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第十章 バイバイ

 梅雨明けの澄み切った青空が、町全体を包み込んでいる。

 初夏の眩しい日差しの下、僕は何の目的もなくただ生まれ育った町を歩いていた。

 子供の頃に良く遊んだ路地を抜け、小さな住宅地を抜けると切りたった地形に辿り着く。

 僕はその高台から伸びる細い坂道をゆっくりとした足取りで下った。

 川にでも行ってみようかな。

 遠くの景色を眺めながら僕は、河川敷へと足を向けた。

 昼間だというのに河川敷には人っ子一人いない様子だった。

 しかし誰かと話がしたくて散歩しているわけではないのだ。返って都合が良いと未舗装の道をただ黙々と歩いていると、目の前に架かった鉄橋の上をコンテナを積んだ貨物列車が通過してきた。

 僕はふと足を止めて、その列車を呆然と見つめた。

 勢い良く走っている貨物列車が鉄橋に轟音を響かせている。長く続く列車が走り去ると辺りは再び静寂を取り戻し、生ぬるい風が弱々しく吹いた。

 少し足の疲れを感じていた僕は暫く立ち止まった後、芝生が広がる河原の斜面に足を投げ出して腰を下ろした。

 眼下の川は時々流れを右に左に変えながら、ゆっくりと下流に向かって流れている。

 余命後、半年か……。

 こうして症状が落ち着いている時は、もうすぐ自分が死んでしまうなどとはとても想像することができなかった。

 この時、医者に宣告された余命はすでに半年を切っていた。しかしそれは病院に入院していればこその話だったのだが、僕は無駄な延命治療を断り、在宅ホスピスを選んでいた。別に己の人生を諦めたわけではなく、むしろその逆で、病院にいれば確かにケアをしてくるスタッフもいるし、少しでも長く生きることができるのだろうが、それと引き換えにしてまで僕は自由を奪われたくなかった。残っている僅かな人生を、病院の中だけで過ごしたくはないのだ。

 僕は持っていた鞄から写真を一枚取り出した。父と母がまだいた時、最後に撮った家族写真。何という名前の旅館だったかは忘れてしまったが、宿泊先の部屋で仲居さんに撮ってもらった写真だ。そこには豪華な料理を目の前に、家族四人がそれぞれの表情で写っている。まだ幼い僕と妹は不思議そうな顔でファインダーを見つめ、母は満足そうに笑っている。父は少し緊張しているのか、難解な数学の問題を解いているような難しい表情をしていた。

 エミには申し訳ないことをしたな。あいつが僕の寿命のことを知ったら、一体どう思うだろうか?  血の繋がった、たった一人の家族なのだから当然悲しむことだろう。だが今のあいつには、支えてくれる旦那がいる。血の分けあった子供だっていつか生まれるだろう。病気で死んでしまう前に妹が結婚してくれたことは、僕にとって本当に不幸中の幸いだったのかもしれない。僕はもう少しで、エミのことを一人ぼっちにしてしまうところだったのだから。

 青々とした草むらの匂いを、肺の中に吸い込んで大きく吐き出し、買ってきていたペットボトルの麦茶を一口飲み込んだ。

 人は生まれた瞬間から、皆死ぬことが決まっている。悪政を繰り返してきた暴君にも、神の為に毎朝祈りを捧げている修道士にも、死は平等にやってくる。それが宿命というものだそうだ。宿命とはつまり、大いなる巡り合わせ。それから逃れることは決してできず、僕たちは自然の法則に従って、その航路を辿っていかなくてはいけない。時として凪いでいた海が、突然荒れ狂い牙を向けることがある。それでも針の指す方向はただ一つ、人は自分の信じた針路に向かって、進むことしかできないのだ。

 風が吹き、頭上の梢がザワザワと揺れた。

 「はあ……、サワコに会いたいな」

 この河原に、彼女と訪れたのは一体いつのことだっただろうか? 別れてからもう半年、彼女のことはもう忘れてしまおうと思っているのだが、今の僕にはそれができなかった。何気ない日常の中に、彼女と過ごしてきた思い出をつい重ね合わせてしまう。

 もう新しい恋人はできたのだろうか? 彼女はとても優しい人だから仮に今でも僕と付き合っていたとしたら、恐らく死ぬ瞬間まで面倒を見てくれただろう。それどころか、僕の死を悔やみ二度と恋愛というものをしなくなるかもしれない。それでは駄目だ。もうすぐ死んでしまう僕の人生に、サワコを巻き込むわけにはいかない。彼女にはこの先も、長い人生が待っているのだ。今度は僕のような陰鬱な男ではなく、将来が保障されているしっかりとした男性を見つけ、そして結婚して幸せな家庭を築いて欲しい。彼女が僕のことを忘れて幸せになってくれるなら、それは僕にとっても喜ばしいことに違いないはずなのだ。

 自分の中でそのことは幾度となく考え、揺るぎのない結論だったのだが、やっぱり駄目だ。サワコに会いたい。会って色んなことを話したい……。

 孤独感に胸が締め付けられると同時に、息ができなくなるほどの苦みに襲われた。

 「んぐっ……」

 痛みに耐え兼ね両手で自分の胸を押さえつけると、頭の中にもう一人の自分の声が聞こえてきた。

 「今、彼女と会って一体、何の話をするというんだい? 自分の寿命が後半年しかないことを告げて同情してもらうのか。全く馬鹿げている。辛くなって今更彼女にすがろうなんて愚かを通り過ぎて哀れにすら感じられるよ」

 後方から電車の警笛が聞こえ、再び鉄橋が轟音を響かせた。電車は川の上に設けられた鋼鉄の橋を、勢いよく渡っていく。僕は痛む胸を押さえながらゆっくりと前を見据えると、突然の強い風が背中を霞めた。その風は木々を揺らし、小さな渦となって、対岸に向けて吹きぬけていった。

 その時、木から離れた一枚の若葉が、風に乗って大きく回転しながら川の上空へと飛んでいった。

僕は思わず立ち上がり、胸部を押さえていた腕を下ろした。電車は山際のカーブを大きく曲がり、やがて見えなくなった。

 一度失ってしまったものは、二度と手に入ることができない。死は既に覚悟したはずなのに……、何だか僕の人生は後悔ばっかりだ。

 そこから立ち上がった僕は、ズボンに付いた砂を手で払いゆっくりと息を吸い込んだ。発作はいつの間にか治まっており静かに息を吐き出すと、僕は再び人のいない河川敷を歩き出した。


 その河原からの帰り道の丁度日が沈みかけだした頃、多少の疲れを感じながら歩いていると、家のすぐ近くの路地に立っていた人に急に呼び止められた。

 「西嶋さん」

 ただその時、疲れていたせいかその声は僕の耳に届いていなかった。三回程呼ばれたところでその声に気が付きふと後ろを振り返ると、そこにいたのは以前地方銀行の前で倒れた時に介抱してもらった四十代くらいの女性の易者だった。

 「やっと会えたわ。あなた西嶋さんでしょう?」

 その易者はどこで知ったのか、僕の名前を言ってきた。以前に会った時は気味が悪くて逃げてしまったが、もうこの間のように逃げる気力はなかった僕は、仕方なくその質問に頷いた。

 「あなたは一体誰なんですか?」

 易者は薄く笑みを浮かべ、僕の目を見つめた。

 「あなたは覚えていないかもしれないけど私、あなたと昔会ったことがあるのよ」

 「?」

 「あなたと一緒にいたオールバックの大男が私の脳に直接訴えかけてきたの、あいつとは将来また必ず会うことになる。その時あいつは苦しんでいるだろうから、あいつに会った時は力になってやってくれって」

 その話は、僕の理解の範疇を大きく超えていた。

 「あなたが誰なのかは存じませんが、この間助けてくれたことは礼を言いますし、その後逃げてしまったことは謝ります。だから僕のことは、どうかほっといてください」

 「そうはいかないわ。これは占いではなく事実として言うけど、あなたは近い時期に死んでしまうのよ」易者はそう言い切った。

 僕の顔から、血の気が引いていく感じがした。何故そのことを知っているのか? 病院の関係者なのだろうか? だがこの易者の言い方は、僕が自分の余命を知らないことを前提として話しているようにも聞こえた。病院関係者だったら、僕が余命宣告されたことを知っているはずだ。

 「知っています。僕はもうすぐ死ぬのです」

 声を強く震わせながら、そう言った。彼女も少し驚き、そして悲しそうに僕の顔を見た。

 そうだ僕は死ぬのだ。いくら余命を教えてもらったとしても、それを回避することはできない。僕がこの歳で死ぬということは、生まれた瞬間から、いや、生まれるずっと前から決められていたことなのだ。そして日本人男性の平均寿命をほんの僅かに縮めて、この世からいなくなる。ただそれだけのことだ。

 すると易者は言った。

 「それならどうして、あなたは病院へ入院しないの?」

 「それは……」

 そう言い掛けると、徐々に目の前が真っ白になっていった。平衡感覚を失い、ふらふらとその場に崩れると、遠くから「大丈夫?!」という声が聞こえてくる。激しい頭痛にも襲われ、意識を失いかけたその時、彼女はそっと僕の頭に触れた。後頭部に彼女の手が重なった瞬間、締め付けられるようだった頭の痛みが一気に和らいでいき、はっきりと意識が戻った。

 「えっ、……何で?」

 僕は驚きその易者の顔を見上げ、まるで魔法にでも掛けられたような思いで立ち上がろうとすると、彼女はそれを手で制した。

 「まだ、じっとしていた方が良いわ」

 僕には分かった。この易者が僕の頭に手をかざしたことによって、痛みから解放されたということを。

 「あなたは一体……?」

 「どうやら、うまく『力』が発動したようね」

 「力? 何の力ですか?」

 「この力は、あなたと一緒にいた大男によって授けられた能力よ。あらゆる苦痛から解放する力。但しこの力は私の意思で使えるわけではないの、私の中で巻き起こる感情の高ぶりがこの能力を引き出してくれる。ただし痛みがなくなるからといっても効果は一時的だし、病気そのものが治るわけじゃないから、あまりお勧めはしていないけどね」

 この易者の言うことは、本当に何もかもが理解できなかった。

 「一体、僕とあなたにどういう関係があるというのですか?」

 「ようやく、興味を持ち始めてくれたようね。私の名前は高山アキエ。今は主婦の傍ら趣味で易者をやっているんだけど、あなたと出会ったときは警察官として働いていたわ」

 高山アキエ。高山、高山……。僕はその名前を脳内で反復したが、やはり記憶の中にいる知り合いにそんな名前の人はいなかった。

 「僕は今まで、警察のお世話になるようなことはしていませんけど」

 「別に警察として、あなたの世話をしたわけじゃないわ。あの時の出会いは、本当に不思議な体験だった。十五年経った今でも忘れられないほど」

 「十五年前?」それは僕が中学三年生で、母が亡くなった年でもあった。

 「ただ勘違いしないで、十五年前と言っても、私の過去があなたの過去であるとは限らないんじゃないかしら?」

 僕は彼女の言っていることが分からず、ただ呆然とした。

 「私はこの間、銀行の前で会った時に気が付いたんだけど、多分あなたと出会った私の過去は、あなたにとっての未来にあたるのかもしれない」

 「……」

 まるで禅問答のようだ。残念ながら今の僕には、その言葉の意味を瞬時に理解するほどの能力はなかった。

 「だから、私はあなたのことを知っているけど、あなたは私のことを知らない。それはあなたにとって、これから起こる出来事なのだから」

 「良く分かりませんが、あなたは過去に、未来の僕と会ったことがあると言うのですか?」

 「そうよ」

 「そんな非現実的な話、ありえるはずが……」そこまで言って僕はついさっき自分が体験した非現実的な出来事を思い出した。

 「確かにありえない出来事だったわ。あなたとの出会いも、その時、私が授かったこの力も。だけどこれは、現実に起こっている出来事なの。そしてあの時、あなたが誰かを救おうとしたように、今度は私もこの力であなたのことを助けてあげたい。そう思っているのよ」

 「僕のことを助ける?」

 「ええ。あなたはまだ死ぬべき人間じゃない」

 「じゃ、この病気を治してくれるとでもいうのですか?」

 そんなことはできないことくらい、僕にだって分かっている。だが分かっていながらわがままを言う子供のように、そう口にしていた。

 「残念だけど、私の力ではそこまでのことはできないわ。だけどさっきも言ったけど、あなたは病気を治して欲しいと思っているのなら、なぜ病院に入院しようとしないの?」

 「そりゃあ僕だって病気が治るなら、入院するのは勿論やぶさかじゃない。だけど医学は万能じゃなく、医者にだって治せない病気はいくらでもあるんだ」

 「だけど、医者なら死期を延ばすことも、モルヒネで痛みを抑えることもできる。あなたは死というものに直面したとき、自分の人生に対して絶望してしまったんじゃないのかしら」

 それは半分当たっているが、半分は間違っている。僕はもう、人生の役割を終えたのだ。望みが絶えたのではない。望みを終えたのだ。

 「僕がこの人生でやるべきことは、もう全て終了しているんですよ」僕は極めて穏やかな口調でそう言った。

 「それはどうかしら。あなたが終わっていると思い込んでいるだけで本当はまだやらなくてはいけないことがあるんじゃないのかしら?」

 高山アキエのその言い方は、やるべきことが何であるのか、知っているようでもあった。

 「もう、やることなんてないですよ」

 「あなたは目の前に迫った死を恐れるあまり、大事なことを忘れてしまっているのよ」

 「その大事なことって一体何ですか?」

 しかし高山アキエは、口を一文字に閉じて何も答えない。

 何だ、結局当てずっぽうじゃないか。僕は少し落胆し、肩を落とした。

 「そういえば、私が十五年前あなたと出会った時に、一つだけ気付いたことがあるの」高山アキエは、僕の質問には答えず違う話をしてきた。

 「それは、死が終わりなんかじゃないということ。私たちが生まれ、そして死んでいくということは、一つのサイクルに過ぎないの」

 「死んだ後も、別の人生があるということですか?」

 「平たく言うと、そういうことになるかしら。ちなみにあなたは、輪廻転生って信じる?」

 輪廻転生……? 僕は考えた。輪廻転生、それは人が死んでもその魂は別の肉体に宿り、何度でも生まれ変わるということ。ただそれを信じるか信じないかと言われると、正直考えたこともないことだったので、僕は曖昧に返事を濁した。

 「私も敬虔な仏教徒ではないけど、輪廻転生ということは信じているの。現世が終わったとしても、また次の来世がやってきて、そうして時代を巡っていく。死が終わりではなく一つの過程だというのは、つまりそういうこと」

 「死んでもすぐに生まれ変わるから、まだ終わりじゃないと言うのですか?」

 「それは少し違うわね。人は死んで生まれ変わるけど、人生は死んだところで終わってしまう」

 「じゃあ、やっぱり終わりじゃないですか」

 「けれど、あなたは死んでない。あなたは今も生きているじゃない。残された余命が多かろうが少なかろうが、人が生き物である以上いずれ死は訪れる。だったら死ぬ直前まで真剣に生きてよ。生きてみせなさいよっ!」

 急に声が大きくなったことに驚き、僕は思わず目の前にいる彼女を見つめた。

 非現実的なことを散々口にしながら、死ということに対して逃れようとしないのはなぜだろう。そんなところだけ、やけにリアルだ。

 「死ぬということは辛い。だけど言うなれば輪廻自体が苦行でもあるの。生きることに苦しみ、老いに、病に、そして死に苦しむ。けれど私たちは、輪廻をまた繰り返す。そしてその行き着く先に、何があるのかは私には分からないけど、きっとそこには理由があると思うの。私たちが生きてきた何らかの理由が……」

 高山アキエは、そう言うとケースから名刺を取り出し、裏に何かを書き出した。

 「病院に入院しないのなら、一度相談に来て頂戴。この力はあなたを助けるために、授かった能力なんだから」

 差し出された名刺には西洋占星術師エイカと書いてあり、裏には手書きで名前と携帯電話の番号が書いてあった。

 「エイカっていうのは?」

 「あっ、それは商売用の名前ね。本名でやるよりもこうゆう名前でやるほうが、お客さんは信憑性があるように感じられるものなのよ」

 僕は名刺に目を通し、「ふーん」とだけ言った。

 「だいたい毎週火曜日と木曜日は、夕方ぐらいから光陽銀行の前で占いやっているからそこに直接来てくれても良いんだけど、それ以外の日は携帯の方に電話してくれるかしら」

 「……ありがとうございます」

 「本当に具合が悪くなるようだったら、ちゃんと入院しなさいよ」

 それだけ言い残すと、高山アキエは帰って行った。

 僕が帰っていく彼女の後ろ姿を黙って見つめていると、再び強い発作に襲われがくっと膝が折れた。

 「うっ……」

 身を屈めしばらく耐えていると、時間と共に痛みは和らいでいき、僕は深く溜息をつきながら顔を上げた。帰っていく彼女の頭上にある大きな夕日が今にも山の稜線に沈もうとしていた。

 僕は呼吸を落ち着かせながら、あの夕日が永遠に沈まなければ良いと願った。

 なんて大きな夕日なんだ。

 明日の僕は、今日の僕より確実に弱くなっている。時が経つのがこんなに怖いなんて……。この時を止めることができるのなら、どんなに幸せなことなのだろう。

 しかしそんな僕の願いとは裏腹に、夕日は時間を掛けてゆっくりと沈んでいった。


 それから数日後のとある晴天の日。僕はその日も町を散策していた。

 天気の良い日は、自然と体の具合も良い。普段から体調の良い日は、なるべく外出するようにしている。命が尽きるまでに、全てのものを目に焼き付けたかった。育んだこの家を、共に生きてきたこの町の景色を。十九歳の時に車の免許を取ったのだが、それ以来近所を歩くことなどほとんどなかったので、実に十数年ぶりに町を歩いているのだが、こうして改めてみると子供の頃に見た景色とは、だいぶ様変わりしていることに気付かされる。家の裏の雑木林は建売住宅が立ち並び、友達と秘密基地を造った資材置き場は駐車場に姿を変え、母の日にカーネーションを買いに行った花屋は、潰れてシャッターが降りたままになっていた。

 あの頃の風景が何処かに残ってはいないかと、僕は六年間歩き続けた小学校の通学路を久しぶりに歩いてみた。電子部品を製造する工場は、大きな郊外型のドラッグストアと化し、砂利道だった道路は綺麗に舗装され、その脇に流れていた小川は暗渠になっていた。

 ああ、やっぱり、あの頃と同じ風景なんて残ってはいないんだな……。

 僕は通学路をそれ、ふらふらと町を彷徨った。僕があの家に残ったのも、こうして育った町の景色を求め歩くことも、結局は思い出にしがみついているだけかもしれない。勿論そんなことをしても、過去に戻れるわけじゃないのだが、家族四人が揃っていたあの頃の風景にいつまでも浸っていたい。今はただそれだけで満足なのだ。

 しばらく歩いて行くと、小さな頃に遊んだことのある神社の近くまで来ていた。丘の上にあるその神社は、横に小さな公園が併設してあり、その近くに住んでいた友達と、時々遊んだことがあった。僕は無意識の内に神社の石段を上っていた。石段には所々苔が生していたので、転んでしまわぬよう一段一段ゆっくりと踏みしめて足を運んだ。階段の上の鳥居をくぐるとすぐ目の前に神社があった。久しぶりに見るので思い出せないが、社殿は新しくなっているような気がした。しかし併設されている公園は、すっかり寂れてしまっているようで、設置されている遊具は壊れていてほとんど使用できないし、砂場は土が剥き出しになり雑草で覆われていた。

 果たしてこの公園はこんなに狭かっただろうか?

 以前より狭く感じる公園を一周していると、裏の高台に一本だけあるケヤキの木のことが頭に浮かんだ。あそこに行くには秘密の通路があるのだ。僕は当時を思い出しながら、社殿裏手の細い道を進み、子供の頃は簡単に通ることのできた柵を潜り抜け、背の高い雑草の中を掻き分けながら前に進んだ。

 「あった」

 草を手で押しやってぬかるみを越えると、大きなケヤキの木がそこに生えていた。

 僕は木の側に近づき、太くて力強い幹に手を触れると、ふと昔、妹と見た朝焼けのことを思い出した。

 そうだ、ここから町が一望できるのだったな。

 僕は高台から町の景色をしばらく見つめ、そして木を見上げた。青々とした葉の隙間から、暖かい木漏れ日が降り注いだ。眩しさに目を瞑ると、その時何処からか子猫の鳴き声が聞こえてきた。

 「ニーッ、ニーッ」

 後ろを振り向くと、片手で掴める程の大きさしかない、小さな子猫が必死に鳴きながら、僕の傍らに寄ってきた。少し青みを帯びた薄紫色の子猫は、僕の足に顔を何度も擦りつけた。

 腹でも減っているのかな?

 人の顔を見るなりすぐに走って逃げて行ってしまう猫という生き物が、僕はあまり好きではなかったのだが、この子猫の一生懸命に訴える姿が不思議と僕の心を捉えた。

 身を屈め覗き込むと、子猫は僕の顔を見て、また「ニーッ」と鳴いた。良く懐く猫だな。子猫は僕を見ると眼を丸くさせ、首を傾げた。僕は今まで猫というものは、もっときつい眼をしているのだとばかり思っていたのだが、目の前にいるその猫は一切の穢れを知らないような澄み切った眼で、何かを期待するように僕のことを見上げている。

 僕は恐る恐る手を差し伸べると、子猫は仰向けになり左右に二、三度寝返りを打った。

 「ん?」

 ふと見ると、その子猫に良く似た色の小さな花が、辺りに群生していることに気が付いた。名前は忘れてしまったが、この季節には何処にでも生えている雑草だ。久しぶりに見たこの植物のお陰で、少しだけ幼い頃を思い出した。そうだ、あの頃は地に生きる昆虫や植物、そして空に浮かぶ雲ばかり見ていたのだ。しかし大人になると上も下も見ることがなくなり、いつの間にか真っ直ぐ前だけを見るようになってしまっていた。

 僕はもう一度、空を仰いだ。高台から見る空は、世界の果てから、果てまで続いていた。

 「空って、こんなに広かったんだ……」

 改めて見る空の大きさとその澄んだ青さに、僕は驚きを感じ激しく胸を打った。それはもう驚愕といっても良いほどだ。

 そうだった。視点が違うだけで、あの頃と変わらない景色は今でも十分あるのだ。植物や昆虫は形を変えず生きているし、空の色だって少しも色褪せてはいない。

 「……こんなところにあったんだな」

 脳内を駆け巡る記憶の光は、長い長いトンネルをくぐり抜けて、ようやく幼かった頃の思い出に辿り着いた。

 気が付くと、また子猫が足元に纏わりついてきた。

 「ニーッ」

 僕は子猫の頭を撫でた。子猫の足元に咲く、淡い薄紫色の小さな花。

 「そうだ、カキドオシだ」

 垣通し。それは、幼いころ父に教えてもらった花の名前だった。


 そして夕方、気が付くと僕は無意識の内に、高山アキエが占いをやっている光陽銀行の前にきていた。

 病気のことは、今まで誰にも相談せずに自分の問題だと一人で抱え込んできたのだが、以前高山に病気のことを話した時、驚くほど気持ちが楽になったのを覚えている。やはり心のどこかで、病気のことを誰かに聞いて貰いたい、そしてもう一度あの感覚を味わいたい。そんな思いが僕の足を自然とここに運ばせたのだろう。そして何より、今そのことを相談できるのは彼女しかいなかった。

 近くまで来ると彼女と目が合い、僕は軽くお辞儀をした。

 「占い師特有の勘かしら。今日辺り来るって感じていたわ」高山は座ったまま、僕のことを見つめた。

 向かい合わせに置いてある小さな椅子を引き、僕は黙って腰を降ろした。

 「体調の方はどう?」

 何も喋らない僕に、高山が話しかけてきた。

 「おかげさまで安定しています」

 「そう」高山は優しく微笑んだ。

 「今の生活で、何か困ったことはない?」

 「今日は少しだけだけど、良いことがありました」

 「そう、それは何よりね。残された人生は楽しいことだけして、過ごせると良いわね。病気や余命、社会のしがらみとか一切忘れて猫のように生きるの。普通に生きていたら、そんな生活できないわよ。誰もあなたのことを叱らないし、誰もあなたのことを干渉しない。……私以外は。そうでしょう」

 「確かにそうかもしれません。ただ僕は残された余生を、どうやって過ごせば良いのか見当がつかなくて」

 「そうねえ、入院する気がないのなら、人生最後の夏休みだと思って好きなことをやって過ごせば良いんじゃない」

 「好きなことって?」僕は聞いた。

 「やりたいこととかないの? 例えば一度でよいからパラグライダーをやってみたかったとか、南の海に行ってスキューバダイビングをするとか」

 「出掛けることなんてできないですよ」

 「そうか、けどまあ、近場への旅行とかだったら大丈夫でしょ。もう一度行っておきたいところとかはないの?」

 「うーん」

 育ったこの町の風景は、目に焼き付けるためになるべく散策するようにしているが、本当に最後に見ておきたい風景となると一体何があるだろうか。そう考えた時、すぐに頭の中に今日行った神社の裏の高台が思い浮かんだ。

 「そうだった。僕は死ぬ前に、一つだけ見ておきたい風景があったんだ」

 僕の呟くような声が聞き取れず、高山はすぐに聞き返した。

 「えっ、何処?」

 「御神山があるじゃないですか。そこの神社の裏手にある高台から望む朝日。子供の頃みたその風景が今、頭に浮かびました」

 「御神山? そんなとこで良いの?」高山は少し拍子抜けしたように、声のトーンを落として言った。

 「ええ。そんなに特別なものはいらないんです。ただあの時と同じ風景が見ることができればそれで」

 「そう。それじゃ、ちょっと待って」

 高山はそう言うと、携帯電話を取り出して何かを操作し始めた。

 「何をしているんですか?」

 「何って、天気を調べているのよ。朝焼けが見られそうな日は何時かなあと思って。明日は駄目。明後日も微妙ね。……うーん、あっ、四日後は朝方から日中まで晴れマークだわ。この日なら良さそうね」

 「本当ですか?」

 「ええ、午後からは天気が下り坂だけど、昔から朝焼けは雨の兆しだというし、きっと綺麗な朝焼けになるんじゃないかしら」

 僕は椅子から立ち上がると軽く頭を下げた。

 「ありがとうございます。それじゃ四日後、御神山に行ってみます」

 「それで今の悩みが、少しでも解消されれば良いけどね」高山はそう言って、二つ折りの携帯電話をたたみ、鞄の中にしまった。


 高山が晴れると言っていた四日後、僕は朝早く目を覚まし顔だけ洗うと、外着に着替え車に乗り御神山に向かった。辺りはまだ薄暗く、沢山の星が見えていた。高山の言ったとおり、雲は薄っすらと上空に広がっているだけだった。僕は車に乗り込み、空いている早朝の国道を走り抜けた。そして御神山に辿り着くと、神社の横にある公民館の駐車場に車を停めた。

 車から降りると、朝の凛とした空気に包まれた。しかし夜明けには少々早過ぎたようで、辺りはまだ薄い闇の中だったが、僕は社殿の裏手に回り秘密の通路に向かった。

 茂みを掻き分けて高台に出ると、今まさに東の空が青白く光り、夜の闇を僅かに溶かしているところだった。

 どうやら歩いてきた方が良かったみたいだな。

 僕はとりあえず先日見た子猫がいないか辺りを確認したのだが、今日は何処にも見当たらなかったので、諦めてその場に腰を下ろした。風もなくとても静かで、時が止まってしまったようにも感じられたが、東の空の青白い光りは徐々に広がっていく。僕はそれを眺めながらケヤキの木にもたれ掛かっていると、すっと瞼が下りてしまった。朝が早かったのと、夜眠れない日も多いので、どうしても普段から昼寝してしまうことが多い。

 目が覚めたのは、後ろの茂みががさがさと音をたてた時だった。その大きな音は明らかに猫や犬ではなく人間が近づいてきている音で、驚いた僕は目を覚ますと同時に大きく後ろを振り向いた。

 「あっ、いたいた。神社の後ろって、ここだったのね」

 「高山さん! 一体どうしたんですか?」

 そこにいたのは高山アキエだった。彼女は目の前の柵を潜り、ケヤキの木があるこちら側にやってきた。

 「こんな朝早く、人気のない神社で倒れでもしたら、誰にも助けて貰えないと思って来てあげたのよ」

 高山はそう言ってふふっと笑い、僕の横に座った。

 「すいません。なんだか気を使わせてしまって」

 「気にしなくて良いのよ。今のは冗談。本当はあなたが死ぬ前にどうしても見たいという風景が、どんなものなのか興味があったから来ただけよ」

 それはむしろそっちの方が建前ではないかと思ったが、あえて口にはせずに「ありがとう」とだけ告げた。

 「もうすぐ夜が明けるわね」

 眠っている間に、東の山の稜線が赤く染まっていた。

 「高山さん。少し話をしても良いですか?」

 そう言うと、高山は不思議そうに振り向いた。

 「どうぞ」

 「前に高山さんは輪廻転生の話をしましたよね。人は死んでも、魂はまた生まれ変わるっていう話。人は死んだ後どういう過程を経て、生まれ変わるんでしょうか?」

 「そうねえ、あなたはどう思うの?」

 以前高山に輪廻転生の話を聞いた時、僕もそれについて多少考えはしたのだが……。

 「分からないです。けど普通に考えたら、死んだら何も残らないんじゃないのかな。生まれ変わりもせず、この世からいなくなる。ただそれだけ」

 「一般的に言ったら、そう考えた方が妥当かもしれないわね。けど私は生まれ変わりというものを信じる。例えば人が死んだら、どこかに亡くなった人の魂が集まるところがあって、そこから新しい命として再生されるの」

 「その亡くなった人の魂が集まるところっていうのは、天国とか地獄とかそういうところのことですか?」

 「うん、そうかもね。死後の世界と呼ぶべきところ……。そういえばまだあなたに、私が過去に出会った、未来のあなたの話はしていなかったわよね」

 「そうでしたね。聞いてないです」

 それは勿論聞いてみたい話ではあったが、何となく聞いてはいけないことのような気がしていて、この間は聞くことができなかった。だが話してもらえるのであれば、聞かない理由などない。僕はもしかすると、これから自分の未来について知ることになるのかもしれない。そう考えると胸がなんだかドキドキしてきた。

 徐々に日が昇り、神々しい光が町全体に降り注いでいる。横を振り向くと、日の光で明るく染まった高山の顔があり、彼女は朝日を真っ直ぐ前に見据えて再び語り出した。

 「変な話になってしまうけど、あの時、私が会ったのはあなたの幽霊だった。輪廻転生があるという話とは矛盾してしまうのだけれど、つまりあなたは死んだ後、生まれ変わらずに時代を遡り、若き日の私と出会うことになるの。この話は信じられる?」

 「高山さんの言うことは信じるよ。ちょっと理解はできないけど」

 「それで良いと思うわ」高山は小さく頷いて、更に語り出した。

 「そして幽霊であるあなたは、その時女の子の地縛霊を救おうとしていたわ。だけど結局うまくいかない。私も何か手助けができればと思い、知人の霊能者を連れて現場に行ったんだけど、そこにはもうあなたも女の子の地縛霊も存在しなかった。私はその時、もしかしたら幻でも見ていたんじゃないかとも思ったわ。今になってあなたと再び出会うまでは。けどこうしてあなたと会った時に確信したの、あなたはあの時、確実に存在し、そして女の子を救うことができたんだって」

 「僕は死んだ後、他の幽霊を助けるっていうんですか?」

 「そう。そして永き時間を越えて役目を終えたあなたの魂は、来世に転生するためそこから消えていった」

 「それが輪廻転生……」

 「人は死んで生まれ変わるけど、その故人を覚えている人間が現世にいる限り、亡くなった人の意思は必ず残る。そしてその意思は身近な人を陰で見守り、困った時や苦しい時に支えになってくれる。私の過去であなたがその子を助けたように、今のあなたにもきっと、見守っていてくれている誰かがいるんじゃないのかしら」

 「僕を見守ってくれる人……」

 その言葉を聞いた瞬間、幼い頃の母との会話が、突然頭の中にフラッシュバックした。それは僕が一度だけ、父の失踪について母に尋ねたときの記憶だ。

 小さな僕が、母に抱かれて泣いている姿が見える。そして母は、泣いている僕に語り掛けた。

 「生き物は生まれてきた以上、必ず死んでしまうものなのよ。命は永遠じゃない。だから人は、一生懸命に生きようとするの。もしも私たちが生まれたことに意味があるとするならば、人は迷いながらその意味を探して生きていくんじゃないかしら」

 「生きていく意味?」

 「そう。もしかすると、生きていくことに意味なんてないのかもしれない。ただ生まれて、そして死んでいく。だけど人が死ぬ間際、自らの一生を振り返った時、ああ、良い人生だったな。と思うことができれば、その人生は意味のあるものだったんじゃないのかなって思うの。母さんはマー君より先に死んでしまうけど、その時になって後悔しないように、一生懸命働いてマー君とエミを育てていくからね」

 幼い僕は、母を強く掴んだ。

 「……母さん。死んじゃいやだ」

 「大丈夫よ。母さんが死ぬのは、マー君たちが一人前の大人になってからの話。それに母さんは死んでからも、ずっとマー君とエミのことを見守っていてあげる。そして困っていることがあったら、いつでも助けてあげるから。だからマー君たちは、そんなこと心配しなくて良いのよ」

 母はそう言って微笑み、僕の頭を優しく撫でてくれた。

 そうだった。母さんはあの時、約束してくれたのだ。死んでも僕たちを見守ってくれるって。困ったことがあったら、いつでも助けてくれるって。

 ずっと忘れていたのに……。

 この話をした時、幼かった僕は死という恐怖におびえていて、その記憶を今まで頭の片隅に追いやってしまっていたのかもしれない。だがようやくあの時の母の言葉を思い出し、今になってその言葉の意味を理解した。

 母さんは、どこかで見守ってくれている。そう考えたら、急に気持ちが楽になった。人が死んでしまうことも、すごく自然なことのように思えた。

 死を目前にして、閉ざされた心を解放してくれた母の言葉。そういえば、自殺しようとしたあの時も、救ってくれたのはやはり母の手紙だった。

 「なんだ、やっぱり母さんが鍵だったんだ……」

 僕は小声で呟き、鼻をすすった。

 「どうしたの、大丈夫?」

 「ありがとう。高山さん。僕は今まで、死というものが永遠の無だと思っていました。だけど魂は生まれ変わるし、僕の意思もそこに残る。僕はやっと死を受容することができたのかもしれない」

 「死を受容するか……。それは余命を宣告された人だけが得られる、唯一の特権かもしれないわね」

 僕たちのいる高台から、朝日に染まり白く輝く町がどこまでも広がっている。あの日見た景色と同じように。

 「本当に綺麗な景色ね。長い間この町に住んでいるけど、こんなに素敵な風景があるなんて全然知らなかったわ」

 「うん」

 そうだ、この景色だ。まるで子供の頃にタイムスリップしてしまったかのようだ。妹と共に見たこの景色は今でも脳裏に焼きついていた。死んでしまう前に今一度、この風景を見ることができて本当に良かった。そう思うと同時に、父のことが脳裏に過ぎった。父が失踪する前に、最後に行った温泉から見た夕日。あれはもしかしたら、僕が死ぬ前に見たいと思った、この朝焼けに相当するのではないだろうか。そう考えると、あの時父は何らかの理由で死を覚悟していたのかもしれない。そして死んでしまう前に、どうしてもその夕日の沈む美しい景色を、瞼に刻み込んでおきたかったのではないだろうか。

 推測に過ぎないが、父さんも最後に願いが叶ったのかもしれないな。

 帯状に伸びた雲が赤く染まり、朝を心待ちにしていた鳥たちが、だんだんと空に集まり出した。

 「あのね」高山は言った。

 「なんですか?」

 「今度、旦那の仕事の関係で北海道に引っ越すことになったの。多分、あなたと会うのもこれが最後になると思うわ」

 「そうなんですか」僕は高山の顔を見ずに、前を見て言った。

 「だから最後に一つだけお願いがあるの」

 「お願い?」

 「西嶋マサト君。あなたは少しでも長く生きられるように、ちゃんと病院に入院して。そして、お医者さんの言うことを順守するって約束して」高山は真剣な眼差しで言った。

 「……分かりました。約束します」僕は嘘を付いた。

 「ありがとう」

 高山は笑みを浮かべてそう言った。だが、本当は気付いているのかもしれない。僕が嘘を付いていることを。だが高山はそれを口にせずに「私も北海道に行く前に、この町の美しい景色を見納めることができて良かったわ」とだけ呟いた。

 僕もこれが見納めだと思い、刻々と変化する目の前の景色を目に焼き付けた。死んで幽霊になっても忘れないように脳のひだにしっかりと刻み込もう。

 もう十分だと思い大きく背筋を伸ばすと、高山が急に口元に指をあて「静かに」と言ってきた。

 何事かと思った僕は小声で「どうしたんですか?」と聞いた。

 「何かいるわ」

 そう言われて高山の視線の先を追い背後の茂みに目をやると、そこから子猫がひょっこり姿を現した。

 「あっ、子猫」高山は急に安心したように子猫を見つめた。

 「なんだ、この間の猫か」

 「知っている猫なの?」

 「先日来た時もいたんですよ」僕はそう言って手を伸ばすと、子猫はゆっくりと前足を上げて僕の指先に触れた。朝露で濡れた肉球がひんやりと冷たかった。

 「どうしたんだろう? 元気がないみたいだ」

 子猫はその場にしゃがみ込み、黙って体を横に倒し眼を閉じた。

 「おかしいな。この間、見たときはもっと元気だったんだけどな」

 「猫はこれから寝る時間なんじゃないの?」

 高山はそう言って子猫の背中に触れると、次の瞬間、安心していた表情が一気に険しくなった。

 「どうかしたんですか?」

 「いや。どうやらこの子は病気らしいわね」

 「えっ?」

 僕は驚き慌てて子猫を抱きかかえたのだが、ぐったりとしていて、良く見ると虚ろな瞼には目やにが大量に付着しており、左目は腫れて開かなくなっているようだった。

 「ミューッ」子猫は弱々しく鳴いた。今出せる精一杯の鳴き声で、僕にSOSを送ってきている。生きるために。

 そんな……。

 「高山さんの苦痛から解放する力は、猫には効かないんですか?」

 「あのね、前にも言ったと思うけど、この力は自分の意思で使えるわけではないの。それに生き物にとって痛みっていうのは体を守るサインでもあるから、単に痛みを和らげるだけでは返って逆効果になってしまうこともある。特に人間以外の動物ではね」

 「それじゃ、どうすれば……」

 「とにかく、九時ぐらいには動物病院もやっているだろうから、少し様子をみてみたらどう?」

 「そうですね、分かりました」

 僕は立ち上がり、その場で高山に「ありがとう」と言うと、高山は「さようなら」と言った。僕たちはそれだけの言葉を交わし、それぞれの家に帰って行った。もう二度と会わないかもしれないのに、やけにあっさりとした別れだった。


 近場にある動物病院には早い時間に何件か電話してみたのだが、やはりまだ始まっていないのか電話には出てもらえなかった。電話帳に載っているところは全て駄目だったのだが、最近家から少し離れたところに、ペットショップも併設されているような大きな動物病院がオープンしたことを思い出した。もしかしたらそこなら診察してもらえるかもしれない。ただ電話番号も店名も分からなかったので一か八か子猫を車に乗せて直接向かってみると、その動物病院の看板には二十四時間の文字が書いてあった。

 「風邪ですね」若い獣医師は聴診器を外して言った。

 「風邪ですか?」

 「ええ、俗に猫風邪と呼ばれている呼吸器感染症で、人間のそれとは違いますが」

 「治るんですか?」

 「風邪に良く似た症状なのですが、治療を怠れば結膜炎で失明するケースもありますし、気管支炎から肺炎になる恐れもあります。体力のない猫は死に至ることもあります」

 「先生、お願いします。何とか治してください」

 「直接施せる治療はないのですが、一応インターフェロンを注射しておきますか?」

 インターフェロンは僕も入院時、毎日注射していた。ウイルスの増殖を抑える薬だ。

 「お願いします」

 「分かりました。それと抗生物質と目薬を出しておきますので、後は暖かくして栄養価が高く、消化の良い食事を与えてあげてください」

 「それだけで良いんですか?」

 「そうですね、後は基本的に、外出はさせないようにしてください。二次感染を防いで、自然治癒を待てば十日程で治りますよ」獣医はそう言った。

 僕はほっと肩を撫で下ろした。

 子猫を外出させてはいけないということだったので、併設されたペットショップで必要なものを購入し、一度家に連れて帰ることにした。


 早く元気になってくれると良いのだが……。

 この子猫は病気が治るまで自分の家で預かることにしたが、動物など飼ったことのない僕は、具体的にどうしたら良いのか分からなかったので、とりあえず獣医の言った通り自然治癒に委ねた。

 拾ってきた大きなダンボールに入れたタオルの上で、子猫はぐったりと横になっていた。膿み状の鼻水を垂らし、かすれた声で鳴くのがやっとのようだったが、それから三日もすると大分良くなったようで、狭い家の中を駆け回っていた。

 一応念のためもう一度動物病院に連れて行くと、獣医は回復しているが、外に出すと他の病気が感染する恐れがあるので、抵抗力が弱い今のうちはできれば家の中で飼うことを勧めてきた。とはいえ病気が完治したら、この子猫はまたあの公園に戻そうと思っていたので、僕は獣医の言うことに適当に相槌を打って動物病院を後にした。

 子猫を公園に戻すため御神山に向けて車を走らせていると、ちょうど光陽銀行の前を通りかかった。時刻は夕方を過ぎているというのに、高山の姿はそこにはなかった。毎週火曜日と木曜日は占いとしていると言っていたのだが、もうすでにこの町を離れていってしまったのかもしれない。

 「そうか、高山さんもいなくなったか……」

 ふと横を見ると、助手席に置いたダンボール箱の中の子猫が、箱の外に飛び出そうとした。

 「こらこら」

 僕は運転しながら、片手で子猫をダンボール箱の中に戻した。

 「お前も僕と別れるのが寂しいのかい?」

 そう言うと、子猫はダンボールの中から僕の顔を見上げた。

 その視線が合った時、僕が猫に対し幼児に喋りかけるような口調で話してしまったことに気が付き、恥ずかしくなって思わずぷいっとフロントガラスに視線を移した。

 しかし子猫は、そんなことはお構いなしに口を三角形に開き「ニーッ!」と僕に向かって一際強く鳴いた。

 僕の耳の奥底に、その鳴き声がこだました。

 本来猫など好きではなかったのだが、どうもこの子猫には愛着が沸いてしまっているようだ。僕は御神山には行かずハンドルを切り、通りをUターンした。

 せめてもう少し大きくなって抵抗力が付くまではと思い、僕はそのまま子猫を連れて家に帰って行った。

 そこから僕と猫との生活が始まった。

 基本的には大人しい猫だったので良かったのだが、始めは糞や尿をトイレ以外のところにされるし、障子は破るし、柱は爪とぎで傷つけるしで大変だった。だが、少しずつ躾をしていくとトイレも覚えてくれて、買ってきた爪とぎで爪をとぐようになった。ただ相変わらず障子は破る癖は直らないようで、それはもう諦めて破れたままになっていた。

 そして猫の朝はやけに早いようだ。午前五時にもなれば、御飯を催促しているのかニャーニャーと鳴きながら僕の寝床に近づいてくる。眠いので始めは無視しているのだが、しばらくすると脇腹の辺りを前足でもみもみと揉んでくる。僕はその心地よい感触をしばし堪能していると、何とも悲しそうな声で「ミュー」と鳴かれるので、仕方なくむっくりと起き上がって台所の戸棚から猫の餌を取り出して皿に盛ってやる。猫のおかげですっかり早起きになってしまったが、仕事を辞めてからは朝が遅くなってしまっていたので、それはそれでちょうど良かったのかもしれない。

 猫に御飯をあげてから洗面所で顔を洗い、歯磨きをして茶の間に行き、水を飲みながら、朝のニュースをチェックするのが毎日の習慣になった。猫は御飯を食べ終わると僕のいる茶の間にやってきてテレビの前でまた眠った。ここからは起こさなければ夕方まで寝ていることが多いので僕はその間に掃除、洗濯や買い物、通院を済ませる。五時ぐらいになるとまた起きてくるので、少しだけ猫と遊ぶ。

 猫のお腹を掻いてやると、僕の手に懸命に絡み付いてくる。それに飽きると今度は座っている僕の体を登ろうとする。僕は登りやすいように身体を少し傾けると、お腹の辺りからよじ登ってくる。肩まで登ると耳元で小さく「ニー」と鳴いてきて、それがとてもこそばゆいので一度膝の上まで降ろすのだがまた何度でも登ってくる。そして遊んだ後、七時頃に僕と一緒に御飯を食べると、八時ぐらいにはまた寝てしまう。

 本当に寝てばかりいる生き物だ。

 ずっと狭い家の中では可哀想だなと思っていた僕は、庭の中だったら他の猫と接触することもないだろうと思い、家の庭に猫を出してみた。猫は辺りをきょろきょろしてから、おっかなびっくり外に出て辺りをくんくんと嗅ぎまわった。僕はそれを見ながら茶の間から庭に通じる小さな縁側にゆっくりと腰を下ろした。猫が物珍しそうに周りを歩き回っているのを見ているうちに、僕は暖かい日の光に誘われついうたた寝をしていた。

 そしてその時、妙な夢を見ていた。

 僕は猫と一緒に、不思議な世界に紛れ込んでしまった。全てがモノトーンに染められたような不思議な世界。

 「ここがどこだか分かるかい?」そう猫は言う。

 「いや、分からない。けど……」初めてきた場所なのに、以前にも来たような気がする。

 「けど?」

 「酷い既視感がする」

 「なるほど、それはあるかもしれない」

 猫はそう言うと、でこぼこの石畳の道を歩き出した。

 「どこに行くの?」

 だが猫は答えない。もう一度聞いたが、結果は同じだった。僕は諦め、仕方なく猫の後を追いかけた。

 両脇に建物が建ち並ぶ通りを、猫の歩幅に合わせてゆっくりと歩きながら、僕はこれが夢であることに気が付いた。別に目が覚めたというわけではなく、眠りに着いたままこれは現実ではないと気が付いたのだ。

 「探し物を見つけに行こう」

 前を歩いていた猫は振り返りもせずにそう言うと、急に走り出した。僕も慌ててそれを追いかけたが、本気で走る猫に僕は到底追いつけなかった。しかし猫はある程度先行すると、後は僕の走る速度に合わせて走ってくれたので、何とかそれに着いていくことができた。

 猫と僕はモノトーンの通りを疾駆する。夢の中だというのにやけに苦しい。心臓が張り裂けそうだ。

 「探し物って何?」息も絶え絶えに聞いてみた。

 「鍵だよ」と前を走る猫は言う。

 「鍵? 何の?」

 「もちろん君の鍵さ」

 「僕の?」

 意識が朦朧とする。いっそ目を覚ましてしまえば、こんな苦しみから解放されるのだが、この夢の結末がどうしても気になり僕はそれをしなかった。

 「僕の鍵ってどういうこと?」

 「それは私には分からない。君にとって人生を切り開くための鍵とは、一体何だと思う?」猫は質問を返した。

 「人生を切り開くための鍵? 言っている意味が分かんないよ」

 「いや。君はその鍵が何たるかを、本当はもう気付いているはずだ。そしてそれを見つけ出し、睡蓮の封印を施す。それが君の『行』なのだから」

 猫はそう言うと、僕をおいて勢い良く走り出し、どこかに消えてしまった。

 「何処に行ったの! 出てきてよ!」

 しかし猫は何処にもいない。

 すると、何処からともなく声が聞こえてきた。

 「私が案内するのはここまで。後は自らの足で探すのです。この通りを真っ直ぐに行ったところに答えはあります」

 「この先に、僕の探し物が……?」

 何なのか良く分からなかったが、とりあえず僕は通りそのまま突っ切った。足は岩のように重く、脇腹にねじれるような痛みを感じたが、僕は答えのある場所を目指して懸命に走った。これは恐らく目的地に辿り着けるか、僕の命が先に尽きるかの最後の戦いなのだ。

 ふらふらになりながら途中でどうしても苦しくなり、両手を膝の上に乗せ中腰の姿勢で息を切らしていると、目の前に小さな子供がいることに気付いた。

 その子供は僕に背中を向けたまま「苦しい?」と聞いてきた。

 「ああ、死ぬほど苦しいよ」

 「死ぬほど?」子供はそう言うと、くるっと振り向き更に「苦しいっていうのは生きているから苦しいんだよ」と言い、にこっと微笑んだ。

 「えっ!」

 僕はその子供の顔を見た瞬間、まるでスイッチが切れるように突然眠りから覚めた。

 急に現実に戻された僕は暫し呆然とした。

 ……ああ、やっぱり夢だったか。

 夢だということは途中で気付いていたのだが、いつの間にかそれも忘れてしまっていたようだ。

 軽く溜息をつき、ふと前を見た時、庭から猫の姿がなくなっていることに気付いた。

 「しまった!」

 僕は慌てて家を飛び出し、家の周辺を捜索した。しかし家の側には、何処にも見当たらなかった。猫の行動範囲なんてたかが知れているのだろうが、いざ捜すとなると中々見つからないものだ。

 僕は少し捜索範囲を広げ近所の路地などを捜しながら、さっき見た夢を思い返した。

 夢の中であの子供の顔を見た瞬間、僕は何かを思い出しそうになっていた。だけどその時、強制的に夢の世界から追い出されるようにして眠りから覚めてしまった。あの時僕は何を思い出そうとしていたのだろうか。そしてあの子供は……、間違いなく幼少時代の僕に違いなかった。

 しかし夢はあくまで夢に過ぎない。僕は頭を振りその夢を振り払った。

 しばらく近所を捜していたのだが、猫は一向に見つからずとうとう日が暮れてしまった。無事ならば帰巣本能で帰ってくるだろうと思い、仕方なくこの日は諦めて家に帰ることにした。

 交通事故にでもあっていなければ良いのだが……。

 帰路につき玄関の鍵を開けようとすると、庭のほうから寂しそうに鳴く猫の声が聞こえた。まさかと思い、僕は急いで玄関の横を通り庭に行くと、縁側の上でちょこんと座って鳴いている、猫の姿がそこにあった。

 「心配させるなよ……」

 僕がそう言うと猫は「ニャオワム!」と妙な鳴き声で答えた。

 よく見ると右の前足から少し血を流していた。喧嘩でもしてきたのだろうか?

 「また明日、一緒に病院に行こうね」

 やっぱり猫と話す時は、幼児に話しかけるような口調になってしまう。どうも猫と話すのは苦手だ。


 それから数日後、いつもと変わらぬ朝だった。御飯の時間だと猫がニャーニャー鳴きながら僕の脇腹を押していた。僕はぼーっとする頭でゆっくりと布団から出ると、トイレで用を足し、猫の御飯を準備して、台所の椅子に座り水を一杯だけ飲んだ。何だか今日は身体がやけに冷たい。今飲んだ一杯の水が、冷たいまま胃の中に溜まっている。

 猫はいつものように旨そうに御飯を平らげると、舌で口の周りを拭き取り元気のない僕の顔をじっと見つめた。

 心配でもしてくれているのかな?

 僕が猫の喉を撫でると、猫は気持ち良さそうに目を細めて首を伸ばした。僕の冷たい手に猫の体温が伝わってきて少しだけ気分が落ち着く。喉から首の周りそして背中にかけて撫でると、猫は大きく伸びをして立ち上がり、包帯の巻かれている右の前足を歩きづらそうにしながら茶の間へ歩いていった。

 僕はお腹が空いてなかったので、洗面台で顔を洗うと茶の間のテーブルの前に腰掛けてテレビを点けた。朝のニュース番組では政治家の汚職事件と遊園地の施設で子供が怪我をしたニュースがやっていた。

 猫はテレビの前に置いてある座布団の上が定位置なので、いつものようにそこで丸くなり眠っていた。僕はただ呆然とテレビ画面を見ていたのだが、どうにも倦怠感が酷くてテレビに集中することができず、リモコンを握りテレビの電源を落とした。

 どうも体調が優れないようだ。

 少し自分の部屋で横になろうと思いそこから立ち上がると、眠っていた猫もむくっと起きて僕の後をついてきた。

 「おいで……」

 猫に向かってそう言った次の瞬間、目の前の世界がぐにゃりと歪み、同時に内臓が引き裂かれるような痛みに襲われ、思わず畳の上にうずくまった。これは、今まで感じたことのないような発作だ。

 「なんで、後半年あるんじゃないのかよ……」

 全身を駆け巡る激痛に、体中から脂汗が流れ出てその場で横になった。もうこれで死んでしまうのだろうということも直感的に気付いた。苦悶の表情を浮かべ震えていると、猫が近くにやってきて額から溢れる汗をザラザラする舌で舐め取った。

 薄れていく瞳に、心配そうに見つめる猫の姿が映る。

 「どうやらお前のことを、また一人ぼっちにさせてしまうようだ」

 そう言うと、猫は鼻の頭を僕の顔に擦り付けてきた。

 「ごめんな。本当は分かってたんだ。お前の面倒を最後まで見てあげられないって。分かっていたのに、この寂しさを紛らわせたくてお前のことを家に連れてきてしまったんだ……。こんな無責任な飼い主をどうか許してくれ」

 猫は一息「ニャオワム」と鳴いた。

 「今までありがとうな。これからは自分の力で餌を取って、生きていくんだよ」

 せめて猫が外に出られるようにと、僕は最後の力を振り絞り畳の上を這った。とても体を動かせるような状態ではなかったが、その時にはもう感覚自体がまともな状態ではなかったようで痛みもまるで感じなくなってしまっていた。

 僕は朦朧とする意識の中で必死に縁側の扉に近づくと、何とか上体を持ちあげ扉のロックを外し、震える指先でゆっくりと扉を開けた。

 扉の隙間から、初夏の爽やかな風がサワサワと部屋の中に流れてきた。

 「さあ、ここから外に行け。できることなら優しい人に拾われるんだぞ……」

 そこで身体が力尽き、そのまま崩れると頬を畳に擦りつけた。

 どうやら、もう時間のようだ。

 フワフワとしたやわらかい毛が右手に触れるのを僅かに感じた。僕はやっとの思いで右手を動かし猫の背中を撫でた。

 「……バイバイ、レド。今まで、ありがとな。お前のお陰で……、僕の最後は一人じゃなかったよ……」

 開いた扉の向こうから、近所の幼稚園のチャイムの音が風に乗って聞こえてきた。その音は徐々に耳から遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった。視力も失いそのまま目を閉じると、目の中に留まっていた涙の雫が、ぽたりと一滴頬を伝って古畳を薄く濡らした。

 猫は動かなくなった僕の傍らに寄り添い、身を丸くして埋まるとゆっくり瞼を閉じた。そして僕たちは、身を寄せ合うようにして最後の眠りに着いたんだ。


 もしも最後に願いが叶うのなら、もう一度だけ、父さんと母さんに会いたい。会ってありがとうって伝えたかった……


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