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オリカ・イズ・デッド、それから  作者: 遊佐東吾


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6-4:未練、憶測、再利用

 地下への長い階段を下りてきたオリカたちは、腰を下ろしてダダイの語る昔話にずっと耳を傾けていた。それも英雄ゴンドが眠る棺のすぐ傍で。


「その後……どうなったの?」


 おずおずとオリカが訊ねる。

 ダダイは無表情のままで答えた。


「どうもこうもねえな。忘却こそ避けられたものの、おれは首なし死体どもの真ん中で一人眠りこけてたさ。笑えるのはそこだけだ」


 辺境の小さな城での惨劇が歴史に残ることはなかった。

 真相は伏せられ、怪物との死闘の末に起こった出来事とされてしまう。

 英雄ゴンドの骸はのちに回収され、大々的な国葬が執り行われたそうだ。その際に葬儀を取り仕切ったメルガン王女が、病床の父より王位を継承し、女王となる。

 眠ったままワイト王国へ連行されたダダイは罪に問われた。罪状はもちろん、師である英雄ゴンドを護れなかったこと。

 投獄された彼からすれば、師であるダダイと想い人のアマリリスを失った人生になど、もはや一片の興味もない。そのまま獄死しても構わなかった。

 だが面会にやってきた憎きモンドーアから、アマリリスの足跡が見つかったと伝えられて考えを変えたのだ。


「アマリリスのことはあいつから聞いた。やっぱり強引に〈送りの門〉を押し通ったらしい。もちろん何の準備もなしにな。もちろんおれもすぐに脱獄し、必死に手掛かりを探ったさ。でも結局は空振りだ。十中八九、彼女の魂はあちらの世界で器を得られず、消滅してしまっただろうよ」


 淡々としたその口振りに、もう彼の中でもアマリリスのことは整理がついているのだとオリカは慮った。

 けれども直後にとんだ的外れの感想だったと思い知らされる。


「でもなあ、あのアマリリスが簡単にくたばるとも思えない。どうにか器を手に入れて、しぶとく別世界で生き抜いている気がしてならないんだよ。そうであってほしいんだ」


 完全に願望である。

 その問題をクリアできないからこそ、オリカはこうして四苦八苦しているのだ。気持ちでどうにかなる程度であれば苦労はしない。

 ダダイも自身の未練がましさを認識しているのだろう。


「おらガキども、腹を抱えて笑えよ。笑えばいいだろ。惚れた女から足蹴にされて別れを告げられた男が、大いに恥をさらしている場面だぞ」


「いえ、決してそんなことは」


 否定しているレドはやや俯き加減だ。

 自然とダダイから視線を逸らしてしまう、というのであればオリカにも理解できる。アマリリスへ寄せる彼の感情が非常に共感しづらいからだ。

 長年引きずっている未練に対してではない。

 アマリリスという、あらゆる意味で恐ろしい女に、よくもそこまで惚れることができたものだ。自他の命をどこまでも軽く扱い、無茶な賭けにも平然と打って出る。

 どう考えても、彼女があちらの世界に適応できるとは思えない。何かの間違いで〈送りの門〉を通ってなお生き抜いていたとしても、大きな事件を引き起こさずにはいられないだろう。

 そんなことを考えて眉間にしわを寄せていたオリカだったが、トルゴーはその表情を見て勘違いしたらしい。

 いつになく真剣な眼差しで、真正面から見つめてきた。


「ねえオリカちゃん。元の世界に戻るのはもうあきらめて、ボクらと一緒にこの世界で生きていこうよ」


 きっとモンドーア様だってよくしてくださるはずだよ、と言い添える。

 しかし学友かつ仇敵の名前が出た瞬間、ダダイは「ふん」と鼻で笑った。


「かなりのボンクラだな、おまえら。今のおれの話をちゃんと聞いていたか? その頭の中は空っぽか?」


 自身のこめかみを指で叩いて煽りながら、ダダイが説明を加えた。

 どうして辺境の小領主ごときが、何の利益も得られない凶行に及ばなければならなかったのか。

 英雄ゴンド亡き後、権力の座に就いたのは誰か。

 彼の死によって最も利益を得たのは誰か。

 筋道立てて考えていけば、自ずと英雄暗殺の首謀者は絞られてくる。


「王女だったメルガンは、英雄ゴンドの葬儀を終えて間もなく、王位を継承して女王となった。その女王陛下は政敵を排除しつつ、若き魔術師を相談役として抜擢した。ここまで言えばもうわかるな?」


 外の世界からやってきたオリカにしてみれば、充分に納得できる論理だ。

 ただし同行している三人にとっては受け入れがたかったらしい。


「ふ、ふ、ふ、不敬ですよ! 自らの夫をだなんて、あり得ない」


 立ち上がってダダイを糾弾したのはルブウだった。

 だが元々追われる身であるダダイにとっては、女王への忠誠など道端のゴミほどの価値もないのだろう。


「まあ、今のはおれの推測にすぎないと言われればそれまでよ。だがな、これだけは心しておけ。御しにくい、あるいは危険な存在だと判断されれば、オリカも必ず師匠と同じ道をたどるぞ」


 英雄ゴンドを失ったダダイの言葉は重い。

 しばらく墓所には似つかわしい沈黙が訪れた。


「オリカを、ひどい目に遭わせたくはねえんだよなあ」


 静寂を破って呻くように言ったのはレドだ。


「それはそうです。我々の世界に横たわる問題は、本来であれば我々の手でどうにかするべきですし」


「元の世界に帰してあげたいよねー、オリカちゃん」


 ルブウとトルゴーも意見の一致をみる。


「みんな……」


 ようやく知った三人の真意に、オリカは感激のあまり後が続けられない。

 そんな彼女を見たレドがにやりと笑う。


「ま、その場合はおれたちが始末されるだろうけどな」


「ダダイ殿の話が事実であれば、ですがね」


 条件付きながら仏頂面でルブウも同意した。

 それでもダダイにしてみれば大した問題でもないらしい。


「なぁに、いざとなればラブツーク王国へ亡命でもすればいい。ロズミィのバァさんへの口利きならしてやるよ」


 事もなげに仕える先を変えろと言う。

 これに泣きついたのはトルゴーだ。


「でもボクたち、ロズミィ()に攻撃を仕掛けちゃっているんですよー」


「ボンクラどもめ、心配するな。あのバァさんは研究者のくせに根っからの武闘派でもあるから、そんなこといちいち気に留めてねえよ」


 あの気さくなおばあちゃんだったロズミィに武闘派のイメージはそぐわないが、それでも何となく腑に落ちた。

 英雄ゴンドの求愛に対して右目を失うまで戦い、決して応じなかったのは彼女の好戦的な一面の表れだったのだろう。

 ここでダダイも立ち上がり、オリカたちの顔を見回した。


「おまえら、おれを未練がましく情けない男だと思っているんだろう? けどアマリリスが向こうの世界で生きているって仮定の上でなら、一つだけ実行できる案がある。どうだ、乗るか」


「もちろんです」


 すぐさまオリカが応じた。

 どのみち、他に打つ手もないのだ。

 ダダイは彼女の返答へ満足そうに頷き、先を続ける。


「ロズミィのバァさんはあれで相当なやり手でな、離れた空間を繋げる魔術の開発に成功している。これがあれば遠方にいる者同士でも会話が可能って代物だ」


「それ、実際に使わせてもらいました」


 思わず口を挟んでしまったオリカへ、ダダイはむしろうれしそうな声を上げた。


「おっと、なら話が早い。その魔術を応用し、おれがこの世界とあっちの世界とを繋げてやる。もちろんアマリリスが生きていることが絶対条件だがよ」


「あの、それってどういう」


「ロズミィのバァさんから教わらなかったか? 離れた空間を繋ぐには、双方に縁のある品を触媒にしなきゃいけない。幸い、アマリリス相手ならこれ以上ないってブツがあるんでね」


「んん?」


 ダダイの言わんとしているところがよくわかっていないオリカは、きょとんと首を傾げてしまう。


「わからんか? 答えは目の前にあるんだがな」


 そう言ってダダイは棺を軽く叩いた。高い音が墓所内に反響する。


「これさ。英雄ゴンドの遺骸を使う」


 一瞬、言葉の意味が呑み込めなくなってしまう。

 そのような行為を人は冒涜と呼ぶのではないのか。

 困惑するオリカをよそに、ダダイが「な、これ以上ないだろ」と繰り返した。


「師匠とアマリリスは父と娘だ。あいつが生きてさえいれば、必ず繋がる」


 故人の尊厳を損ないかねない提案に、抵抗がないと言えば嘘になってしまう。

 それでもオリカの中で優先順位が変わらない以上、返事は決まっていた。

 良識に縛られて後戻りなどできない。

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