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第百十六話 やってきました野外演習 準備


 野外演習に向けてカリキュラムの内容が、どのクラスでも変化している。

 要するに行軍と野営の予習復習や予行演習などにだ。


 予定としては三泊四日で野外演習が行われる。

 目的地は深魔森林帯の外延部に位置する王都から北西にあるカルナンの湖。

 それだけを聞いたら、なんて事はない、ちょっと物騒な遠足程度で軍事訓練の簡易版かなと思うが。

 実はそれだけではなく、初等科の学園生も一緒に行くのだ。といっても初等科の高学年に限定されてはいるが。つまりは上から二学年、セヴィも含まれる。


 総勢300余りの大所帯。護衛官も含めればもっとか。

 そりゃあ密かに騎士団が護衛するわけだ。

 初等科の生徒のほうの帯同する理由は、様々なものを実際に見る課外授業的な意味合いが強い。

 地理、植生、野生生物を肌で感じ知る機会、というのが名目である。

 実際は遠足のノリに近いが集団で行動する意味や難しさ、その入り口を経験させる事が目的であるようだ。


 高等科のほうはと言えば、その護衛といった色が強い。

 十数台の騎獣車の護衛と騎獣の実際の運用を実地で学ばせる。基本は徒歩だが、騎獣と騎獣車での移動のローテーション。

 皆が皆、騎獣の扱いに長けているワケじゃないから可能な限り交代で。騎士団のようにはいかない。そこまで予算も潤沢じゃないだろうし。


 その上で移動中は周囲の警戒と対処をする事になる。

 色々と詰め込み過ぎじゃないかと思わなくもないが、そういうものらしい。


「で、イズミは何でここでお茶飲んでるの?」


 訓練場の隅にテーブルセット出して野営の予行演習を眺めてるオレに、リナリーがポップコーンをついばみながら問いかける。


「いや面白くないか? こういうの見てるのって。レクリエーションっぽい」


「んー? キャンプとかバーベキュー?」


 日本の書物(主に漫画)から得た知識に該当するものと言えば、その辺りだろう。


「普段、交流のない者同士が仲良くなったり、意外な人が意外な特技持ってたりとかさ。そういうのが知れる機会ってのは当事者じゃなくても面白い」


 指でポップコーンを弾き、それをラキがキャッチ。サイールーはフクロウにあるまじき姿勢でテーブルの上に足を放り出して座り、両手の翼で器用にティーカップを持って紅茶をすすっている。


 最近はおかしな行動をしても見咎められる事がないんだよなあ。

 オレの関係者だというだけで、「ああ、うん、そうね……」等と変な納得の仕方をする者が増えているからだ。


 変に追及されるよりはいいけど、なんだろう。この釈然としない感じは。

 いいけどねー。


 などと考えていたら、やや左後背に知った気配が。

 そちらへ顔を向け。


「お久しぶりですね。レックナートさん」


「おお、本当に娘の恰好をしているとは。しかも声まで変わっておる」


 ティーカップに紅茶を注ぎ、リナリーに目配せをする。

 椅子を無限収納エンドレッサーからリナリーがテーブルの向かいに置くのに合わせ、カップもその前へと置く。

 笑顔で「おお、すまぬの」と向かいへ座ったレックナートさんが、紅茶を口へと運んだ。


「ふぅ、美味い……ひと月には満たぬ程じゃが随分と会っておらぬように感じるの」


「第七騎士団とのあれこれや決闘騒ぎやらで、こちらもバタバタしてましたからね。――ところで、イルザスさんにはオレの正体は話さなかったんですね。何か理由がおありで?」


「ん? 特にはないが?」


「……まあ、そうじゃないかなとは思ったんですけどね」


「くぁっはっはっはッ! たまには悪戯を仕掛ける側に回ってみるのも良いかと思っての。バラす時は是非、吾輩も同席を希望したい」


 楽しそうだなあ。


「それを言うために顔を出した……って訳でもなさそうですね」


「おお、そうであった。近々ある演習に姫様も同行する事になっての。それを伝えにきたのだ」


「確かリアたちの学年は自由参加でしたか?」


 王都近郊にいる者しか学園に来ていないから基本的には自主学習の扱いになる。

 それでも結構な人数がいるという。

 余談になるが、王都から数年離れると言っても全く顔を合わせないという訳ではないらしい。

 在園生とは逆に、年にふた月程は学園に戻ってくる期間もある。

 要は何かしらの行事に合わせて近況報告も兼ねて講義に顔を出すといった感じだ。


 夜会やガーテンパーティなどの社交関係が活発になる時期のついで、というと聞こえは悪いが地方に監禁よりは随分マシだろう。


「せっかく学園にいるんですから。行事に参加できないんじゃ味気ないですからね。了解です」


 リアの周囲の警戒も併せて、という意味の了承を告げる。


「話が早くて助かる。何があるという訳ではないとは思うがの。不測の事態というのは、どこにでも隠れているからのう。一応の備えは――ん? どうしたのだ?」


 フラグの先端が見え隠れするような会話だ。しかし何もないうちから警戒しても仕方ない。


「いえ、どうすればリアが楽しめるかなと」


「随分と楽しみにしておられるからのう。その辺りは歳の近いおぬしらにお任せかの。吾輩は同行できんのが口惜しい」


「何か仕事が立て込んでるとかですか? 今年の担当の第七騎士団に混ざるという手もありそうですけど」


「ふむ? コッフェリ嬢がそこまで明かすとは。だが、そうか。今年は第七騎士団であったか……」


 顎に手をあて、しばし考えるレックナートさん。


「なんとか調整して裏の護衛に潜り込む、か? うむ。なれば早速、交渉に出向くとしようかの」


 決断が早い。立ち上がったレックナートさんは「同行が適えば騎士団を通じて知らせよう」とニカッと笑って去っていった。


「本当の祖父と孫みたいよね」


「ズカ爺にとってのリナリーやサイールーだな」


「まあそうなのかな? 長老様はみんなのお爺ちゃんって感じだけどね」


「わふッ」


 テーブルに前足をかけて顔だけ出したラキの同意の声。

 ラキにとってもそんな感じなのかね。育ての親のイグニスより若いんだけどな。

 というかラキ。そこって椅子ないよな? 懸垂?





 ~~~~





「イズミさん、分かりました!」


 野外演習までにやっておきたい事。リシルの持つ魔法具をなんとかする。

 その進展があったようだ。

 若干お疲れ気味だが、その表情はどこか晴れやかなリシルの声が訓練場に響く。

 演習が二日後に迫って慌ただしくも、どこか陽気な空気が漂うなか、リシルが学園の鍛錬場の隅にイベントテントで陣取っていたオレたちの元へ駆け寄ってきた。


「どこに不具合があったか特定できた感じ?」


「はい!」


 何がなんでも他の生徒には隠し通さなきゃ、って事もないけど、夕暮れ間近の鍛錬場は人がほとんどいないのが丁度いい。

 リシルが布バックから出した紙の束も何気に機密情報の塊だからな。


「ここです! この回路図のほんの小さな欠け! これが出力の調整の不具合を生んでいたんです!」


 指さした場所を見ると確かに不自然に導線の途切れがある。

 よく見つけたな。これだけある魔法陣や魔導回路の中から特定するって相当に面倒なはずだぞ。

 そこまで甘えられないと、特定作業は自力でなんとかしますと言っていたが、この短時間で本当にやるとは。


「寝不足はお肌の大敵だぞ?」


「そうなんですけど、つい夢中になってしまって……あはは……」


 お肌ケアは否定しないのね。女子力高いな。


「それで、ですね……剥離の魔法陣と分解の手順も問題なさそうなんですけど……」


「なるほど、そういう事か」


 ここにいるのはいつもの面子。妖精ズとラキ、アラズナン家の三人にリア、ラグ、そして何故か三人娘。

 オレの納得に始めはピンと来ていなかった皆だったが、魔法具を魔法陣の描かれた紙の隣に置くと気が付いたようだ。


「回路図の大きさ……?」


「リア、正解」


 先日、微細な回路を描くのが難しいと話題になったばかりな事もあって、それがどれほど厄介な事か理解したようである。


 だがそれは、オレがいなければ、の話なんだけど。

 みんな忘れてんのかな?


「オレが直しても良ければ、このまま直そうと思うけど、どうする?」


『えっ?』


「みんな、なんか難しく考えてないか? セヴィの眼を治した方法を少しアレンジすれば充分いけると思うぞ」


『あっ?』


 そういえば確かに、とハッと一同が魔法具からオレへと視線を向けた。


「生体の自己治癒を利用していると聞いていたので考えから抜けていました……」


「治癒との複合による精密探査と複写だからな。目の前で見てたシュティーナとしては無機物にも可能かどうか確信はしてなかったって所だろ? 元の状態を知らないんだから不具合箇所を特定出来なければ確かに無意味な方法だと思うよな。まあアレンジと言ってもプリントアウトを組み合わせるだけなんだけどな」


「それなら確かに」


「というわけで、やってもいいか? リシル}


「えっ、あ、はい!」


「そうはいっても、分解せずにってのはオレでも厳しい。どの面に描かれてるか判断を間違えたら最悪、機能しなくなる可能性だってある。だから分解はリシルが指示してくれ」


「分かりました」


 頷き、机に置かれた紙を並べ直すリシル。並べられたのはリシルが描いたと思われる魔法陣の紙。

 よく見れば番号とメモ書きのような文字が書き込まれているのが分かる。


「えっと、それではまず。この剥離の魔法陣を使って外殻のこの部分を取り外すのがいいと思います」


「了解」


 魔法陣の上に魔法具を置き、触れた魔法陣に魔力を流す。

 すると音もなくカバーのようなものが外れた。


『わっ?』


 予想はしていても壊れたかもしれないという不安はあるらしく。三人娘が声を漏らす。

 しかしそれには構わずリシルに次の指示を促し、サクッと分解していく。

 細かい部品も併せて、その数が30に迫ろうかという所で目当ての回路が姿を現す。


「全部バラバラにしなくて済んだのは良かったけど、こうして見るとホント小さいな」


 小指の先ほどにも満たない大きさの魔法陣回路。遠目には青くウニョウニョっと塗料が付着しているようにしか見えない。

 夕暮れ時のこの時間帯では卓上ルーペで覗いても明かり無しではハッキリと見えない。

 無限収納エンドレッサーから無影灯と似たような光り方をする花を植木鉢ごと机に出し光源を調整。

 それを見てリシルが目を丸くしていたが、すぐに魔法具へと意識を切り替えていた。


「どう、ですか……?」


「んー……何とかなりそうだ。って言いたいけど……使われてる塗料があまりに特殊だと、どうにもならないかもしれない」


「あっ……」


「けどまあ、何とかはしてみる。一応手は考えてあるから」


 前回は魔法陣回路の構造だけに注視して成分はあまり気にしていなかったが、懸念自体はあった。

 こんな長期間の保存に耐えるものが例え魔法前提の処置であったとしても普通のモノである訳がない。

 精密探査で今度は成分も意識して調べてみたが案の定、オレの記憶にない成分が使われていた。


 さて、どうしたものか。

 考えていた手段が本当に使えるかどうか。更に集中して探査する。

 よし、いけるかも。


「ふぅううー」


「あの、イズミさん……?」


「これからが本番ってとこだけど五分五分だな。無理なら元の状態に戻す。手持ちの駒でやれるとこまでって感じだ。そういう訳で久しぶりに本気で集中だ」


 腕まくりをして気分を上げる。こういうのは気持ちも大事だ。

 さあ、超精密魔力操作の開始といくか。




 ~~~~




「はぁー……やっと終わったぜ……」


 おお、すっかり暗くなってる。

 訓練場にも一応ながら街灯のような照明設備はあるものの、その数は少なく明るさもそれほどではない。

 逆に、このテントの周りだけが異常に明るい。魔動雑貨のランタンの光が辺りを照らす。


「……どうなんだ? 直ったのか?」


「ああ、うまくいった」


「ほんとですか!?」


 ラグの問いに答えると間髪入れずにリシルが身を乗り出して問いただす。

 その表情は疑っているというより、感動しているかのような表情。


「結構てこずったけどな」


「見ていただけでは何がどうなったのか、さっぱりだ。異常な量の魔力を使っていたのだけは分かったが」


「思わず防御結界を張りそうになりました」


 王族兄妹が魔力量について言及。オレとしては、そうなの? って感じなんだが。

 集中していたせいか魔力の量が危機感を刺激するほどとは気付いてなかった。

 皆の顔に目を向ければ、解説をしてほしそうな表情に見える。


 神域組の三人は、だいたい何をしていたのか見当がついてるみたいだな。

 二人とも着ぐるみの口から顔を出して魔法具を前に「これは私たちには無理ねえ」とか言ってる。

 ラキはといえば伏せの姿勢で目の前の魔法具をじっと見てる。骨じゃないからな?


「無理やり均一化、かなあ。塗料が特殊だから同じ回路内から引っ張ってきたんだよ。本当に微妙なムラしかなかったから、その調整に随分と手間取った」


 リシルの用意した発動制限の魔法陣の上に置かれた魔法具を指でつつきながら。

 これもお目当ての魔法陣回路が判明してから作ったものだろう。

 じゃなければ、魔力を流した時点で機能が発動してしまう。この修正する魔法陣にのみ対応する図式である。


 いうなればアンチ魔法陣とでも言うべきものだが、元になる魔法陣が分かっていないと作製の難易度が桁違いになる。というか無理。

 術者ごとに細かくアレンジしたりしてるから、これ一つあれば全部いけるって類のものでもないのだ。

 要はそれぞれオーダーメイドしなきゃならんって事。


 発動する側がオーダーメイドなんだから、当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。


「具体的に言うとだ。髪の毛一本を千本に縦に割くのと同じくらいの細かい作業。って言えば何となく理解して貰えるか? そういうレベルの作業だったんだ。無理そうなら元に戻して後日改めてと思ったけど、何とか出来て良かった。正直、元に戻すのもしんどかったからさ」


「引くに引けなくなっただけだよねー」


「それを言っちゃいかんリナリー」


 一応、拡大ルーペを見ながらの作業だったけど、本当に気休め程度でしかなかった。

 流した魔力で図形を確認しつつって感じで、あくまで視覚情報はおまけだった。ないよりは全然良かったけど。


 組み立てはリシルが買って出た。というかいい所だけ掻っ攫ったみたいで、ちょっと気が引けるんだが……


「僕には精密な作業は無理でしたし、塗料の特定も難しかったと思います。だから気にしないで下さい! 僕の方こそイズミさんを利用するような形になってしまって、何というか、その……」


「じゃあ、お互い様って事で。でもいずれはオレ抜きでも出来たかもしれないぞ? ロッツェン先生が色々研究に加えたらしいし、塗料は時間さえかければ判明したはず。だからあんまり気にする事ないんじゃないか?」


「だといいんですけど」


 自信なさげに笑みを零したリシル。

 何にせよ、目的は達したんだし良しとしようぜ。


 それよりも、ちゃんと直ったか確認するほうが先だろう。


「取り敢えず何か魔法を使って確かめてみちゃあどうだ?」


「あ、そうですね!」


 訓練場の的へ向けて魔法を試し撃ちをしてみる事にしたようだ。

 一応、時間が時間だから遮音の結界を張っておく。


 初級の魔法である火炎球レム・フーを何度か撃ち、そして手元を何やら操作すると今度は威力が減少、再度、手元を操作して次は威力が増した。


「調節も上手く機能しています! 間違いなく直ってます! これが本来の姿だったんですね! 」


「原因はおそらく回路図の塗料の微細なムラ。長い年月で他の回路を通る魔力が干渉したのかもしれない。違ってたとしても、しばらくはもつだろう。オレたちが生きてる間くらいは」


「充分ですよ! その頃になれば、研究も進んで修復が容易になっているはずです。たぶん」


「ははっ、まあそうだな。技術の発展に期待しよう」


 しかし、それにしても。


「あの……どうしました?」


「いや、やっぱり兵器だったんだろうなって。出力を一定にするのは誤差修正を容易にするためなんだよ。目視だけでは困難な場所に攻撃する場合、観測と併せて行うのが前提だ。たぶんこれは補助具。メインの発動体か射出装置は別だったんだろう」


 長距離射撃のセオリーなど熟知していなければ、ピンとこないというのが良く分かる反応だ。

 皆、一様にハテナマークが浮いているような顔。


「んー、例えば、ここから護衛官宿舎のオレの部屋の窓を狙うとする。攻撃は届く距離だけど見えないよな? どうすれば当たると思う?」


 同じ護衛官の立場から狙う、または狙われたらという観点からトーリィに振る。


「……まず試しに撃って、どこに当たったか確認して……調整していく、ですか?」


「その場合、観測手の指示はどうなると予想できる?」


「そうか……酷く曖昧で、運頼りになってしまう……?」


「そう言う事。例え上手く標的の場所を伝える事が出来たとして。一定の威力で撃っているつもりでも、緊張したり不安があると、微妙に距離や威力が変化してしまう。ましてやズレをどうやって正確に術者に理解させるんだって話だ。この際遠距離の情報伝達法は無視したとしても、「もうちょい右」とか「もっと奥」とか言うのか? 距離の単位も統一されてない現状では無理筋過ぎる。トーリィの指摘通り、運次第になる。非効率もいい所だ」


「なるほどな。角度や方向を微調整の可能な発動体を使って訓練時から精度を高めていく訳か」


 これだけの情報で練度が重要だと気付くってのも、すごい話だな。

 ラグの察しの良さは立場も関係あるのかね。


「使う魔法の種類毎にデータを集めて、観測手が正確に修正値を割り出せるようにな。その為に誤差のない一定威力の魔法が重要になるって事。ただ強力なら良いってもんじゃない。射線誘導も術者の目視が前提の側面が強いからな。目視せずに射線誘導のみで標的や地形の把握をする場合、使う魔力が跳ね上がるから相手に感知され易くなるし現実的とは言い難い」


「一定の威力の魔法にどんな意味があるかと最初は疑問でしたが、今の話を聞くとかなり重要ですね……」


「味方の被害を考慮するための機能だとばかり考えてました」


「イズミさんは、どうして詳しいんですか? 騎士団で見習いをしてる僕たちも聞いた事すらない情報ですよ? それも古代の知識ですか?」


 三人娘が順に口にするが、やはり一般生徒より情報の持つ重要性を感じているようだ。

 その出所が気になるのは当然か。予想は出来ていても確認せずにはいられないんだろう。


「まあそうだな。軍事知識というより物語から仕入れた知識かなあ。戦争ものの話って結構多いから。当たり前の情報として物語に描かれてたりするんだよ」


「……娯楽からして価値観が今と全然違うとは」


 主に日本で読んだ戦記物、戦争ものからの知識だけどな。イグニスから聞いた話やズカ爺の秘蔵の書物の話もあったりするが。


「ま、そんな物騒なほうじゃなくて、治癒とか付与の効果のほうが気になるけどな。調整可能な状態で、その手の魔法の効果は予想も把握もしてないんだろ?」


「そ、そうですね! やる事がいっぱいです。遺物としてもですけど魔法そのものの研究にも影響してくるかもしれません」


 色々な可能性が眠っているかもしれない事に興奮しているようだ。

 リシルのその様子に面白い事が出来そうだとオレも密かに期待してしまう。


「取り敢えず演習までに間に合ってよかった。折角のイベントに存分に能力を発揮できないのは、いかにも勿体ないからなあ」


「あ、そこまでは考えてなかったです。調子が良くないのが普通の事だったので。でもありがとうございます!」


 ともすればライフワークを奪ってしまったんじゃなかろうかという懸念もあったが、考え過ぎだったようだ。

 できる事が増え、調べる事も増えて益々楽しいと言わんばかりだなリシルは。


「いいなあ。僕たちは一緒に行けないのが残念です」


 見習いだからかな? 学年も違うし自分達の授業もあるだろうし無理矢理に同行するって訳にはいかないだろうな。

 それとも第七騎士団が護衛って教えてないだけなのか?

 今のタリスとの遣り取りで何となく知らなそうなのは分かった。


「ダンジョンなら土産も事欠かなかったんだろうけどなあ。まあ、軽い遠足みたいなもんだし土産どうのって事もないか」


「ただの遠足で終わるといいけど」


 おい、やめろリナリー。

 




 ~~~~




 などと言っていたのが二日前。

 演習初日。

 現在、既に王都郊外の学園から出発して半日。カルナンの湖へ向かう、その中継地点である学園所有の簡易宿泊施設を目指して大所帯で移動中である。

 

 貴族が普段移動に使う優雅な騎獣車ではなく、荷物輸送の幌馬車のような車体が連なる。

 列のやや後方を走るうちの一台、その後部に飛び乗ったオレは要件を済ませる事にする。


「あの、師匠。コレは……?」


「ちょうど退屈し始めた所だと思ってな。セヴィはともかく、他の子たちは景色見るのも飽きて来ただろ。いくら長距離の移動に慣れてる貴族の子供って言っても、折角の友達とのイベントを尻の痛い移動だけってのは勿体ない」


 セヴィは普段の鍛錬と同様に、周囲に薄く魔力を伸ばして感知系の訓練を周りに悟られないように行っている。

 オレが何を言った訳じゃないのに生真面目に言いつけを守っているのだ。

 今日くらいはそういうのは忘れて、友達と楽しめという意味を含ませた娯楽の提供。


 さすがに揺れる騎獣車のなかでウォカレットは無理なので、カードゲームを勧めてみた。

 人生ゲームでも良かったが健全なタイプではない凄惨バージョンしかなかったので無理だった。

 まあ、ババ抜きかダウトならイイ暇つぶしになるだろう。


 こっちにもカードゲーム自体はあるが、子供でもワイワイ楽しめる単純なものがない。

 大体が賭け事に使われるゲームばかりだ。


「わかりました! ルールも分かり易いですし、皆でやってみます!」


「あと、前に言ってたコレな。ちょっと遅くなったけど今渡しておく」


「あっ、水晶玉の……?」


「使い方は前に言った通りのものになってる。一応全部汎用だが、あまり強力なものは使えない。試作品だからな。ま、これも暇つぶしに丁度いいだろう」


「ありがとうございます!」


 どちらかといえば本題はこっち。

 完成してからにしようと考えていたが、慣らしのために渡しておくのもいいかと、今渡す事にしたのだ。

 魔法を一時的に保持して任意で即座に発動出来るアイテム。

 水晶ジャグリングが気に入ったというセヴィに掌握領域に反応する仕様の水晶玉を用意しようと、以前から考えていたものが、やっと形になったのだ。

 簡単に説明するなら、周囲に浮く玉である。


「それより師匠。なんか凄い事になってますね……」


「……グリフォンたちがオレから離れないんだ」


 さっきから頭やら身体やらを摺り寄せて、たまに甘噛みしてくる。

 このまま、ここにいると他の騎獣車に迷惑がかかるから最後尾に戻るとしよう。

 他の騎獣からの熱い視線は見ない事にする。


「じゃあ、オレは戻る。何かあったら、――で、な」


 耳をトントンと指で叩くと、それだけで意図は伝わったようだ。

 共鳴晶石ユニゾン・クォーツで連絡をと。コクリと頷いたセヴィと別れ、最後尾へと跳躍とバーニアで戻る。


 それにしてもセヴィの居た騎獣車、女子率高かったな……

 オレを見る目が何か不思議な空気を帯びてたけど、なんだったんだ?


「おかしな魔法を使う人という認識が7割で、あとの3割は障害になるかもしれない人物を見定めていたという意味の視線では?」


 最後尾。自由参加枠の騎獣車に乗るリアにセヴィの周囲にいた娘っ子たちの視線の事を言うと、シュティーナから返ってきた考察内容。

 おかしな人という認識は、この際はいい。いや、よくはないけど。


「うん? 障害って?」


「イズミさんがアラズナン家の後継者の、その伴侶を見定める役を担っていると思われているのかと」


 シュティーナとのやり取りに苦笑しつつリアが補足をする。


「前に言ってたソレってホントだったのか……」


 参考意見程度の価値しかないだろと勝手に思い込んでいたが、本当にそういう目で見られるとは。

 とかなんとか色々と会話をしているここにはシュティーナの友人たちも含め、ラグも一緒に徒歩での移動。

 ラグ自身の騎獣も参加はしているが、最後尾でグリフォンたちと一緒に子ガモのように着いてきている。

 南部領地のダッカ辺境伯領のツツラ嬢とお付きの一人がグリフォンに騎乗しているが、他のヒッポグリフには誰も乗っていない。

 予定では二頭のみのはずが、どうやら無理矢理付いてきたきたらしい。


 通常なら監督役として騎乗者がいるべきだが学年が違うため同行を許可されなかった。

 であればヒッポグリフたちも我慢させるべきなのだろうが、ラキが問題は起こさないだろうと太鼓判を押したことでラグが裏から手を回したのだ。

 自身の騎獣のついでという事のようだが。


 ツツラ嬢たちの言う事にはちゃんと従っているので大丈夫だろう。

 しかし、そのツツラ嬢たちが言うには。


「えっと、イズミさんが言う事きかないと魔力やらないって言ったからだと思うんですけど……」


「普通、騎乗者なしだと外でこんなに長時間良い子にしてないですよ?」


 そうなの? ラキに逆らうのは無理って判断じゃなかったのか。



 お、そろそろ第一の目的地に到着するみたいだな。



執筆の時間が確保できない……


残業がやっとなくなったのに興味の湧くものが増える増える

なんとか休み中に投稿できだけど、何を書けば面白いか未だに分からない(´・ω・`)




でもポイント増えるとやっぱりテンション上がります!

ブクマ、評価、感謝です!

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