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心苦しくも私もゆとり世代でございます  作者: はいじ


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(5)

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そして、現在。



「24歳!?甘木と同い年!?」

「38歳!?宮野さんと同い年!?」


大宰府と甘木は宮野が予約していた個室に共に居た。

奥に大宰府と宮野が隣同士になり、大宰府の正面に春日、宮野の正面に甘木が座っている。

元々4人席だったそこは、少し手狭感は拭えないが丁度いい人数配分となっていた。


そして、互いにそこに居合わせた全員が顔見知りという事が発覚し、それと同時に。


大宰府と春日はここに来てやっと、互いの本当の年齢を知ったのだった。


「「俺はてっきり、同い年くらいかなぁと」」


そう互いの顔を見合わせて見事ハモった二人に、それを見ていた宮野と甘木は「ブハッ!」と勢いよく吹き出していた。


「同い年くらいかなぁと思って生じる14歳差とか奇跡だぜ!ウケるこいつら!!」

「春ちゃん、38歳は見間違われ方としては最長なんじゃない?」


そう言って大爆笑の中繰り広げられる外野のゴチャゴチャしたリアクションの中、未だに大宰府と春日は互いの顔をまじまじと見合っていた。

そこには互いに様々な想いがあるだろうが、只一つ共通している想いは「14差なんて信じられない」である。

その後に続くのが、「こんなに若いのに」「こんなに老けてるのに」のどちらかという違いだけだ。


「つーか、大宰府!お前こないだ言ってたクリスマスに会った尊敬できる人ってコイツかよ!」


「ああ」


「確かあの時お前、初心を忘れず部下と接してどうのとか言ってたよなぁ!初心を忘れてるわけねぇよ!だってこいつ絶賛初心中だもんなぁ!」


「…………」


そう言ってやはり大爆笑する宮野の言葉など大宰府には耳に入ってきていなかった。

ただ、照れたように「そんな事思って頂けてたんですね」と笑う春日の姿に、とにかく胸を高鳴らせていた。

そして、やっと時折感じていた春日の若さや幼さの正体に合点が言った。

何故なら、春日は本当にまだ幼く、若いのだ。


そんな大宰府の視線の先にある春日、その隣に座る甘木。二人は大学の同級生らしく、互いの呼び名が“春ちゃん”と“五郎丸くん”だ。

大の大人がどんな呼びあい方だよ、と突っ込みたくなるが、大学では皆がそう呼びあっていたらしい。

ちなみに、五郎丸というのは甘木の下の名前だ。彼の軟弱さに似合わず古風で凛とした名前である。所以、聞いた誰もが「名前負けしてるな」と思う。


「まさか、大宰府さんが五郎丸くんの先輩だったなんて。ほんとに若くて格好いいから、同い年くらいだと思ってました」


「ぶははっ!大宰府!お前もう24歳になちゃえよ!行けるって!今度合コンで24歳って言い張れ!」


「できるか馬鹿!バレたら俺、どんだけ赤っ恥だよ!見栄っ張りもいいとこだぞ!」


そう言って宮野に向かって怒鳴る大宰府に、春日は泣き腫らした目のままいつもののんびりとした雰囲気を取り戻していた。

そして、やはりのほほんと言い放つ。


「じゃあ、俺は合コンで38歳独身で、大宰府さんの上司という設定で合コンに参加しようと思います」


その、余りにも突拍子もない割にのんびりとした言葉に、それを聞いた宮野の腹はよじれ、甘木は目を瞬かせた。

しかし、ただ一人大宰府だけはその瞬間、頬を染め目を輝かせていた。


「是非!その設定で二人で飲みに行きましょう!」


「あれ?合コンじゃ」


「いや、是非二人で!」


「そうですね。合コンは余り得意じゃないので、その方がいいかもしれません」


「よっしゃ!俺が部下で春日さんが上司ですよ!」


それだと上司部下の設定は必要なのかと甘木がポカンとしていると、最早腹筋崩壊とばかりに息を切らせていた宮野が同じように息絶え絶えで叫んでいた。


「なっ、何なのお前ら……!それ天然なのか!?面白いので是非その設定で飲みに行っちゃってください!!!是非俺も影から見守りますので!!ぶぶぶっ!」


「っじゃあ!お、俺も一緒に行きたいです!み、み、み、宮野さん!」


「おお!来い来い!俺達は通常の上司部下の設定で!!」


ちゃっかりと自分もと宮野に乗っかる甘木の顔は、その瞬間歓喜の色に染められていた。

それは、「仕事を辞めます」と思い悩んでいる人間の顔では、一切なかった。

そんな、甘木の表情に宮野は笑いながら前に座る甘木の頭を撫でてやった。


「お前、こんな大宰府に迷惑かける事に引け目を感じるなよ。さっきも言ったように人は誰かに面倒をかけた分は誰かの面倒を見てやる事で返して行くんだ。コイツは普段俺に面倒をかけてる分を、お前で清算してるだけだから、気にせず毎日迷惑かけろ!」


「っっっっは、はっいっ!」


宮野の言葉に甘木は首がちぎれんばかりブンブンと縦に振った。

その言葉に大宰府は「はぁ!?」と隣に座る宮野に食ってかかる。なにやら先程、とてつもなく納得いかない事を言われたような気がする。


「いつ俺がお前に迷惑をかけた!宮野!」


「いつも迷惑かけっぱなしのお前がよく言うぜ!まずお前が歩くとモノが壊れる!そして、新人にどう接していいかわかんねぇって半泣きで毎日電話してきてた4月の事を、俺は忘れたとは言わせねぇ!」


「何言ってんだよ!?お前場所と人間考えてからそう言う事は言え!?威厳とかなくなったらどうすんだ!殴るぞ!」


「それこそ威厳を無くすと思いますがねぇ、大宰府さん」


そう言ってうすら笑いを浮かべられた大宰府は拳を握りしめながら眉間をヒクつかせた。

そんな表情豊かな大宰府の姿を初めて目にする甘木は、ただただ驚くばかりだった。


「お前こそ、店出す為の資金繰りとかその他諸々手伝ってやった恩を忘れたとは言わせない!俺がお前に世話かけた分は、残りの時間春日さんの下僕のように過ごす事で返していけ!」


「なんでそうなる!?」


そう、何気なく二人の間で交わされた“出店”“資金繰り”という言葉に、それまでニコニコと笑っていた春日は刮目した。

そういえば、春日は宮野の退職について詳しい事を一切聞いていない。


「宮野さん!なんで仕事辞めるんですか!?」


そう、突如として悲壮感がぶり返してきた春日に宮野は「あぁ、そう言えばまだ話してなかったな」と、目の前にあったクシをつまみながら春日を見た。


「俺、店出すんだわ」


「へ!?」


余りに突然な宮野の言葉に春日はポカンとした表情でモグモグとクシを食べまくる宮野を見ていた。しかし、説明が面倒になったのか宮野は隣に座る大宰府の肩をポンと叩いた。代わりに頼む。むしゃむしゃと食事に手を付ける宮野は無言で大宰府にそう伝えた。

そんな、宮野に大宰府は溜息をつきながらも「そうですね」と、春日に向かって口を開いた。


「コイツの学生時代からの夢なんですよ。店出す事は」


「店って……何の?」


「えっと、純喫茶かな」


「オラ!お前なに人の店を純喫茶とか言っちゃってんだよ!?古いわ!死語だわ!」


そう、今までクシを食べる事に夢中になっていた宮野が春日に向かって説明していた大宰府に食ってかかる。しかし、怒鳴られた大宰府は一体なにがいけなかったのかわからないせいか、「はぁ?」という顔で宮野を見て言った。


「いや、だって純喫茶だろ」


「……見ろ!平成ゆとり生まれがポカンとしてるだろうが!“純喫茶って何?”って顔してるだろうがっ!ほらほら、お前の部下なんてすかさずスマホで検索し始めたよ。見ろよ、お前、これが平成生まれのゆとり達だぞ」


はぁ、と宮野はただひたすらに何がいけないのかわかっていない大宰府を横目でジト見した。いまどき“純喫茶”なんて標榜してオープンする喫茶店なんてあるわけがない。昔からある喫茶店ならまだしも。

そう、宮野が酒に手をかけた時、先程までスマホで“純喫茶”の検索をかけていた甘木が納得したように声を上げた。


「カフェみたいなものですね!」


「今度はもうめっちゃお洒落に言ってくれたなぁ!ゆとり世代!うん!そうだよカフェだ!そして、大宰府!やっぱお前24歳設定無理だわ!話してたらすぐバレるわ!」


「な…、そこまで言うか?」


「喫茶店を純喫茶なんて言うようなヤツは平成生まれじゃ通らねぇよ!馬鹿!」


そんな嵐のようなやり取りをぼんやりと眺めていた春日だったが、それまで悲壮感に満ちていた顔がその瞬間パァァと明るくなった。

大宰府と宮野の会話のペースは速すぎて、のんびり屋の春日にはタイムリーに乗っかる事が出来ないが、会話のふとした隙間に割り込む事には春日はとても長けているのだ。


「凄いです!宮野さん!脱サラして店出すなんて!ドキュメンタリーみたいですね!」


「そうだろ、そうだろ。俺は大学時代から練っていた計画だったからな。辞めるにあたって新人を一から育てる事で、上からは退職を受理してもらったんだ。だから、春日、お前は俺の夢の為の生贄だったんだよ」


「生贄……ですか」


「そうだ、だからお前には俺の夢を成功すんなと呪う権利をやろう」


「いえ、俺はそんな……」


宮野らしい、どこかハッキリしたモノ言いに春日は苦笑せざる負えなかった。

“生贄”とは言い得て妙。確かにその通りだ。

宮野は自分の夢の為に、春日という新人を育てる事を決めた。自分が居なくなってもいいように、1年間、みっちりとつきっきりで社会人のいろはを教えた。

けれど、宮野の夢と春日の1年間には、実質なんの関係もない。

ただ、あるのは必死になって春日の道しるべとなって前に立ってくれていた宮野陣という上司が居たという事実だけだ。


「俺は宮野さんの夢が成功するように祈ります。俺の社会人1年目に、宮野さんという素晴らしい上司がついて下さった事は俺にとって誇りです」


春日は突然改まった口調でそう言うと、自分の斜め前に座る宮野に向かって静かに頭を下げた。そんな春日の行動に宮野は静かに息を飲むと、ゴクリと音を立てて唾を呑み下した。

それを大宰府は横目に見て「あぁ、コイツは苦手なのにな。こういうの」と密かに思った。

わざと、明るく装うのが宮野陣という男だ。

湿っぽいのが嫌いで、だが誰よりも情に厚い男だ。


「お疲れ様です。今までありがとうございました」


「…………」


「俺、宮野さんの夢、応援しています」


そう言って春日が顔を上げた瞬間。


「やーめーろーよー!そう言うの、ほんと、やーめーろぉぉ!!!」


春日の斜め前で、先程までカラカラと笑っていた筈の宮野が手で目を抑えながら号泣していた。オウオウと派手に涙を流しまくる宮野の姿に、春日もつられるように、引きずられるように引いていた涙が次から次へと流れ始めた。


「ひぃぃぃん!宮野ざん!やっばり辞めないでくだざいぃぃ!俺まだぜんぜんわかりまぜんん!」


「それは無理だぁぁ!ごめんなぁぁ!っひううう」


「でずよねぇぇ!俺不安でごわいでず!宮野ざん、俺これがら一人でどうじまじょううう!」


小さな個室で4人中2人が号泣し始めたカオスな空間で、何故かつられて泣きそうになっている甘木。

それを見て大宰府は、とりあえず落ち着こうと目の前の生ビールに手をかけた。

するとそれと同時に、何やらモヤモヤとした感情が大宰府を埋め尽くしているのに大宰府は気付いた。


それは、なにやらこの隣に座る旧友宮野に向かっているモヤモヤのようで。

目の前には宮野の為に泣き腫らす春日の姿。

気に入らない。そう、大宰府が思った瞬間、彼の手は滑っていた。


「うあっ!?」


「うおい!?大宰府!?お前このタイミングで何やらかしてんだコノヤロウ!!スーツがビシャビシャになっちまったじゃねぇか!?うあうああ」


「タオル!タオル!五郎丸くん!店員さん呼んで!ひぃっく」


「っは、うんっっひく」


「悪いな、いや、ほんと悪いな。宮野」


「なんだその明らかに悪びれてない感じ!わざとか!?お前わざとか!?」


「いや、悪い悪い。ほんと俺はそそっかしくて」


「絶対わざとだろ!?ぶっ飛ばすぞ!」


「うあああ!俺の携帯も濡れてる!どうしよう春ちゃん!」


「五郎丸くん、それ防水だって俺にこないだ言ってなかったっけ?」


「あ、そうだった!」


泣きながら、キレながら、驚きながら、慌てながら、ホッとしながら、そして、泣きながら。

その個室空間は、新年早々騒がしくも、何やら皆が一歩前進したような、していないような。


とりあえず、こうして彼らの新しい年は幕を開けたのだ。




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