表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリカ・イズ・デッド、それから  作者: 遊佐東吾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/24

2-5:執務室、オリカの交渉、同行者たち

 案に相違してモンドーアは微笑とともに出迎えてくれた。


「おおオリカ殿、参られたか」


 もしや王宮内で迷われたかと心配しましたぞ、と目を細める。

 彼としては冗談のつもりなのだろうが、実際にその通りだったのでオリカも返答に窮してしまう。


「立派な迷子でしたよー。そんなわけでこのボクが案内役を務めさせていただきました」


 横から口を挟んだのは先に入っていた金髪の少年だ。

 ざっくばらんな彼の存在にモンドーアが気分を害している様子はなく、むしろ「それはよい働きであったな」と賛辞の言葉を送っている。


「とはいえトルゴーよ、おまえ今しばらく下がっておれ。のちほど改めて話をさせてもらおう」


「かしこまりましたー」


 名をトルゴーというらしい金髪の少年は、適当に一礼して退出していく。

 彼の姿が扉の向こうに消えるや否や、モンドーアの方からさっそく切りだした。


「決断をするにはよい朝です。心は決まりましたか、オリカ殿」


 問われるまでもない。

「はい」とモンドーアの目を真っ直ぐ見据えて答える。


「条件付きでよろしければお受けいたします」


 オリカにとっての優先順位は明確だ。

 セイゲンと四人のきょうだいたち、現世で待つ彼ら彼女らの元へ戻ることを何よりも第一に考えている。

 だからといってワイト王国の軍にいいように使われるつもりもなかった。


「なるほど」


 さすがに交渉慣れしているであろうモンドーアに、動じた様子はなさそうだ。


「ならばまず、オリカ殿が念頭に置かれている条件について、詳しくお伺いしなければなりませんね」


「もちろんです」


 この異世界においてオリカが目指すべき場所は、ラブツーク王国の奥にあるという〈送りの門〉である。そこからなら現世へ帰還できるはず、と口にしていたのは他ならぬモンドーアだ。


「まず前提として、わたしは軍に同行するつもりはありません。代わりに単独行でラブツーク王国へと潜入いたします。目的地は〈送りの門〉」


「ほう」


「モンドーア様がおっしゃっていた〈送りの門〉、その位置がラブツーク王国の深くであるならば、一足飛びにその地を制圧してしまうことには大きな戦略的意義があるはずです」


 自身の願いと王国の野望、その両方を満たす条件だとオリカは自負している。

 先の円形舞台で振るった力があれば、荒唐無稽な作戦とは言えないはずだ。


「わたしの力を信じてください、モンドーア様」


 そうオリカの懇願を受けても、モンドーアは微動だにしない。

 口元に手をやった姿勢で熟慮している。

 昨日の彼が求めていたのは、ワイト王国軍とともにオリカが行動することによって、〈送りの門〉へと続くラブツーク王国の領土をすべて奪還していくシナリオだ。

 はたして飛び地での攻略を良しとすべきかどうか。

 ようやく脳内で戦略についての修正を済ませたか、「電撃作戦を敢行するわけですね」とモンドーアが口を開いた。


「いや、面白い。想定通りにオリカ殿がラブツーク内地の〈送りの門〉一帯を制圧できるのであれば、戦況も一気に我が国へと傾くでしょう」


 首元にナイフを突きつけているに等しい状況を作りだすわけですから、と己の喉を軽く二度叩いてみせる。


「承知いたしました。その条件を呑ませていただきます」


 ひと悶着くらいは覚悟していたオリカだったが、モンドーアの決断は拍子抜けするほどに物分かりがよかった。

 ただしまだ懸念すべき点はある。この場に同席していない女王の存在だ。

 最高権力者の鶴の一声によって後で結論を引っくり返されてはたまらない。


「差し出がましいようですが、女王陛下によるご裁可はいただかなくても大丈夫なのですか?」


「心配はご無用です。本件についてはこのモンドーアが陛下から一任されている、とお考えいただきたい」


 当の陛下はまだお休みになっておられますので、とさらりとした口調で告げた。

 なるほど、文字通りいいご身分なわけである。


「ではわたしはさっそく旅の準備に──」


「しばしお待ちください、オリカ殿」


 辞去しかけた彼女をモンドーアが制してくる。


「あなたはこちらの地理には疎いはず。それゆえ、三人の案内役を付けさせていただきましょう。もちろんいずれも手練れの者ばかりを用意いたしますので、足手まといにはなりますまい」


「案内役、ですか」


 思いがけない提案に、オリカにも多少の困惑があった。

 確かに地理の問題は軽く見るべきではないが、言葉が通じるのであればどうにかなるだろうと高をくくっている部分はあった。

 痛いところを突かれたな、という気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。

 モンドーアはあまり似合っていない苦笑いを浮かべている。


「条件のお返し、あるいは見張り役などとは受け取らないでください。元々オリカ殿の身を案じて、複数の護衛をつけるつもりでいたのです」


 そのような言い方をされるとオリカとしても断りづらい。

「まあ、そういうことでしたら」と不承不承ながら頷く。

 これを聞いたモンドーアは「言質を得た」とばかりに声を上げた。


「オリカ殿から許可をいただいたぞ、おまえたち」


「はーい」


 扉の外でそのまま待機していたのであろう、相変わらずの緩い態度で金髪の少年トルゴーが再び入室してくる。

 だが彼の後から入ってきた二人を見て、オリカは驚きを隠せなかった。

 金的せざるを得ないくらいに強引だった赤髪の青年に、持って回った言い方が得意な自己陶酔型の青髪の青年。

 よもや彼らまでが同行者に抜擢されているとは。

 そんなオリカの様子に気づいているのかどうか、モンドーアが話を続ける。


「トルゴーとはすでに見知った間柄でしたな。残る二人、赤髪のレドと青髪のルブウを紹介いたしましょう」


「いや、実は、そちらの二人とも先ほど……」


 どちらの青年ともきちんとしたコミュニケーションをとったわけではないので、オリカにしてみれば歯切れが悪くなるのも当然だ。


「何と! トルゴーのみならずレドやルブウもとは! これはもう、オリカ殿の下に彼ら三人が参じる運命であったのでしょう!」


 大げさに感嘆しているモンドーアには悪いが、オリカはむしろ前途に暗澹たる予感を覚えずにはいられなかった。

 レドやルブウと上手くやっていける自信はまるでなく、もう一人の人懐っこい犬のようなトルゴーはまだ少年だ。目眩がする。

 このパーティー構成へさすがに異論を唱えるべきかと悩んだが、口に出すより早くモンドーアの方が話題を変えてきた。


「時にオリカ殿、失礼ながら御年はいくつになりますか」


「え? あの、二十一歳になったばかりですけど」


「ほう、もっとお若く見えますな。こちらの三人はいずれも二十三歳、オリカ殿よりわずかながら年上です。腕も確かな彼らを兄と思って頼ってください」


「へ?」とオリカは思わず声が出た。

 モンドーアの言葉をそのまま受け入れるのであれば、トルゴーはあの見た目で彼女より年長者ということになる。

 少年だと信じて疑わなかった金髪のトルゴーへ視線を送ると、「よろしくねー」と無邪気に手を振ってきた。やはりどう見ても妹のフブキや弟のハルクと同い年くらいにしか見えない。


「案ずることはありません。この者たちは必ずやオリカ殿を護り抜き、骨身を惜しまずワイト王国へ貢献するでしょう。そうだな?」


 扉付近に並んだ三人の青年に対し、モンドーアが覚悟を問う。

 ばらばらに頭を下げながらも「はっ」という返事は綺麗に揃った。

 さらに赤髪のレドが代表して決意を述べる。


「これよりラブツーク王国の〈送りの門〉を制圧するのであれば、最大の障害となるのはやはりラブツーク軍魔術技連を率いるロズミィ。英雄オリカ殿とともに、我が国の平穏を破る宿敵を討ち取ってご覧に入れます」


「うむ。だがあの者は非常に手強いぞ」


 ロズミィという人物はよほどの強者なのか、モンドーアも一層表情を引き締めた。


「おそらくまともに渡り合えるのはオリカ殿のみ。おまえたち、命を惜しむなよ。いつでもオリカ殿の盾となり壁となり、王国のために最善を尽くせ」


「はっ」


 今度もまた返事が見事に揃う。

 出会った際の印象など当てにならず、彼ら三人が鍛えられているのはオリカにも何となく理解できた。

 頼りにしていい、というモンドーアからの助言は信頼していいのだろう。

 だが彼らの使命とオリカの望みは似て非なるものだ。

 まだ旅が始まってもいないのに、重い荷物を背負ったような気分になって肺の奥底からため息をつきたくなってしまう。

 セイに会いたいな、とオリカはまた思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ