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二神の神託  作者: 柊屋葵
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事のあらまし

 事の起こりは二ヶ月前、私が私立校に入学する準備を整えていた時の事だった。



「マイユ・エッシェンバッハ子爵令嬢殿」

 着飾った使者が羊皮紙をくるくる広げ、私を呼ばわる。

「そなたは王立学習院に入学し、ユージィン・ガズラ・エヴァンス公爵の世話人となるよう申し付けられている。 ちなみにこれは『二神の神託』を受けた国王陛下の勅命であり、拒否権の行使は許されない」

 勅命のトンデモ内容に、私は目を剥いて硬直するしかなかった。

 ユージィン・ガズラ・エヴァンス公爵。

 先日即位された国王陛下の弟君で、王位継承権の放棄と同時に公爵位を賜った十七歳。

 その気性は建国の祖である初代国王とそっくりな苛烈さを発揮し、武人としての才も同様とか。

 そんな方を、私が、神託によってお世話?

 アリエネー!と叫ばないだけの自制心を誰か褒めてくらさい。

 うちの国は太陽の男神と月の女神の二柱を信奉してるんだけど、お二方は王族に度々接触を試みる。

 国王とその継嗣だけが受け取れるそれは『神託』と呼ばれ、国家運営の重要な指針になる。

 通常はどちらか一方からしか授けられない神託なんだけど、時たまお二方が同時に授ける事がある。

 それがさっきも言われた『二神の神託』で、国がなすべき最重要事項に指定されるんだ。

 そんなもんで私を指名って……どんだけー。

「え、えぇと……王命でございますね、はい。 これでも貴族の端くれ、二神の神託と王命とを拝したからには、微力を尽くさせていただきます。 ですが」

「ですが?」

 使者様の左眉が、ピクリと跳ね上がる。

 眉だけで言いたい事を如実に表現するって、すごいなー。

 さすがは海千山千のバケモ、もとい経験豊富な武官文官の間を泳ぎ回る国王直下のご使者様だ。

「これから予想されます転校に伴う煩雑な手続きや殿下との顔合わせなど、当家で賄いきれるかどうか……」

 暗に『そっちの都合に合わせてやるんだから手伝いの人員くらい割いて寄越せやゴルァ』と言えば、使者様はクスリと笑う。

「それについては誠に勝手ながら、こちらである程度の話を進めております。 陛下より『支度に役立てて欲しい』と金子を預かっておりますので、令嬢におかれましては日用品の買い足しや王立学習院への引っ越し準備などを済ませていただきたい」

 ほ?

「支度金、でございますか?」

「神託を授かったとは言え、公爵当主と子爵令嬢では色々と差分がございます。 陛下は支度金の他に相当額の年金を支給するようお命じになられておりますよ」

 へー、金銭的負担は心配しなくてよしとな。

 それはありがたい。

「細かい条件はこちらに書き出しております。 一度目を通していただきたい」

 はいはい了解。

 私は大きめの別紙を受け取り、サクサク目を通す。

 支度金と年金の具体的な金額、王立学習院の学費の免除、神託を遂行する期間、だいたいどこまで公爵に付き添えばいいのかのガイドライン、拒否権を行使できる事柄、公爵に対する苦情の申し立て先、休日についての取り決め、住居に関するあれこれ等々。

 引っ掛かったのは、住居に関する事柄。

 公爵の住む寮に一室が与えられるって……オイ。

 あ、拒否権の関連項目にそれとない表現で盛り込まれてる。

 赤の他人の男女が一つ屋根の下、だもんね。

 あちらが私に興味なくても、万が一を想定してその辺の予防線はきっちり張ってくれたんだ。

「……あのぅ」

「なんでしょう?」

 心なしか眼差しの優しくなったご使者様が、小首をかしげる。

「閣下の許嫁様は、この事をご存じなのですか?」

 いや、いるかいないか知らないんだけどさ。

 公爵様ならいてもおかしくないし、いたとしたらいい気分になるはずがない話なのは一目瞭然だ。

「そうですね……」

 ご使者様、急に歯切れが悪くなっておりますよ?

「ご存じではらっしゃいます。 ですがお心の内は、我々が関知できる所にないのも事実とだけ」

 ナンカフクザツソウデスナー。

 ……ってか。

「婚約者様が、いらっしゃるんですね?」

 だったら挨拶くらい済ませとかないと、私の身が危うくないかね?

 こちとら経済的にも貴族の格的にもあまり余裕のない、貧乏貴族なんだぞ?

 公爵様の許嫁なら、国内ならば普通は伯爵令嬢以上の身分の女性が選ばれる。

 国外からならば王家の流れを汲む、正真正銘のお姫様が選定されるだろうし。

 貧乏子爵の令嬢なんぞ、吹けば飛ばされちまいますよ?

「……閣下がお心に決めた方がいらっしゃる、とだけ言い置いておきます」

 何なの、この奥歯にものが挟まった言い方。

「今現在、その方の事を心配される事はございませんよ」

 ほーそうか。

 しっかり覚えといてやるぞ、この腹黒め。



 こんな理由があって、私は十五の春からとんでもない役目を負って超一流の教育機関に生徒として在籍する事になりましたとさ。



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