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第百十二話 調査依頼


『ッッッキィィィヤーーーーーーーッ!!』


 キャーなのかイヤーなのか、はっきりして欲しい。


「なんだ、三人娘相手に騎士連動ナイト・トレイン、ではないな。どういう事だ、あのふざけた造形は……」


 第七騎士団の練兵場で三人娘に稽古をつけている。

 と同時にオレの魔法の練習も兼ねているのだが。先日、決闘騒ぎで騎士連動ナイト・トレインを目にして、実際の使い勝手はどうなのかと検証をくりかえしている。

 アレンジを加えて、だけど。


 ラグはふざけた造形とか言うけど、どこからどうみても格好良いじゃあないか。

 なんといっても鎧で出来たドラゴンですぜ?

 しかも無駄にゴテゴテとしたデザインで仕上げてある。いやいや決して無駄じゃない。

 生物的な雰囲気を残しつつも無機質の美とでも言おうか。中世的な鎧をまとったメカドラゴンという究極のファンタジーキャラ。

 ちなみに中身は空っぽだから非常に素早い。代わりにえらい魔力を食うけど。

 

 まあ、見た事も想像した事もないようなモノに襲われていると考えれば、三人娘が奇声を発しているのも頷ける。


「終了~」


「お菓子に釣られた私が馬鹿だった……」


「餌をチラつかせれば言う事を聞くと思われてるのが悔しい……! その通りなんだけど!」


「どんな責められ方をするか 段々、心待ちにする僕がいるような……」


 そろそろ限界かな? という所で、一先ず訓練を切り上げる。三人娘がなんか言ってるが聞こえないなあ。毎度の事だが一人だけおかしい。

 さて。何故予定には無かったのに第七騎士団の兵舎に出向いたかと言えば――





 ~~~~





「調査を依頼するか……その前に。ここで聞いた事は他言無用。教官殿もそれでよろしいか?」


「そうせざるを得んでしょうな。ログアット殿が警戒を示し、その上その当事者の意見であれば無視出来ますまい」


 イルザスさんとラグ、そしてオレたちアラズナンの関係者が頷く事で意思の統一の確認。

 しかし学園生組は唐突な流れに戸惑いを隠せないようだ。


「エレイン様……私たち聞いちゃいけない事を聞いたのでは……」


「言わないで……私もそう思ってたところだから」


「死の牙は盗賊というより手練れの武装集団だと言われていましたが、商座連も絡んでる可能性もあるとか危な過ぎませんか……?」


「というか一般生徒の前で情報を明かし過ぎですよお……」


 いやだって、部屋から追い出す訳にもいかんでしょう。

 そこはタイミングが悪かったと思って諦めてもらうしかない。


「下手に吹聴して回らなければ、さして危険な情報ではない。だが増強剤フォースライズのほうは注意してくれ。それらしい物があっても手を出さない事。本当に増強だけならいいが、イズミの見たもののように、その先があった場合は間違いなく命に係わる。いや、それだけならいいが……」


「命が脅かされる以上にヤバイって……」


 ラグが明言を避けたのは、あまりに可能性が多岐にわたるためだ。

 その雰囲気に圧され理解しきれていないにも拘らず、その危険性だけは伝わったようだ。


「当事者から見て考えられるのは?」


 あー、はい。敢えて、その可能性を聞かせるわけね。


「まずはデータ収集に利用される可能性。効力を高めるためにはサンプルは多い方がいい。そしてその過程で同じ物と称して微妙に成分比率を変えられた薬剤を使わされる。徐々に依存性を付加される可能性もある。途中で顧客に逃げられたらまた探すのが面倒だからな。だけど、その段階まで来たら手遅れかもしれない――」


 ここでラグに本当に、このまましゃべっていいのか目で問う。

 だがラグとしては止める気はないらしい。


「続けてくれ」


「――発覚しても構わない。つまり最終段階に近いかもしれないからだ。当然、最終的な出所までは辿り着けないように対策済みのはず。なら構わず成果を優先するだろうな。オレが見た時の状態は正気かどうか怪しかった。割と重要だと思われる手駒に対してもそれだ。効力だけを知りたいなら正気を保つ必要はないんじゃないか? 行きつく所まで行ったとしたら、かなりの確率で狂戦士バーサーカーの出来上がりだ」


『ッッ!?』


「しかもなぁ……性質が悪い事に人としての原型を留めない可能性もあるんだよなあ」


「ああ、言っていたな。二倍以上に身体が膨れ上がったと。確かに純粋な実験として見るなら限界点の見極めは必要だろう。ならば結果として人でなくなったとしても関係ない、と」


「研究者としては、そういうデータも欲しいだろうしなぁ」


 おっと、なんで皆引いてるのかな?


「殿下とイズミ嬢が、それを当然の事として受け入れているのが何とも……それにアラズナンの二人もその傾向がありますな」


 イルザスさんの言葉にラグと顔を見合わせ、そしてシュテシーナとトーリィを見れば。私たちも? と僅かに心外だと主張しているような表情だった。


「今言った恐ろしい可能性が、可能性ではなく、いずれ何処かで実現すると想定しているのが怖いというか……」


「いやいや、エレイン嬢――」


「あ、あの、エレインでいいです」


「そう? じゃ、エレイン。君が言うように可能性で終わればいいと自分もラグも考えてるよ。でも実物が既にあるから思考がそっちに流れる。劇薬ってのは必ず、そういう事をやってるから」


「あっ……」


「いきなり実用とはいかんからな。国が主導なら犯罪者で試す事も在り得る。しかし、いずれそれも限界がくる。国内での実証実験が難しくなると、おのずと他へと目が向く事になるだろう。真剣に運用を考えるなら当然、安全策も同時に研究を進めているはずだ。例えば効力を調整する方法なり成分等をな。そして無関係の土地ならそれらを排除した劇薬部分のみを試せる、と考えるのは不自然ではあるまい?」


「可能性だけを言えば、さらに肉製ミートゴーレムになる場合も考えなきゃいけない。狂戦士バーサーカー後の肉製ミートゴーレムって、なかなかの悪夢だろ?」


『うっ……』


「とはいえ効率で言うと死霊術のほうがいいのか? 詳しくないから何とも言えんけど」


「死霊術は特殊な才能が必要だと言われていますから……って、一応聞きますけど、詳しくないのはどの辺りについて言ってます?」


「変な聞き方するねえシュティーナ。実際に見た事がないってのと、どうやって伝えているかって所だな。同調詠唱コードハーモナイズの時のイメージも見当がつかないし」


「もしやとは思いますが、そこが分からないだけで使えるなんて事は……」


「やった事無いから分からん。でも理屈は知ってる」


『え゛ッ』


 なんだ? 知ってちゃ拙い事か?

 もしかして禁術の類か?


「禁術とかではないですが……使い手がいれば、とんでもない戦力になると言われていますから」


「おおう、冒涜以外の何物でもないな。徹底的に使い潰すとか」


「確かにそういった意見もあります。私利私欲のために利用した例がないとは言いません。ですが、どちらかといえば崇高な行いだと捉えている方が多いです。自分が死んだら国や家族を守るためにこの身を使ってくれと。同意の下に行使された死霊術は何故か邪気払いも効きにくいそうですし。だからというわけではないですが、もし存在が確認されれば厚遇されるのは確実です」


 そうなれば悪さをしようと思う者も少なくなる、と。研究のためにしろ実用のためにしろ偏見や侮蔑の感情を向けられないなら、国の為に尽くそうと思うかもしれない。何より生活が安定するし。

 遥か昔は忌避する時代もあったらしいけど、何処かで価値観を変える出来事があったか誘導したんだろうな。いや忌避した時代があったからこそ、そうなる必要があったと考える方が自然か。


「はー、なるほどねえ。そういう考え方もあるか。って肉製ゴーレムも?」


「昔はあったと聞きます。今は生前に及ぶべくもないという事で行われなくなりました。腕の良い死霊術師なら魔力の補給さえ何とかなれば生前と同等の力を振るえると言いますから」


 その辺は研究の進み具合とか、どれだけ正確に魔導王朝時代の情報が伝わってたかで変わるんだろう。

 実際は術師の手間だけで、どちらも生前と変わりなく、ゴーレムに限って言えばそれ以上に動けたらしいけど。

 ゴーレムのほうは複数の人体で合成可能だったようだから倫理的な点から廃れていったのかね?

 うーん、しかしフランケンシュタインの怪物が実際にいたわけか。イグニスからも聞いてはいたけど、歴史の事実として人から聞かされると、また違う感じだ。

 すごいと思う反面、日本人的感性からするとなんか複雑。


「とにかく使い手が希少なんです。そのため研究もほとんど進んでいないのです」


「それで皆、驚いた訳ね」


 国の存亡をかけた戦いになれば、優雅だなんだと言ってられないんだろうな。

 騎士の誉れとか言ってるうちは余裕があるって事なのかね。


「とはいえオレが知ってる理屈ってのも、魔力がどう作用するか程度の話だけどさ」


 魔導王朝時代に行われていた、魔力素子で疑似的に脳を構築する技術が関係しているという事くらいしか聞いていないがね。

 そこまで聞けばおおよその予想は出来るが。


「話が逸れているぞ。その話も興味深くはあるが、今は薬の話が先だろう」


「だな。で、どうするラグ。取り敢えず皆は実物を見ても騒がず手を出さないって事でいいと思うけど。調査のほうはやっぱりあそこに頼む?」


「そうだな……すぐにというのであれば第七騎士団が適任かもしれん。こちらとしても一応、父上の耳には入れておく事になるだろう」


「了解。あー、あとラグに聞きたかったんだけど」


「何だ?」


「ルイネルたちって割と大人しい方か?」


「何故そう思う」


「いや何となく。あの手のメンタリティのヤツらって、もっとエグイ事やってそうだと思ったけど意外とそうでもなさそうだったからさ」


「俺が同時期に学園に居なければ、そうだったかもしれん。実際、王族や公爵家の人間が在籍していなかった時期は酷い時があったらしい。学園側も理不尽な圧力で何も出来なかったと聞く」


「うーん、ラグがまともな王族で良かった」


「フッ、何だそれは」


「王族や公爵家の人間に好き放題されると止める者がいないだろ? それこそ理不尽がまかり通る」


 一緒になって色々やってたら今頃えらい事になってるだろうからな。

 ルイネルたちが突き抜けていなかったのも、身近にラグという存在がいて抑止力として働いてたからだと想像できる。


「……かつてはそういう事もあったらしいがな。だが、そういった輩は後に例外なく排除された。腐った枝や果実をそのままにしておくと際限なく腐れていくからな。放置すれば行きつく先は……」


「まるごと廃棄処分だろうなぁ。物理的か実質的に国が亡ぶ。健康な部分が残ってたとしてもだ。クーデターか他国による占領か属国になり果てるか。はたまた内戦で分離独立かは知らんがね。そのどれだったとしても人の命が掛け金になる」


「最低の博打だな」


「それも負け確定のイカサマ博打だ。どう足掻いても、その時代の人間にとってはいい結果にはならない。それをさせないために貴族制度による統治が今の所は最も効率がいいって事なんだが。まだまだ教育が行き届いてないから自然と、そうならざるを得ないのは仕方ないとしても。そこを本当の意味で理解してるのは少数だろうなあ」


『?』


 隔てのない教育が国力の底上げになる事を実感出来なければ、ピンと来ないのも無理ないかもしれん。

 そんな中でもラグとイルザスさんはある程度理解しているようだが。


「それで、あんな(・・・)事を言ったのか。なかなかに厳しい物の見方だ。マイナスから始めてみろとは。あれは対戦相手だけに言ったものではあるまい? あの場で何人がそれに気づいたかはさておき、な」


 ラグのその言葉に、その場にいる学園生全員がハッとなる。

 そう。ルイネルたちだけでなく自分達も該当するのだと。

 身ひとつで放り出されて、今と同じ境遇に辿り着く事が出来るのかという疑問。それを突き付けられているのだと。


「やっぱり気付いてたか。貴族制度が悪いわけじゃない。けど特権意識に囚われ過ぎると、あっという間に暗黒時代にご招待だ。あいつらが言ったように上が無能だと下は困るどころの話じゃない。どんな政治形態であろうと結局は人次第だ。そこの所を知りたかったからやった意識調査だよ」


 実際の貴族に聞けるなんて日本にいたら、というか地球にいたらまずあり得ない。そんな時代は遥か昔に終わってる。独裁政権とか別の形で特権階級が生まれてるが、それは置くとして。

 歴史が証明している事実。それに対する当事者の考えを知りたかった。地球では証明済みであるそれを知らない者がどう答えるのかを。

 だからあの場を利用させて貰った。


「意地の悪い意識調査だな」


「そう? でもこの国だって最初からあった訳じゃない。誰かが興したものだ。そして貴族だって最初から貴族だった訳じゃないだろ? だったらあながち間違った事は言って無いと思うけどな。本当に優秀だっていうなら国を興すくらいしてみろってんだ。ま、時代とか環境、それに人の望みの方向が違うから難しいってのは分かってるんだけどさ」


「言わずには居られなかった、という事か」


「まあ、ね」


 ついラグと話しこんでしまったが、学園生たちがポカーンとしてる。

 なんでそんな顔してんの?


「殿下とイズミさんが普通は学生がしないような遣り取りをしていたので……なんというか」


「武官っぽくないって?」


「それもありますが……予想や考察ではなく確信をもって口にしているような感じが不思議で……」


「ああ、魔導王朝時代の書物からの知識だよ」


『!?』


 随分驚いてる。現代の知識や情報がベースなのは確かだけど、魔導王朝時代の政治形態も一応頭には入ってる。それ以前の統治システムや、それに対する考察も情報としてイグニスが持っていた。

 おおよそ一般的であろう価値観として大雑把にという感じだったが。


 君主制であり選挙により選出された議員と貴族議員による議会制という、ちょっと訳の分からない政治体制と聞かされて余計に印象に残っていたのだ。

 漫画でそんなのも読んだ事あったなあとか思ったから余計にかもしれない。


「その知識の中に、様々な政治形態の国がどんな歴史を歩んだのか、そんなのもあったからな。高度な予測で腐敗した貴族社会がどうなるのかを提示した訳じゃなくて実際に起きた事を言っただけ、という訳だ」


 皆、眼をおっ広げてるねえ。なんで?

 ラグを見れば、やや困惑したように「どう言ったものか……」と言葉を選んでいる。


「実を言えば、そういった知識は現在は殆ど残されていないのだ。全くない訳ではないが公開しても意味があると思えるような物が伝わっていない。魔法関連の技術が優先されて考古学としてもあまり研究されていないというのが実状だ」


 一度リセットされてる事も関係してそう。自然回帰した際に敢えて残さなかったのか、ただ風化していっただけなのか。いずれにしても必要とされなかった情報という事か。

 だろうとは思った。原始的な生活に逆戻りして、高度な統治システムが維持されるワケないもんなあ。


「なるほど。おかしな知識を口走ったから皆驚いたって事ね」


『おかしな知識……』


「……あまり深く考えない事だ。我々の常識とは異なる常識で生きていると思えば諦めはつく。そうだな……騎獣、いや幻獣か何かだと思えば丁度いい」


「なにそれ酷い」


「では珍獣で」


「本命きた」


 そんな遣り取りに、皆、顔を逸らして肩を震わせている。

 おっと、忘れる所だった。これも聞いておかないと。


「イルザスさん」


「ん?」


「最終戦の、如何なる理由があろうと結果は覆らないってアレですけど。目くらましに紛れて他の生徒から飛んできた攻撃でこちらが負けていたとしても結果は覆らなかったという認識で合ってますか?」


『……えっ?』


 仮に負けて抗議しても、それは受け入れられなかったと。

 学園生たちは、その事に驚くと同時に不意打ちに気づいているのは一人もいなかったようだ。いや、シュティーナとトーリィは疑っていた感じか? ラグは普通に不意打ちがあった事に気づいていたらしい。

 妖精ズとラキも気付いていたというか、そういうものとして受け入れてたっぽい。

 証拠にボソっと「あれってやっちゃいけなかったの?」とか言ってるし。

 それもどうなんだと微妙に思わんではないけど。

 何気に思考が物騒で困る。


「やはり気付いていたか。負ければそうなっていただろうが、負ける絵が浮かばなかったからな。悪いとは思ったが利用させてもらった」


「んー、なるほど。不意打ちに対処する所を見せつけるのを前提で、という事で?」


「その通りだ。あの程度の小細工で俺を含む一般の騎士が気付かない訳はないのだが、あの一言があった事で高い割合で不意打ちを実行すると睨んでいた。そして、それが通用しない事もな。上には上がいるという事を叩き込むいい機会だった。俺たちのような年長者がやってもいいが年齢差を理由に納得しない。同年齢になる頃には同等かそれ以上になっていると信じて、現在の実力差を都合のいいように解釈してしまう」


「十代特有の根拠のない自信と万能感かあ」


「そうそれだ。己の命を顧みないほどの鍛錬を積んできた者なら、そうはならんが――」


 意味ありげな間でオレを見るイルザスさん。いやあ、命を顧みない程ってのは無かったかなあ?

 ジイちゃんやイグニス、あと出稽古に時々来た人たちと戦ったりすると、やべえ死ぬってなる事はしょっちゅうだったけど。


「普通の貴族教育の鍛錬ではそこまではやらないからな。いや一般の騎士でもそこまで追い込む者はそういない。まあその辺りは騎士団に入った時点で大抵は叩き直されるが、なまじ才能があると叩き直し切れない場合がある」


「してやられましたねえ」


「ははっ、確実な手段が目の前に転がっていたら何だって利用するさ。俺も面倒な事が嫌いだからな。同年代でしかも異性。鼻っ柱を折るには、これ以上ない条件だろ?」


「腹が黒いって言われません?」


「生憎、俺は腹を陽にさらした事はないんだ」


 悪戯が成功した子供のように、ニヤっと笑みを浮かべるイルザスさん。


「貴族の矜持ごと鼻っ柱を跡形もなく消し去ったのは少しばかり良心が咎めるがね。そこはまあ生きていれば、そんな事もあるさ」


「教育者としてどうなんですかねソレ」


「ギリギリ踏みとどまってるな。いや、先達ではあるが教育者かどうかは甚だ疑問だな」


 自分で言っちゃうんだ。

 今度はニカッと自信ありげに言うイルザスさんに皆の苦笑が漏れる。

 鼻っ柱を盛大に折ったオレが本当は男だというのは、この際は余計な事だな。

 

「理由が分かったのでスッキリしましたよ。とまあ優先事項としては、こんな所ですかね」


 オレが言うと皆が頷く。

 そこですぐに解散にはならずに、しばらく雑談をしてお開きとなった。





 ~~~~





「なかなか面白い事になっていたみたいね」


 三人娘の訓練を横に、事の経緯を説明していたのだが、訓練終了と同時に聞き終えたコッフェリさんは何とも複雑そうに苦笑を漏らした。


「それにしても、闘技場でそんなイベントがあったとは。是非この目で見たかったですね」


「シェナンがそんな事言うなんて珍しいわね。でも同感。私もその場で見たかったわ」


「期待に添えるかどうかは怪しいですけどね。でもまあ楽しかったですよ」


 そんなオレの言いように二人は軽く目を丸くする。本来決闘とは、それほど愉快なものではないようであるし、この二人の反応も頷ける。が、「あれだけやれば楽しいだろうさ」というラグの突っこみに思わずといった風に笑いを零した。

 ちなみに三人娘はベンチにぐったりと屍を晒している。


 ん? 心なしかリアが落ち込んでるような……?

 丁度予定が空いていたという事で、宿舎で合流して一緒に来たのだが。

 さっきまでは普通にしていたのに何か嫌な事でも思い出したか?


「……どうしたリア? 何かあったか?」


「……見たかったです」


「ん?」


「私もイズミさんが活躍する所を見たかったです!」


 両手を胸の前でぐっと握り、身を乗り出して大きな瞳で主張するリア。


「お、おう?」


「……最近はご一緒する機会も減ってしまいましたし、学園で噂になるような事であるなら尚の事、身近で共に感じたいと……」


 なるほどね。ちょっと拗ねていたというか残念がっていた感じか。

 セヴィはどうなんだろうと見れば、コクコクと頷いている。そのオレの視線の意味に気づいたようで。


「師匠のバーニア? も見たかったですし燕水仙も実際に使っている所も見たかったです。僕では空を飛ぶのは無理かもしれませんが……」


「今回は突発的な事だったから二人とも勘弁な。その代わり、になるかは分からんけど次が有ったらなるべく何とかしよう。バーニアの事も詳しく教える」


『はいッ!』


 リナリー達の妖精の瞳を使えば今回の映像も見られるけど、それは後で考えるとするか。

 画像保存の技術をログアットさん達に明かしたから今更って気もするけど、何となく動画保存は慎重にしたほうがいいような気もするんだよな。


「といっても、そんなに難しい事はしてないんだけどな。任意の場所に障壁が展開出来るなら後は炎か風の、要するに気体に干渉できる術でなんとかなる。あ、水でもいけるか?」


「よく思いつくものだ。その辺りは我々は何とも言えんが。とにかくだ。話を戻そう」


「調査の件ですね」


 コッフェリさんがラグの言葉に同意を示す。


「ああ。頼めるか?」


「それが仕事ですのでお気になさる必要は御座いません。ですが、どこまで、といった指定は御座いますか? 期間はどの程度か、最終的に下手人を特定するのか、流通ルートの末端だけ把握に留めるか」


「……そうだな。こちらが動いている事を悟られない範囲であれば、より深くといった所か。期間は三ヶ月。網を張り動きを待つならば充分だろう」


「了解しました」


「しかし本当にいいのか? 確たる情報もなく骨折り損になる可能性も否定できん。貴官らの本来の任務を差し置いてまでとは言えん。優先順位としてはかなり低いはず」


「いえ殿下。申し上げた通り仕事ですから。何より私も気になります。それにこう言ってはなんですが待ち望んでいた任務でもあります」


 そう言って懐から出したのはネズミ型ゴーレム。


「なるほどな」


「はい。これがあるならば危険な潜入をしなくて済むというのは、途轍もなく大きいです。殿下の仰ったように解析を進め量産可能かどうか検討を重ねている最中ですので稼働試験としての貴重なデータにもなります」


「ならば良いのだが。しかし横紙破りのような事をしたのは事実。その労に報いる事も俺の責務だろう。何か出来る事があれば言って欲しい」


「ふふっ、殿下は律儀ですね。本来ならば命令をするだけで良いお立場なのですよ?」


「そうは言うがな。世間一般の言う成人年齢に達してはいても、公にまつりごとに口を出せる立場ではないしな。筋は通しておくべきだろう」


「クスッ、そういう事にしておきましょうか」


「ああ、そうしてくれ」


 年上のお姉さんに遣り込められたかのように『敵わんな』といった笑みを浮かべるラグがちょっと新鮮。

 ラグってば年上に弱い?

 なんて考えてオレがニヤニヤしていたら。目を細めたラグが不満そうに口を開く。


「なんだその顔は」


「いやあ別に?」


「……まあいい。それで何か希望する報酬はないかコッフェリ団長。出来る限りの事はするが」


「それでしたら是非にというものがあります」


 オレを見てそんな事をいうコッフェリさん。

 なんだろう。身体でも要求されるかな? まあないだろうけど。ないよね?


「イズミさんの身体を貸してください」


『え゛ッ』


 オレ売られちゃうの? 報酬として売られちゃうの?

 シュテシーナとトーリィが目を剥いている。


「ああ、いえいえ! 違いますよ? 先程のバーニアという技をですね。具体的に教えて頂けないかなと。適正次第とは思いますが可能であれば団員に指導願いたいのです。あと出来れば、対ゴーレムの模擬戦も併せてお願いできればと」


 メカドラゴンに興味があるらしい。遠巻きに何人かの団員の人たちも訓練をしながら、興味のありそうな表情でチラチラと見ていたのは分かってはいたけど。


「構わんが」


「あれっ!? こっちに選択肢はッ!?」


「ない」


「横暴よ、お兄様!」


「リアはそんな事は言わん!」


 みんな見ないフリ、というか顔を背けて口元を押さえてるなあ。

 これ何気に鉄板だね!


「で、どうなんだ? いやなのか?」


「いや? 面白そうだし。こっちとしてもモルモット以外のデータも欲しいからねえ」


『モルモットが定着したっ!?』


 ここまで大人しくしていた三人娘が抗議の声を揃える。

 冗談だよ。


 まあ。ここはお菓子でどうかひとつ。




そんなつもりはなかったのに説明回みたいになってしまいました(´・ω・`)


ここ最近、他の話も書いてみたい衝動ががが。

クソ程遅筆なので、それは無理と言い聞かせている次第です。



ブクマ、評価、感謝です!


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