銀の少年
「終わりだな…父の仇…!!」
翼にその言葉の意味を考える余裕はなかった。
すぐそこに炎の竜巻が迫ってたからだ。
翼は持っていた炎の護符を前にかざした。
しかし護符はどんどんと塵になっていく。
(もうダメか…!)
翼がそう思ったとき横から黒の斬撃が飛んできて炎の竜巻がかき消された。
「今翼に死なれるとこっちも困りますから…翼の代わりに僕がお相手します」
翼と亜紀は斬撃が飛んできて、その声がした方に顔を向けた。
太陽もほとんど沈み、オレンジ色が消え薄暗くなっている空を背にそれでもその少年は物凄い存在感をしめしていた。
銀色の髪、銀色の瞳、そして黒色の剣。
かすかな風にすらなびくその美しい髪。
一度捕らえたものは逃がさないと言わんばかりのその眼光。
その綺麗な顔をしている少年に似合わない闇と同化してしまいそうな不気味な剣。
それらを持っている少年は翼とうりふたつの顔をしていた。
「翼…君はまるでダメですね…。」
少年は翼の前に立ち無表情で言った。
亜紀は我に返り冷静に考えた。
(なんだあいつは…?鷲野の仲間か…?双子…?いや、それよりも問題はカグツチの炎がかき消された事だ!!なんなんだあの剣は!!)
今まで翼の方を見ていた銀の少年が亜紀の方を向き
「十年前、君の父をコン太に命令して殺したのは翼じゃなく…僕です…本道亜紀さん」
「!!」
亜紀はもちろん翼も驚いた。
銀の少年が言ったことが本当なら今の見た目15〜16の歳で十年前は5〜6歳の歳で人を殺してることになるからだ。
コン太が本当に人を殺めている。
そして翼は亜紀の本当の名前が本道ということにも驚いていた。
「お前…!!それは本当か!!」
「本当ですよ…翼は何も知らない…それにコン太も自分が人を殺したことを知らないでしょう…。そのときのコン太には記憶消去の魔法をかけておきましたから…」
翼は助けてくれた少年に殴りかかろうとした。
亜紀の父親が殺されたのはあまり関わりがなかったのでそんなに怒りを感じることはなかったのだが、昔コン太にそんなことをさせた奴が目の前にいる…それだけで翼はものすごい怒りを感じた。
翼はコン太のことを親友のように感じていたからだ。
少年に殴りかかろうとしたのだが少年が何か呪文を唱えると翼の身体は動かなくなってしまった。
「金縛りの術ですよ…魔力が無い人にしか効かないんですけどね…」
つまり少年は遠まわしに翼に魔力ゼロだと言っているのだった。
「翼…君はここで僕の戦いを見ていてください…。大丈夫、貴方は殺しはしませんから…。ただ…彼女は死ぬことになるかもしれませんが…」
翼は怒鳴りたかった。
亜紀の父親を殺し亜紀に悲しい思いをさせたこと、コン太に亜紀の父親を殺させたこと。
全力で殴ってやりたかった。
しかし金縛りは強く、一言も声がでない。
「あなたが本当の父の仇なんだな!!」
「はい…そうですよ…本気でかかって来てください…翼に戦いというものを見せたいのですよ…」
「後悔するよ…」
亜紀は持っていたカグツチを消し天羽々斬をだした。
「これが父の形見だ!!お前を殺す!!」
亜紀は風の魔法を使い物凄い速さで銀の少年との間合いを詰めた。
そして真横にぶった切った。
しかし銀の少年はそこにはもういなく、さっき亜紀が立っていた場所に立っている。
銀の少年は剣を前に出し月にかざした。
「闇を照らす月よ…我が前にその姿を現せ…夜の支配者…ツクヨミ…」
すると黒色をしていた剣が美しい銀色に変わった。
銀の少年にとても似合う剣だった。
亜紀はその剣の名を聞いて青ざめた。
なぜならツクヨミは日ノ本の国における最高の位を持つ神の一人だからだ。
その名を冠する剣『ツクヨミ』。
もし銀の少年の言っていることが本当であの剣がツクヨミと契約し、そしてツクヨミからもらったものなら亜紀にほぼ勝機は無かった。
亜紀のカグツチも強い神の名を冠する剣でカグツチと契約したときにもらった物だが、カグツチではツクヨミには勝てない。
火の剣では闇の剣には勝てないのだ。
今、亜紀が握りしめているのは火の剣よりさらに下位の剣。
亜紀はほぼ勝機がないとわかりながらも天羽々斬を強く握りしめ銀の少年との対決に心を決めた。
恐れながらも亜紀はちゃんと前を見ている。
父の仇を睨みつけているのだ。
一方金縛りをかけられている翼はいまだに身動きの一つもとれないでいた。
さらに亜紀は銀の少年に向かって一歩一歩と間合いを詰めていった。
(あの剣が本当にツクヨミだとしても一瞬で間合いを詰め、アイツより速く一撃を出せれば勝てる…勝機がないわけではない!!)
亜紀は銀の少年が持っている剣の長さ、先ほどの少年の動きなどを考え銀の少年間合いを見極めようとした。
しかし銀の少年は亜紀が何を考えているのかをわかっていたという風に
「僕に間合いは関係ありませんよ…」
と亜紀に対し言った。
しかし亜紀は銀の少年の言葉に耳をかすことなく前に横にと銀の少年との間合いを測っていた。
そして亜紀が滑り台の前に立ったとき銀の少年は行動を始めた。
銀の少年は持っていたツクヨミで空中に円を描いた。
空中に描かれた円の内側が黒く変色した。
その一部分だけ他の場所と比べて明らかに不自然な形になっている。
そしてその黒色になっている円の中に最初に亜紀対し撃った斬撃を飛ばした。
ただし今度の斬撃は黒色ではなく銀色をしていた。
亜紀は銀の少年の行動を黙って見ていた。
下手に行動して墓穴を掘るより相手の動きを見て確実に攻撃を避けるべきだと判断したからだ。
亜紀は背後に物凄い衝撃と痛みを覚えその場から少し飛ばされうつぶせに倒れこんだ。
(痛っ!な…何だ!?)
亜紀は痛む背中を触ってみた。
すると手に生暖かいものがふれた。
それは大量の血だった。
背中の傷もかなり深く致命傷とまではいかないがその傷で戦闘を続けることは不可能だった。
(どこから攻撃が飛んできた!?さっきのアイツの攻撃か!?)
亜紀は必死に考えた。
考えた結果ここから離れたほうが良いと思ったのだが先ほどの攻撃で体が動かなかった。
「亜紀さん…もう終わりですね…」
そう言いながら銀の少年は倒れている亜紀に近づいていった。
亜紀は銀の少年が近づいて来てるのを察知してなんとか反撃しようとうつ伏せになっていた身体を起き上がらせようとした。
しかし思うように動かず今度は仰向けになって倒れた。
そしてついに亜紀の顔を見下ろすところまで来た。
銀の少年は亜紀の喉元に剣の先を向けた。
「さよなら…」
そう言うと銀の少年はツクヨミに魔力を込めた。
するとツクヨミの剣の先に黒い球状の霧のような物が現れた。
黒い球状の物は、はじめのうちは球にかたどられていた只の霧みたいなものだったが、次第ににはっきり形が形成されビー玉のような綺麗な球になった。
そして亜紀に銀の少年が攻撃が攻撃を出そうとした。
だがその刹那、銀の少年は胴体を真っ二つに斬られていた。
亜紀が天羽々斬で斬りつけていた。
「ふん、油断してるからだ!」
亜紀の背中の傷はもうすっかり癒えていた。
先ほど亜紀が仰向けに倒れたのは背中の傷の治癒を銀の少年に気付かせないようにするための行動だった。
亜紀は高等魔法の回復を使えるのだった。
亜紀の齢で回復の魔法を使えるのはとても珍しいく、それほど難しいものだった。
胴体を斬られた銀の少年は倒れていくというよりかは落ちていくといった感じでその場に倒れようとしていた。
しかしどうも不思議だった。
亜紀に銀の少年を斬った感触がなかった。
なにより胴体を斬られたのだから大量に血が出てもいいものだが、銀の少年の身体からは一滴の血すら滴っていない。
亜紀は気付いた。
これは『偽者』だと。
「どこにいる!?銀!!出て来い!!」
亜紀は腹から声を出した。
銀の少年がまだ近くにいることはわかっていた。
なぜなら翼の金縛りがまだ解けていなかったからだ。
術者が死ぬ、もしくはその場からある程度離れたら術というのは解けるものだからだ。
「さすが亜紀さんですね…。僕の行動が分かるなんて…。いいでしょう…。僕の名を名乗っておきましょう…」
「お前の名など知らなくて結構!父を殺した者の名など知りたくもない!!」
銀の少年は公園の真ん中にある噴水の上に浮きながら言った。
「そういわないでください…僕は名のっておかなくてはいけないのです…僕の名は…翼…鷲野翼…でも…そこにいる翼と間違わないために『ヨク』と呼んで下さい…」
「な…に…!?」
銀の少年の名に二人とも驚いた。
銀の少年は翼と同じ容姿をしてるだけではなく名前までも同じだったのだ。
名乗り終えるとヨクは噴水から下りてきた。
下りてくるときヨクは風の魔法と重力の魔法を使いフワリと下りてきた。
そう学校で亜紀が使った難しい魔法だ。
下りてきたヨクは翼の方をチラッと見て再び亜紀の方を見た。
「月鏡…!」
ヨクはツクヨミを前にかざし、そう呟いた。
すると先程の黒い円が空中に現れた。
「亜紀さん…翼…これが僕のツクヨミの能力が一つ『月鏡』です…」
そういうとヨクはさらに続けた。
「月は…太陽の光を浴び光っています…そう『反射』しているのです…ツクヨミは光を反射させる物さえあればそこに斬撃を転移させることができます…」
それを聞いた亜紀は驚いた顔を少しだけ見せて
「そうか…さっき私が滑り台の前に立ったとき、斬撃を滑り台に転移させたのか!」
と自分なりの見解を述べた。
「そうですよ…遊具は鉄の塊…鉄は光をとても反射させる…。しかし…いくら鉄で反射させてもその鉄が錆付き、汚くなっていてはそれ程強い斬撃は出せません…」
ヨクの言ったとおりここの公園の遊具は何年も風や雨に打たれていたおかげで、もうボロボロになっていた。
ヨクはいきなり後ろを向いた。
この場から去ろうとしているのだ。
「おい!!お前!!どこに行く!?」
亜紀は去ろうとしているヨクに叫んだ。
ヨクはその叫びを聞くと顔だけ亜紀の方に向け
「あなたの力を見せてもらいました…もう十分です…。何より翼のためになったでしょう…。アナタがまだ僕を追いかける気なら…翼の近くにいるといいでしょう…。翼の近くにいれば…いずれ…僕に辿り着く…」
「逃がすと思っているのか?」
亜紀は天羽々斬を強く握った。
「今のアナタでは僕に絶対勝てない…。それはアナタも分かっているでしょう?それに一つ僕に辿りつくための『道』をもう用意しています…。『ヴァンパイア』を見つける事ですね…」
そう言うと亜紀に向けていた顔をもとに戻し、ツクヨミの斬撃を先程作った黒い円の中に無数に放ったと同時に水の魔法を使い六つの水の柱を亜紀の周りに作った。
ツクヨミの能力は光を反射させるものに斬撃を転移させること。
水は太陽の光をよく反射させる。
六つの水の柱から大量の銀の斬撃が飛んできた。
しかも先程背後から受けた斬撃よりさらに強力なものだ。
「くっ!」
亜紀は四方八方から飛んでくる斬撃を防ぐのに精一杯だった。
その隙にヨクは去っていった。
ヨクが去っていき少し時間が経つと翼にかかっていた金縛りが解けた。
翼は急いで亜紀が無数の銀の斬撃を受けているところに駆けつけた。
しかし魔力を持たない翼ができることは何もなく、ただ亜紀が防いでるところを見ていることしか出来なかった。
それからしばらくすると亜紀を襲っていた銀の斬撃は水の柱が消えると同時に収まった。
亜紀はその場に崩れ落ちた。
「はぁ…はぁ…」
亜紀はとても疲れていた。
昨日レッサーデーモン相手に軽々と戦っていた亜紀がこれほど疲労するほど銀の斬撃は強力なものだった。
制服も所々破れたりしていた。
「大丈夫か…?」
翼は手を差し伸べた。
さっきまで自分を殺そうとしていた人間にすることではないと分かっていながらもそうしたかったのだ。
亜紀はさっきの少年に父親を殺され、さらに力の差をまざまざと見せ付けられ自分の力を否定されたのだ。
しかもヨクという銀の少年は確実に自分と関係あると翼は考えていた。
翼はお詫びがしたのかったのかもしれない、同情していたのかもしれない。
しかしそんな翼が差し伸べていた手を亜紀は払った。
「!?」
なぜ払われたのか翼はわからない。
亜紀は翼を睨みながら怒り、叫んだ。
「なぜ、銀の少年を追わなかった!?」
「な、なぜって…」
「アナタがここにいても出来ることは何一つない!!そんなこと分かっていたでしょう!!それにあの少年はアナタに死なれると困ると言っていた!!アナタが尾行しても殺されることはまず無かった!!それならば尾行し少しでも彼の居場所を掴もうとするべきではなかったのか!!」
亜紀は逃げられた悔しさと自分の弱さ怒りを翼に当てていた。
翼がビコウしても確実に撒かれることは亜紀にも分かっていたし自分の怒りからこんな自分勝手な言葉が出ているのもわかっていた。
しかし止めることはできなかった。
そうして二人とも沈黙した。
少し時間が経つと亜紀は立ち上がりスカートについた砂をほろった。
翼に背を向けながら自分の家のある方にと歩いていった。
翼はただ見てるだけだった。
すると亜紀が急に立ち止まり翼に背を向けたまま
「早とちりしてアナタを襲い、さらにさっきの八つ当たり…ゴメンなさい…。」
そう言うと再び亜紀は歩きだした。
翼は亜紀が完全に見えなくなるまでその背中を見ていた。
「ふぅ〜俺も帰るかな…。」
翼は自分の家の方へと歩き出した。
帰り道空には美しすぎる満月が昇っていた。
「ただいま〜」
翼は離れの自分の部屋にまず行き制服を着替えた。
そのときコン太のことが気になって探してみたが先に本家の方にいるみたいだった。
翼はお腹がすいていたので急いで本家の方に向かった。
そして食堂の中に入っていった。
みんな揃っていた。
「お帰りなさい」
そう声をかけてきたのは妹の梨香、弟の秀、祖母の千代、コン太。
しかし今日の梨香の声は不機嫌きわわり無いものだった。
祖父の虎助は絶対にお帰りなどの声はかけてこない。
父親と母親は四年前から行方不明。
そう四人のはず。
しかし一人分声が多かった。
翼の座った隣に一人の女性が座っていた。
亜紀だった。
「うわぁ〜〜!なんでアンタがここにいるんだ!!」
翼は驚いて立ち上がり亜紀と逆の方に座っていたコン太の尻尾を思い切りふんづけた。
そして踏みつけた拍子に後ろに思いっきり倒れた。
「ぎゃ〜〜!!」
尻尾を踏みつけられたコン太は痛みで飛び上がり部屋中を駆け巡っている。
そして騒いでるうちに虎助が杖を用意した。
「うるさいわ!!このバカもんが〜〜!!」
と叫び翼とコン太の頭を思い切り引っ叩いた。
ドカっという音とともに翼とコン太はその場に倒れこんだ。
虎助がオホンと咳払いして翼の方を見た。
「翼、お前は今日鷲野翼と名乗る自分にそっくりの人間に会ったそうだな」
「ああ」
翼は短く頷き心の中で
(はいそうですよ。そこにいる女の人から救ってもらいました)
と呟いた。
「そうか…それで聞いた話によるとその銀の少年はお前の近くにまた現れると言ったらしいな?」
「あぁ…そうだよ…それでそれが何?」
翼は痺れを切らし虎助に聞いた。
すると虎助は
「お前…今日から亜紀ちゃんと暮らせ」
流れる長い沈黙。
虎助だけ味噌汁をズズ〜とすすっていた。
翼ははじめ虎助が何を言っているのか理解できなかった。
「何でそうなるの〜!?おじいちゃん!!」
そう言い虎助に一番最初に質問したのは妹の梨香だった。
梨香はテーブルをバンと叩き立ち上がり聞いた。
「ん…いや…それは」
虎助は孫の梨香のことをとても可愛がっていた。
そのため梨香に対する態度はとても腰が低く、上司を目の前にしたサラリーマンみたいなものだった。
「ほれ梨香。亜紀ちゃんはその銀の少年を追ってるらしいしのぉ…。そしてその銀の少年は翼と共におればまた会うこともあるというとったじゃろ…。つまり翼に危害が及ぶかもしれないということじゃよ。あれじゃ『ぼでーがーど』として翼の近くにいてもらうということじゃ。こちらと亜紀ちゃんの利害一致しとるしのぉ…」
「でも…!」
梨香はいっこうに納得する気配を見せない。
「いいんじゃない姉さん」
そう梨香に言ったのは弟の秀だった。
秀は家族の中で一番年下で小学五年生なのだが、とてもマセていて翼より大人っぽい性格をしている。
ちなみに秀も髪の色は銀だ。
「姉さんもいい加減兄さん離れしなきゃ」
そう言われると梨香の顔が見る見る赤くなっていく。
「な、な、なななななな何言ってんの!!」
梨香はそう言って秀の頭をグウで叩いた。
叩かれた秀は立ち上がった。
「痛っ…!なにすんのさ!姉さん!」
「お子様は黙ってなさい!」
秀は子供と言われるのがとても嫌いだった。
秀は子供と言われると性格が豹変してしまう。
普通の子供のように。
「!!姉さん…今子供って言った?言ったよね!!このブラコン!!」
この辺を見ると秀の大人っぽさはつくられたものだとわかる。
秀は大人を演出しているのだ。
「ブ…ブラコンですって!!」
「そうだよ!!さっき亜紀さんが家に来たとき兄さんが帰ってきたと思ってうれしそうに亜紀さんにニィーって言ったじゃないか!!」
そう言われると亜紀は再び秀の頭をグウで殴った。
秀は頭を抑えながらさらに反撃しようとした。
が、梨香の顔は鬼の顔となっていた。
眼はギョロリと口から出てる舌は蛇のようにニョロリと。
秀はそんな幻影を見た。
それを見た秀は恐れ恐怖し、素直に
「すみませんでした」
と謝った。
そして座った。
「で、翼。お前はどうなんじゃ?」
ことの収まりを感じた虎助は改めて翼に聞いた。
「いやに決まってんだろ!!何で俺が女と!」
翼がそう言うと亜紀が翼の方を向き口に手を当て
「そうですか…明日学校でアナタの正体がばれているかもしれませんよ…」
脅迫だった。
自分をそばに置かないというのなら学校に翼が鷲野の人間ということをばらすという中々卑怯な手だった。
翼はこの脅迫に
「わかったよ…一緒に離れで暮らせばいいんだろ…!暮らせば…!!」
負けた。
しかしそんな翼の許可を梨香は許さなかった。
「え〜〜!!そんなの絶対許さないよ!!」
と大声で言った。
虎助は
「翼を護るためじゃよ。理解してくれんか…梨香よ?」
「私がニィーを護ればいいことじゃない!!」
「しかし梨香よ。お前は翼と瓜二つの顔をしているという者を攻撃できるか?」
「それは…!」
梨香は頭を伏せた。
その行為が意味しているのは
「できんじゃろ」
ということだ。
梨香は悔しそうにその場に座った。
そして一応全員が合意して翼と亜紀の同居が決定した。
しかし翼はまだ納得してないことがあった。
「南野の母親はここに居候することは知ってるの?」
そう聞くと亜紀はいたって普通の顔をして
「知らないよ。私今は親元離れて一人暮らしする予定だったから。家賃とかは仕送りの十五万以内で抑えて後はたまに連絡入れればいい言われてるから…大丈夫でしょ?」
翼は腹のそこから叫びたかった
(大丈夫じゃねえええええええ!!!!!)
と。