酔っ払いの口約束
最初から最後まで下ネタにつき、閲覧要注意。
その生温い視線は止めていただけませんね!?
「ユ、ユージィン、様……」
「なんだ?」
ぎえええええええっ!?
わざと、わざとですね!?
耳、耳、耳がくすぐってえええ!
いいお声を耳元で聞かされるのは、想像以上に破壊力ありすぎです!
しかもしゃべると、息が耳にかかる!
唇が耳に触れそう!
首とか肩とか腰がゾワゾワして落ち着きませんったら!
ってか実際に肩がびくびく反応してるのは、ユージィン様気づいてます、よね絶対。
だって、腕が肩をホールドしてますもの。
酔っ払った私、毎日抱き締めてもいいだなんて……なんちゅうおねだりを承諾してるんですかね!?
そしてユージィン様も、なんちゅう事をおねだりしますかね!?
やっぱり女日照りなんでしょー!
手近な奴で間に合わせないでくださいねー!?
うわあああぁん!
酔っ払い同士の戯れ言を、どうしてこの方はしっかり覚えてて実行するんですかー!?
「ひええええっ」
こ、こき、吐息が首筋いいいいいいっ!
すん、と鼻を鳴らすのは……ニホヒを嗅がれてます?
どこの変態さんですかユージィン様ぁー!?
「た、たす、助けええええっ!」
ユージィン様、腕が腰に!
逃がすつもりはないって意志表示ですかぁー!?
「セ、セオ様テオ様ぁ……!」
「えー」
「やだ」
「アドル様ー!?」
「うん、無理」
にええええええっ!
一体どうしてこうなった!?
いや、分かってます。
二週間前のあの日からですよ、ユージィン様がおかしくなったのは。
「ん?」
目が覚めて感じたのは、知らない匂い。
体が沈み込むベッドマットの感触は、体に馴染んだやつじゃない。
ふぁう、と欠伸をして……隣で何かが動く感覚にぎやあっと悲鳴を上げて飛び退いて。
隣で、ユージィン様が寝てました。
どうやら私、酔い潰れてユージィン様のお世話になっていたようです。
ってか。
年頃の男女が同衾して一晩明かすって、どういう事ですかー!?
間違いがあったと主張されても、言い訳できませんよ!?
いや、体に不調はたぶんおそらくないので私は清いままなんですけど!
清いままでなかったら、修道院に入れなくなる所でしたよ。
危ない危ない、こんな体を見られたら私は生きていけません。
暗がりだろうと、体まさぐられればはっきり分かりますしねぇ。
えぇと、時間は……。
閉めたカーテンの隙間から差し込む陽射しは、夜が明けて間もないくらいといった角度でしょうか。
早く起きて、身支度し。
「にぎゃああああ!?」
ユージィン様を起こさないようにベッドからこっそり抜け出ようとしたら、後ろから腕が!
そらびっくりして、声も出ますよ!
「おはよう、マイユ」
あぅ……寝起きのかすれたセクシー声って、反則です。
「おはようございます、ユージィン様」
当たり障りのない挨拶を返し、私はベッドからぁっ!?
べしゃ、っつー感じでベッドに転げ。
ひいいいぃぃぃ!?
なしてユージィン様が、私にのし掛かってらっしゃいますかぁっ!?
「マイ」
発情期の生き物?
獲物をロックオンした肉食獣?
ユージィン様、そんな顔つきで私の頬から首筋を指先でなぞり。
なんか、もう。
ぶわわわわわっ!
全身総毛立つって、こんな感じなんでしょうね。
このままだと女として危ない気がします、切実に。
私は純潔を保ったまま、修道院に行くんだあああーっ!
「ユージィン・ガズラ・エヴァンス公爵閣下」
ええ当然、拒否権を行使させていただきますよ。
「これ以上の接触は付き添い人としての責務の範囲外と判断させていただきます。 よって、直ちに私の即時解放を要求いたします」
私の解放の要求を聞いたユージィン様、笑いました。
ニッコリでなく、ニヤリな感じで。
「成る程。 これがお前の限界か……つまり、この範囲内の行為なら問題ないんだな」
……へ?
「昨夜の事、覚えているか?」
いえさっぱり。
ユージィン様のコレクションをいただいて、ぺろんと味見して。
意外と酒精の強いやつだったみたいで、そこから後はナニやってたか覚えてません。
「俺はしっかり覚えてる」
「ぎゃあ!?」
み、耳、耳いいいぃぃぃ!
耳にフって、フって、フって息いいい!
「これから毎日、俺はお前と手を繋いだり抱き締めたりしてもいい権利をもらった」
………………はい?
「まあ怨むなら自分を怨め。 俺は遠慮なく、もらった権利を行使するからな」
えぇそんな事があって、私はユージィン様に色々されているわけですよ。
セオ様テオ様アドル様はあくまでもユージィン様のお味方ですから、私が助けを求めても笑顔で却下されますし。
それでもあんまり目に余るようでしたらユージィン様を諌めてくださいますから、助けを求めないっちゅう選択肢はありませんよ。
「ひえっひえっひえっ」
ユージィン様の手の甲ガリガリ引っ掻いて、止めてもらえええええっ!?
肩に顎乗った!
ぎえええええええっ!
もう無理、もうやだ限界!
「花摘みしてきますう!」
男性は誰も私に付いてこれない秘奥義『トイレ行ってきます』を発動し、私はなんとかユージィン様の腕から逃げ出した。
なんで昼日中から、ユージィン様にこんな事されなきゃいけないんですよぅ。
ユージィン様にゃ、私を愛人にでもする心積もりでもおありなんですかぃ?
欲求不満なら、他の人といちゃついて解消してくださいよぅ。
私の体は、提供できませんってば。
とりあえずトイレで本当に用を足し、またユージィン様に抱き締められたくないのでちょっと時間を潰してから戻りますか。
時間潰せば、昼休みの残りはそんなにない……すぐにお三方と別れられますし。
この学校昼休みにかなり余裕を持たせてて、たっぷし時間かけて昼ご飯した後に昼寝したり腹ごなしにその辺をランニングしたりしても平気なんですよ。
そんなわけでトイレ行って出てきた私は、リーゼロッテ様とその取り巻きに囲まれました。
「マイユ様」
「近頃、公爵閣下と不謹慎な真似をなさ」
「助けてくださいいいいいっ!」
これぞ天の助け!
ユージィン様から逃げるために、ぜひとも、協力してくださいいいいいっ!
リーゼロッテ様に駆け寄って両手を握ると、貴族にあるまじきオマヌーなお顔をリーゼロッテ様に披露されました。
「……はぁ」
貞操の危機が確実に迫ってくるようなユージィン様の所業をぶちまけると、リーゼロッテ様に呆れた顔をされました。
「酔っ払った時に言質取られてから毎日抱き締められてって……ご自分が迂闊ではありませんか」
うぅ、弁解のしようがございません。
「で、わたくしに何をして欲しいと?」
協力してくださるんですか!?
「私がしばらくお側にいなければユージィン様も頭が冷えて、もっとご自分にふさわしい方を探すと思うんですよ。 現状ユージィン様、血迷って手近な所で間に合わせようとしてますもの。 それじゃあ公爵当主としても一個人としても、まずいと思うんですよね」
私の考えに、リーゼロッテ様は片眉を吊り上げました。
「……わたくしに旨味のあるお話ではございませんわね」
う、断られそう……だ!
「ユージィン様のプライベート情報と引き換えでいかがですか?」
好きなお酒の銘柄とか家具のブランドとか、知られてもさして支障はないけど知りたい人には垂涎ものの情報をっ!
さすがに魔道具でプライベートショットを素っ破抜けとか、まじないをするから髪の毛調達してこいとかは不可ですが。
ええ、私が助かるためならユージィン様の情報くらい必要なだけ売りますよ。
それが何か?




