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解けない知恵の輪 解答編

 大崎のヒントを頼りに、かごめと一緒に謎を解き明かそう!

 沢村かごめは、鎖状に繋がった二つのリングをカチカチしながら、なんとか外せないものかと悩んでいる。


「この知恵の輪って、本当に解けるんですか?」


 大崎レイは、困り顔のかごめを見てクスリと笑った。


「何がおかしいんですか? 外せるというのであれば、この知恵の輪を、部長が外して見せてください」


「それは、降参するということかな?」


「え? ち、違いますよ。私が目を閉じている間に、解いて見てください」


「なるほど、いいだろう。では、目を閉じて後ろを向いてくれるかな?」


 かごめは言われた通り目を閉じると、大崎に背中を向けた。


 少し間があった後、コポコポと何かを注ぐ音がし、それからコーヒーのいい香りが、かごめの鼻をくすぐった。


「部長? 何してるんですか?」


「コーヒーを淹れている。君も飲むかい?」


「はい、いただきます。って違うでしょ。そんなことより早く知恵の輪を外してください!」


「ああ、わかっているよ。もう少し待ってくれ」


 大崎は二つのコーヒーを手に持ち、机へと運んだ。


「かごめくん。もう目を開けてもいいよ」


 かごめが目を開けると、机の上には淹れたてのコーヒーと、きちんと外された二つのリングが置いてあった。


「うそ……。外れてる」


「これで納得してもらえたかな? もちろん、また組むことも出来る」


 かごめは二つのリングをマジマジと観察した。これといって外れてる以外は、何も変わっていない。


「部長? このリング。外れたモノとすり替えたりしてませんよね? もしそうなら怒りますよ?」


「残念ながら、この知恵の輪は、君が先程まで手にしていた知恵の輪に間違いはない。しかし、その発想は悪くない」


「え? それも有りってことですか?」


「有りだ。なぜ君が、この知恵の輪の謎を解くことができなかったのか? 最大の理由は、ミスディレクションにある」


「それって、マジックなんかで使う騙しのテクニックですよね? もしかして私、騙されてます?」


「それもあるが、君は固定観念に縛られている。この知恵の輪を解くには、常識を破った自由な発想が必要だ」


「なるほど……。この知恵の輪には、マジックのように、タネがあったんですね?」


「そう言うことだ。マジックのタネは、馬鹿馬鹿しいほど単純なものが多い。ショートショートなわけだし、そろそろ解答したいんだが、どうかな?」


「ちょっと待ってください。私もこの学園が誇る探偵倶楽部の一員です。簡単に諦めるわけにはいきません」


「では最後に、ヒントをやろう。君が目を閉じている間、何か音が聞こえたはずだ。よく思い出して、解答して欲しい」


「音? と、言われても、コーヒーを淹れた時の音くらいで……。他には何も……」


「かごめくん。コーヒーが、ミスディレクションだとしたらどうする?」


「え?……。それでは、あのお湯を注ぐ音は……。でも、まさかそんなこと」


「まさか……。それこそが、トリックのタネに、気づくかどうかの重要な分かれ目だ。そのまさかを、試してみてはどうかな?」


「そうですか? 失敗してこの知恵の輪が元に戻らなくなっても、怒らないでくださいね?」


「ああ、約束しよう」


 かごめは、椅子から立ち上がると、部室にある電気ポットへと向かった。棚にあるビーカーを手に取り、ポットからお湯を注いだ。ピンセントを手に取ると、自分の机に戻り、お湯の入ったビーカーを置く。そして合わさり目のあるリングをお湯の入ったビーカーに落とした。


「私の推理が正しければ、このリングはお湯に入れることで柔らかくなります」


 かごめの言う通り、お湯に入ったリングの合わさり目が、二人の目の前で少しずつ開いていく。


「やっぱり柔らかくなった! 後はこれを取り出して・・・・・・」


 かごめはリングをピンセントで取り出すと、残ったリングを、開いたリングにかける。後は柔らかいうちに、合わさり目を閉じるだけなのだが、合わさり目が、何もしていないのに勝手に閉じ始めた。そして元どうり合わさり目は、ピタリとくっ付いてしまった。


「え? ちょっちょっと、どうなってるんですかこれ?」


 かごめが慌てふためく様を見て、大崎はフフフと微笑んだ。


「ある温度に達すると形を変え、冷えると元の形に戻る。ニッケル、チタン、鉄、マンガンケイ素合金などなど。この知恵の輪は、いわゆる形状記憶合金で出来ている」


「形状記憶合金? やられたあ!」


「かごめくんの解答は、ほぼ正解だ」


「でも、結局部長には及びませんでした。私はまだまだですね」


「かごめくんに記念として、その知恵の輪をプレゼントしよう」


「もらっちゃってもいいんですか?」


「ああ。僕もいずれこの学園を卒業し居なくなる。もし、かごめくんが大きな謎につまずいた時、何かの役に立つかも知れない」


「解けない知恵の輪のプレゼントか……。なんだか深読みしちゃいそうですね」


 そう言うとかごめは、大崎に潤んだ視線を投げかけた。


「あ、それと、時には僕のことも……。思い出してくれると、あ、いやっ。そろそろ帰ろうか、かごめくん」


「……いくじなし……」


「何か言ったかい?」


「私は何も言ってませんよ。どうぞ安心して卒業してください。元部長」


「何を怒っているんだ? かごめくん」


「怒ってなどいません。早く帰りましょう。元部長」


「元部長ってなんだよっ。あからさまに怒ってんじゃんかよ! もうやだあ」


 こうして、とある日の放課後は、今日も何事もなく過ぎて行くのであった―――。 ちゃんちゃん


 この知恵の輪、誰か作って販売してくれないかしら? 私得。

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