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28話:成果

「それじゃ行くよ、カナリア」

「はい! ではみんな! 行ってまいります!」


 僕とカナリアは、何千人もの下級天使たちに見送られながら、上層の神域――今日行われる儀式の場へと向かった。下層から中層へと上がる途中で崖下を見ると、聖域には銀髪の少女達がひしめきあっていて、まるで一つの巨大な生き物のように見えた。彼女達は僕達の儀式が終わるまで、聖域で無事と成功を祈ってくれるらしい。


 よくよく目を凝らすと、幼女たちの群れの中に、一際変わった影がある。ツグミちゃんを肩車したアシュラだ。何だかんだ言いつつ、彼も僕達を見送ってくれていた。


 中層から上層――下層と違い、開放感溢れる空気に満たされた雲海をゆっくりと飛びながら、白亜の宮殿へと辿り着く。既に入り口には天使達が何人も集まっていて、建物の中からも声が聞こえる。


 僕とカナリアが、空中から入り口付近に降り立つと、天使達の集団が悪意の篭った視線を向けてくる。

 恐らく直前までエミュー達に神力を搾り取られていたのだろう。

 彼女達の顔色は土気色なのに、目だけがやたらぎらぎらとしている。

 僕は特に気にすることなく前を横切ろうとしたが、カナリアの表情が晴れない。


「あの、本当に私が来て良かったのでしょうか?」

「周りの天使の事なら無視しなよ。カナリアのほうがずっと強いし、受ける資格もある」

「は、はい……そうですね」


 今日の僕達は、おそろいの純白のドレスを身に纏い、禊も体がふやけるほどにやってきたので、カナリアの全身からは、ラベンダーのような爽やかな香りが漂っている。中身が男の僕としては、本能的に抱きしめたい衝動に駆られ、冷静なフリをするのに苦労している。


 僕自身は外見にあまり拘らないけど、一応ドレスアップしてきた。表向きは僕がメインということなっているし、娘の入学式にジャージ姿で行く親が居ないのと同じ感覚だ。


 エミュー達との諍いから考えても、今のカナリアの神力も、外見も並みの天使とは比較にならないと思うのだが、カナリアは身を守るように背中を丸め、僕の後を申し訳無さそうに付いて来る。


 原因は分かっている。

 天使達が僕達に向ける悪意と、何より背中の黒い羽だ。

 上級天使である僕に対しての侮蔑の視線は少ないが、その代わり、これ幸いとばかりにカナリアに向けてひそひそと何事かを呟いている。

 あまり聞き取れなかったが、好意的なものではない事だけは雰囲気で理解できた。


「大丈夫、カナリアの羽はとても綺麗だよ」

「そうでしょうか?」


 僕はカナリアに笑いかけると、そのまま彼女の艶やかな羽を撫でた。

 カナリアの羽は、近づいて見ると単純な黒ではない。

 太陽の光を乱反射させ、見る角度によっては、シャボン玉のような虹色を見つける事が出来る。

 お世辞ではなく、とても魅力的な物だと思う。


 けれど、カナリアは完全に萎縮してしまっている。

 前回の儀式の時に受けたトラウマがあるのだから、当然と言えば当然だ。


 完全にアウェーの空気に飲まれているカナリアのため、僕は敢えて天使達の群れに突っ込み、蹴散らすように廊下を進んでいく。すると彼女らは顔色を変え、ゴミ箱に群がっていたカラスが飛び去るみたいに、さっと道を空ける。


 その間、場を和ませるためにカナリアに話題を振ったのだが、彼女は二、三言話すと俯いてしまう。何とか緊張を解いてやりたいと無い知恵を絞っているうちに、無情にも神殿の最奥部分、上神の間に辿り着いてしまった。


 以前は無駄に長く感じられたのに、今はもっと時間が欲しかった。

 着いてしまった以上、入らないわけにも行かず、僕たちは真紅の絨毯の敷き詰められた部屋へ足を踏み入れた。足が埋まってしまうほどふわふわな絨毯も、煌びやかな装飾の壁も、今はどうでもよかった。


「あーら、ミサキ様ご一行が来たわよ? ご機嫌よろしくて?」


 僕達が来るのを待っていたかのように、先に待機していたエミューが嫌味っぽく笑いかけた。

 彼女の傍には、おなじみ妹分のモアがいる。


 ドーム状の天井から柔らかな光が差し込み、エミュー達がスポットライトを浴びているように見えるのだが、あまりにも服飾に気合を入れすぎて、白ペンキを塗りたくった小林幸子みたいになっている。

 その姿を見て噴き出しそうになってしまったけれど、何とか堪える事に成功した。


 壁に掛かる巨大な七色のステンドグラス、コンサートホールのような広々とした空間、真紅の絨毯、清浄な空気、上質の服を纏った天使達――どれも最上級の代物なのに、その全てが噛み合っていない。何というか、合成着色料だけで色を整えたケーキのような、歪な美しさに思えた。


「あらぁ? エミュー姉さま、ご一行って仰られましたけど、この子達たった二人しか居ないわよ?」

「察してあげなさい、モア、ミサキたちにとって、あれが精一杯なのよ」

「これはこれは、失礼致しました。私ったら、相手の立場も察せず、本当に申し訳ないことを仰ってしまいましたわ。でも寛大なミサキ様なら許してくださいますわよね?」

「はあ……」


 エミューとモアが実に馬鹿にした口調で僕達を煽るが、正直どうでもいい。

 エミュー達の周りには、バックダンサーよろしく二十人ほどの天使が後ろに控えていた。

 彼女達はそれなりに着飾ってはいたが、以前と比べて艶がない。

 想像だけど、まだ余力のある連中を演出で連れてきたのだろう。

 対する僕達は二人だけだ。


「儀式を受けるのは上級天使三人とカナリアだけです。それ以外は必要ないでしょう?」

「なぁに? 負け惜しみ?」


 僕の言葉に対し、エミューが鼻で笑う。

 別に負け惜しみでも何でもなく、何で本番にお供を引き連れてきているのか疑問だったのだけど。

 団体競技じゃあるまいし、戦う時はあくまで一人だ。

 戦場には愛と勇気しか持っていけないのだ。

 空を飛ぶ菓子パンのヒーローもそう言っていた。


「皆の者、これより上神の儀式を始める」


 エミューがさらに僕達をけなそうした時、厳かな声が会場全体に響いた。

 部屋の中空に黄金の光が集まりだし、光の中から金髪と、巨大な白い四枚の羽を生やした神――ケツァールさんが姿を現した。


 翼をはためかせ、空中で静止し、僕達を睥睨(へいげい)する。

 その瞬間、天使達全員が床に片膝を付き、頭を垂れた。

 目を付けられて面倒なので、僕も同じように平伏した。

 

 最初に見たときは美しさに感心したものの、現在は神という存在がどんな物か分かっているし、三度目ともなると、またかという感じなのだけど。

 ケツァールさんは僕達の姿を一瞥し、口を開く。


「ふむ、予定通り、上級天使三名とも揃っているな」

「はい、我々はケツァール様に認めて頂く為、前回の儀式以来、毎日、天使達を使い、美しさを磨いて参りました」

「なるほど……エミュー、モア、お前達の髪は随分と伸びているな。だが……」


 そう言ってケツァールさんは、僕のほうにちらりと視線を向けた。

 相変わらず僕の髪型はボブカットのままで、今日になるまで碌に手入れもしていない。

 何か言われるかと思ったけれど、ケツァールさんはため息を一つ吐いただけだった。

 多分、こいつなら仕方ないみたいなキャラとして認識されている感じがある。


「まあいい。すぐに儀式を開始する事も出来そうだが、今回は少し余興を考えている」

「余興……でございますか?」


 エミューの問いに答える様に、ケツァールさんが指をぱちんと鳴らす。

 途端、空中から巨大な鏡が現れ、ビデオカメラのように僕達に向けられた。

 どこかで見たことがある鏡だと思ったら、僕が養鶏場から忍び込んだとき、廊下で見かけたあの姿見だ。


「この遠見の鏡を使い、天界全体にお前達の姿を映そうと思う。特に下級天使は、上神の儀式など本来は見られぬものだ、感謝するが良い」


 つまり実況生中継という訳だ。見られていると思うと若干緊張するけれど、ケツァールさんはカナリアの羽や容姿で突っぱねるということはしないらしい。その辺りを一番心配していたので、まずは第一関門突破だ。


「さてと、では余興と行くか。鼠よ」

「は……むぐっ!?」


 僕は鼠、と呼ばれて返事をしようとしたカナリアの口を押さえる。


「鼠ではありません。カナリアという名前があります。ね、カナリア?」

「は、はい! カナリアと申します。皆様、本日はよろしくお願いいたします」


 カナリアはそう言って、ケツァールさんを始め、回りの人たちに挨拶をした。

 ケツァールさんは眉間に皺を寄せたが、すぐに調子を取り戻しカナリアを一瞥する。カナリアの顔色がどんどん青ざめているが、儀式が始まってしまった以上。下手な口出しは出来ない。


「さて、カナリアよ、早速だがお前には試練を与える」

「試練……ですか?」

「そうだ。お前はミサキの髪を犠牲にし、温情により引き上げられたのだ。純粋な天使達ですら脱落していく中、運のみでこの場に上がるのは不公平だろう? よって、貴様には一次試験をやりなおして貰おう」

「なるほど、それが余興でございますか」


 モアが嗜虐的な笑みを浮かべた。エミューもモア程ではないが、心なしか嬉しそうだ。

 多分、トンボの羽をもぐみたいに、カナリアが失敗するところを見られると思っているのだろう。


「ルールは簡単だ。以前と同じように私の負荷に耐えればよい」

「は、はい!」

「ただし、お前には前回落ちた天使『全員分』の負荷を背負ってもらう。この儀式には、それほどの価値があるという事を、身をもって体験し、散るが良い」

「えっ!?」

「ちょっ……! それは!」


 あの時の全員分……細かく覚えてないけれど、少なくとも百人近く居たはずだ。

 僕が文句を言う前に、ケツァールさんはカナリアに向けて手を広げ、手首をくい、と下に捻る。


「ひれ伏せ」

「うわっ!?」


 カナリアの横に居た僕は、突然突き飛ばされたように体勢を崩した。

 カナリアに急激に重力が掛かったことで、圧縮された空気が僕を吹き飛ばしたのだろう。

 でも、そんな物は些細な驚きだった。

 

 何とカナリアはひれ伏すどころか、重圧に耐えていた。

 両膝に手を付き、今にも潰れそうになりながら、それでも決して折れる事無く必死に堪えていた。


「うっ……ぐぐ……ああっ!」


 カナリアは苦悶の表情を浮かべ、華奢な足に力を籠めて抵抗する。

 ケツァールさんもこれは予想外だったようで、苛立ちながら声を荒げる。


「くっ……! 下級天使の分際で!」


 ケツァールさんが(てのひら)で抑え付けるが、カナリアが踏ん張り立ち上がろうとする度、ケツァールさんの手が少し浮く。するとケツァールさんがまた、ぐい、と押し込んでいくが、すぐに反発する。硬い鉄棒を無理やりに捻じ曲げるように、徐々にケツァールさんの手に力が篭っていく。カナリアも負けては居ない。押し込められれば押し込められるほど、必死に跳ね除けようとする。

 僕は拳を硬く握りながら、カナリアにひたすら祈りを送る。


 ――そして、均衡が崩れた。


「うあっ!?」


 カナリアの手が汗で膝から滑り、そのまま体勢を崩して床へと倒れた。

 絨毯に埋もれるように倒れ伏したカナリアを見て、ケツァールさんは満足げに笑うと、掌を引っ込めた。

 それはつまり、カナリアの試験の失敗を意味していた。


「ようやく倒れたか。どうやったかは知らぬが、少しばかり力を付けたようだな。特別に褒めてやろう」

「はぁ……はぁ……ぁ……あ……ああぁ……」


 カナリアは肩で荒い息をしながら、絨毯の上にへたり込み、焦点の合わない目でケツァールさんを眺めていた。


「無様ね」


 エミューがそう呟いた瞬間、カナリアがびくりと震える。


「あははははは! 無様、無様だわ! 上級天使の寵愛を受けた癖に、結局、一番大事な所で失敗するのよ! あんたには出来る事なんか何にもなくて、地べたを這いずり回っているのがお似合いよ!」

「……うぅ」

「だから最初にあんたを見つけた時、エミュー姉さまと忠告してあげたじゃない。『あんたみたいな下級天使が参加するだけ無駄よ』ってね」

「……ううううぅぅうぅ! うわああああああんっ!」


 モアが(わら)うと、カナリアは火がついたように号泣した。

 幼子のような感情をむき出しにした泣き方。ぐしゃぐしゃになった顔。それが滑稽に映ったのか、周りの天使達も哄笑する。その耳障りな笑い声の中、エミューがカナリアに向かっていく。


「ねえ、一生懸命努力して、努力して努力して、それでも報われないってどんな気持ち? 私たち、そういう事をしなくてもいいように生まれてきたの。是非知りたいわ。あなたの口から聞きた……ぶっ!?」


 エミューが歌うように紡いでいた言葉は最後まで続かなかった。

 何故なら、僕がエミューの横っ面を引っ叩いたからだ。

 自分が何をされたかエミューは分からなかったようだが、状況に理解が追いつくと、噛み付くように僕を睨む。


「何するのよ! いきなり暴力を振るうなんて!」

「すみません。耳元でハエが五月蝿(うるさ)かったので、つい手を振ってしまいました」 

「神域にハエが居るわけないでしょ!」

「居たんですよ。ハエが」


 激昂する『ハエ』の前を横切り、へたり込んだままのカナリアに歩み寄る。

 エミューが僕に平手打ちをしようとするのを、モアが慌てて止めるのが横目に見えた。

 ケツァールさんの前で痴話喧嘩をすると、品性を疑われるからという考えだろう。

 当然僕もその対象だろうけど、知ったことじゃない。


「カナリア」

「……あ、ああ、あ、あの……わた、わた、し……!」


 僕は出来る限り優しい声色で、カナリアに語りかけた。

 カナリアは怯えきっていて、初めて僕と会ったときみたいに縮こまっていた。

 雨に濡れた子猫のように震えるその体を、僕は包み込むように抱きしめて、耳元で囁いた。


「凄いね。良く頑張った」

「…………え?」


 カナリアのくしゃくしゃになった顔を、僕はドレスの裾で拭ってやる。

 未だに虚脱状態の彼女を片腕に抱え、抱きすくめながら助け起こす。


「凄い? どこが? その鼠、儀式をクリア出来なかったじゃない」

「カナリアという名前があると言ってるじゃないですか。何度も同じ事を聞き返すなんて、あなた達の背中に生えてる真っ白な翼は、鳥頭の象徴なんですか?」


 僕がわざと刺々しい言い方をすると、エミューは平手打ちの件がぶり返したように険悪な表情で僕を睨んだ。


「本当にそういう汚い言葉だけは上手なのね! それより、教えてもらおうかしら。あなたの可愛い可愛いカナリアちゃんは、結局、何の成果も出してくれなかったのよ?」

「成果なら出してくれました」

「何ですって?」


 僕の言葉に、エミュー達よりカナリアのほうが驚いていた。

 僕は彼女の目を真っ直ぐに見て微笑んでやる。

 彼女が好きな少し強めの撫で方で髪を透き、エミュー達に向き直る。


「この子は……下級天使達は、あなた方の欲望のために全ての記憶を失い、奴隷のような状態に貶められました。その中で必死に生き延び、下級天使達のリーダーを務め、力を付けたのです。そして純正の天使ですら耐えられない負荷に対し、抵抗を見せたのです。どうです? 素晴らしい成長だと思いませんか?」


 僕の言葉に対し、エミューとモアが同時にフハッと噴き出した。

 他の天使達も、同調するように、にやにやと薄ら笑いを浮かべている。


「あは、あははははっ! 何を言い出すかと思ったら! まさか『努力したこと自体が素晴らしい』なんて陳腐な台詞を言うつもり?」

「良く分かりましたね。その通りです」

「……っ! あはははははははっ!」


 僕が真顔で答えるのが余程おかしかったのか、エミューとモア、それに周りの天使達もゲラゲラと笑い転げている。


 一体何がそんなにおかしいのか、僕にはさっぱり理解出来ない。

 確かにカナリアは失敗してしまった。

 でも、下級天使の彼女がこの場に立てるほどに成長し、圧倒的強者に一矢報いた。

 それは、素晴らしい快挙なのじゃないか。

 怪我をした者がリハビリのために歩く一歩と、恵まれた体格のアスリートとでは、同じ一歩でも意味合いが違うのだから。


「静まれ」


 僕達のやり取りを、芝居でも見るように静観していたケツァールさんが口を挟んだ。

 エミュー達は雷に打たれたように居住まいを正したが、僕はわざとワンテンポ遅れてケツァールさんに顔を向けた。

 他の天使達のようにひざまずかないし、怯えた子供のように縋り付いているカナリアも抱き抱えたままだ。


「ミサキよ、上神の儀式において、私の決めたルールこそが絶対であり、そのルールをカナリアは突破出来なかった。その事実に間違いはあるまい」

「その通りです」

「ならば、お前なりの理論をどれだけ述べようが、結果が覆らない事も理解できるだろう」

「結果を変えて貰う気はありません。ただ、伝えておきたかっただけです」

「なるほど。お前は意見を伝えた。そして、私はお前の言葉を何とも思わぬ。以上だ。貴様の飼っているペットがどれだけ曲芸を覚えようが、この世界には何の役にも立たないと覚えておけ」


 後ろからやってきたエミューが、僕の肩にぽんと手を置いた。

 これまで見たこと無いほど残忍で、上機嫌な表情だ。


「残念だったわねぇ。あなたがどれだけ訴えても、結果が全てなのよ?」

「そうですね」


 そうだ、結果が全てだ。

 与えられたノルマを越えられなくて「僕達頑張りました」で済めばどれだけ楽か。

 でも、それでも、僕はどうしても声に出して、こいつらに言いたかった。

 負けていった者達、善良な者達の生きてきた証、例え理解されないとしても、伝わらなくても、誰かが言葉にして、世界に発信しなければならない。


 カナリアは――下級天使達は、今までずっと不遇な扱いを受けていたんだ。

 観客全員が野次を飛ばしてくる中で、誰か一人くらい、君は頑張った、偉いって褒めてくれる人間が居たっていいじゃないか。


「さて、これにて余興は終了だ。なかなか面白い見世物であった。ではこれより、上神の儀式の二次試験を開始する」


 ケツァールさんがぱんと手を叩く。

 前座は終わりという事らしい。

 いよいよ僕を含めた上神の儀式が開始される。

 宣言と共に、モアとエミューの眼が獲物を狙う猛禽のように変化する。

 彼女達にしてみれば、自分達の出世と、僕を天界から追放できるダブルチャンスなのだ。


 殺気立っている彼女達には悪いけれど、僕は全く別のことを考えていた。

 僕はカナリアの髪を優しく撫でてやると、腕の中から彼女を離す。

 不安そうなカナリアに軽く手を振って、僕はケツァールさんの前にひざまずく。


「ケツァール様、上神の儀式の前に、私からお伝えしたい事があるのですが、よろしいですか?」

「何だ? カナリアの件でまだ食い下がる気か?」


 面倒臭そうに宙に浮かぶケツァールさんを見上げ、僕は首を振る。


「違います。私、上級天使ミサキは、上神の儀式を辞退させていただきます」


 僕は胸を張り、絶対者であるケツァールさんに対し、高らかにそう宣言した。


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