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12話:ドレスアップ!

 聖域での豆腐騒動は未だに熱気冷めぬ様相だったが、一足早く僕とカナリアは帰宅した。

 何かお言葉をと、マスコミのインタビューの如く下級天使たちから迫られたので、『答えは貴方達の中にあります』と僕ははぐらかした。


 それでも何故か皆は感動し、まるで僕を現人神のように見送ってくれた。

 下級天使達は多分、今も豆腐の前で両腕を組み、敬虔な祈りを捧げているのだろう。

 そう考えると騙しているようで気が引けたが、あの巨大豆腐達はそのまま設置しておく事に決めた。


 別に豆腐が暴れる訳でも無いし、それで彼女達のすさんだ心の潤いになるならと考えたのだ。

 何を信じているかというより、信じられる物があるという事が重要なのだと思う――と僕は自分に言い聞かせる。


 本当は美味しいご飯を作ろうと思ったのに。

 どうしてこうなった。


「ミサキさま、お帰りっ!」

「ミサキさま、お帰りなさい……」


 家に入るや否や、イカルちゃんとアトリちゃんが子犬のように飛び出してくる。


「ミサキさまが結界を張ってくれたってホント? 私も見たかったなぁ……」

「私たちも行きたかったけど、ツグミがまだ病み上がりだから、見てろってカナリア姉さまの声が届いたの」

「あはは……」


 イカルちゃんとアトリちゃんが悔しそうに口を尖らせたので、僕は曖昧に笑って流した。

 正直、あの件はあまり触れられたくない。

 エーテル固定に関しては今度もこっそりと練習しよう。


「ミサキしゃま……だっこー」


 まだ少し眠たそうにしているツグミちゃんが部屋の奥から出てくると、僕に向かって両手を上げる。


「ツグミ、わがまま言っちゃ駄目。ほら、私が抱っこしてあげるから」

「ミサキしゃまがいい!」


 カナリアさんの申し出を断固拒否し、ツグミちゃんは僕を所望する。

 ううむ、随分と懐かれてしまったようだ。


「いいよ。おいでツグミちゃん」

「み、ミサキ様!? よろしいのですか?」

「構わないよ。それじゃ、カナリアには食事の用意をして貰おうかな?」

「……分かりました」


 カナリアは少し申し訳無さそうにしていたけれど、割とすんなり言う事を聞いてくれた。

 そのまま僕は、ツグミちゃんを抱っこする。

 寝起きの小さな体はまだぽかぽかしていて、湯たんぽを抱いているような感触になる。


「おっぱい……」

「あ、ちょ、ちょっと!?」


 ツグミちゃんを横抱きに抱いた途端、彼女は僕の着ていた肩紐をずらし、すかさず胸元に吸い付く。

 

「(き、昨日より上手になってる……!?)」


 昨日は成り行き上仕方なく授乳する事になってしまったが、単にくすぐったいだけだった。

 でも今は何かこう……いや、あまりこの感触を意識するのは良くない。


「つ、ツグミ! ミサキ様が寛大な方だからって、あまり我が侭ばかり言っちゃ駄目!」

「まあ子供のすることだから……」

「あ、あの! ミサキ様、つかぬ事をお伺いしますが、ミサキ様の胸は子供なら吸っても良いのでしょうか?」

「うーん……ま、まあ小さい子なら……」

「小さいとは、どの位までなら大丈夫なのでしょうかっ!?」

「……なんか妙に食いつくね?」

「い、いえ! 何でもないです! 朝食の準備をさせていただきますね!」


 カナリアは顔を真っ赤にして、くるりと背を向けた。

 何だろう。何かとてつもない危険を感じたのだが。


 それから間もなく、カナリアは僕とイカルちゃん、アトリちゃん、ツグミちゃん、そして自分用の朝食を作り出す。意識を集中させ、エネルギーを放出し固定する。聖水の時と同様だ。

 驚くべき事に、五人分なのに三十秒も経っていない。

 某クッキング番組も真っ青の速度だ。

 そうして出来上がった物を、カナリアは一個ずつ配っていく。


「これは何?」

「エーテルブロックと呼ばれる物です。ミサキ様はあまり食べられた事は無いのですか?」

「角砂糖みたいだね……これ一個だけ?」

「……カクザトウとは何でしょうか?」

「ああ、こっちの話。気にしないでいいよ。皆はこれで足りるのかな?」

「下級天使としては十分な量だと思います。ミサキ様には足りないかもしれませんが、そもそもミサキ様ほどのお力があれば、あまり補給をする必要も無いかもしれません」

「ああ、別にお腹が空いてるわけじゃないよ。ありがとうね」


 僕の力が強いせいか、飢えも渇きも全く感じていないのだが、どうしても天界の食事をしてみたかったのだ。


「いただきまーす!」

「いただきます……」

「いただきましゅ」


 三者三様に食事の挨拶をして、白く小さな塊を食べていく。

 みんな特に疑問に思ってないみたいだし、多分これが日常風景なのだろう。

 僕も彼女達に倣って、カナリアさんに礼を言い、口にそれを放り込む。


「あ、あの……お味のほうはいかがでしょうか?」

「凄く美味しい。チョコレートみたいな感じだね」

「ちょこれーと?」

「あ、それも無いか……」


 やっぱり人間が住んでいた場所とは根本的に食文化が違うようだ。

 イカルちゃん達も、お腹が一杯になったようでお腹をさすっている。

 あんな小さな塊なのに、満腹感は十分得られたようだ。


「カナリア姉さまのごはん凄く美味しいんだよ。天使様にも好評でよく作りに行ってるの」

「へえ……下級天使って色々やるんだね」

「私は生まれたときから手先だけは器用でしたから」


 アトリちゃんの説明に、カナリアは照れ臭そうに答える。

 

 食事の後、暫く時間が空いたので、カナリアにこの世界について色々と聞く事が出来た。

 大気中のエーテルから何でも作れてしまうのだから、さぞ便利だと思っていたが、実際にはそうでも無いらしい。


 天使達は神力というエネルギーで体を構成されていて、何もしなくても自然と消費されてしまう。

 なのでエーテルを加工・吸収し、体を維持する行為は絶対に必要なのだ。

 その辺は普通の生物と変わらない。


 だが、肝心の食事を作るためには、神力を消費しなければならない。

 下級天使は所持している神力が低いため、個人ではまともにエーテル固定が出来ない。

 カナリアのような強力な下級天使は本当に稀有な存在で、他の下級天使達は、数人で協力し合ったりして何とか食いつないでいるらしい。


 そこで登場するのが天使族だ。

 彼女らは自分達の神力消費を抑えるため、禊や食事の労力を下級天使から搾り取る。

 その代価として雀の涙ほどの神力を分けてくれるらしい。

 サラリーマンの給料みたいなものだろう。 

 途中で使い物にならなくなっても、多少手間を掛ければ補充は幾らでも出来る。


 下級天使を小間使いにして浮いた分、天使族は自分の力を磨き、上級天使や神の座を目指す。

 反面、力を奪い続けられる下級天使達は、いつまで経っても食うや食わずの生活を強いられる。


「弱りきった天使達はどうなるの?」

「ツグミと同様、徐々に黒い穢れに侵されます。あれが完全に回ってしまうと、全身が黒くドロドロになって、その後は風化して、光の粒子になるのです」

「粒子になって……その後は?」

「分かりません……」


 まあ僕も、死後の世界にこんな場所があるなんて思いもしなかった。

 ただ基本的に天界は、不浄な物を残さないシステムになっているらしい。

 死体も残らず、腐敗も無い。ある意味、理想的な世界なのだろう。

 けれどそれは、生きた証も残らないという事でもある。

 

「あの聖域は、単に神聖な場所として決めたわけじゃないんです。消えていってしまった同胞達が、あそこで眠っている、見守っている、そんな祈りも籠めているのです。だから、ミサキ様に結界を張っていただいた事は、亡くなった下級天使も喜んでいると思います」

「そっか……」


 あと少し遅ければ、ツグミちゃんもその仲間入りをしていたのだろう。

 あの豆腐、産廃だと思っていたけれど、卒塔婆程度になったのなら無駄ではなかったのかもしれない。


「そんな状況なのに、偉い(ケツァール)様は普段何をしてるの?」

「ケツァール様は、基本的に私たちの事は気にしていないと思われます。恐らく、世界全体を美術品のように整える事に集中しておられるのかと」

「うーん……」


 上司が現場にしゃしゃり出てくるのが必ずしもいい事とは限らないけど、あの人の態度から察するに、インテリアの水槽をたまに眺める程度の感覚のような気がする。

 生き物がどういう気持ちで生きているか、あまり興味が無いのかも。


 水槽で思い出したけど、熱帯魚とかの育成で一番重要なのは、実は魚そのものより、バクテリアという小さな生命だったりする。これを上手く扱うことで、不純物を分解する小さな環境循環システム――いわば小さな世界そのものを作れるのだ。


 扱いは難しいが、それさえ出来てしまえば、水質などの維持が格段に楽になる。

 現状の天界は、少し歪だけれど似たような構造なのかもしれない。

 お世辞にも良いとは言えないが、生物が生きていられるから問題無しとする。そんな環境だ。

 今はそんな事を考えていても仕方ない。やるべきことは沢山ある。


「さてと、食事も済んだし。そろそろ本題に入ろうか」

「は、はい!」


 本題。そう、具体的にこれからの行動を決めなくてはならない。

 カナリアも休んで大分回復したようだし、どのくらいのリミットがあるのかまだ分からないけれど、次の上神の儀式に備えなければならないし、早いに越した事は無いだろう。


「本題と言いますと、まずはミサキ様のお召し物の件ですね」

「えっ」


 予想の斜め上を行く回答に、僕は面食らう。


「いや、そうじゃなくてね……」

「ミサキ様、私の事を思っていただけるのはとても嬉しいです……ですが! ミサキ様のその痛々しいお姿、そのままにしておくわけにはいきません!」


 そう言うと、カナリアは表情を引き締める。

 確かに、今の僕の格好はひどい物だ。

 ぼろぼろに破いたサマードレス一枚で、所々に皺も出来てよれよれになっている。


「うーん……確かにこれはひどい。でも私、他に洋服なんて持って無いよ?」

「大丈夫です! 私が腕によりを掛けて作らせていただきますっ!」


 カナリアは両手の拳を握り、気合の入れっぷりをアピールする。


「え、カナリアは洋服も作れるの?」

「はい。でも私の力だけではあまり良い物は作れませんので、ミサキ様の髪を使わせていただいて良いでしょうか?」

「私の髪? そういえば神力が含まれているって言ってたっけ?」

「その通りです。数本も使わせていただければ、恐らく最上級のお洋服が作れると思います。お時間もそんなに掛かりませんし」

「そんなのも作れるんだ。凄いなぁ……」


 まあ主人がよれよれの服を着ていたら、付き従う部下は不安になるだろう。

 下級天使たちの名誉のためにも、あんまり周りに指差されるような格好をするのは止めた方が良いだろう。


「うー……」


 そんな会話をしていると、下の方からうめき声が聞こえてきた。

 僕の破れたスカートの裾を掴んだツグミちゃんが、重そうな瞼を擦っている。

 どうやらおねむの時間らしい。


「ねむぃ……」

「ツグミ、もう少しだけ我慢してくれる? ミサキ様のお洋服を作ったら、一緒に寝てあげるから」

「ああ、それじゃツグミちゃんは私が寝かしつけておくよ」

「……本当に申し訳ありません。その代わり、素晴らしいものを作って見せます! イカル、アトリ、ちょっと手伝ってくれるかしら?」

「あいさ!」

「はーい!」


 三人は嬉々とした雰囲気で、何やら相談を始めた。

 どうも僕の服のデザインを考えてくれているみたいだ。

 やはり女の子なのか、ファッションについて話し合っている姿は普通の子と変わらないな。


 僕は眠そうなツグミちゃんを抱き、彼女達の邪魔にならないよう二階へと昇る。

 そのまま、昨日ツグミちゃんが寝ていたベッドへ彼女を寝かしつける。


「カナリアねえしゃまたち、なにしてるの?」

「私の新しい服を作ってくれるんだって。どんなのが出来るのかなぁ」


 そうして暫くぽんぽんと優しく撫でてやると、ツグミちゃんは直ぐに眠りに落ちた。

 すうすうと安心しきった寝息を聞いていると、こちらの心も穏やかになる。


「どんな服が出来てくるのかなあ……」


 さてさて、彼女達はどんな服を作ってくれるのか。

 おしゃれのセンスは無いし、職場と家を往復する毎日を送っていたので、女の子に服を見立ててもらうなんて、当然これまでの人生で無かったのだ。


 そして、この世界は今まで僕が生きてきた世界とは違う。

 僕に似合うかは分からないが、全く違う文化の服を着るのは楽しみだ。

 コスプレをする人は『違う自分になれる気がする』なんて言っていたけれど、多分こんな気持ちなんだろうな。


「ミサキさまっ! 出来たよ!」

「すごいのが出来たよ! はやくはやく!」


 それから暫く待っていると、興奮したイカルちゃんとアトリちゃんが階下から声を掛けてきた。

 どうやら洋服が完成したらしい。

 どんな物が出来たのだろう。カッコいい鎧とかだとちょっと嬉しいのだけど。


「ミサキ様! 出来ました! 渾身の一品ですっ!」

「こ……これはっ!?」


 そうして出来上がった服を見て、思わず僕は飛び上がった。

 カナリアの服飾技術は、僕の想像以上の物だった。

 最高級の布をふんだんに使い、太陽の光を凝縮したような爽やかな光沢を放つ――純白のドレスだった。

 

「(しまった! 僕は今、女の姿をしてたんだ!)」


 自分のあまりの馬鹿さ加減に眩暈がした。

 僕が女の姿をしてるんだから、作られる物も女物に決まってるじゃないか!

 ファンタジーの勇者が着るようなびしっとした服の幻想が、僕の頭の中でガラガラと崩れていく。


 それにしてもこれは凄い。凄すぎる。

 何段にも重なるふわっふわのフリルに、何個もあしらわれた可愛らしいリボンがアクセントを添える。

 ゴシックドレスという奴なのだろうか。

 こんなに華やかなドレスなら、女の子なら誰でも着たがるだろう――女の子ならね。

 

「如何でしょうか? 自分で言うのも何ですけど、これほどのドレスを身に着けている天使族はなかなか居ないと思います。やはりミサキ様の神力は桁違いですね!」

「えー、カナリア姉ちゃん、本当にミサキ様の力だけかなぁ?」

「姉さま、他の天使に頼まれてた服とぜんぜん違うやり方だった。いつもは嫌々やってたのに、今日は十倍くらい頑張ってたもんね」

「よ、余計なこと言わないの!」


 どうやらカナリアは、相当気合を入れて作ってくれたようだ。

 その気持ちは本当にありがたい。非常にありがたいのだけど、


「あの……これを着るの? 私が?」

「はいっ!」


 どうしよう。すっごい笑顔だ。

 この子がこんな顔をするなんて、よっぽど上手に作れたんだろうな。

 

「ええと……私はもう少しラフっていうか、適当っていうか、ぞんざいに扱ってもらったほうがいいんだけど。ほら、私は乱暴だから、破っちゃったりしちゃうかもしれないし、作業着とかジーパンとか……」

「お気に召しませんでしたか? 自信作だったんですけど……」


 まずい、カナリアの表情が(かげ)ってきた。


「駄目じゃない! 全然駄目じゃない! いや寧ろ凄いっていうか、こんなの作れるなんて本当に凄いと思うよ! いや、ほんと! 何ていうの? 芸術性っていうか、天性の感性っていうか、何かそういう凄いパワーを感じさせるから、凄い大丈夫!」

「では、着ていただけますか?」

「そ、それはその……」

「やっぱり私なんかじゃ駄目なんですね! あああ……私はなんて馬鹿なんでしょう! ちょっとミサキ様に褒められたからって、すぐ調子に乗って!」

「お、落ち着いて! そういう意味じゃなくてね……!」

「では何が駄目なのですか!? サギョーギやジーパンとは何ですか!?」


 そういえば、この世界に男が居ないし、下級天使にされた段階で普通は記憶を消されるんだった。

 だから彼女には男物という概念そのものが無いんだ。


 そうなると自分で作るしかないが、豆腐しか出せない僕が服なんて複雑なものを作れる筈も無い。

 現状だと、腹をくくるしか無かった。



 ◆ ◇ ◆



「わぁ……なんて素敵なんでしょう……」

「ミサキさま……きれい」

「うん……すごいね」


 自分では着方の分からないドレスを、カナリア達はせっせと僕に着せてくれた。

 ドレスアップした僕の姿を見て、彼女らはため息を漏らす。

 口調からして皮肉でもなんでもなく、本当に美しいと思っているようだ。


 カナリアはエーテル固定で、即席の姿見を作ってくれた。

 そこに映し出されていた姿は――自分であるのが腹立たしいほどの美姫であった。

 雪色の肌に雲色のドレス、そして漆黒の髪と鳶色の目が、絶妙なコントラストを作り出す。

 主観を入れずに見てみれば、人によっては神であるケツァールさんよりも美しく見えるかもしれない。


 唯一の欠点は中身が僕だと言う事だね。

 羊頭狗肉とはまさにこのことだ。


「あ、あのさ……カナリア」

「はい? 何でしょう?」

「このドレス、カナリアが着たりしない?」


 僕は一縷の望みを籠めて、このドレスをカナリアに押し付けることを提案する。

 本来こういった物は、彼女のように無垢な女性が着るべきものなのだ。

 間違っても男が着ていい類の物ではない。

 しかし、カナリアは首を横に振る。


「いいえ、それはミサキ様の力を借り、ミサキ様のためだけ作り上げたものですから」

「でもさ、女の子なんだしドレスとか着たいでしょ? カナリアが着ている服はあまり良い物に見えないし」

「私を気遣ってくださっているのですね……でも大丈夫です。私にはこれがありますから」


 そう言って、カナリアは近くの壁に手を入れる。

 余談だけど、この部屋に物置がないのは、壁の中に直接色々と収納できるかららしい。


 さて、カナリアが宝石を取り扱うように丁重に取り出した物は、黒い蛇みたいな髪の束だった。

 昨日僕が切り落とした物だ。

 何をするのかと思ったら、カナリアはそれをマフラーのようにぐるりと首筋に巻きつけた。


「こうしていると、ミサキ様に縛られているような気持ちになるんです……」

「……………………」


 どうしよう。

 何だかこの子、少し危ない方向に進んでいるような気がする。

 しかしその原因が僕だと思うと、あまり強く咎めることも出来ない。


「カナリア姉ちゃんばっかりずるい! 私もミサキさまの髪ほしい!」

「……私も欲しいな」


 イカルちゃんとアトリちゃんまで、僕の髪を欲しがってしまった。


「ミサキ様、この子達に少しだけ分けてあげてもよろしいでしょうか?」

「まあいいけど……」


 そう言うと、カナリアは首に巻いていた髪の束から、数本を抜いて二人に分け与えた。

 イカルちゃんとアトリちゃんは、実に嬉しそうに僕の髪を受け取ると、そのまま自分達の髪をカナリアに結ってもらっていた。

 二人とも髪の量が少ないので、ピッグテールみたいな感じになっている。


「上級天使さまの加護だよ! すごいねアトリっ!」

「う、うん! ミサキさま、私たちきっとお役に立つからね!」


 御伽噺のお姫様が着るような壮麗なドレスに身を包みながら、僕は本当にこの子達を正しい方向に導けるのか、暗澹たる思いを抱えるのだった。

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