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二神の神託  作者: 柊屋葵
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自己紹介はディナーと共に

 一階に降りると、ぷーんといいニホヒ。

 あ、ヨダレがジュルジュル溢れてきますよ。

 二神の神託による私の待遇はユージィン様に準じる……同じ食事がいただけるから、毎日ウマいメシのオンパレードなんでしょうなぁ。

 ……特にどことは言わないけれど、ふとましくならない方が好ましい場所のサイズには気をつけよう。

 いや、体を見せるような恋人も婚約者もいませんし作れませんけどね。

 私に課せられたのはユージィン様の付き添いを定められた期間遂行する事であって、王立学習院(こ   こ)で男漁りをする事じゃない。

 だいいち貧乏子爵の令嬢なんぞ、あちらの方からお断りってなもんで。

「……連れてきたぞ」

 食堂へ先に入ったユージィン様が声をかけると、中から歓声が聞こえた。

 んぁ?

 ユージィン様に引き続き、私も食堂へ入る。

 やっぱり、ここも広い。

 六人掛けのでっけえテーブルは純白のテーブルクロスに覆われ、五人分の支度がされている。

 ユージィン様が一番奥で、向かって左隣が私の席らしい。

 左手前の席と右側の二つは、三人の男性が埋めていた。

「座れ」

 ユージィン様は、一番奥の席にどっかり腰掛けた。

 ……ガラ悪いですよー。

 左奥の席まで行くと、隣の男性が椅子を引いてくれる。

 おぉ、紳士っ。

 いや、ユージィン様にエスコートされても気まずかったろうけど。

「ありがとうございます」

 紳士な彼を見てお礼を言えば、にっこり爽やかな笑顔を返される。

 いい、いいよこのお方っ!

 ユージィン様みたいに威圧的じゃなくてっ。

 私がへらっと笑ったのを見てユージィン様……眉間に皺寄せて舌打ち、してますよ。

 何故に?

「ユージィン様ー」

「カッコ悪いよー?」

 向かいの席にいた二人は……おおおおおっ。

 双子、美形双子!

 わぁ、双子って初めて見たー!

 猫っ毛の金髪に、焦げ茶色の瞳。

 体つきは女の子みたいに華奢で、細かい仕草もユニゾンしてるー!

「俺、セオフィラス」

「俺、テオドシウス」

 人懐っこい笑顔で、美形双子さんが挨拶してくれたー!

「呼び方は」

「セオとテオでいいよ」

 は……はいはいはい!

「呼び方は堅苦しいし、マイユでいいよね?」

 双子さんの言葉にこくこく頷いていると、にっこり笑って隣の紳士さんが言う。

 サラサラ揺れる青い髪に、漆黒の瞳。

「私はアドルファス。 アドル、と呼んで」

 お、おぉう。

 低く落ち着いたお声は、女の子がメロメロになるやつですよ……相当おモテになると見た。

 一番ぶっきらぼうなのがユージィン様って、どういうこと?

 三人の愛想のよさで、ユージィン様の無愛想を緩和する意図でもあるんですかい?

「セオ様に、テオ様に、アドル様ですね。 私はマイユ・エッシェンバッハと申します。 神託遂行の期間、よろしくお願いいたします」

 普通に挨拶したんだけど……え、なんですかねこの生温かい視線は。

「ユージィン様が、逃がすとは思えないねぇ」

 へぁ?

 アドル様の呟きは、聞こえなかった。

 唇が動いたから、何か言ったのは気づいたけど。

「ふふー」

「とうとうユージィン様にも身のある春がっ」

 お手々を握りあって感涙なセオ様とテオ様の台詞も、わけ分からんですよ。

「お前ら……」

 びき!って感じでユージィン様の額に青筋が浮かぶけど……うわぁ、この人達全然怖がってないよ。

「じゃあ自己紹介も済んだし、食事にしようか」

 ユージィン様の様子を気にした風もなく、アドル様が手を叩いた。

 厨房からワゴンを押して、シェフさんがやってくる。

 それぞれの前にスープ皿を置き、コンソメスープをサーブした。

 浮き身はパセリかクルトンが選べたので、私はクルトンの上にパセリを散らしてもらう。

 食い意地が張っててサーセン。

 スープのサーブとパンにバターが全員に行き渡ったのを確認してから、ユージィン様がスプーンを手に取った。

 ユージィン様が食べ始めると、お三方も食事を始める。

 それを見習って、私もスプーンを手にした。

 黄金色のスープを掬い、一口。

 ぶわっと口の中に広がるお味に、びっくりですよ。

 何種もの野菜を丁寧に煮込んで灰汁を綺麗に除去する工程を、何回繰り返したんだろう。

 野菜とお肉の旨味がぎっちり詰まったスープを、私は夢中になって口に入れた。

 半分くらい飲み干してからがっつきすぎた事に気づき、パンの方に手を伸ばす。

 バターを塗るためにパンを割れば……わぁ!?

 これ、小麦粉だけだぁ。

 うちで食べるパンって全粒粉やライ麦入りのばっかりだったから、白いパンって初めてかも。

 ゼータクー。

 いそいそと、パンを割ってバターをひと塗り。

 んをー!

 表面カリフワ、中もちもち!

 つけたバターもスルッと溶けてじゅんわりして、こりゃスゲー!

 くそぅ、この一食にどんだけお金かけて贅沢してるんだよこのぼっちゃん方は!

「口に合うみたいだね」

 クスクス、という感じに笑みを含んだアドル様の声で我に返る。

 気がつけば、スープもパンも食べ尽くしてました。

 他の人達はおしゃべりしながらゆっくり食べて、半分以上残してる……。

 やっち、まい、ました……。

「取り繕って澄ましてる女共より、よほどいいだろう」

 あまりの事態に呆然としていると、ユージィン様がそう言った。

 ずびっ、と音を立ててスープを啜り終えるユージィン、様……。

 お皿に口つけて、スープ飲み干しましたよ。

 人の事を言えた義理じゃないけどお行儀はどこいった、お行儀は。

「そうだね」

「あーアレね」

 薄ら黒い笑いを浮かべて、セオ様とテオ様が言う。

「たまに押し掛けてくる令嬢に食事をご馳走すると、たいていの人が食事をつつき回して食べずに『ワタシオナカイッパーイ』って言うんだよね。 何なんだろうね、あのかわいこぶった薄ら寒い少食アピールは」

 にっこり笑ったアドル様が、そう説明してくれる。

 ……どうやら、悪い意味に取られてはいないようです。

「お前らもさっさと飲め」

 ユージィン様の声に、お三方もスープを飲み干した。

 ……なんでこの人達、私に優しくしてくれるんでしょう。

 たぶん、ユージィン様の不作法も……私の失態を上書きするためだ。

 どうしよう、泣きそう。

 けど泣いたら、せっかくの気遣いを無駄にする事になる。

「……り、がとう……す」

 泣くのを堪えた小さな声でお礼を言うと、ユージィン様が鼻を鳴らした。

「これからは毎食、こういう食事だ。 身内しかいない今のうちに、恥かかないよう慣らしておけ」

 うん。

 口調がとんがってて荒いだけで、ユージィン様って優しい。

 と、思う。

 素直に断言できないのは、私をガン見する不可解な行動のせいだ。

 あれが私以外の人にもする行動なのか、まだ分かんない。

 ……ところで。

「女『共』って、さすがにひどくない?」

「そんなんだから、女の子に怖がられるんだよー」

 私の思った事を、セオ様とテオ様が代弁してくれる。

「何とか俺を嵌めて結婚しようと虎視眈々と狙う奴らを、そう呼んで悪いか?」

「そりゃ、今までは問題なかったよ? けどこれからは、デリカシーの問題」

 そう言って、アドル様が注意を促す。

「君の毒気に慣れてないマイユを、染めさせてしまうのは忍びないよ」

 へ、私?

「……」

 ブツブツと、ユージィン様が文句を呟く。

 そんな事をしているうちに、メインディッシュが運ばれてきて。

 今度は私も色々気をつけながら、食事を楽しんだ。



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