第百十話 勝負の行方
正直ここまで上手くいくとは。ビックリビックリ。
鉄球と錯覚するほどまで硬質化した泥玉を当て続けて、動きを封じてみたはいいけど、本当に出来るのか確信が持てなかったからな。
大質量の圧力でどうなるかを検証するために作った、巨大泥製水玉風船。
水流で半分ほど中を水で満たして、破城扇で二本のピンに向けて発射。
とんでもない衝撃にビックリしたけど、超硬質化と迎撃障壁の特性を利用して破城扇の衝撃波と反発させたのは我ながら良いアイデアだった。
しかし、ただ転がしたんじゃ、いくら弱らせていたとはいえ避けられるに決まってる。せっかく泥玉を当てまくって、一回でぺしゃんこに出来るように誘導したんだから勿体ない。
水流で中身を動かして、フラフラとさせたのが意外と効果的だったかもしれない。
あっちこっちにフラフラして、どっちに避けていいか判断に迷って結局潰されてたからな。
逃げても当たるまで追いかけ回すけどなッ!
「勝者、イズミッ!」
三度目になる勝ち名乗りに、どういう訳か表情の抜け落ちたイルザスさん。
救護担当者が二人の様子を見てイルザスさんに頷く。異常はなかったという合図だろうか。システム的なエラーも絶対にないとは言い切れないだろうし確認は必須なんだろう。
「勝つのは規定だとは思っていたが……勝ち方がどれも前例がなさ過ぎだ。いつでも構わんが何が何でも時間を作ってもらうぞ?」
ここに来て興味が自制心を押しのけたようだ。
しかし意外だ。聞きようによっては誤解を招くような気がする台詞をこの人が口にするとは。
「えっ……それはひと気のないところで……?」
なので、ちょっとイタズラ心が疼いた。
「バッ!? ば、馬鹿な事を言わんでくれ! ご、誤解だ! ……そんな事したら二人の嫁に殺される……ッ!」
「ふ、ふたり……? すごいっすね……身体もつんですか?」
「……そんな事を若い女性に聞かれたのは初めてだ」
「いや、まあ。あははは……」
つい女の姿だったのを忘れて聞いてしまった。
「俺の言い方も悪かったな。誰か人を交えて明かせる部分だけでもいい。詳細が聞きたい」
そういう事。感想戦みたいな事をしたい訳ね。
「いいですよ。――と、準備が出来たみたいですねえ」
ガシャ、ガシャ、と鎧を鳴らしこちらへと向かってくるルイネルが目に入る。鎧に装飾性の高い布を張り付けたような見た目の上半身。腰部から下は甲冑とスカートを組み合わせたようなファンタジー感溢れるデザインだ。
これは、剣が――
そんな感想を抱いている横でイルザスさんも、ここで意識を切り替えた。
「随分とやってくれたな……だが、あくまで前座に過ぎんという事を教えてやる。貴様程度では俺には勝てないという事をな」
えらく自信がおありの様で。自身が一般騎士より優れているって考えは譲らないと。
んじゃ、何を根拠にして、その思考に至ったのか見せて貰おうかね。
「あんまり大言を吐かないほうが良いと思うけどな。負けた時に血よりも濃い赤っ恥をかくぞ? 自分を追い込むにしてもそれなりの実力がないと無意味だから。あっ、まさか道具の力を自分の力と錯覚してるとか無いよな? まさかね。武芸の沼に嵌ってたら、そんな認識になるはずがない」
ピクリとルイネルの眉が動く。おや、多少自覚があるのか? それともオレにそう思われていると腹を立てたか。
なにやら自信有り気だったから軽くつついてみたが、顔に出過ぎ。
まあオレとしては道具を使おうが何しようが望む結果が得られるなら何でもありってスタンスだから、どうでもいいんだけど。
鉱石龍相手に縛りプレイとか頭おかしいと思うだろ?
「貴様……嫌というほど吠え面をかかせてやる」
「嬉し泣きでもしてやろうか?」
同じ泣き顔でも勝って歓喜の涙を流すぞと宣言してやると、更に目が吊り上がった。
おっほー、怖い怖い。
「……舌戦もいいが、そろそろ本来の目的に移っていいか?」
軽いため息と一緒にイルザスさんに促される。
オレは腕を組んでふんぞり返って、今立っているこの場所が開始位置で構わないと意思表示。
ルイネルも青筋が浮き出そうな顔だったが、自身の開始地点にも異論はないらしい。
「最終戦、結果が出れば如何なる理由があろうと、それは覆らん。そこを肝に銘じて臨むように」
剣を持ち、やや腰を落とした構えを見せるルイネルも、オレと同時に小さくコクリと頷いた。
「それでは――始めッ!!」
バチンッ! と何かを弾く音。腰の装備のギミックか何かか?
ルイネルが広げた掌で空中を横に撫でると、その空中に三つの魔法陣が現れた。
おお? 妙な腰の装備はやはり剣を複数、吊っていたワケか。剣が三つの魔法陣の中心へ吸い込まれるように移動すると、魔法陣が電子回路を思わせる模様へと形を崩し、剣を包み込んだ。
「我がココラフ家に伝わる技、とくと味わえッ!! 【豪化剣乱】」
振り下ろされたルイネルの左手が開戦の合図とでもいうかのように、宙に浮く剣が一斉にオレへと迫る。
そうだよ、こういうのだよ。こういうのこそファンタジーだよ!
剣が同時に何本も空中から襲い掛かるとか楽し過ぎるだろ。
でも、こういうのは扱いが難しいんじゃないかなあ。
僅かにタイミングをずらした三方向からの三連撃は左後方へと素早く移動する事で難なく回避。
そう、要は単なる突きなんだよ。しかも人体っていう障害物がないから、こちらの移動を邪魔できない。そして飛ばしているから急に止めると魔力コストが跳ね上がる。そのまま前方に飛ばし方向転換のほうがコストは低い。故に再攻撃までタイムラグが発生する。
とはいえ、ルイネルもそんな事は承知の上らしい。その隙を利用して接近し斬撃を繰り出す。
ほう、やるね。一回の斬撃の間さえあれば、三本を再び攻撃に使うには充分という訳だ。
しかし慣性が多少なりとも働く分、ソレノイドのように出して引っ込めるという単純な動きを低コストの魔力で再現するのは難しいと見える。
つまり、剣を回転させて斬撃の代わりにするか、さっきのように突きの代わりに直進させるかになる。
他の動かし方もないワケじゃないはずだが、自身が同時に攻撃に加わるとなれば、そこが限界のように思える。
「どうした! 大きな口を叩いておいて防戦一方かッ!」
ルイネルの言う通り防戦一方。だが言い換えればクリーンヒットはないわけで。
ガントレットで弾き、いなし、回避しながら、ルイネルがどこまで回転を上げられるか観察。
見た所、任意と自動の半々といった感じか? どうやらこの辺りが限界値らしい。強化なしで対処できるギリギリのラインといった所か。
「すごいすごい。大道芸で食っていけるな」
「減らず口を……ッ!!」
「いやいや、褒めてるんだって」
「その口、引き裂いてやるッ!」
おー怖っ。僅かに動きが早くなりはしたものの、間隔じゃなくて剣速が増しただけだから対処は問題ない。しかしまあ、このまま続けても見てるほうは退屈だろうし、オレもなんだか飽きてきた。
ここらでオレも趣向を変えるとしようか。
こちらの行動指針を防御から迎撃へシフト。といってもターゲットはルイネルではなく、飛び回ってる武器だ。
おあつらえ向きに、飛剣による突きの単体攻撃がくる。別の言い方をすれば『繋ぎ』になる瞬間が重なった。
「ハッ!」
重い踏み込みの裏拳で剣の刺突を叩き落とす。ただ叩き落すのではなく地面に深々と刺さるようにだ。
案の定、即座の復帰は無理な様子。ルイネルの「チッ」と歪めた表情が想定外の事態だと語っている。
慌てて飛剣二本と自身の攻撃を繰り出そうとするが、狙いが雑だ。何かあると背後への攻撃に頼っているように思える。
その背後から縦回転で迫る剣を左へ半歩動くと同時に身体を開いてかわす。
そして高速に回転している剣の柄を、更に後押しするように右手で思いっきり弾く。
「なッ!?」
そりゃ驚くか。避けるだけならまだしも、強制的に回転を上げて更に自分のほうへと向きを変えられたんだからな。
なんとか剣で弾いたルイネルだが、額が汗で濡れていた。
まさか高速回転する自転車の車輪に、手を突っ込むような真似をするとは思っていなかったようだ。
だが、まだ終わらないぞ。今度は正面から横回転で迫る剣。隙を晒さない為のタイミングとしては申し分ない。
オレが相手でなければ。
目の前にオレを上下に両断しようとする――ここじゃ出来ないんだけど――剣を、柄がこちらに向いた瞬間に掴み取る。
「何だとッ!?」
そんな大げさに驚かれても。でかい手裏剣じゃないんだ、掴める場所があるなら掴むだろ。
今までは飛剣操作の魔法を観察してたからしなかっただけで、その時間はとうに過ぎた。
正直、横回転の攻撃はウザいんだよ。避けるにしても弾くにしても動作が大きくなりがちになる。
でかい手裏剣とかロマン武器に近いけど、掴める所がないから、そっちのほうが余程厄介だ。
もしそうだった場合は早々に蹴り飛ばしてるけどな。
「こっちの番だ」
「グゥッ!?」
右手で掴み取った剣を大上段から振り下ろす。ガギンッ! と鈍い金属音。
想像だにしなかった衝撃だと言わんばかりの驚愕の表情を浮かべてる所悪いが、単発じゃないぞ?
この連続する金属音。地味にノックバックのおまけつき。
どんどん押し込まれても、どうにも出来ないだろう? そういうタイミングと斬撃の角度、そして足捌きで動きを邪魔してるからな。
ルイネルの一か八か――に見える反撃に、身体がくの字に折れるほどの胴薙ぎでカウンター。
「がッ!?」
といっても既に壁際へ押し込んでいたので、それほど吹き飛ばせなかった。
代わりにという訳じゃないが壁激突のダメージが追加になったが。
関係ないけど、この剣、結構丈夫だな。業物という程じゃないが割と出来がいい。
だからといって目の前で堂々とパクるワケにもいかないので返すとしよう。
大きく振りかぶって投げました!
剣先はルイネルの腹部めがけて、吸い込まれるように突き刺さる!
なーんて事にはならない。その脇の壁に深々と突き刺さっただけだ。しかし遠目にはそう錯覚してしまう程の勢いだったらしく、「ひっ!?」という悲鳴がそこかしこから漏れ聞こえた。
「こんな事が……こんな事があってたまるか……ッ!」
壁際で腹部を押さえ、ふら付く足を杖代わりの剣で支え、怒りの色が混じる否定の言葉を荒く吐き出すルイネル。
そして懐から小瓶を取り出し飲み干す。回復薬であろうソレが効いたのか剣の支えなしに両の足で立ち、壁に刺さる剣を逆手に引き抜いた。
うん? んー……まあいいか。
「田舎貴族の護衛官ごときに! 女ごときにッ! この俺が負けるなど、あるものかあッ!!」
おお? 剣が火を噴いたぞ。
翼を広げるように伸ばした両腕に握られた剣が、渦を巻くように炎を纏う。
すごいすごい。またしてもファンタジーバトルそのままの光景。
大きく伸びた炎の切っ先が薙ぎ払う様な斬撃で更に伸びた。
そして左薙ぎ払いに続く袈裟斬りによって足元が吹き飛ばされる。
大きく後方に飛び退いて小爆発からは逃れたが、なかなかの威力だ。これはルイネルにとっての切り札か?
もしそうだとしたら。
とっておきの札を見せてくれたんだ。こちらも何かお返しをしないとな。
好都合な事にルイネルは遠距離戦をお望みらしい。よほどガシガシとやられたのが嫌だったと見える。
火炎放射器に近いがムチのようにも使えるし、それを切り離すように飛ばして爆発炎上といった風にも使い分ける事が出来るようだ。
確かにこれは普通の騎士が剣技だけで相手をするなら骨が折れるだろう。
ちょっとやそっとの技では対抗出来ないかもしれない。調子に乗るだけの根拠があったというわけだ。
だがそれでも普通の騎士というヤツをまだ甘く見ていると言わざるを得ない。
オレの周りだけがそうなのかは知らないが、騎士という生き物は隠した手札を何枚も持っている。
オレがそう思うのは、今まで接した人たちから例外なく何かとっておきがあるんだろうなという匂いがしたからだ。
あの三人娘にだってそういう気配がしたくらいだ。当然あそこの団長と副団長からも。
それを分かった上で調子に乗っているとしたら認識が甘いし、知らずに驕っているいるとしたら度し難いとしか言いようがないが。
それはいいか。今は返礼品をしっかりと、お手元まで届けようじゃないか。
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どうにも目の前の事態が受け入れ難い。そう感じているのは俺だけではないはずだ。
いや教官である俺でさえこうなのだから、学園生など受け入れ難いでは済まないだろう。
特殊連戦による決闘の開始時から明らかにおかしかった。
体術のみによる圧倒、それも赤子を相手にするかのように。相手が槍術であってもそれは変わらなかった。相手が宙に浮いて理解不能の挙動をした事を除けば。
二人同時でも結果は同様。土属性をあのように使うなど俺の中にはない情報だ。
泥玉それ自体は珍しくはないだろうが、その構築速度と目的が常人には不可能なのではないかと思えるようなものだった。魔法を跳ね返すのもそうだ。
巨大な泥玉などもう訳が分からない。あの見た事もない武器も。
そして今、ココラフ家の者と相対している様を見てもその印象は変わらない。
益々訳が分からない。明らかに一対多数を目的とした武芸を身につけているのは理解出来るが、何故その行動を選択をするのかという思考が理解できない。
何かを試しているのだとは思うのだが……。
あとはルイネルが回復薬を飲んだ時の反応も何か引っかかる。
その辺りも後で尋ねるとして。
やはり何を考えているか分からない。ルイネルが奥の手であろう炎剣の攻撃を信じ難い反応速度で避けるのはまだ理解出来る。
しかしその対抗手段がなんというか、思考が飛躍しているというか。
いや、文字通り飛躍しているのだが……
理屈は分かる。移動に合わせて足下の土を操作して自らを宙へと押し上げる。跳躍の補助として地面を瞬間的に隆起させタイミングを合わせる事で距離と高度を稼いだのだろう。
それが常軌を逸した精度と速度であった事が理解の妨げになっているのだが。
あの強烈な打ち込みに落下の力を上乗せするためなら確かに有効かもしれん。
だがルイネルが「バカめッ! 跳躍などいい的だッ!!」と喜色を浮かべた事で分かるように、この状況では的にしかならない。
俺もそう思っていた。
まさか自身に魔法を当て軌道を無理矢理変えるとは。
おそらくこれも検証の一環でもあるのだろう。自身への攻撃魔法がどう作用するのかは説明しなかったからな。魔法を跳ね返した際に気になっただけかもしれないが。
全天周攻撃とでもいうそれは、もはや現実ではない何かを見ているようだった。
超級遺失物の中には常識外の効果をもたらすものが確かにある。それ故の超級遺失物。
しかし、それらを使っているわけではなく、なまじ何をしているのか分かってしまうのが性質が悪い所だ。
主に空気の塊や火炎を至近で爆発させ進路を変える。言葉で表せばそれだけの事である。
発動速度と状況に合わせた発動タイミングや威力、それらの調整が極みに達しているというのが問題なだけだ。
どうかしている。
だが目が離せない。
レックナート卿。確かにこれはとんでもない人物だ。
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やべえ、これ面白ええーッ!
最初に考えていた事が本当に出来るか徐々に試しながらやってみたら、予想以上だった。
原型になる、至近で爆発で空中移動というのは試験済み。だけど、その先のアイデアは試していなかった。
推進力発生位置に身体との相対位置を固定で小規模障壁を展開して爆発で推進力を得る。
主に空中での方向転換の手段として考えていた。異相結界の足場だけでは足りない場合の保険としての意味合いが強かった。
ただ単に爆発させるだけでも用は足りるかもしれないが、どこまで効率的に出来るかを考えてはいたのだ。
障壁の形を変えて、バケツ状や筒状にしてモンロー効果を期待出来ないか等、色々と案を用意していたのを、この場で試したという訳。補助的に足元を土で発射台のように使ってはみたものの慣れると爆発推進だけのほうが使い勝手がいいかもしれない。
まだ完璧という所までは至っていないが、障壁をノズル状にして小型のバーニアのようなものを複数展開という状態にまで漕ぎつけた。
そう、それはまるで。
宇宙空間を縦横無尽に駆け回るモビ〇スーツのよう。
研究の余地はまだまだあるが、今はこれでも充分。
全天360度攻撃圏を形成してガリガリと削っていくのは、ルイネルには悪いが正直楽し過ぎる。
「クッ……ふざけた動きを……ッ!」
「至って真面目だぞ? ふざけてるように見えるのは真剣にふざけてる結果だ」
「ふざけるなああーーーーッ!!」
おかしいな。オレそんなに変な事言ったか? まあいいか。
今までで最大火力になる攻撃も大振りのせいでオレを捉える事は出来なかった。
しかし大きな爆発で地面は抉れ、土煙が舞い、仕切り直しには丁度いいかもしれない。客席から見えないし。
それにルイネルはまだ奥の手がありそうな感じがする。
とはいえ、ここからどうするのか。ガッツン、ガッツンいってたから結構、行動が制限されてきてると思うが。
あぁ……その回復薬を使うわけね。
そして予想通りまだ奥の手があると。
こちらを向いたままルイネルが左手を背後にかざすと。
前四人の着ていた装備が人型に組みあがり、三体の鎧人形が現れた。
なーるほどねえ。このために四人は早々に装備を脱いでいたのか。不足個所を補ったせいで鎧人形では一人減ったと。
「覚悟しろ。今度こそ貴様を捻りつぶしてやるッ! ――【騎士連動】ッ!!」
おお、結構すごいぞ。起動詠唱で一斉にこちらに向かってくる鎧は壮観と言ってもいい程だ。
正真正銘、これが全力という事か。ならオレも条件付きではあるけど全力を尽くすとしよう。
三体とも、どれも中身が無いせいか人間の動きの制限から解放されたような速度と動きだ。
同じ剣三本でもこっちのほうが面倒くさい。人型をしている事で動きの予想がそれに引きずられるのが厄介だ。関節の稼働領域とか微妙に無視してるから、それへの修正対応が必要になる。
目から得る情報の重みってヤツが身に染みる。
それでも、すぐさま修正を終え、三方同時は回避している。
強いて言えば、鎧人形ごと炎のムチで攻撃してくるのがウザい。そこだけはノズルを使ったマニューバで回避しちゃってるんだけど。
剣技だけで相手をしているのに無粋な、と言いたくなるがルイネルにしてみれば知った事かという所だろう。
あぁ、それにしても楽しかった。
さてさて、そろそろ決着をつけようか。
この三体の鎧。多少ひしゃげた程度じゃ動きを止めない。なら徹底的に破壊するしかない。
まずは寄せ集め感丸出しのヤツから。魔力を流した木刀で四肢を切り落とし、それでも繋ぎ直そうとするパーツごと破城扇で叩き潰す。
「おのれッ!」
ゴシャッ、と砕けた鎧が地面にめり込む音。物言わぬ無機物の断末魔。
手勢を減らされたルイネルが、その穴埋めとするべく炎剣の攻撃の手数を増やすも今度は木刀で弾く。
物理現象的な炎だと無理だが、魔法として具現化した炎ならば波長さえ合わせてしまえば可能になる。
「何故だッ! 何故、干渉出来るッ!!」
何故と言われても出来るのだから仕方ない。いい加減ウザいから、その炎剣をなんとかしちまうか。
とかなんとか思っていたら、何やらルイネルの魔力が活性化しているように見える。
ここへきて何をしようってんだ?
いきなりの魔力解放。これは魔石を利用した風魔法か? それ自体に攻撃力は皆無に近い。広範囲の視界を奪う目的のようだが何故、今になって?
そういう事か!
キキンッ! と木刀で弾くとソレが炸裂する。恐らく矢だ。証拠隠滅も兼ねた自壊機能だがオレには届かない。しかし同時に足元に魔法陣が現れる。
鎧人形の攻撃を弾いた僅かな隙に木刀を地面に突き刺し魔法陣を破壊。
面白い事をしてくれる。取り敢えず袖に仕込んであった木の串針を魔力の主のもと目掛けて放つ。「ぐあっ!?」「がッ!」という呻きが聞こえた事で、これ以上邪魔が入らない事を確認。入らないよな? 今の攻撃判定がどうなってるのか知らないが、取り敢えず追撃は無くなった。
ここぞという良いタイミングで仕掛けてきたな。
何の事はない。目くらましをして外野がオレに攻撃をしてきただけの事だ。遠慮なく迎撃させて貰ったがね。どちらにしても死んではいないはず。
舞っていた砂塵が風に流され視界がやや回復してきた。
「なかなかいい攻撃だった。二度目はないけどなッ!」
「くッ!?」
鎧人形の攻撃の間隙を縫って幾つか放った小気弾が炎剣の炎を吹き飛ばす。
起きた事象に僅かな動揺を見せるも、「ならばっ!」とすぐに立て直したのは正直意外。
再び炎剣での攻撃を繰り返すかと思ったが、自らの手で決着を付けたい、となったらしい。
いや魔力を強化に全振りしたほうが確実と判断したか。
鎧人形と共に剣技でオレを仕留める気のようだな。
しかし、それはオレも望む所。変らず三対一でも一向に構わんよ。
三方同時を回避するために、必ず一人を遊兵にしてしまう立ち回りに業を煮やしたんだろう。
ルイネルの攻撃に強引なものが混じるようになってきた。
オレの狙いはこの先。
上段斬りを仕掛けてきた一体の攻撃を逆霞みの上段受けで弾き、そのままの流れで右肘を突進するように叩き込む。そして左の中段掌底。その掌には圧縮された空気塊。鎧に触れた瞬間に炸裂した。
「こんな所で! こんな所で負ける訳にはいかんのだあああッ!!」
二対一。
派手に砕け散った鎧を目の前にして、形振り構っている場合じゃないと悟ったか。
恥もプライドもかなぐり捨てるかのような、がむしゃらな攻撃。だが腐っても特化クラス、基本の沁みついた剣線はなかなかどうして見事だ。
だからといって手心は加えない。
条件付きとはいえ全力で相手をすると決めたからには徹底的にいかしてもらうぞ。
息つく暇もない斬撃を、時に逸らし、時に撃ち落し、二対一という数的不利を剣技や体捌き、歩法から呼吸法、そして視線など、ありとあらゆる技を駆使し覆す。
そしてその時はきた。
二人をギリギリ同時に視界に収める位置取り。だが一刀では対処不可能な位置からの袈裟斬りと横薙ぎ。
これを待っていた。
ッキィンッ!
連なるはずの音が一つに。
オレの全身全霊の技が一人と一体の時間を永遠に奪う。
いや殺してないけどさ。
【舞刀 外華の二十七 燕水仙】
見た者の感想を予想して言うとするならば、真横に近い袈裟斬りをしたはずなのに、気が付けば刀がその始点の方向へ振り抜かれていた。
ぶっちゃけると超高速でV字に斬ったと言えば分かるだろうか。
ただし、相当に特殊な技だ。トーリィなんかは後で色々と聞きたがるかもしれない。
両断された鎧人形と共にその場に崩れ落ちたルイネル。
いつの間にか歓声は止み、その音だけが静かに闘技場内に響いた。
崩れ落ちた、その音にイルザスさんが我に返るように。
「そ、そこまで! 勝者イズミッ!!」
ルイネルの状態を確かめるまでもないといった風に。
あれ……勝ち名乗りが済んだのに歓声がないな……?
何故だ? まさか決着の技としては地味過ぎたとか?
おかしい。とっておきを見せたっていうのに。あれって歴史的にもだけど、技そのものも、かなりの代物なんだけど……。
闘技場内の視線が必要以上にオレに集中している気が……でも、どういう意味で注目してるのかさっぱりだ!
え、なんぞやらかしたッ!?
もしかしてルイネルが死んだとか思ってる? 誰か何か言ってッ!
笑顔なのに汗がダラダラ出てきたんですけどッ!
『オオオオオォォーーーーーッ!!!!』
あ、遅れてきただけか。
とにもかくにも、これでひと先ずは終了と。
あっという間だったな。
戦闘シーンはホント難しいなあ
過程は決めてあるのに、辻褄を合わせるのが一苦労。書き直す回数がどんどん増える……
分かり辛い描写が幾つかあると思いますが、一番格好いい感じで脳内再生してください(他力本願)
ブクマ、評価、感謝感激ッ!!
2020/04/15
最後の辺りを修正