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占瞳館へようこそ

 大谷家は、花道町一丁目にある築二十五年の中古住宅である。五年程前に越して来た時、バス、トイレ、洗面所などの水回りは業者に頼んだが、内装のリフォームは極力晴美がやった。特に壁紙の張り替えや襖の張り替えなどは大得意である。


 明生の占いサロン『占瞳館』は玄関に入り、すぐ右の六畳の部屋にある。

元は和室だったので、床を晴美がフローリングに換えた。壁は珪藻土をスポンジで丁寧に塗り、手作りの棚には、パキラやポトスなどの観葉植物が並んでいた。

 そして、客にリラックスして貰おうと奮発して購入した、座り心地の良いタータンチェック柄のソファーがある。そのソファーに座り、晴美は小さくため息を付いていた。

「明生さん、今日ってお客さん二人だけしか来なかったわよね……」

 自宅で仕事を始めて、もうすぐ二カ月。『占瞳館』の客足はイマイチだった。

ショッピングモールでは買い物の合間などに気楽に占って貰おうという客が多かった。それにズバリ的中した時などは、その後も定期的に相談に来る客がいた。でも今は、気楽に寄れる場所ではなくなったからなのか、客は減った。


 『占瞳館』は晴美と明生の人生設計の中では詩織が中学に上がる頃、晴美と明生が四十歳を過ぎてから始める予定だった。でも、明生の持病である腰痛が悪化し、一年程前には救急車で搬送された事があった。

 それから心配症の晴美は、少し早いが予定を早めようと明生に提案した。その時、明生は自分だけではなく晴美や詩織の運気も占って、いい時期にこの『占瞳館』を始める事を決めた。僕たち三人にとって、それぞれ何らかの「変化」が起きる筈。それを吉にするのか凶にするのかは自分次第。そう言っていたが、『占瞳館』の出だしは吉とはいかなかった。

 明生は晴美の向かいの、一人掛けの年期の入った椅子に座り、紅茶を飲んでいた。

「まぁ、始めたばかりだからね。でも、当たるって評判が流れたら自然にお客さんは増えるよ。ショッピングモールのお客さんも来てくれるって言ってたし」

 明生は自分の鑑定に自信があるのか、晴美を心配させたくないのか、客が少ない事に関して何も気にしていなかった。


「駅から徒歩十分っていうと遠く感じるのかな。ホームページのアクセス欄、駅から徒歩五分って書き変えようかな。早歩きだったら5分で来れるよね」

「うーん……かなり早歩きになるかもな」

「そうだ! オープン記念に何かプレゼントを付けようかな」

「どんな?」

「幸運のパワーブレスとか……」

「えっ?」

「それと、ホームページに来客者のコメントを載せるとか……私、こんなに仕事がうまくいきましたとか、結婚できましたとか……宝くじが当たりましたとか……」

「何か怪しい方向に行ってないか?」

「あっ、三回鑑定に来てくれたら、四回目は無料! とか?」

「ちょっとちょっと晴美さん!」

 呆れる明生をよそに、晴美は部屋の隅にあるパソコンの前に座り『占瞳館』のホームページを開いた。

「晴美さん、そのうち忙しくなるって……」

「そうかもしれないけど……」

「あ、そうだ! 最近隣の奥さんから聞いたんだけど、公園の横の駐車場に変な落書きがあったとか?」

「ああ……壁にね。ほら、バンクシーって人の、ネズミの絵をマネて……」

「ネズミの絵?」

「そう。でもね、マネてって言っても、ただの子供の落書きだと思うけど……でも、そういうとこから治安が悪くなっているのかもって、ちょっと心配だけどね……引っ越して来たばかりの頃って……」

 一つの話題を振ると、自分にとって何か引っ掛かるとなると忽ち多弁になる晴美。その事を知っている明生は即座に話題を変えたのだが……。

「いやいや、そんな事よりもホームページ……」

「あ……話題変わらなかったか……」

 と明生が呟いた時、電話が鳴った。


 早速予約の電話かと、晴美は素早く電話に出た。

「はい、占瞳館です……えっ……ああ、エリちゃん?」

 電話はエリからだった。相談があるので、明日にでもこちらに来たいとの事だった。

 明生の方を見ると、「OK」サインをしていたので「お待ちしています」と電話を切った。

 前にショッピングモールの『占いの館』に来た時の鑑定では、まだ悩みが解決しなかったのだろうか。晴美は何気なく明生に尋ねた。


「ねぇ、エリちゃんは前、何の相談に来たの?」

「答えると思う? お客様の相談は例え親でも妻でも子供でも愛犬でも愛猫でも、誰にも絶対口外いたしません!」

「はいはい、そうでしたねぇ。でもね、たとえ明生さんが私に話したとしても、大して人の悩みには興味がないから安心して」

「じゃあ、どうして訊いたの?」

「別に……何となく」

「晴美さんは、今あのエリさんがちょっと苦手なんだね。でも嫌いではない。ただ会って話すのが辛い……そう、思い出したくない事があるから」

 いきなり明生に指摘された晴美は大きくため息を吐いた。

「明生さんには何でも気付かれちゃうか……」

「そう、前に会った時もかなり無理してた様に感じられたけど。多分、詩織もそう思ってたと思う」

「えっ! そうなの?」

 何か誤魔化す様にエリと話している。そう詩織には映ったんだと思うと、晴美は何だか恥ずかしいような、情けないような、そんな気持ちになった。

「……私が小説を書いていた頃の人と会ったりするのが……ちょっとね……」

「ずっとあの事を気にしているんだね」

「それだけじゃない……」

 それはずっと何年も晴美の心の中にある重たくて冷たい塊。それは、書くことを捨てた自分……逃げた自分である。

「でも、書けるものならもう一回書いてみたいって思ってるでしょ」

「やだ、そんな事ないわよ。何も書きたい物なんてないもん」

「昔は、人が誰かを想う気持ちほど素敵なものはないから、いろいろな愛の物語を自分らしく、心を込めて書いていきたいって、話してくれたよね? その時の晴美さんの言葉を、僕はずーっと覚えてて、またそんな晴美さんのキラキラした声を聞きたいって思ってるんだけどなぁ……」

「やだっ、恥ずかしい! 若い頃はそんな事ばっかり語ってたのね……でも今は、書きたい事もないし、こうして家族仲良く暮らせるのが一番だから!」

 なるべく明るい声で答えた晴美だが、明生はやっぱり晴美が無理をしている様に感じられた。三十年以上の付き合いだ。明生は晴美の事は何でも、とは言わないが、まぁまぁお見通しなのである。


 次の日、エリがやって来た。そして……


「大谷明生さん、本を出しませんか」


 挨拶もそこそこに、いきなり本題に入った。本というのは勿論、占いの本である。盲人の占い師というのが珍しいせいか、昔もそんな話しが何度かあったが、明生は断ってきた。

 明生はいつも鑑定をする時、生年月日と名前を尋ねる。四柱推命などを使って占ったりはするが、それ以上に相手の話を聞く。

 話を聞いていると、話し方、声のトーンなどで、暗闇の中、相手が今どんな状態にいるのか感じる事が出来る。そして、しっかりと会話し運気を見ながら、これからどうしたらいいのか、解決の糸口を探す。それが明生の鑑定のやり方だ。

「僕の鑑定は、本になる様な珍しい……何とか占星術とかそういう物ではありませんので、それに、テレビでやっている様な、霊能力とか……行方不明者を捜したりする能力もないですし、鑑定に来た人の部屋の間取りを当てたりして皆さんを驚かせる様な力もありません。なので、申し訳ないですが……」

 そう言って丁重に断った明生だが、エリは間髪入れずエッセイはどうかと勧めてきた。困っていると、晴美がドアをノックして入ってきた。


「丁度よかったです。雨音さん……じゃなくて晴美さんの意見を聞きたいわ」

「何の?」と首を傾げ、晴美はお茶と和菓子をテーブルに運ぶと、パソコンデスクの椅子に腰かけた。

 エリは、盲人の明生が今までどうやって生きてきたのか、なぜ占い師になったのかなど、明生の半生を綴った一冊を出したいと熱く語った。


「僕の半生ですか? 目が見えない占い師というだけで、何か異色な物を皆さん感じる様ですが、そんなに面白いエピソードもないですし、普通に生きてきた平凡な男です。父親は食品メーカーのサラリーマンで、母親は専業主婦でした。たまたま目が不自由でしたので盲学校に通い、占いは興味があったので、占い師だった祖母に教えて貰い、点字で占いノートを作成して、ちょっと大変でしたが、それ程の苦労じゃありませんでした。妻と結婚したのは同じ団地に住んでいて、子供の頃から親しかったからで……ほら、ぜんぜん面白くも何ともないでしょ?」


 そう言う明生の半生に嘘はなかったが、一部抜けている部分があった。晴美は一瞬、占瞳館の良い宣伝になるのでは……という考えが過った。でも、明生にその気がない事は前から知っている。

「あの……うちの晴美はどうでしょう。僕はまた昔みたいに書いてほしいと思っているんですが……」

 突然、明生はエリに晴美がまた小説を書いたら出版を検討してくれるかどうか尋ね出した。

「えっ? だからもう書かないって言ってるでしょ! 何言うのよ!」

 焦った晴美は少し怒り口調になった。

「エリちゃん、ごめんね。忘れてちょうだい」

「なら、ミステリーなんてどうでしょう」

「えっ?」

「うちの出版社は今、ミステリーが書ける人が欲しいんです」

「無理無理」

 はっきり言って、晴美は子供の頃から殆どミステリーというジャンルには触れた事がなかった。嫌いとかじゃなく、恋愛小説やファンタジーを好んでいたので、興味がなかったのだ。

「もし書けたら読ませて下さいね」

 本気なのかどうなのか微妙な笑顔を残し、エリは席を立った。

 たぶん『占いの館』に鑑定に来た時、明生が晴美の夫だと知り、本の出版を思い付いたのだろう。でも断られるのは想定内だったようだ。

「分りました。では、また来ます!」

と元気にエリは帰って行ったが様子を伺い、また違ったアプローチを掛けるんだろうな、と晴美は思った。

 

 夕食の時、話題は明生のエッセイの出版についてだった。詩織が面白がって根掘り葉掘り訊いて来た。

「エッセイって、どんなの書くの? お父さんの写真とか掲載されるの?」

「だからね、詩織、お父さんは断ったって言ってるでしょ」

「マジでー。勿体ないってー。前もそんな話しあったよね。何で断っちゃうの? 本が売れたら儲かるのに」

「大丈夫だよ、お母さんがミステリーを書くから」

「えっ? 本当?」

「もう余計な事言わないでよ。書かないって言ってるでしょ」

「何で? 書いたらいいじゃん。面白そう」

「簡単に言わないで」

「でもさぁ……」

「明日の準備は? 時間割とか」

「まだだけど」

「三年生の時の家庭訪問で、忘れ物が多いって言われたでしょ? それに最近、朝起きれないみたいだし」

「最近宿題が多いんだもん」

「ならお風呂に入る前にやっちゃいなさい」

「言われなくてもやろうと思ってた!」

「部屋も散らかってたから掃除したけど、ちゃんと自分でやらなきゃダメでしょ?」

 と、まだ食べ終わっていない自分の食器を、晴美は不機嫌そうにさっさと片づけ出した。

 詩織は、晴美がなぜ書かなくなったのかを知りたかった。本人に訊いた事があるが、ただ書けなくなったからだとしか答えてくれなかった。


 食事を終え、自分の部屋で宿題を始めた詩織は、何か落ち着かない。枕元に綺麗に畳まれたパジャマ。ハンガーに掛けられた明日、詩織が着て行くであろう洋服。晴美が全て完璧に用意してくれている。

あの法事の日、晴美の小説の事を詩織が知ってしまってから、晴美はどこか神経質になった。前からどこか過保護で過干渉で心配症だったが、詩織はそれが鬱陶しいとは思わなかった。でも、あの日以来、どこか微妙に晴美の態度が変わったように感じられた。今は、晴美が満たされない何かを、自分にぶつけているのではないかとすら思ってしまう。

 気になって宿題も手に付かず、やっぱりずっと気になっている事を訊こうと詩織はリビングへ行った。

 リビングでは、明生がソファーでウトウトしていた。


「お父さん、お母さんは?」

「あっ……お風呂だよ」

「そっか……」と詩織は床にゴロリと横になった。もろに憂鬱な詩織の雰囲気が明生には伝わっていた。

「何か、ちょっと機嫌が悪くなっちゃったな。お父さんが余計な事を出版社の人に言ってしまったから」

「気にしなくていいよ、お母さんが勝手に不機嫌になってるだけなんだから!」

「まぁ、しばらくお母さんの前では、小説の話はしない方がいいのかな……」

「ねぇ、お父さん、お母さんってどうして書くの辞めちゃったの?」

「お母さんの問題だからお父さんの口からは話せないよ」

「知ってるなら教えてよ! どうしても知りたいの」


 明生は迷ったが、詩織の声からとても強い、熱い気持ちを感じた。そして詩織に話す事により、晴美の固まった心に何か変化が起きる様な気がした。詩織に話したらきっと晴美は怒るにちがいないが……。

「まぁ、書けなくなっちゃったのは、一部の評論家みたいな人たちが、お母さんの作品を中学生の作文に毛が生えた様な文章だとか、幼稚な描写だとか……まぁ酷評、というか……」

「ああディスられの? でも、一部の人だけでしょ?」

「うん。でも、それに同調する人もいて……」

「ふうん……でもそんなのよくある話じゃないの?」

「そうなんだけど、一番キツかったのは、応援してるからねって励ましてくれてた仲のいい友達にも陰口を叩かれてたみたいでね」

「マジで? それは悲しいかも……」

「それにね、あの頃お母さんは、凄く怖がってたんだよ。ラッキーなデビューを飾ったけど、次回作はどうしようか、何を書いたらいいのか……眠れないって……」

 その時詩織は、今まで晴美の作品を面白がって弄っていた事をちょっと反省した。

「でも何とか、二作目、三作目を書いたけど、段々、自分の書いた物に自信を持てなくなってしまって……とうとう書けなくなったんだよ」

「で、でもさぁ、そんなの気にしないでまた書けばいいのに!」

 少し興奮気味で、寝転がっていた詩織は立ちあがった。

「そうかもしれないけど、お母さんの気持ちはそうはいかなかったんだよ。ずーっとね」

「……ずーっと?」

「そう、ずーっと。ほら、お母さんはああ見えても繊細な所あるし」

「そうだよね。神経質でヘンな所に細かくて。まぁ、どちらかというとネガティブだしね」

「それに頑固だしな」

「でも割と気が小さいしね。それに……」

「あっ、詩織……何か気配が……」


 詩織は恐る恐る振り返った。いつの間にか風呂から上がった晴美は、詩織の背後に立ち、眉間にシワを寄せていた。

「ちょっと、二人で私の悪口?」

「わ、悪口なんて言ってないって。ねぇ、お父さん」

「そ、そうだよ」

「別にいいけど……。次、お風呂入って」

 そう言って髪をタオルで拭きながら出て行こうとすると、詩織が呼び止めた。

「お母さん待って。ちょっと聞いて」

「何?」

「どうして自分の書いた小説、捨てなかったの?」

「捨てるって……」

「だって、もう書かないんでしょ? それならいらないじゃん。明日、私が古本屋さんに持って行くから」

 と本棚から晴美の作品、三冊を取りだした。

「やめてよ。そこに置いといて!」

「でも、もう読む事もないんでしょ」

「そういう問題じゃないわよ」

 そう言うと詩織から奪い、自分の作品3冊を本棚に戻した。

「一生懸命書いたの。誰に何て言われても……必死で心を込めて書いたのよ……捨てるなんてできないわよ」

「じゃあ、もう一度さぁ、誰に何て言われようと、書きたければ書けばいいんじゃない。ねぇ!」

 珍しく真剣な顔をして、詩織が訴える様に言った。

「でもね……もう書けないのよ。分かる? 書かないんじゃないの。書けないの!」

「どうして? 私は書いて欲しいのに」

「面白くないとか言ってたじゃないの」

「そうだよ。だってよく分からないもん」

「だったら……」

「でも、あの日お母さんの小説のこと知って、なんだか私……嬉しかったんだよ」

「うそ……散々からかってたじゃない」

「本当だよ! ちょっと面白がっちゃったけど……でも……自慢かもって……」

 そう言うと、恥ずかしそうな顔をした。そんな詩織の顔を殆どみたことがない晴美は、少し戸惑ってしまった。

「それにね、前に古本コーナーで、お母さんと同じ位の年の人が、もう一回読みたかったって言ってたよ。本を見つけて、凄く嬉しそうだったんだよ!」

「まさか……」

「剛にいちゃんと修司にいちゃんもスゲーって言ってたし!」

「そんな……」

「だからね、お母さんの作品をさ、いいねって言ってくれた人もたくさんいたのに、お母さんは、偉い評論家さんや友達みーんなに大絶賛されないと書けないんだ。 褒められないと書けないんだね!」

「そういう訳じゃないわよ」

「でも、超褒められてたら、ずっと書き続けてたんじゃないの?」

「……えっ……」

「だいたいさぁ、書けないのを人のせいにしてるだけじゃん! ダサッ!」

「……ダサい?」

「それに、陰口言ってた人達が夢中になって読むような……悔しいけど月丘雨音っていい作品書くじゃん! とか言わせてみれば? ねぇ! このままじゃ負け犬だよ!」

「負け犬……?」

「そうだよ! ダサい負け犬中年女じゃん!」

「おいおい! 詩織、言い過ぎだぞ……」

 黙って聞いていた明生は、詩織の止まらない攻撃を抑えようと割って入ったが、いつもなら言い返して来るはずの晴美が急に黙ってしまった。

 晴美は何も言い返せなかった。子供の頃から、家族や友達に文章が上手いね、とか、お話が面白いね、とか、褒められて当たり前の様に物語を書いて、運よく小説家デビューした。初めて自分の書いた本が書店に並んだ時の嬉しさや恥ずかしさ、誇らしさ……全て覚えている。その時、ずっと書き続けるんだと思っていた筈。でもいつの間にか書けなくなっていた。それはなぜか? そうだ、詩織の言うとおりなのかもしれない。誰に何て言われようと、書き続けるべきだったのに。


「詩織の言う通りなのかも……」


 そうはっきりと認めた時、晴美の心の中の大きな冷たい塊が溶けて、何か熱い物がわーっと溢れ出した。


「詩織! 明生さん!」

 晴美は詩織と明生をしっかりと見つめた。

「か、書くわよ……私、また書きたい……」

 はっきりと宣言した晴美の顔は、何か吹っ切れた様な、とてもいい顔をしていた。

「やったー!」

 思わず詩織はバンザイをした。そして晴美をどこかワクワクした様な顔で見つめた。

「やったー!」

 引き続き明生も同じ様にバンザイをした。

「やだ、何で二人ともバンザイ?」

 晴美は明生と詩織が同じバンザイポーズをしているのが可笑しくて、思わず笑った。そしてその後、なぜだか泣き出した。

「……ありがとね……詩織」

「あれー? マジで? 何で泣いてるの?」

 不思議そうに晴美を見つめ、ケラケラ詩織が笑いだした。

「い、いいじゃない、何か泣けるのよ!」

「二人とも、怒ったり泣いたり笑ったり、忙しいねぇ」

 そう言いながら明生も少し泣いていた。

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