26話:黒羽
モア達が放った業火が炸裂し、飛び出してきたカナリアを包み込む。
永遠に感じられるほどの刹那、目の前が真っ赤に染まる。
それが炎のせいなのか、僕の心境なのか、頭の中がぐちゃぐちゃで良く分からない。
ただ、燃え盛る火柱が何メートルも伸びている現実がそこにあった。
「あ……」
肺から息が漏れる。
膝に力が入らない。
嘘だ。
何かの冗談だ。
そんな僕を無視するかのように、炎はますます勢いを強めていく。
「あらぁ? ごめんなさいね、手が滑っちゃった。だっていきなり飛び出してくるんですものぉ」
甘ったるい猫なで声が、耳障りに聞こえてくる。
石膏で固められたような首を無理やり上に向けると、エミューが頬に手を当てて、ぺろっと舌を出すのが見えた。
「嘘を吐くなっ!」
僕はあらん限りの感情を吐き出そうとしたけれど、それしか言えなかった。
心の中にはどす黒い罵詈雑言が渦巻いているが、あまりにも激しすぎて口がうまく回らない。
「だから事故よ事故。羽虫が飛んで火に入った。それだけの事でしょう?」
「…………言いたい事はそれだけですか?」
エミューにしなだれかかられたモアが、冗談めかして肩をすくめる。
その口調は実に軽やかで、ちょっとした悪戯程度にしか考えていないのがありありと感じ取れる。
心の底から、人を殺したいと思った事はこれが初めてだった。
今の僕を鏡で見たら、きっと殺人鬼も青ざめるのではないだろうか。
その証拠に、モアとエミューはあからさまに狼狽した表情を作る。
「な、何をそんなに怒ってるのよ? たかが下級天使一匹でしょ!?」
「うるさい」
何マジになっちゃってるの? と言いたげな表情だが、それが一層僕の心を掻き毟る。
僕がうだうだと甘っちょろい事を考えていたから、カナリア――あの愛くるしい少女は消えてしまったのだ。
この高慢ちきなお美しい連中を、カナリアと同じ目に合わせてやる。
出来るかどうかは分からないが、そうしなければならない。
今までは力を制御しようとしてきたけれど、もうその必要も無い。殺意を拳に集中させると、膨大な神力が集まるのを感じた。周りの下級天使もそれを敏感に察知したみたいだけど、彼女達に危害を加えるつもりは無い、怖がらせて申し訳ないけど、少しだけ僕の我が侭に付き合って欲しい。
「ちょ、ちょっと! 本気で私たちとやり合うつもり!? あんた、後の事を考えて……」
「うるさいって言ってるんですよ! 先に喧嘩をふっかけてきたのはあなた達じゃないですか。相手を殴る時は、殴り返される事も考えるべきです」
これ以上ぐだぐだと喋る気はない。
この傲慢な天使共を叩き伏せる、今の僕にはそれしか無い。
彼女達にはたかが一匹の下級天使でも、僕にとってカナリアは唯一無二の存在だった。
自慢の健脚に力を籠め、地面を蹴ってあいつらに拳を叩きこむ――勝つのは難しいかもしれないけど、痛手くらいは負わせてやる。
「はああああああっ!!」
そんな思いを胸に滾らせ、大地を蹴る一瞬前、凛とした叫び声が下層に響く。
けれど、それは僕の口から放たれたものではない。
その声の放たれた元は――
「カナリアっ!!」
ごうっ、とくぐもった音と共に、巨大な火柱が、ろうそくの火を吹き消すみたいに掻き消えた。
そして中心部には、粗末な衣に身を包んだ銀髪の少女――カナリアが立っていた。
僕はエミュー達に向けようとしていた力を全力で横方向に傾け、カナリアの華奢な体を抱きしめた。
ほんのりと暖かく、柔らかい体温、小柄でふわふわの銀髪、幽霊でも死体でもない。生きてる……本当に。しかも驚いたことに、どこも火傷もケガも無い。
一瞬だけ気絶していたカナリアは、僕にお姫様だっこされながら腕の中で目を開けた。
カナリアと僕の視線が交差する。
「「よかった……」」
カナリアと僕は、お互い、同時に同じ言葉を口にした。
言葉はそれだけだったけれど、二人ともその意味が理解できた。
僕はカナリアの無事を。
彼女は僕の無事を。
本当に良かったと思ったのだ。それ以外に余計な成分は何も入っていない。
「ミサキ様……お怪我はありませんか?」
「私は平気、カナリアが盾になってくれたから……カナリア、本当に何とも無いの?」
「はい、大丈夫です。ミサキ様が私にお力を注いでくれましたから」
そう言って、カナリアはにっこりと笑った。
精神的な疲れはあるものの、肉体的には本当に問題無いみたいで、屈んでいた僕の腕から抜け出すと、まるで僕を守るように、堂々と天使達に向き直った。
「そ、そんな……! 嘘でしょ!? 私たちの攻撃が下級天使に防がれるなんて!」
「嘘だわ……嘘に決まってるわ!」
エミューもモアも、嘘だ嘘だとおろおろしていて、それが伝播したように取り巻きの天使達も慌てふためいている。
「凄いよカナリア! いつ、そんなこと出来るようになったの!?」
「え、ええと、自分でも驚いています……ただ、ミサキ様をお守りしなきゃって必死で……あれ? は、羽が!?」
今まで気が動転して意識をしていなかったが、僕も、そしてカナリア自身もようやく体の変化に気付いた。カナリアの背中には、今までの小さな鳩のような灰色の羽ではなく、巨大なカラスを思わせる、漆黒の翼が生えていた。一方で、エミュー達は下級天使ごときに自慢の力をかき消された事実の方が重要らしく、ただ、わなわなと拳を固めていた。
「この……! 計画変更よ! ミサキ、カナリア……二人共々この場で始末してやるわ!」
「エミュー姉さま!? そんな事をしたらケツァール様にお叱りを受けてしまいます!」
「大丈夫よ! こいつらは異世界に足を踏み込んでいるんだもの、不幸な事故と言い張ればバレやしないわ!」
プライドを踏み躙られたのが余程堪えたのか、エミューは髪を逆立て吼える。
僕だけではなくカナリアも『敵』と認識したようだ。
「ご安心ください。ミサキ様は私がお守りします」
カナリアは僕に笑顔で笑いかけるけれど、彼女の体が少し震えているのが分かった。
彼女が上級天使の力を一瞬だけど凌駕したのは事実だ。でもその力はまるで未知数。僕自身も荒事には慣れていないので、本気で攻撃されたらかなり不味い。
――その時、唐突に、ずん、と空気の振動が木霊した。
「な、何よあれは……!?」
再び攻撃態勢を取ろうとしていたエミューが喫驚するも、僕も、カナリアも、アシュラも、下級天使の皆も答えない。いや、答えられない。
何故ならその轟音は、とっくに廃棄された巨大ロボ――救世主が立ち上がる音だったからだ。
無骨かつシンプルな四肢をゆるりと動かし、白い大地に足を突き立て不恰好に起き上がる。
それはまるで、眠っていた恐竜が目覚めるようだ。
呆然と見ている僕達をギャラリーにして、救世主は完全に直立二足歩行の姿になる。
相変わらず小学生の工作みたいなデザインだが、こうして外から動いている姿を見ると、無駄に大きいということ、それだけで威圧感を感じさせる。
まして、この世界においては最も高貴とされる『白』で構成された巨人なのだ。
救世主が足を一歩踏み出すと、それだけで空気が振え、足音が臓腑に響く。
右に左に重心を傾け、迫りくる巨人を見つめていたエミューは、憎悪と畏怖をない交ぜにした視線を僕に移す。
「ミサキ! これがあんたの切り札って訳ね!」
「いやいやいや!」
僕は反射的に否定してしまったが、幸か不幸かエミュー達は救世主に気を取られ、まるで聞いちゃいなかった。
ていうか、操縦してないのに何で勝手に動いてるんだ。
これじゃまるで幽霊船じゃないか。
ところが、カナリア含む下級天使達は、この巨大なポンコツを、僕が操っていると完全に思い込んでいるらしい。さらにエミュー達天使族が怯んでいるのを見て取ったのか、俄然勢いづく。
「ミサキ様の作成した巨人は、ちょっとやそっとじゃ壊せませんよ! 驚きましたか! これがミサキ様の真の力なのです!」
「あ、あの……カナリアさん、あんまり煽らないほうが……」
僕はカナリアをやんわりと宥めるが、カナリアは激昂し、格上の天使達を鋭い目線で威嚇する。
自分が焼き殺されそうになったことより、僕が吹き飛ばされたことがとにかく腹に据えかねているようだ。
下級天使達も皆、カナリアと同意見らしく、当事者である僕を抜きに状況だけがどんどん加速していく。
「(ま、まずい……非常にまずい!)」
僕は表向き冷静さを保とうと努力しつつ、背中では冷や汗をだらだらと垂らしていた。
だって、救世主が何で勝手に動いてるのか、僕にはさっぱり分からない。
暴走して襲い掛かってくるかもしれないのだ。
幸い、救世主は僕のすぐ後ろまで歩み寄ると、そこでぴたりと足を止める。
とりあえずこれ以上動く気は無いらしい。
構図だけで言えば、狼狽したごく少数の天使族達、そして僕とカナリア、巨人を取り囲む無数の下級天使達という形になった。何となく形勢が有利になった気もするけど、何気にこれは不味い。格下相手の道楽ならば相手も舐めてかかってくるけど、これが全面戦争になれば、向こうも全力で襲い掛かってくるだろう。そうなると下級天使達にも被害が及んでしまう。
「くっ……! 調子に乗るんじゃないわ!」
案の定、プライドの高いエミューは徹底抗戦の構えを取った。
初めて見る案山子に驚いた鳥みたいに、モアはまだ攻撃に乗り気ではないようで、後ろの天使は言わずもがなだ。
だが、上級天使のトップであるエミューの特攻命令では仕方ない。
ヤバイヤバイ! どうしよう……
『お前達、何をしている?』
パニック状態の思考に割り込むように、頭の中で厳かな声が響く。
幻聴かと思ったけど、僕だけではなくこの場の全員が辺りを見回しているのだから、どうやら違うらしい。
数秒も経たないうちに、空が黄金色に輝く。
金のオーロラのような空を背景に、一人の天使が現れる。
それは、輝くばかりの金髪と美貌を湛え、人の背丈よりも大きな四枚の純白な翼を携えた女性――上神の儀式で中心に立っていた――
「け、ケツァール様……!」
エミューが金魚みたいに口をぱくぱくさせながら、かろうじてその名を口にした。
下級天使たちは、まるで宇宙人でも見たように、ただ呆けた表情を作っている。
多分、こんな下層に神が降りてくる事など、これまでなかったのだろう。
全く、今日は本当に予想外の来客が多い日だ。
「な、何故、ケツァール様がこのようなむさくるしい場所に!? ここはあなた様には相応しくありません!」
モアが弁解するように口を開く。
その言葉は震えていて、まるで万引きの現場を取り押さえられた女子高生みたいだった。
多分、僕を始末うんたらの部分を聞かれたと思っているんだろう。
ケツァールさんは特にそのあたりに言及する気はないのか、不満げにエミュー、モア、そして僕を一瞥し、ため息を一つだけ吐いた。
「久しぶりに神域から出てみたら、辺りに上級天使が全く居らぬのでな……一体何をしているのかと足を伸ばせば、こんな場所で雁首揃えている姿を見つけたという訳だ。それで、一体何をしている? 茶会の日程調整でもしていたか?」
「そ、その! 私とモアが、ミサキに教育指導をしていたところなのです! この女は、淑女のたしなみがまるで分かっていないばかりか、あまつさえ天界に薄汚い野良犬を持ち込んだのです! 上級天使として、あるまじき行為だと思いませんか!?」
「ほう……その野良犬か?」
エミューはケツァールさんに弁解し、直後に90度を越す勢いで頭を下げる。
下級天使をよこせ、アシュラのことはどうでもいいと言っていたのに、アシュラを起点に僕を糾弾しだす。
多分、下級天使に頼っている部分を見せたくなかったのだろう。
ケツァールさんは僕を一瞥し、かぶりを振る。
「お前は本当に次から次へと問題を起こしてくれるな……お陰で退屈せぬぞ」
「申し訳ありません。なにぶん性分な物でして」
「して、何故そのような行為をした? 私の許可無しで異物を持ち込むなど、本来あってはならぬことだぞ?」
「報告をしなかった事は謝ります。ただ、ケツァールさ……様のためでもあるのです」
「私のため? それはどういう事だ?」
「この人狼を良く見て下さい。白く、美しい毛並みだと思いませんか? ケツァール様は以前、私のような変り種をコレクションに加えるのも悪くない、と仰っていました。そのために私が異世界で調達してきたのです。今は躾の途中ですが、天使とはまた違う魅力となる。そうは思いませんか?」
「躾って、お前な……!」
「しっ! 黙ってて!」
僕が小声で注意すると、アシュラはしぶしぶ矛を収めた。
勿論、嘘八百である。まあ一応申し訳ないと思っているのは事実なのだが、如何せんこの天界は退屈だし窮屈すぎるんだから、多少変な物を混ぜてもいいんじゃないかと言うのが僕の気持ちだ。
通じるかは分からないが、ケツァールさんは暫く目を閉じていたが、もったいぶりながら額に手を当てる。
「本来ならお前を罰するべきなのだが、私のため、と言う気持ちは汲んでおこう。とりあえずこの件は保留とする……」
「ケツァール様! 幾らなんでもそれは……!」
「何だ? 私の言葉に不満でもあるのか?」
「僭越ながら、私の意見を述べさせていただいてもよろしいでしょうか。偉大なるケツァール様」
興奮気味のエミューに代わり、光り輝く白い翼を丁寧に畳み、モアが両手でドレスの裾をつまんで会釈する。
先ほどまで、僕をあんた呼ばわりして哄笑していた人物とは思えないその変わり身に、僕は社交界の恐ろしさに身震いしていた。
これが処世術って奴なんだろうなあ。
モアの態度に多少気を良くしたのか、ケツァールさんが目を細める。
「……いいだろう。話してみるがよい」
「ケツァール様は少しミサキに甘すぎるのでは無いでしょうか? 今現在、天界に居る上級天使は、私とエミュー姉さま、そしてミサキの三名のみ。上に立つ物に規範が無ければ、下々の者どもに示しが付かないのでは?」
「ふぅむ……」
モアの意見より、天界には今、三人しか上級天使が居ないというのが僕にとっては衝撃だった。
自分でも気付かないうちに、凄まじいポジションに組み込まれていたのだ。
そりゃマークもされるし、下級天使達が浮かれるわけだ。
「確かに、エミュー達の意見も一理あるな……よし、ではこうしよう。今この場で、次回の上神の儀式の開催を決定する。二日後だ」
「えっ……」
エミューもモアも、そして僕達も、不意打ちを喰らったように短く声を上げる。
当のケツァールさんは、実に良い事を思いついたとばかりに、一人で鷹揚に頷きながら言葉を続ける。
「お前達も知ってのとおり、次の上神の儀式は一段階厳しいものになる。私と同じ、神の位に上がる物を見極めるためにな。その合否を持ってミサキの審判としようではないか。私と同格の存在になれたなら、ミサキの行動は『神の意思』とみなし、天界において金科玉条の決まりとなる。ただし、失敗すればその野良犬ともども天界を追放とする……どうだ、このくらいが落としどころではないか?」
ケツァールさんの言葉に対し、エミューは顎に手を当て、少し逡巡してから口を開く。
「それは、私たちが神となった場合も、『神の意思』としてミサキを処罰しても構わないと捉えてもよろしいでしょうか?」
「そうなるな。ただし、ミサキが神に上り詰めた場合も、お前達より格上の存在となるという事もありえるがな」
「ええ、心得ております」
エミューはそう言うと、謹んでお受けしますと答えた。
僕は良いとも悪いとも言わなかったのだが、沈黙を肯定とみなされたのか、はたまた会話するのが面倒になったのか、ケツァールさんはこれで用事は済んだとばかりに、大きな翼をはためかせ、大空を舞う鳥のように自分の神域へと戻っていった。何だか、ゲームをやりたくて家に引きこもるジンさんを思わせる行為だ。
ケツァールさんが完全に姿を消すと空の色は元の青色に戻った。
そして、緊張のほぐれたエミューが、長い髪を撫でながら実に上機嫌で喋り出す。
「ふふふ、可哀想なミサキ。いくら巨人を作ったとしても、上神の儀式には何の役にも立たないわよ? 結局、力だけじゃ何にもならないって事ね」
「でも、結構びびってましたよね?」
「……うるさいっ! とにかく、あなたの実力は大体把握したわ。髪も全然伸びてないし、前より弱くなってるんじゃない? さ、モア、もうこんな場所に用はないし、早く帰りましょ」
「ええ、お姉さま、こうしちゃいられないわ。早く帰ってさらに磨きに磨きをかけましょう!」
「あ、あの……エミュー様、モア様、下級天使達の回収は……」
付き添いで来ていた天使達が、おずおずとエミュー達に進言をする。
実際、上神の儀式に関われるのはモアとエミューだけで、ここで下級天使を攫えなければ、一般の天使達は、限界まで神力を搾り取られるのだろう。
そう考えると少しだけ同情するが、これが因果応報という奴なのだろう。
「そんな連中どうだっていいわ。今は上神の儀式の追い込みのほうが大事よ。その後でまた回収しに来ればいいでしょ! 気が利かないわね!」
「は、はい……わかり、ました」
予想通りというか何というか、エミューとモアは天使達の要望をあっさり却下した。
今は唐突に決まった儀式対策で、頭がいっぱいなのだろう。
結局、天使達は死んだ魚のような目になりながら不承不承頷いた。
エミューとモアは、僕達に侮蔑の視線を向けながら、わざと上空を旋回し、力を誇示するようにゆっくりと上昇していった、天使達は疲労のピークなのか、若干おぼつかない飛び方で彼女らに従っていたが、その隊列はばらばらで、空の彼方に吸い込まれるように去っていった。
「とうとう来ちゃったね……カナリア、分かってるよね?」
「は、はい! 私、ミサキ様の期待にこたえられるよう、精一杯頑張ります!」
カナリアは両手の拳に力を籠め、僕に強い意思の篭った視線を送る。
その意気込みが微笑ましくて、僕は彼女の頭を軽く撫でる。
エミュー達は気付いているのだろうか。
僕の力が弱まっているのは、この小さな下級天使に託しているからだという事、そして、下級天使達が集めてくれた力と、ジンさんから受け取った神力も潜んでいるという事実に。
エミュー達が消え去った空は、まるで南の島の海のように青々と澄み渡っていて、僕はテレビで見たサンゴ礁の話を思い出した。
サンゴ礁のある光り輝く青い海という物は、全体の水量からしたら薄皮一枚にも満たないらしい。
本当に海流を動かしている膨大な力は、光の届かない深海でひっそりと蠢いているのだとか。
そういった世界の裏側、見えない部分を、神や天使達は想像しているのだろうか。
それにカナリアの一瞬見せたあの力。
これはもしかしたら、本当にもしかするかもしれない――そんな事を思いつつ、僕は口元を緩めた。




