宇宙公務員オヂェフ 第2話 「宇宙道路は誰のもの? 銀河渋滞100年計画」
Twitterで第2話を漫画公開しました。
https://x.com/i/status/2007752128442630245
1. 動かない街、終わらない日常
惑星アジワ区を囲む巨大環状道路。いや、そこはもはや「道」ではなかった。
100年続く大渋滞。車列は完全に固定化され、人々は車の上に家を建て、路肩で商売を営み、車内で一生を終える。子供たちは「動く車」を伝説上の乗り物だと信じていた。
渋滞中の運転席。40代ほどの男が、無精髭を生やし、疲れ切った目でフロントガラス越しに「1ミリも動かない前車」を見つめている。助手席には山積みのレトルト食品と、数年分のカレンダーが置かれている。
道路脇の電光掲示板には、絶望的な文字が光る。
《この先、次のトイレまで推計40年。余裕を持った運転を》
「ねぇパパ、あの窓の外を流れている『雲』、僕たちの車よりずっと速いね。あれが『移動』っていうやつなの?」
車の窓から外を指差す少年に、父は力なく答える。
「……ああ、あれは時速3キロの自然気流だ。お前のひいじいさんは、かつて時速20キロという神の領域を体験したことがあるらしいぞ」
住民苦情は1日12万件。だが、それはもはや怒りではない。窓から見える不動の景色に向かって、いつか動くことを願う、生活の一部としての「祈り」に近かった。
2. 出撃前:総務部長の「評価」
銀河行政本庁、総務部長室。
「小出係長。君の昨年度の課題評価だ。項目92『理不尽な待機時間への耐性』……最高ランクの『S』だ。100年待たされてもキレない、その精神的恒常性を高く評価する」
「部長、それは褒めてます? 単に役所の窓口で、どれだけ待たされても死んだ魚のような目でスマホをいじっていた時間が長かっただけでは?」
「解釈は任せる。特命だ。アジワ区へ行け。あそこの道路は100年間、時間が止まっている。君のその『停滞に慣れた魂』なら、現場の毒気に当てられまい。行政の不作為という名の死体を成仏させてこい」
小出は深いため息をついた。「……出張旅費、概算払いでお願いしますよ」
3. 諦め果てた管理局長
アジワ区道路管理局。局長アジワダは、茶をすすりながら力なく首を振る。
「小出さんと言いましたか。無駄ですよ。ここはもう行政の手が届く場所じゃない。特に道路の中心部……あそこはかつての豪族や消滅した国家の権利が複雑に絡み合い、登記簿すら判読不能。誰の土地かも分からず、行政は100年、誰も一歩も踏み込めなかった。私はただ、この渋滞がこれ以上ひどくならないよう、毎日祈っているだけです」
「祈るのが管理局長の仕事ですか?」
「それ以外に何ができると? 100年動かなかったものが、今さら動くはずがない」
アジワダの目は死んでいた。何を聞いても「できない理由」と「予算の不足」を並べるだけの、典型的な事なかれ主義の塊がそこにはあった。
4. 利権の迷宮と「現実」の重み
その「権利不明の空白地」を力で支配していたのが、銀河利権同盟インフラ部長・バスバーンだった。
地下に建設された巨大ショッピングモール。そこは渋滞で動けない住民たちの唯一のライフラインとなっていた。オヂェフに変身した小出に対し、バスバーンは哄笑する。
「行政が権利関係を恐れて100年も放置したおかげで、ここは俺たちの楽園になった。渋滞は最高の防壁だ! お前たちが『手続き』に明け暮れている間、俺たちはこの空白地に『現実』を作ったんだ。住民に食料と娯楽を与えているのは、役所ではなく俺たちだぞ?」
バスバーンの言葉は、行政の不作為を鋭く突く。
オヂェフが条例セイバーを振るうが、バスバーンは「長期間の実効的な占有による所有権移転嘆願書」の盾で攻撃を跳ね返す。
「法は現場を見ていない! この地下空間は100年間、行政が『検討中』として放置した法的空白地帯だ! 確定した定義がない以上、俺たちのモールを不法占拠と断じる根拠はどこにもない!」
苦戦するオヂェフ。現時点での法的根拠では、この「放置された空白」を撃ち抜けない。
5. 暴かれる「100年前の真実」
「……不自然だ。なぜ誰も、この広大な地下空間を定義しなかった?」
オヂェフは『O-JE-Frame』をフル稼働させ、アーカイブの最深部をスキャンする。システム上では、100年間鳴り続けていた「未決裁の通知音」がデータの塵に埋もれていた。
「……見つけた。100年前、ある新米公務員が起案した計画書だ」
モニターに浮かび上がったのは、『アジワ区・自動流動化道路計画書』。道路自体が意志を持ち、住民を目的地へ運ぶ、あまりに未来すぎた夢の構想。
「これは……この仕組みさえあれば渋滞は根本的に解決するじゃないか。制作者の名前は…………」
オヂェフは管理局に緊急通信を繋ぐ。「アジワダ局長! この計画書、見覚えがあるはずだ! 筆跡が、執務室で拝見したあなたの署名と完全に一致する! あなたは100年前、この権利不明の土地を『公有化』して道路にするための起案をしていたはずだ!」
6. 決裁:新米公務員の落とし前
管理局のアジワダが、ガタガタと震え出した。
「……それは、私が100年前に捨てたものです。当時は若すぎた。革命を起こそうと起案したが……組織の慣例、前例踏襲、そして当時の上司から『時期尚早だ。君、もし失敗したら責任は誰が取るんだね?』と言われ、私は一歩も動けなくなった。前に…進めなくなった。だから、自分で自分の起案を『未決裁』のまま闇に葬ったんだ……」
アジワダは、机の引き出しの奥から、芯の折れた古い鉛筆を取り出した。図面の隅には、震える文字でこう書かれている。
《いつか、この道を子供たちが走れるように》
「局長! 100年前のあなたは、この街を誰よりも愛していたんだろ!」
アジワダは答えない。
「走れる道路を!インフラを!行政が!!公務員が作るんだろ! 責任を負うことを恐れて、また100年、子供たちを渋滞の中に閉じ込めるつもりか!」
オヂェフの叫びに、アジワダの瞳に100年ぶりに光が宿る。
「……100年前、私はその問いに答えられなかった。だが、小出さん……今なら言える。責任なら、100年分まとめて私が取ってやる!」
アジワダは立ち上がり、埃を被った決裁印を握りしめた。
「100年前の私へ。待たせたな。アジワ区環状道路、本日をもって『完全管理型・超高速幹線』として、私が責任を持って供用開始を承認する!!」
《決裁:Approval》
印影が刻印された瞬間、O-JE-Frameが真紅に染まる。
《警告:道路定義が変更されました。現在地は『一級重要幹線道路』に確定。停車・占有は1秒たりとも認められません。当該建築物は『重大な通行妨害』に該当──判定:違法》
「書類が残っている限り、行政はいつでも初心を取り戻せる。……代執行を開始する!」
「100年分の請願破砕!!」
7. 動き出した世界
100年前の夢が、現代の法執行となって爆発した。道路が意志を持ったかのように、車列を強制的に加速させていく。
流れる景色を初めて見た子供たちが、窓に顔を押し付けて歓声を上げる。
「……やっと、自分の仕事ができました」
涙を流すアジワダに、小出は短く応えた。
「これから大変になりますよ。住所地番の全変更、100年分の交通違反の遡及処理……膨大な事務処理があなたを待っています」
「そうですね…」アジワダは答える。
「アジワ区の行政事務は、公務員アジワダは、長い渋滞を抜けて今、走り出したんだ。もう絶対に止まらないでくださいよ」
8. 帰還:精査という名の停滞
本庁に戻った小出を、総務部長が迎え入れる。
「見事だ。100年前の自分自身の起案を決裁させるとは。行政の継続性を、これほど泥臭く証明するとはな」
「もうヘトヘトですよ。部長、今回の残業代申請です。私自身が起案しました。今すぐ決裁を」
部長は、じっと書類を見つめ……そして、そっと引き出しに仕舞った。
「……小出。君の残業代だが。100年前の計画に基づく手当の算出根拠を、会計検査院が現在、100年計画で精査中だ」
「は?」
「つまり……改めて『検討継続』となった。100年後には、きっと今の私の判断が正しかったと証明されるだろう。君もアジワダ局長のように、100年待ってみたまえ」
「死ぬわ!!」
小出の絶叫が響く中、今日も銀河のどこかで新たな「未決裁」が積み上がっていく。
■兵装紹介
行政照会システム『O-JE-Frame』
【概要】
**O-JE-Frame**は、銀河連邦自治行政局(GAA)が開発した、現場執行官(宇宙行政官)専用の次世代行政支援・武装プラットフォームである。 単なる戦闘用スーツではなく、銀河全域の法令データベースとリアルタイムで同期し、現場における事象が「どの法令に抵触するか」を瞬時に照会・判別し、適切な行政処分を物理的・論理的に執行するために設計された。
【正式名称:略称の定義】
O-JE-Frame は、以下の4つの概念の頭文字を冠している。
Ordinance:「条例・法令」。すべての行動の根拠となる規範。
Justice:「正義・公正」。公務員として守るべき倫理と公平性。
Execution:「実行・執行」。現場での実働および行政処分の完遂。
Frame:「枠組み・構造」。これらを統合し、執行官の肉体を保護・強化するシステム。
【主な機能】
リアルタイム法令照会(Administrative Search) 現場の状況をスキャンし、該当する銀河条例を抽出する。執行官が正しく条文を引用することで、システムの出力制限が解除される。
行政処分執行(Execution Mode) 認定された違反内容に基づき、物理的な拘束や、不法占有物の排除、不正データの論理消去を行う。
変身シーン(演出)
小出が条文を読み上げ、システムが起動する際、ヘルメットのバイザーや周囲のホログラムに以下のログが高速で流れます。
SYSTEM CHECK... OK ORDINANCE: VERIFIED (Galaxy Ed. Art. 8) JUSTICE: ALIGNED EXECUTION: READY O-JE-Frame, STANDBY.




