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オリカ・イズ・デッド、それから  作者: 遊佐東吾


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22/24

6-1:衝突、ダダイの噂、娘

 パーティーの雰囲気は最悪である。

〈送りの門〉を後にしてからも、オリカはこれまでと変わらずレド/ルブウ/トルゴーの三人と旅を続けていた。

 ただしワイト王国のモンドーアには内密の旅だ。それはそうだろう、これから会いに行く魔術師ダダイはワイト王国から追われている身なのだから。

 ラブツーク王国よりひっそりと舞い戻り、ぎすぎすした空気のまま、現在ダダイがいるであろう英雄ゴンドの墓所を目指す。


「一人で大丈夫だから」


 もうついてこなくて構わない、と何度もオリカは告げている。

 やれ約束破りだ、裏切りだ、信義にもとる、そんなことを不機嫌極まる態度で責められるくらいなら、一人旅の方がどれほど楽か。

 そもそもオリカにだって言い分は山ほどある。

 モンドーアとの約束云々とレドたちは口にするが、彼女からすればそれは誠意ある交渉だった場合に効力を発揮すべきものだろう。

 いろいろと情報を隠していたのだ、モンドーアは。


 一方で不倶戴天の敵のごとく扱われていたラブツーク王国のロズミィこそ、オリカに対して誠実に応じてくれている。英雄ゴンドについてもきちんと教えてくれたのは彼女だ。決してモンドーアではない。

 都合よく扱える駒にされかかっていたオリカからすれば、これ以上ワイト王国の思惑通りに動いてやる義理などどこにもなかった。

 元々が無理やりで身勝手な召喚であり、いったんは腹の底に沈めた怒りも、再びマグマのように煮えたぎってこようというものだ。


 もはや妥協点を見つけて折り合うつもりなどないオリカだが、それでも三人には同行を止めるつもりがないらしい。

 五日連続の野営というだけで気が滅入るのに、今夜もまた重苦しい空気の中での食事だった。硬いパンに味などなく、ひたすら黙々と咀嚼し続けていると、露骨に「はああ」とため息をつく音が聞こえてくる。


「ったく、ダダイなんかに会ってどうすんだか」


 独り言を装った呟きだが、当然オリカの耳に入る。レドの声だ。

 さすがにオリカも我慢の限界に達した。


「あんたらさ、ぐちぐち文句ばっかり言う前に、まず自分たちの知っている魔術師ダダイについて説明しなさいよ。それが筋ってもんでしょうが」


 いきなり立ち上がって怒鳴りつけた彼女の剣幕に、信号機トリオは揃って呆然としている。まったく予想もしていなかったらしい。おめでたいことだ。


「こっちが何も知らないと思って舐めてるよね。適当におだててやれば、自分たちの望むように動いて手を汚してくれるとでも?」


 ふざけるのも大概にして、と告げたオリカは軽く魔力を振るう。

 だが彼女の認識とは裏腹に、四人が食事しているすぐ脇には、長くそして深く抉れた穴が誕生してしまった。


「おとなしくわたしにダダイのことを話すか、あんたらがここから去るか。どっちでもいいよ、好きに選んで」


 最後通牒だ。オリカはもう、操り人形の英雄に甘んじるつもりはない。

 その本気度合いが伝わったのだろう、彼ら三人もすぐさま居住まいを正してオリカへと向き直る。

 眼鏡を押し上げながらルブウが言った。


「やれやれ、配慮が足りなかったようですね。ワイト王国には、役立たずの魔術師ダダイの物語を知らない人間なんていませんから」


「役立たず……? それ、女王とモンドーアの会話で聞いた気がする」


 確か宴席の場でのやり取りだったはずだ。

 知らない人物の話題ながら、心に澱が溜まっていくような不快な気持ちになったのをオリカは今でもちゃんと覚えている。

 トルゴーも話し合いに乗ってきた。


「まあ、モンドーア様はダダイを快くは思っていないだろうからねー。だってあの方こそが英雄ゴンドの弟子となるはずだったのに、その椅子を横からかっさらわれたんだもの」


「卑怯な手も使ったって話だぜ? ダダイってのは実力よりも要領のよさでのし上がったらしいからな。魔術師の訓練所時代はモンドーア様と並び称されていたらしいが、過大評価もいいところだろうよ」


 吐き捨てながらレドも続く。

 ここまで聞かされただけでも、オリカは少し頭が痛くなってきた。ダダイなる人物には悪評しかないのか。


「他にはないの? ほら、ダメな人にもちょっとくらいは褒めるべき部分ってあるものじゃないかな」


「ねえだろ、そんなの」


 レドの返事には取り付く島もない。

 ならば、とルブウやトルゴーの方へ視線を向けてみるが、彼らも眉間にしわを寄せて難しい顔をしている。


「あったっけなー、たぶんなかったよなー」


「寡聞にして私は知りませんね」


 あっさりと否定されてしまい、オリカはがっくりと肩を落とす。

 しかし思いがけずレドが「そういや」と口にした。


「なになに、どんな話?」


 前のめりになって訊ねたオリカへ、彼は意地の悪そうな笑みを浮かべて言った。


「ダダイのいちばんクソッタレなエピソードがあんのさ」


「そっちか……」


 再び落胆したオリカだったが、レドはさらに追い打ちをかけてくる。


「まあ聞けよ。恐ろしく強かったはずの英雄ゴンドが何で死んだと思う?」


「ん? それって、まさか」


「そう、ダダイのせいなのさ」


 ルブウとトルゴーも加わって、代わる代わる話してくれたところによればだ。

 ワイトとブラツーク、両王国の支配が届いていない辺境の地域には、稀に強力な怪物が出現するらしい。

 そんな怪物討伐のため、弟子であるダダイを伴って英雄ゴンドは辺境へ向かう。

 けれどもダダイは何の役にも立たず、村人らとともに怯えているだけ。

 英雄ゴンドと怪物の一騎打ちが長く続き、互いに疲れが見え始めていた。

 ここでようやくダダイが戦闘に加わる。もちろん、その状況であれば自分でも武功が挙げられると計算してのことだ。

 だが怪物もそれほど甘くはない。あっさりとダダイの攻撃を避け、逆に彼へ、喰らえば致命傷という攻撃を仕掛けていった。

 もちろんダダイは死んでいない。英雄ゴンドが身を挺してかばったからだ。

 最後の力を振り絞って怪物は倒したものの、結局そのときの傷が元でゴンドは帰らぬ人となってしまう。英雄の、まさに英雄的な死であった。


「ここまででも死罪相当の失態なのですが、ダダイのエピソードにはまだ続きがありましてね」


 肩を竦めたルブウがさらに語っていく。

 英雄ゴンドには一人娘がいた。

 彼女は父の死に絶望し、誰も自分を知らない遠い地へ旅立とうとしたのだが、ダダイが歴史に名を残したのは主にそのときの振る舞いによってだ。

 娘の腰にみっともなくすがりつき、涙も鼻水も涎もまとめて流しながら「去ってくれるな」とひたすら懇願したのだという。

 実際は大した実力もなく、師匠という最強の後ろ盾を失い、英雄の娘にも見限られた哀れな男。誰もが役立たずと罵るダダイとはそういう人物なのだそうだ。

 ただしオリカには別のことが気になっていた。


「英雄ゴンドに、娘」


 彼女の中で何かが繋がりかけている。


「ねえ。その娘がとても気になるの。ぜひ話を聞かせてもらいたいんだけど、今はどこにいるのかわかる?」


 しかし三人とも返答を渋る。

 先ほどまでの饒舌さは影も形もない。


「ワイト王国の機密なんです。新しい英雄相手といえど話せませんよ」


「そこを何とか。お願いっ!」


 堂々巡りの言い合いになってしまったが、夜を徹してしぶとく懇願し続ける覚悟ならある。根比べとなればオリカが有利だ。

「お願い」「だめだ」の応酬は深夜まで及んだだろうか。徒労でしかないラリーに疲れ果て、固く口を閉ざしていた信号機トリオもとうとう陥落してしまう。


「絶対に、絶対にここだけの話にしてくれよ?」


「約束する」


 頼むぜほんと、とぼやきながらレドが明かしてくれた。


「英雄ゴンドの娘はさ、儀式なんかお構いなしで〈送りの門〉を使っちまったんだわ。だからどれだけこの世界を捜してみたところで、どこにもいやしねえよ」


 トルゴーも続きを補足する。


「モンドーア様が仰ってたなー。さすがに英雄ゴンドのご息女といえど、どうにもならなかったはずだってさ」


「そりゃそうです。〈送りの門〉から繋がっている先がオリカの世界なのかどうかは不明ですが、儀式を軽んじて上手くいくのであれば、すでに何人もこの世界から旅立っていたっておかしくないでしょう」


 三人による説明をまとめると、英雄ゴンドの娘はもうこの世界にはいない。

 無理やり押し通った〈送りの門〉も機能していないだろう、と。


「そんな……」


 つまりは娘の生存さえほぼ絶望的という見解だ。

 結局話は振出しへ戻った。

 落胆した今のオリカには、悪評まみれの魔術師ダダイへ会いに行くくらいしか手立てが残されていない。

 そのことがはっきりしただけでも収穫だと考えよう。

 努めて前向きであろうとしつつ、彼女は眠りに落ちていった。

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