いつきが良かったのはちょっと意外だった。


「ポケットから出すもので願いを叶えるというのは、この世界では限定的なものなら実現可能だが、その内容が愉快でのう。世界をひっくり返せそうな道具を、身近な事でしか使わないのが何とも印象深くての」


 確かに使いようによってはかなり危ない道具が出てくるよなアレ。

 機能がかぶってる道具もあるが、大体がとんでも性能だ。

 その辺のギャップが楽しいのかな?

 今のオレにとってはイグニスがドラ○もんの立場に近いんだけど、そこは言わないでおこう。

 オレのほうは、のび○くんとは全く違う扱いを受けてるからな。

 ドSのドラ○もんってちょっとヤだなあ……。


 それはそれとして実現可能って部分にひっかかるんだけど。


「なあ、実現可能って、例えば何が可能なんだ?」


「四次○ポケットじゃな。あれならこちらの技術で再現可能じゃ」


「マジで!?」


「うむ。魔法箱マジックボックス魔法袋マジックバック無限収納エンドレッサー、形状や用途によって呼び名が変わるが、機能としては同じものがこの世界には存在する」


 定番中の定番きた!


「それ欲しいんだけど、どこで手に入る? やっぱり高いのか?」


「そこそこ大きな街に行けば手に入るのではないか? それなりの値はするじゃろうが」


「究極の便利グッズだからなあ、安いわけないか」


「買うならば高いが、作ってしまえば関係なかろう」


「イグニス作れんの?」


 さすがドラ○もん!


「おぬしが作るに決まっておろう」


「決定事項?」


「魔法で実現可能なのじゃから、当然覚えるべきだとは思うがの」


「うっ……それを言われると反論できないな……。だけどオレでも作れるのか?」


「魔方陣を使えば簡単に作れるが、この話は明日以降じゃな今日はもう遅い」


 そう言って話を切り上げ就寝することにした。

 これで物資の運搬は問題なくなった。ここで色々作っても持ち出せない物のほうが多いだろうなと半ば諦めていたが、その心配がなくなった。ヒャッホー!

 ファンタジーの定番に若干興奮してなかなか寝付けなかったのは、自分でも意外だった。


 次の日、多少の手加減を覚えたラキの頭突きならぬ鼻突きで起こされ、行動を開始する。

 この日から模擬戦が復活。ラキの速度に徐々にだが追いついてきた感がある。

 攻撃のほうは相変わらずかすりもしないのが悔しいが。


 そして昨日の無限収納エンドレッサーの話の続きを聞く前に、まず作らなければならないものがある。

 陶器製便器だ。

 既にイメージは固まっているので後は作って焼くだけ。

 新作のお菓子を作るみたいなノリだけど、オレの尻事情を解決するために優先度は高い。


 形を作り上げ、表面をこれでもかとツルツルに仕上げる。

 他の陶器でも実験したが、色素を抜いて焼成した時点でクリーム色に仕上がるように調整。

 モノが大きくなったので焼きの時間を長めに予定して開始。


「完成した……」


 失敗することなく完成したそれ。

 形としては水を貯めるタイプではなくそのまま下の穴に落ちるタイプだ。

 この環境で完全な水洗は無理なので貯水タンクもなく、一番単純な構造にした。

 陶器が思いのほか頑丈なので便座も陶器で作ってしまったが問題なさそうだ。

 フタはなくU字の便座は開閉式ではなく貯水タンクが無い事を生かした前後のスライド式。

 こうして見ると感無量だ。


 後は建物を建ててと穴を掘ってトイレの完成だ。

 直径30センチ深さ2メートルほどの穴を魔力で土を動かし掘り、1.5メートル四方の四隅に2メートル半程の木の枝をぶっ刺す。3方を縦木と横木で格子状に組み土壁を作る。

 その土壁を軽く圧縮と乾燥をさせて、ついでに床も圧縮と乾燥でタイル並みに仕上げてある。

 便座に座って正面にくる面は、枝の格子を密に組んで扉に。

 屋根は今の所は必要性を感じないので作らない。


「――やっと全部完成したぜ」


 広場から少し森に入った所に完成したトイレ。

 便座に座ったり、扉を開閉したりして不具合がないか確かめながら実感を口にする。

 これでいつでもオッケーだ、バッチコイ!


「ひとまず目的は達成したようじゃな」


「ああ、これでいつでも腹を壊せる」


「前提が間違っておるな」


「不安材料が減っただけでも随分違うから」


 この手の法則で、完成した途端に催して、ギリギリだったぜ! ってイベントがあるかと思ったけど、全くその気配すらなかったのでスカされた感がハンパない。


 当初の目的を達成してちょっと満足したがここで終わりじゃない。

 お次は無限収納エンドレッサーだ。

 ゲーム、小説とファンタジーで良く目にするアイテムに正直テンションがあがる。


 簡単に作れると言っていたが材料とか見当がつかないが何を使って作るんだろうか。

 魔方陣を利用するというなら材料はなんでも良くて、今ある背負い袋を流用とか?


「神樹の根を使って作るのが確実じゃ。まずは根を分けてもらう事からじゃな」


 また神樹が使えるのか。これだけ色々できるとオレの中で神樹万能説が定着しつつあるな。

 ラキに手伝ってもらって直径10センチ程の神樹の根を何本か貰ってきた。

 今回も直接神樹に触って欲しい部位を念じると土の中から何本かモコモコと出てきた根がパキッと折れて地面に転がった。地中を這い回る大蛇のような何とも言えない動きで少し気持ち悪かった。


 持ち帰って、これをどうするのかイグニスに尋ねると。


「十分に魔力を浸透させた水に一晩漬けてから煮て、繊維状にほぐして布にするのじゃ」


「簡単に言うけど、布にするってすげえ大変だと思う……」


「そこは常識を捨てるべきじゃな」


「?」


「明日のお楽しみじゃ」


 ふむ、そういうことなら楽しみにしておこうか。

 その後簡単な魔法の講義を受けてその日は一日が終わった。

 ラキには手伝ってもらった御礼に、作った櫛でブラッシングをしてあげたら、鼻を鳴らして喜んでいた。





 完成したトイレだが、この二日後に活躍することになる。

 別に腹を壊した訳じゃない。キャスロを食べない日が何日か続いたので門番が通行許可を出したようだ。

 閉門後の処理は水魔法を洗浄便座の代わりにすれば何ら問題はなかった。

 一つだけ問題があるとすれば……


「なんかすごい事になってんだけど……」


「まるっきり成長促進肥料じゃな」


 そう、トイレの周りの樹木がえらい勢いで成長したのだ。

 ちょっと怖くなる位に。

 あっという間に分解され栄養として吸収されたようだ。

 このまま使い続けて大丈夫なのか……?



 オレのウ○コすげえ、てか危ねえ。

 


こんなオチで申し訳ない(´・ω・`)

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