表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

キットカットな関係

年も同じ、誕生日も同じきょうだいに、周りの人たちは口々に言う。「君たちは、双子なんだろう?」と。

きょうだいは首を振る。「僕たち、三つ子なんです」と。

あ、なるほどねぇ。盲点だよ、それ。たしかに、双子じゃないもん、嘘は言ってないよなぁ。

と、一人頷いてから、私と忍の関係を考えてみる。

年も同じ、誕生日も同じ。私たち二人をきょうだいだと知ると、周りはやっぱり口々に言ったものだった。「双子なんでしょう?」と。顔は全然似てないけど、世の中にはそんな双子、いくらでもいる。だから、私たちもそんな双子に思われても仕方ない。事実、私もずっとそう思っていたというか、息をすることにいちいち意識を向けないのと同じ、当然のこととして、考えたこともなかった。忍と私は、血のつながった姉妹なのだと。

「父さんな、母さんと離婚するから」

父さんが、幼い私を傷つけまいと、あくまでも優しく、穏やかにそう切り出したときは、内心来るときが来たんだなと思った。すれ違い、という単語は案外どこにでも転がっているということを知らないほど、私は幼いつもりはなかった。それに納得出来るかどうか、というのはまた別の問題なんだけど。

とにかく、私は父さんと母さんがもう同じ家で暮らさないこと、たぶんもう二度と会わないであろうことも、理解した。父さんは私を傷つけないようにと気を使いながらも、使う単語はどれも呆れるほど直球だった。遠回しな言い方が苦手な人だったのだ。父さんの、優しい声色と出てくる言葉の鋭さのギャップに着いて行くのに、私は必死だった。

父さんは、これから先も私を育てる言った。難しい言葉で言えば、親権を取ったということだろう。ドラマでやっているような生々しい言葉が父さんから出てきたときは、さすがに泣きそうになった。

「だから、忍ともお別れしてな」

父さんのこの一言で、私はたった今出そうになっていた涙の理由を、思わず忘れてしまった。

どうして、私と忍が?

唖然としている私に、父さんはやはりオブラートなど欠片もない言葉で、優しく教えてくれた。

母さんも親権がほしいということ。父さんも親権をほしがっていること。子どもは、二人いること。育てる親も、あら偶然、二人いるね。

2÷2=1。父さんの残酷なまでにわかりやすい言葉は、私に実にシンプルな事実を示してくれた。

でも、私と忍はきょうだいでしょ。そんな、小学生が解くような数式に当てはめて考えていいことなの?

キットカットを半分こにするような気軽さで進んでいく話に、私は目眩がした。

ドラマで、いかにも悪役面の俳優が言っていた。「夫婦なんてな、しょせん他人なんだよ」と。私は、そう言い捨てたときの名前も知らない俳優の顔が、口の動きに合わせて醜く歪んだことに目を奪われて、正直、セリフの意味をちゃんと捉えていなかったけど、案外覚えているものらしい。夫婦は他人。納得出来るかどうかはやっぱり別問題だけど、理屈はわかった。父さんと母さんは、もとは他人だったから、また他人に戻るときが来たのだと。

でも、私と忍はそうじゃないはずだ。血がつながっているんだから、他人じゃないんだから、だから、これから先も他人になんかなりっこない。離れ離れに暮らすなんて、父さんと母さんみたいにもう会わなくなるなんて、そんなの理解出来るはずない。納得なんて、絶対に出来ない。

私の、言葉にならない抗議は父さんにも予想がついていたようで、ちゃんと説明してくれた。

「恵と忍は、本当のきょうだいじゃないんだよ」

父さんは、包み隠さず、幼い私にもわかるように教えてくれた。事実が、どれだけ私に大きな衝撃を与えるかまで考えろというのは、父さんには酷な話だろう。父さんは、嘘はつけない。変化球なんて無理なのだ。ピッチャーとしては致命的だけど、父親として失格だと言えるほど、私は年を重ねていなかった。

父さんの話をまとめれば、こうだ。

私と父さんはたしかに血がつながっている。忍と母さんも、正真正銘の親子。

父さんと母さんはそれぞれ同じ年の子どもを連れたまま結婚したんだそうだ。つまるところ、私と忍は、父さんと母さんが夫婦だからこそきょうだいという、本来はつくはずのない冠をお互いに見ながら育ってしまった。

忍は他人。父さんと母さんが、もとは他人だったように。

来るときが来たから、また他人に戻る。

血がつながっていないとか、他人という単語を連呼する父さんの顔は、あのときの俳優のように、口元が歪んでいた。震えている、と言った方が正しいのかもしれない。

ストーリーも、俳優がそのセリフを口にするに至った脈絡も忘れてしまったけど、私は唐突に、その俳優が実は見せていた態度ほど余裕を持てていなかったんじゃないかと思った。

そうじゃなきゃ、今の父さんと同じような表情になるはずがない。

父さんは、事実に忠実に着いて行くことが出来るほど、強くはないのだ。今だって、自分の出した言葉に、自分でダメージを受けている。幼い私を、そして自分自身を、現実という動かせない障害物から少しでも回避させてダメージを軽くさせることが出来るほど、器用ではないのだ。

私は頷いた。何に対してなのか、自分でもよくわからなかった。

でも、小学生の私でもわかる理屈がちゃんとあって、父さんが傷ついていて、私が父さんを責めることでは誰も楽にならないことがわかっていたから、そうした。重力に促されるまま、顎を引いた。目線は下がる。

私と忍は、年も誕生日も同じ、きょうだい。

でも、双子じゃない。まして三つ子でもない。

それは、私と忍が、もとは他人だから。

キットカットはもともと一つにくっついているけど、私と忍はそもそもくっついてすらいなかったのだ。

キットカットを割るよりもずっと自然な流れで、私と忍は他人に戻った。


ここまで読んでくださってありがとうございました!

試行錯誤を繰り返すことになりそうですが、温かく見守っていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ