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スナイパー・イズ・ボッチ 蛇足噺

掲載日:2026/04/18


 わたしは、生温かい液体の中で生まれた。


 生まれてすぐのわたしは円柱型の水槽に浮かんでいた。全身を包む薄緑の液体、体中に接続された無数の管。窮屈という感覚は無く、むしろ心地良い環境だった。生まれた時からわたしには人間で言うところの15歳程度の知能・知識があった。だから生まれてすぐに自分が『人間では無い』と理解できた。


 わたしが入っている水槽の前には白い髪の男が立っていた。白衣を着た男だ。感覚でわかる……この人がわたしの『おとうさん』。


 男の背後には2人の女性が立っていた。どちらも仮面をつけていて顔は見えない。片方はとても綺麗な立ち姿をしているが、もう片方は落ち着きない様子で部屋を物色している。


 まず、男が口を開いた。


「おはよう()()。気分はどうかな?」


――良好。


「それは良かった。吾輩は月上白星。君を造った者だ。そして、後ろの彼女達は吾輩が用意した君の教育係だ。どちらも現実の人間をコピーして造った。黒髪の方が『コシキ』、氷のように薄い髪色の方が『ヒムロ』。吾輩が知る限り最高の仮想体適応力を持つ者と、最高のサポート能力を持つ者だ」


 コシキ、ヒムロ。

 この2人が、私の教育係。

 これから先、わたしがもっとも多く関わる人達。


「コシキの方は君の母親でもある。あくまで遺伝子上は」


――おかあさん?


「で、吾輩が父親にあたる。君は『月上白星』と『古式瑠々羽』の遺伝子データを組み合わせ造られた存在。吾輩と瑠々羽君の()()()()ということになる」


――おとうさんと、おかあさん。


「一応言っておくと、吾輩にも彼女にも君に対する家族愛は無い。なぜなら君は機械から生み出されたデータ上の存在、NPCだからね。君を子供として見ることは無い」


 冷たく、彼は言い切った。

 突き放すように、遠ざけるように。


「なぜ吾輩が君を造ったのか、気になるだろう? 説明しよう。吾輩が君を造ったのは、君に吾輩の娘のライバルをやってもらうためだ」


――娘? あなたの娘は、わたしじゃないの?


「違う」


――なら、誰? 名前は? どこに居るの?


「落ち着きたまえ。いまはまだ君の触れられる場所に居ない。まだこの宇宙にはここしか造ってなくてね、完成するのは4年後ぐらいか。今日より7年後には、あの子はここへ来るだろう。この惑星……インフィニティ・スペースの果てに」


――ライバル……。

――わたしは、その子と戦えばいいの?


「その通り! 勝敗はどちらでもいい。とにかく、あの子と遊んでくれ。もしも君があの子の全力を引き出せたなら……面白いことになる」


――もしもわたしが勝ったら、その時は、わたしを娘にしてくれる?


「はっはっは! 面白いことを言うね。いいよ。あの子に勝てたなら、君のことを娘と想い愛そうじゃないか」


――その子の特徴は?


「安心しなさい。特徴なんて知らずとも、あの子に会ったら本能でわかる。遺伝子が教えてくれる」


――わたしの、おねえちゃんだから?


「そうだとも。あの子が来るまで、君はこの惑星で力を(たくわ)えなさい。あの子を討つための戦力を十分に集めなさい。できるね?」


――できる。


「ではねヨミ。また会おう」


 それっきり、彼はここに、研究室に来なくなった。教育係の片方、コシキも『暇だから冒険に行ってくるね~』と研究所を去り、暫く帰らなかった。ヒムロだけが、ジッとわたしの『調整』が終わるのを待ってくれた。


 彼が去ってから1週間後、調整を終えたわたしは自力で培養槽を破壊し外に出た。

 飛び散るガラス片、全身から滴る薄緑の液体。裸のわたしはゆっくり目を起こす。


「……わたしの、おねえちゃん」


 自分がどういう存在かはもうわかっていた。

 現実ではない。仮想の世界に造られた仮想の存在。

 それはいい。自分が人間では無いということは十分に理解している。


 だけど、人間では無いけど、感情はある。愛が欲しい、という感情はある。


 愛を貰うために、あの人に愛を頂くために、この惑星を私の要塞にして、おねえちゃんを――


「殺す」

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― 新着の感想 ―
まさしく殺し愛(合い)が起こる地だったと
こういうキャラでしたか。 面白そうではあったんですが……彼女が再び日の目を見る日が来ることを祈ります。 面白かったです!
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