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オリカ・イズ・デッド、それから  作者: 遊佐東吾


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6-2:小さな祠、先制攻撃、問答

 オリカ一行はとうとう英雄ゴンドの墓所までやってきた。

 そのはずなのだが、視界に入ってくる建物といえばごく小さな祠だけだ。


「本当にここで合ってるの?」


 訝しんでいる彼女に向かって、案内を先導していたトルゴーは胸を張る。


「ボクが間違えるわけないでしょ。合ってますぅー」


「ふーん? ならいいんだけど」


 半信半疑のままオリカはさらに歩を進めた。

 祠の前では二人の警備兵が待ち構えており、予期せぬ来訪者である四人を警戒しているようだ。


「近づくな、止まれ!」


 大声で制止してきた相手に対し、オリカも負けじと遠くから叫ぶ。


「あのぉ、ここってぇ、英雄ゴンドのぉ、お墓なんですよねぇ!」


「それを知って近づいてきたとは……貴様ら、何が目的だ!」


 会話がまったく噛み合っていない。

 このままオリカに任せていては埒が明かないと判断したのだろう、すぐさまトルゴーが両手を掲げて敵意のないことを示しながら進み出る。


「お待ちください。我々はモンドーア様より密命を帯びて旅をしております。いずれワイト王国全土に知れ渡りましょうが、これなるオリカ様は新しい英雄に選ばれし御方。かつての英雄であらせられるゴンド様へご挨拶を、と」


 まるっきり嘘というわけではないが、本当のことは何も告げていなかった。

 この手の交渉ごとに関しては、パーティー内でトルゴーの右に出る者はない。

 最初から彼に丸投げしておけばよかった、と軽く悔やんでいるオリカをよそに、警備兵二人の態度は一変していた。


「おお! 我々にも噂は届いておりましたぞ! 新しい英雄の召喚に成功し、近々ラブツークへの進撃を開始するとのこと」


「極秘事項ゆえ、内密でお願いしますよお二方」


 いかにも親密な調子で、トルゴーが唇に人差し指を当てる。

「もちろんですとも」と快諾した警備兵たちは、さっと両脇に退いて道を開けた。


「そういうご事情でしたら、どうぞお通りくださいませ。さぞ英雄ゴンド様もお喜びになられることでしょう」


 笑みさえ浮かべている彼らだったが、その態度は長く続かない。

 次の瞬間、警備兵の体が二人揃って崩れ落ちたのだ。

 いったい何が起こったのか、とオリカたちも慌てて駆け寄った。


「もしかしてこれ……眠ってる?」


 確認したオリカの言葉に、ルブウが「そのようですね」と同意する。

 状況から見て、何者かによる仕掛けの可能性が濃厚だ。仕事をまっとうしていただけの警備兵たちの身を案じつつ、オリカたちはそれぞれに周囲の気配を探る。

 だが何者かは隠れるつもりなどないらしく、祠の中から無警戒に姿を現した。

 橙色の長髪を後ろで束ねた男だ。


「挨拶など必要ない。帰れ」


 傲慢にそう言い放ち、男はオリカたちの居所より後方の地面を指差してくる。

 その途端、目が眩むような閃光が放射状に走り、ある程度の距離から一斉に逆流していった。こちらを試しているのか、ゆっくりと時間をかけて。

 一点に収束していく光からは大きな魔力が感じられた。

 これはまずい、とオリカも慌てて下がる。


「お願いルブウ、水の壁を!」


「こんな何もないところで無茶を言いますね、英雄様は!」


 オリカからの指示に文句を口にしながらも、さすがにルブウの実力は本物だ。

 きっちりオーダー通りに、後退していく四人を囲むように水の壁を作りだした。魔力を細かく制御できるルブウならではの働きである。

 ロズミィ戦での完敗のショックから立ち直った彼に、称賛の言葉を送りたかったオリカだが、今はそんな余裕などない。


「来るよ、耐えて!」


 これ以上ないほどに小さくなった光が弾け飛ぶ。起こったのは大爆発だ。

 煙のごとき土埃が収まってから、ようやく周囲の状況を確認できた。

 目の当たりにしたのは強烈な破壊の跡だった。地面はさながらクレーターのように広範囲に渡って抉られている。ただし水の壁によって守られた、オリカたちが立っている場所以外がだ。

 小さな祠はまったく損害を受けておらず、眠ったままの警備兵たちにも被害はないようだ。狙われたのはオリカたちだけ。

 とはいえ、ひとまず難を逃れた。

 無言のままでレドとトルゴーがルブウの肩を叩く。そのささやかな仕草に、労いの意味を込めているのだろう。


 オリカもすぐさま戦闘態勢に入る。

 どうやら橙色の髪をした男はこうなることを見越していたらしく、健在なままの四人と相対しても驚いた様子はない。

 彼にしてみれば単なる実力試し程度の攻撃だったのだろう。死んでしまうようであればそれは相手が弱かったせいである、と。乱暴すぎる発想だ。

 このタチの悪い男がダダイなのかどうか、まずは見極める必要があった。

 男は手首を返して招くようなジェスチュアを披露する。


「どうした、新しい英雄とやら。かかってこい」


 心底うんざりしているような表情を浮かべ、男が吐き捨てた。


「真の要件が何かは知らんが、どうせろくなもんじゃねえだろ。あくまで押し通るつもりだってんなら来ればいい。古い英雄の弟子だったおれが、師匠に代わっておまえの実力を測ってやるよ」


 彼の言葉に、オリカは静かに構えを解く。


「ということは、あなたがダダイ様で間違いないでしょうか」


「そうだが」


 怪訝そうに答える男こそ、はるばる会いにやってきたダダイその人だった。

 だとすればオリカに戦う理由などない。たとえ向こうから仕掛けられたのだとしても、どうにかして話し合いへ持ち込まねばならないのだ。


「ダダイ様は誤解をされておられます。わたしの名はオリカ。あなたを害しに来たわけでも、戦いを望んでいるわけでもありません。誰の命令でもなく自分自身の意思で、ダダイ様からお話を伺うためにやって参りました」


「おれに話だと? よくモンドーアのクソボケが許可したな」


 そんなの無許可に決まってるでしょうに、というルブウの呟きが聞こえてくる。

 ダダイの耳にまで届いているかどうかはわからないが、彼は問題視することなく先を続けた。


「なら最初に一つだけ訊ねておこうか。話はそれからだ」


「お伺いします」


 代表してオリカが答えた。

 先ほどのように、本来であれば交渉ごとはトルゴーに任せた方がいいのかもしれない。しかし今度の相手はダダイだ。

 対峙してみて初めて肌で理解できることもある。世間に流布している噂とは異なり、彼は真の実力者に違いなかった。

 おそらくハッタリやその場凌ぎの嘘など通用しないだろう。

 ならばこの場を預かるのは、会うことを望んだオリカであるべきだ。

 そんな彼女をじろりと睨みつけ、ダダイが言う。


「おまえら、どうやっておれがここにいると知ったんだ」


「ああ、それでしたらロズミィ様から教えていただきました。ダダイ様が英雄ゴンドの墓所に滞在するらしいから行ってみろ、と」


「ちっ。口の軽いバァさんめ」


 舌打ちとともに、非常に失礼な発言が飛びだした。


「まあいい。で? おれなんかにいったい何を聞きたい?」


「元の世界への帰り方をご存知であれば、ぜひ教えていただきたいのです」


「そりゃそうか」


 案外あっさりとダダイは納得する。


「ロズミィのバァさんが匙を投げて、おれに面倒ごとを寄越したってわけだな。ったく、いいように人を使う年寄りだ」


 どうやら彼の口振りだと、ワイト王国を追われる身となってからはラブツーク王国と一定の関係を築いていたらしい。

 ロズミィに指摘されたのは、〈送りの門〉を使って通り抜けた先での問題だ。

 あちらの世界でオリカの魂を受け入れる器、つまり体を準備してもらうにはどうすればいいのか。

 ダダイがその答えを持っていることを、オリカは心の底から願う。

 そんな彼女の切なる思いに気づいているのかいないのか、髪をぼりぼりと掻きながらダダイが訊ねてきた。


「ゴンドに代わる新しい英雄オリカよ、おまえの事情は理解した。だが引き連れているそいつらは何だ?」


「えっと、彼らはですね」


 言い淀むオリカに代わって、如才なくトルゴーが説明を試みる。


「我らは身命を賭してオリカ様をお護りするよう言いつかっておる者。本来であればダダイ殿の身柄も拘束せねばなりませんが、今は棚上げすべき状況と判断し、共に手を携えてオリカ様のお力となれれば──」


「あー、もういいもういい。要するにおまえらはモンドーアの手下ってことだな」


 自分から質問しておいて、いざ返答となれば雑な対応を見せる。

 とても大人の振る舞いとは思えないが、そんなダダイの眼光が急に鋭くなった。


「なら、この娘を帰してしまうわけにはいかない立場のはずだろ」


「それは、その」


 珍しくトルゴーが口ごもっている。


「わかるぜ。英雄様にへそを曲げられちまうと困るもんな。だったらいっそ好きなように行動させて、どうにもこうにも帰る手段がないと理解すれば、オリカもあきらめてこっちの世界で生きていくしかなくなるわけだ」


 オリカにその発想はなかった。

 レド、ルブウ、トルゴーの三人へ順に視線を送るが、彼らは不自然に目を逸らしてしまう。どうやら図星を突かれたらしい。


「だがよ、同じ道筋をたどった英雄ゴンドの人生がどうだったか、おまえらもきちんと認識しておくべきだ。オリカと行動を共にするのならな」


「そんなの、ワイト王国じゃ子供だって知っている」


 気色ばんだのはレドだ。

 だが彼の言い分をダダイは一蹴する。


「どうせモンドーアのクソボケは、嘘ばかり並べ立ててるはずだろうよ」


 ついてこい、と顎をしゃくり、小さな祠の中にある階段を下りはじめた。

 小走りですぐ後ろに続くオリカだったが、振り返ったダダイがにやりと笑う。


「どうせこっちゃ暇人なんだ。せっかくの客だしな、少しくらいはおっさんの昔語りに付き合え」

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