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第百十八話 勧誘はタイミングが大事



「これってさ、もしかしなくてもエサ漁りに来てる?」


「どうだろ? 人間の群れをどう認識してるか聞いてみない事にはねえ」


「わふ?」


 オレとラキとリナリーとサイールー。

 そしてグリフォンたち。

 ただいま大空でワイバーンの群れと、今まさに戦闘に突入しようかというタイミングである。

 

 いやしかし、なんでこんな事になってんの?

 ま、やる事は決まってるんだけど。





 ~~~~





 初等科の教師たちが気合で大人の矜持を生徒たちに披露しているのを視界の片隅に捉えつつ、高等科の一団が、順調に準備を進めているのを眺める。

 

 昨日の夜、ラグは生徒たちの所へは戻らずにデッキチェアで朝まで睡眠を取る形になった。

 生徒たちは交代で火の番と見張りの真似事。そのせいか、それともそのおかげか。ラグが女と二人で居ても変な眼で見られる様子はなかった。視線を遮っているといっても、角度によってはどちらか一方は必ず誰かの眼に触れるから、男女間でのあれそれなど噂になりようがないわけだ。

 

 念を押すけどオレ男ね。

 

「護衛官をしている謎の生き物、と思われているのかもな」


「そんな思考停止させるような事してねえはずだけどなあ」


 せいぜい女の外見で男の振舞いをして歌劇役者っぽいくらいじゃないか?

 護衛官なんて強くてなんぼなんだから、強さに関しては問題ない。教官たちに、教える側に回る気はないかと何度か聞かれた事はあるが、そこは剣術がもの珍しいとか、そんな所だろう。


 ちょっと空飛んだりもするけど、誰も真似出来ないってワケじゃない。

 あとは使い魔に偽装したラキたちの行動がちょっと目に付く程度。

 

 ……あれ、思ったよりおかしいか? いやいや大丈夫だろ。

 とはいえ他の護衛官なんて裏方に徹していてホントに目立たないからな……

 オレがほとんど顔を合わせた事がないのも、そう認識する理由として大きいと思う。なんせ、あまり宿舎に居ないからな、どっちも。

 オレなんか寝る時も窓から出入りしたりするし。いずれにしても結構変わった人が多いって話だ。


 あと初等科と兼任だと、高等科にはあまり足が向かないというのもあるか。


「正直助かったがな」


 一般生徒と長時間行動を共にするってのもラグにとっては、それなりにストレスなんだろう。

 高圧的な物言いを嫌う性格なのも一因かもしれない。

 やや自嘲気味な表情が複雑な心境を物語っている。と勝手に想像してみるが実際はどうかね。


 ま、短い付き合いだけど自分なりに折り合いをつけているのも分かるし、あまりオレが気にし過ぎるのも余計な事かもな。

 と思ったら。


「変人の隣にいると目立たなくて済むのがいい」


「ラグには類は友を呼ぶって言葉を贈ろう」


「木を隠すなら森の中じゃなくて?」


「リナリー、微妙に当たってそうだけど、ちょっと違う。それだとオレが変人の親玉って事になる」


「何も間違ってないようだ」


「あれえ?」


 上手い事言おうとして失敗した。せいぜいが同類は引き寄せ合う程度のつもりで言ったのに。

 オレだって自分が普通とは違う事くらいは自覚している。

 しかし、そこまで前面に出しているつもりはなかったんだけどなあ。これじゃあ見る者全ての視界をオレの存在が覆い尽くしてるみたいじゃないか。前面というか全面?


 いやさ、それを上手く隠れ蓑にしてるんだから、もうちょっとこう、言い方ってものがさ?


「くくっ、正直、助かってる」


 さっきと同じセリフなのに、全然違って聞こえるなー。

 

 と、そんな事をうだうだとやってるうちに出発の時間が迫る。

 周囲の生徒たちはテント等も片付けが終わり、粗方準備が整ったようである。

 そんな中でまだオレのテントは広げっ放し。


「さて、そろそろかね」


 言って野営設備をまとめて無限収納エンドレッサーに回収。

 ギリギリまでのんびり出来るのがいいなあ。


「同じ仕様のはずなのに、その一度に全てを回収するのだけは未だに真似出来ないんですよね」


 後ろから聞こえた声はシュティーナのものだ。

 正確に対象を魔力で覆う事と、認識を一致させるのが難しいのだと言外に訴える。

 練習あるのみだぞ。


「シュティーナ様の反応もおかしいんですけどね」


「えっ、あ……」


 エレインの声にシュティーナが振り返ると、視線がこの場に集中している事に気づいたらしい。

 たまたまオレの事が視界に入っていた高等科の生徒たちが動きを止め、こちらを凝視していた。

 いや、初等科の生徒と教官もか。

 

「そういう細かい事が積み重なって今に至るわけだ」


「むぅ」


 ラグの言葉に思わず反論にならない声が漏れる。

 一気に回収というのは、あまり一般的じゃなかったらしい。

 どうも未だに小さなズレが把握しきれていない。うーん、いちいち注目を浴びるのも不都合がないとはいえ、この先、思いもしない場面で支障が出ないとも限らない。

 

「何か対策を考えるべきか……?」


 オレだけの事なら余裕で捨て置くんだけど――


 ――ダメだ、面倒くせえ。


「ま、いいか!」


『あっ、もう諦めた』


 エレイン嬢のグループ皆の声が綺麗にハモった。

 諦めたわけじゃないよ。見て見ぬフリをするだけだよ。





 ~~~~





 中継地点を出発して数時間。

 『行軍演習の真似事』というくらいだから、ちらほらと戦闘らしきものの気配が伝わってくるようになった。

 最後尾からでも何が起きているか分かる程には、そこそこの頻度で。


 上手い事調整してる。付かず離れずの絶妙な距離、それでいて気付かれない距離。その距離で学園生の周囲に展開している第七騎士団の皆さんの手際に感心する。


 いち早く察知して間引いているんだろうけど、ホント上手いわ。

 

「ちょっと挨拶にでも行ってこうようかね」


「? ――ああ、第七か。確か爺も来ているという話だったな。いや今はリアのいる中継地点か」


「そそ」


 暫定中等科課程の生徒は中継地点に残り初等科と同様に採取の実習の予定となっている。当然ながらリアはそれへ参加という訳だ。そしてレックナートさんもその護衛として中継地点に残留。リアにはその事を言っていないので、それを明かすかどうかは状況次第だろうか。


 相変わらず最後尾でオレの近くにいるラグ。リアとレックナートさんが居るであろう中継地のある方角へ視線を巡らせて確認のように呟いた。

 昨日とは違い、現在ラグはジューラに乗って移動中。

 中継地点までは騎獣車を曳いていたジューラだったが、湖まではラグの乗騎として本来の役割に戻っている。

 オレの近くに来たらすぐに魔力を要求されたのは、まあ仕方ないか。

 ラキが言うには「グリフォンたちばっかりズルい」という事らしい。


「って事で様子を見てくる」


「ああ」


 ラグの返事を背中に、オレとラキ、そして妖精ふたりが偽装するフクロウは森の奥へと向かう。

 森林結界を更に広範囲へと広げ、魔力反応を探る。


 居た居た。木々の頭を飛び越え異相結界による空中走行とバーニアの組み合わせ移動法で目的地の上空までは、あっという間だ。


「任務お疲れ様です」


「うきゃぁっ! ビ、ビックリしたぁ!」


 全員で気付かれないように上空からスーッと背後から近づいてみたら思いの外驚かれた。

 意外と言っては失礼だけどコッフェリさんって予想外に可愛いリアクションですな。

 この場にいるのは二人だけのようだ。やや離れた場所に団員が数名固まって移動している。


「……イズミさんだったの。 って、どうしたの? 何か問題でもあった?」


 言いながら即座にラキに近寄ってくるとか相変わらずブレないな、この人。

 ラキは今回は抱かせないつもりのようで、一定の距離をじりじりと保ちつつ、からかって遊んでいる。


「いえ、その基準が分からないので聞きにきたんです。散発的な戦闘はいいんですけど、その頻度が想定内なのか、どうなのか」


 オレが口にした疑問に顔を見合わせたコッフェリさんとシェナンさん。

 顎に手を添えてシェナンさんが一瞬だけ何かを考えるような仕草。


「なるほど。間引きが例年と違いがあるのか、それを知りたいと」


「ええ、教官の方たちの反応からは、生徒に流れる数や質は例年通りといった印象です。ですが第七騎士団の負担の度合いによっては話が違ってくるのかなと」


「……そうですね。持ち回りの前回と、担当外だった年の報告から比較すると、若干ですが多いかもしれません。しかし誤差の範囲でしょう。――今のところは」


「何か懸念が……?」


「気のせい、ならいいのですが。森の様子が前回と僅かに違うような、小さな違和感とでもいいましょうか……魔力の流れみたいなものが違うように感じるのです」


 確信には至らないが近い表現だと、湿度に違いがあるのでは? といった風にコッフェリさんもシェナンさんも差異を感じているらしい。


 魔力の流れ、か。

 オレはこの辺りの森の正常を知らないので今は何とも言えない。

 魔力に敏感で、ここの正常も知ってそうな人間――あっ。


「三人娘は来てますか?」


 ラキとの触れ合いを諦めきれない様子のコッフェリさんに尋ねる


「単位を盾に駆り出したわ。跳び抜けて索敵範囲が広いみたいだから、そこを見込んで、という感じかな」


 何気に酷い取引のような気もするが、実務で単位が貰えるのはお得かも。

 森林結界の検知対象に三人娘の詳細検知を追加すると、さほど離れていない場所がヒットした。

 おや、違う魔力反応が重なってる。


「――なるほど。ジューラも込みだったわけですね」


「ここから分かるの……?」


「まあ、この距離なら」


 本当に? と目を見開くコッフェリさんとシェナンさんの様子から、どうやらそれ程離れてないと思ったのはオレだけらしい。一キロ程の距離なんだけどねえ。


「……ちなみにイズミさんの索敵範囲はどの程度なの……?」


「約5千ですかね」


『えっ?』


 目が点になってる。この人たちもこんな表情するんだな。そこまで予想外?

 今現在は直系で約5キロ程を森林結界でカバーしてる。


「という事で、ちょっと三人にも様子を聞いてきますね」


 と言い残して、その場を離れた。

 二人が遠い目をしてたのは気のせいじゃないよな。





 ~~~~





「お元気?」


『ひゃあああっ!?』


 リアクションでかいな。三倍だからかな?

 真っ先に立ち直ったのはサリス。


「ど、どどど、何処から生えたんですか!」


「ムダ毛みたいに言うな」


 異相結界の空中異動で背後へ上空から忍び寄ってみた。

 さっきといい、この登場の仕方って意外とビックリするのね。


『ムダ毛……』


 あー……生えてない事気にしてる?


「除草剤いらずでお手入れ簡単。優雅な、お庭が貴方のお屋敷にも!」


「私たちの股間は貴族の庭園ですか!?」


「高貴な股間とな」


『ぶふぅッ!!』


 ハイグレードなアソコみたいな意味にも聞こえるけど、実際どうなん? 殴られそうだな。

 何度でも言うが、オレはボーボーでもつるつるでも、どっちもいける派だ。


「君らのお貴族な股の話は、この際置いておくとして、だ」


「ふっっんぐ……待って、畳み掛けるのは卑怯……」


「第七騎士団の様子を見にきたんですか?」


「生まれた時から地位と権力が約束された股間……?」


 そんな股間は怖すぎるわ。どんな約束だよ。

 一人だけ帰ってこないなあ。目を覚ませタリス。


「いや何、ちょっと聞きたい事があってな」


「わざわざ、そのために?」


 立ち直ったサリスが言ってるのは共鳴晶石ユニゾン・クォーツを使えばという事だろう。

 だが現地を見て確認したいというのもあった。


「この森の状態がいつも通りなのか、どうなのか」


「……タリスが妙だと感じていたものの正体に心当たりが……?」


「それはまだだ。正常が分からない事にはなんとも。だから魔力に敏感なタリスを当てにして、ここに来たってワケ」


「そうか……イズミさんが異常だと判断するような状況なんて、もはや手遅れの可能性のほうが高いんだった……」


「納得の仕方に納得いかないが、まあそう言う事だな。でだ、タリス。具体的に何をどう違和感に思ったか聞いてもいいか?」


「そう、ですね……魔力の流れ、みたいなものが発生してるように時々感じました」


「それは同じ場所で断続的に?」


「あっ、そうか。移動しながらだと、それが特定できないのか……いえっ! でもおそらく、場所によってだと思います」


「根拠は?」


「勘です!」


 勘かよッ! と突っこみたいがタリスの場合、無意識の領域からの干渉で、そういう思考の流れになったのかもしれない。

 上手く説明出来ないだけで魔力を鋭敏に察知する能力が、場所と時間のどちらに要因があるのかを明確に感じている可能性が高い。


 本人にしてみれば勘としか言いようのない感覚だろうが、しかし信憑性は高い。


「んー……だとすると――」


「あれ? 信じるんですか……?」


「なんだタリス、疑って欲しいのか?」


「そういう訳じゃないんですけど……」


 他の二人もタリスの言葉を鵜呑みにしているオレが不思議に思えるらしい。


「現状、疑う根拠がオレのほうにないってのと、タリスの能力を信用してるのが大きい。あくまで能力を、だ」


「何故、強調するんですか……」


「HAHAHAッ! 冗談だ。タリスの魔力を察知する能力は自分が思う以上に細かい情報を処理してるんだよ。本人も意識出来ない部分でな。人間にはそういう能力があるって事。虫の知らせって良く言うだろ。あれもそういう能力の一種だって話だぞ」


 離れた場所で起きた事を感じ取る力。魔力によって次元の壁に何らかの干渉をした結果、人や物の状態を把握する能力。大抵は漠然とした情報なので、受信再生側の能力次第だという。

 確か未来予知の研究の副産物として判明したものだとイグニスが言っていた。


「オカルトの類の話かと思ったら急に現実的に……」


「まあ情報の確度としては大差ないけどな。それより場所によって魔力に動きがあったってのが気になる。大所帯での移動で魔力濃度に差が生まれただけか、燃費の悪いヤツが縄張りを持ったり徘徊してる可能性もなくはない、か?」


「魔力の大量消費が原因で、ですか? 確かに多数の人間が魔力を使えば濃さに違いが出るかもしれませんけど、広範囲の森に影響が出る程かというと」


「現実的じゃないわな。じゃあ大食いの生き物の線はどうだ? 居るだけで魔力を大量に周囲から引き寄せる」


「それだと普通に索敵にひっかかるかと」


「そうなるよな。仮にオレやタリスの索敵を掻い潜って魔力だけを集めてるとしたら、相当に厄介だけど」


「怖い事言わないでくださいよ……」


「ま、そっちの線はないと見ていいだろう。オレの森林結界はともかく、ラキの感覚を誤魔化せるとは思えん。となると、ある意味ではそれ以上に厄介なのが最後の候補になるけど……」


 視線を落とすと、オレの様子を見て何故か三人に困惑した空気が漂う。

 おっと、違うからな? 対処しきれる自信がないから気落ちしたとかじゃなく、ただ地面を見てるだけよ?

 もしそうなら、結果が想像できないなあって感じなだけ。


「もしかして地脈?」


『えっ……?』


 リナリーがオレの視線から推測した言葉が、三人娘には予想外だったようだ。

 

「そう、一番面倒くさそうなのがソレ。地脈の流れの変化ってどこまで影響が出るか予想が難しいからな。ちょっとした事で何でも起きる可能性があるのがイヤなんだ」


「イズミさんが嫌がる事って……かなりマズいのでは……」


「力押しが出来ないパターンもあるから手間なんだよ」


『ああ、そういう』


 なんだよ。人をごり押すだけの脳筋みたいに。

 お、どうしたラキ。木の上に何かいる?


「うぉんッ!」


「遠くから何かいっぱい来るって」


 オレが気付かなかった近場の気配に対してかと思って、ちょっと焦ったけど違ったらしい。

 遠くから? 5キロ以上離れた所って事?


「わふっ」


「向こうの空だって」


 空かー、完全に森林結界の範囲外だったなあ。

 正確には木の上空、数メートルくらいはカバーしてるけど、それを超えると正直感知が難しい。

 森の中だから空からはないだろうと高を括ってたわ。1キロ以内なら飛行型騎獣の魔力を見逃すはずがないと考えてたのも原因か。


「グリフォン? もしかして仲間を探しに来たとか。あ、でもグリフォンって主に南が生息域だっけ? とすると他の鳥系か竜系? まさか幻想種系って事はないだろうし」


「くぅ?」


「前と同じ? だって」


「前? あー、あれか。ワイバーン?」


「わふっ!」


 そう、それッ! で間違いなさそうな感じやね。 

 そうなるとだ。このまま接近を許すのは、あまり宜しくない。ラキがいっぱいって表現する時はだいたい20を超えてる。

 数えられない訳じゃないのに、どうしてか、そういう言い方をする。たぶん倒すのに必要な時間で言い分けてるんだと思う。

 すぐに片付くような感じだと、50を超えてても少ないって言うし、面倒な相手だと20前後でも、いっぱいって言うからな。

 今回の場合はワイバーンがある程度の強さという事から、いっぱいって言い方になったようだ。


「じゃあ、ちょっとお帰りいただこうかな。帰る気がないなら食材として扱わしてもらう」


「その二択になるんですね……その規模だと普通は騎士団で100人程は必要になるはずですが……」


「本来なら大騒ぎになるんだけど……」


「相手を気の毒に感じるようになるとは思いませんでした」


 サリス、マリス、タリスの順に思う事を口にしたようだが、感覚の変化に乾いた笑みが張り付いてる。

 それはそれとして、通常は小隊が複数は必要と。地上で迎え撃つ前提の話かな?

 同じ土俵なら話が違ってくるんだろうか。


 あっ、そうか。聞くより実行したほうが早い。


「ちょっと思いついた事があるから一度戻るわ。三人は、このまま任務に励んでくれ。万が一撃ち漏らしたら、その時は頼むかもしれん」


『わ、分かりました』


 お? オレがワザと撃ち漏らすとでも考えてるのかな? 何故か顔が引き攣ってるぞ。まあいいか。

 さてと、準備を済ませたら空の散歩と洒落こむとしますかね。





 ~~~~





「ただいまーっと」


「戻ったか。――何をしてる?」


「や、すぐまた出るけど、今度はグリフォンたちを連れて行こうと思ってな」


 ラキとリナリーとサイールにグリフォンたちに一緒に来るか聞いて貰った所、全員が了承。

 そこで袋に入れた魔宝石を首にぶら下げるように準備していると、ラグが不審に思ったようだ。


「何があった……?」


「どうもワイバーンが向かって来てるらしくてさ。ちょっと相手をしてくる」


「ッ……俺は同行出来んのか?」


「いや、ラグは残って欲しい。仮に何らかの思惑があって揺動だった場合、本命は間違いなくこっちになるはずだ。残った戦力は多い方がいい。あと教官やシュティーナたちと連携が取れる人間が他にいない。それと一応リアとレックナートさんにも連絡を頼む。地脈が関係してるっぽいから予想が難しい」


「地脈だと……? そういう事であれば了解した」


 残留する事と、リアへの連絡は当然と納得してくれたようだ。シスコン気味のラグに気を使ったとかいう話ではなく、地脈に干渉可能な数少ない巫女の一人だからな。


「よし、じゃあ皆いくぞー」


『クルルルッ』


 リナリーたちの先導に、大きな羽ばたきでグリフォンたちが空へと舞い上がる。それを追いオレも空へ駆け出した。

 最後尾付近の者たちが何事かと振り返っていたが、既にその視界からはオレたちの姿は消えた後だ。


「分かってるとは思うけど、その首にぶら下げてるヤツは魔石だから。魔力が足りなくなったら各自で補充するように。って出来るんだよな?」


「大丈夫みたいよ」


「もともと、この子達って胃の中に魔石を幾つか飲み込んでるんだって」


「消化の助けにもなって一石二鳥ってか」


 リナリーの返答、そしてサイールーの補足の内容に、以前に何かの動物が石を飲み込んで消化を助けると聞いたのを思い出した。恐竜だっけ? ワニもだったような。ま、それはいいや。


「純度が高いから飲み込んで平気か分からんけど、気に入ったなら後で飲み込んでいいから」


『クェッ!?』


「何その「えっ、くれるの!?」的な反応」


「大体あってる」


 あ、そうなんだ。

 ほんとに? ほんとに? とオレを見て首をくりっ、くりっと傾げて確認する仕草は猛獣とは思えないくらい愛嬌がある。

 高速移動しながら、そんな遣り取りをしているとラキが反応を見せた。


「わふっ!」


「お、見えて来たな。ここから遠距離で狙撃も出来なくはないけど……いきなり攻撃ってのもな。どうしたもんか」


「問答無用じゃないんだ?」


 物騒な。

 そんな「こんにちは! 死ね!」を頻繁にやってるみたく言うなよリナリー。

 でもまあリナリーの言う事もわかる。相手の目的によってはそれが最善って事もあるからな。


「これってさ、もしかしなくてもエサ漁りに来てる?」


「どうだろ? 人間の群れをどう認識してるか聞いてみない事にはねえ」


「わふ?」


 オレとラキとリナリーとサイールー。

 そしてグリフォンたち。

 ただいま大空でワイバーンの群れと、これからまさに戦闘に突入しようかというタイミングである。

 

 いやしかし、なんでこんな事になってんの?

 ま、やる事は決まってるんだけど。


 と、ここに来るまでは考えていた。でもその前にちょっと試したい事があるんだよな。


「交渉してみよう」


「肉体言語で? それっていつもやってる事じゃ……」


「違うっつーの。意思疎通を試してみようって話だよ」


「何か気になるの?」


「まあな」


 リナリーとサイールーは、それで何となく察してくれたようだ。

 要は通訳をやって欲しいのよ。


「ここらでいいか」


 魔力に指向性を持たせ、威圧の意思を乗せ極大で放出。


【止まれ】


『ゲギャッ!?』


 200メートル程前方で、二十羽を超えるワイバーンたちがビクリと身体を震わす。

 そして慌てふためくようにバサバサと羽ばたき、不格好なホバリング。

 最初の一手は案外とすんなりいった。


「んー、気になる事?」


 相手を止めて何が目的だとリナリーは言いたいらしい。


「大自然の掟、って程でもないか。自然界の流れに乗ってみたわけだ」


『?』


「わふ?」


 あれ、ラキも分からない?


「狩りならともかくだ。野生動物なら、まず威嚇からだろうってな。無用な争いを避けて怪我のリスクを負わない知恵だ。あとアイツらがどういう立場か知りたかった」


「立場?」


「野性の営みとして大量のエサを漁りに来ただけなのか、それとも、そこに人の意思が介在してるのか」


「そういう事。って事は立場で対応が変わるの?」


「前者なら逃げるか襲ってくるだろうな。来るもの拒まずで食材直行だ」


 会話が聞こえてるのか? 仲間同士でギャアギャア言ってるし、まだ距離があるのに食材って単語にビクッとしたぞ。


「まだ威圧が漏れてるってば。で、後者なら?」


「捌いた後のイメージが伝わったか。後者なら不信感を植え付けて勧誘する。人間に飼育されていたなら有効かもしれないだろ?」


「うーん、上手くいくかなあ?」


「ま、やるだけやってみるさ」


 ワイバーンたちに向き直ると、リナリーとサイールーは、ここからが自分達の仕事だと理解したようだ。

 さてと。


「力の差は分かったはずだ! このまま帰るなら良し、そうでないなら……ッ!」


 再度、威圧の魔力を若干弱めて放出。

 おや、帰る気配がない。かといってすぐに襲ってくる様子もない。

 人間に飼われてた可能性が高くなったな。従順なのか、方法は分からないが無理矢理に従わせてるのか。


「いいのか? このままだとお前たちは無駄死にだぞ! こうなる事が分かっててお前らの主は命令したんだ! それでもまだやるのかッ!」


「決め打ちはいいとして。証明出来ないのをいいことに、普通に嘘ついた」


 いいんだよ。方便だ、方便。

 言われた事に相当混乱してるな。威圧じゃなくても魔力に乗せれば割と伝わるのかも。

 ダメ押しにラキにも手伝ってもらおう。


「ラキ、軽く威圧してみてくれ」


「わふッ!」


 おお、更に混乱したぞ。しかし、ここまでやっても逃げないって事は無理矢理なのかね。


「帰れないなら、もうひとつの選択肢をやる! オレにつけ! 待遇は保証する! 捨て駒にする命令をするヤツなんかよりオレの仲間といたほうが幸せだぞ!」


「あ、なんか迷ってる。でもなんか変。意識が戦いから離れてない」


「確かめるか。――ついて来い!」


 ワイバーンたちにそう言い放ち、グリフォンたちを伴って森へと降下。地面に降り立つと同時にレーザーブレスで周囲の木々を切り倒す。素早く無限収納エンドレッサーに入れて開けた空間を確保した。

 切り株が残ってるが、急造ならこんなもんだろう。

 作業を終えるまで律儀に上空でホバリングしていたワイバーンたちが地上に降りてきた。


「既にイズミの命令に従ってるよねえ」


「でもやっぱり戦わなきゃって思ってるから混乱してるね」


 サイールーが言う様にワイバーンたちは「どうしよう、どうしよう」みたいに落ち着かない様子。


「調べるから、ちょっと落ち着け」


 少しは冷静になれたか? さて、何かあるんかな?





 ~~~~





「これ見た事あるね。里の本に書いてあったと思う。意識の向く方向を単純化させる魔法陣」


「単純化?」


「命令が催眠のように作用する、だったかな。人間たちに伝わってるとは思わなかったわね」


 サイールーが言うには野性の生き物、特に成体にはあまり効き目のない魔法らしい。

 幼体の時から使用して、ようやくといった感じだと。

 彼らの背中の大きめの鱗に描かれた魔法陣を見て、そう語った。

 であれば、これで人に世話をされていた事がほぼ確定したわけだ。


「命令する時にも対になる魔法陣を介して命令してるはずだから、消さないと混乱は解消されないと思うわよ?」


「じゃあ消そう」


「まあ、こんな方法で寝返らすなんて誰も考えないだろうしねー。せいぜい特殊な塗料使ってる程度みたいね」


 というわけで全てのワイバーンの魔法陣を機能不全にしてみた。

 回路の一部を消しただけで事足りたので楽でいい。

 では続きといこう。


「いや、実際の所、君らの待遇は今よりよくなるはずだぞ。無茶な命令はさせないように上の者に言っておくし、こっちは飛竜の数が少ないから大事にされるだろう」


『グァッ!』


「選択肢がないッス! だって」


「逆らう気が起きないみたい。二人が強烈な威圧したから」


「わふっ?」


 オレたちのせいらしいぞラキ。


「そんなにチョロくていいのか」


 何故かグリフォンたちも「クルルルゥ」と逆らう気がないという部分に同意しているようであるが。

 なんで? 君らは脅してないよね?

 ん? 共鳴晶石ユニゾン・クォーツから反応。


『イズミ、異変だ』


「ラグ、どうした?」


『アンデッドだ』


 わおっ、ファンタジーに欠かせない単語が出たぞ。

 いや、そんな事言ってる場合じゃない。


「見に行かねば」


「普通そうはならない」


 そう? まあ、とにかく戻らないとな。





遅くなりました(-_-;)


執筆の時間が確保出来なかったのと

先の展開が決まらず、迷ってるうちに時間が過ぎてしまいました



ブクマが減って、ちょっとショボンです(´・ω・`)

前話を所々、微修正しています



ショボンとしていますが、ブクマ、評価、感謝です!



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