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第九話 特別な人

 翌日から、セレクディエ学園の特待生として編入するために、エルヴィン様との猛勉強が始まった。


 始めた月が九月で、試験が一月に行われるから、時間はほとんどない。

 だから、過去にゲオルク様に勉強を強要されていた時のように、寝る間も惜しんで勉強をした。


 幸いにも、その時に得た知識や、日頃から勉強していたのに加えて、エルヴィン様が勉強を教えるのがとても上手なおかげで、私の学力はどんどんと向上した。


 ただ、一つだけ大きな問題があった。それは、私の魔法についてだ。


 私の魔法の実力は、お世辞にも高いとは言えない。むしろ、町中を歩いている一般の人の方が、遥かに高いと言えるほど、私は魔法を使えない。


 しかも、エルヴィン様は勉強を教えるのは凄く上手だったのに、魔法を教える時は全然違った。


『いいかい、アイリーン。魔法を使う時は……魔力をギューンと貯めて、それを魔法陣にパパっと変換して、それをドカーンと放つ! ね、簡単だろう?』


 ……こんな感じで、あまり参考にならないものばかりだった。


 聞いたところによると、エルヴィン様は感覚で魔法を使うみたいで、練習とかしたことがないから、それに準じた教え方になってしまったそうだ。


 勉強の時は丁寧に教えてくれるのに、魔法に関してはまるで子供のような教え方というのは、ギャップがあって可愛いと思ったけど、受験となると困るのは確かだ。


 とにかく、練習あるのみ。そう思い、私は今日も勉強と魔法の練習に明け暮れていた。


「……うん、全部合っている。本当にアイリーンは物覚えがいいね」


「そんな、エルヴィン様の教え方が上手だからですよ」


 毎日の勉強の前に行っている小テストの答え合わせを終えたエルヴィン様は、にこやかに笑いながら答案用紙を私に渡した。


「あはは、本当は魔法の方もこれくらい教えられたら良かったんだけどね……知り合いの魔法使いに臨時講師をお願いしたんだけど、みんな忙しい人で予定が合わないみたいでね」


「気にしないでください。元はといえば、私が魔法を使えないのが悪いんですから」


 私の問題なのに、エルヴィン様が申し訳なさそうにするのは忍びない。ここは少し強引にでも話題を変えた方がよさそうだ。


「ちょっと思ったんですけど、どうしてここまで色々してくれるんですか?」


「君が僕にとって、特別な人だからだよ」


「そ……それはとても嬉しいですし、光栄なんですけど……私にそこまで想ってもらったり、手伝いたいって思えるほどの魅力ってあるのでしょうか?」


「ある」


 少しは悩む素ぶりを見せると思っていたけど、まさかの即答だった。これにはさすがに驚きを隠せない。


「出会った時のことを覚えているかい?」


「はい。去年、図書館で私が届かなかった本を取ってくれたんですよね」


 いつか宮廷魔術師になるために、自主的に勉強をしに図書館に来た時に、私の背では届かない位置に本があって、それをエルヴィン様が取ってくれたのが、彼との出会いだ。


 確かその時に、取ってくれたお礼を伝えて……そうそう。随分と難しい勉強をしているんだねと聞かれて、いつか両親を楽させるために、宮廷魔術師になりたいから勉強しているって答えたんだった。


「あの日から、決まった曜日に君を見かけるようになって、よかったら勉強を教えてあげるって言ったら、凄く喜んでくれたね。今でもあの時の満面の笑みは、よく覚えているよ」


「な、なんだか恥ずかしいです」


 その時は、既にゲオルク様の勉強の強要が無くなり、私についていた家庭教師もいなくなってしまってたから、勉強を見てくれる人と出会えたのが、凄く嬉しくて、つい……。


「初めて会った時に、家族のために勉強していると言っていただろう? その時に、とても良い子だなって思って、手伝いたくなった。それからというもの、君と過ごしているうちに、君が僕の想像なんて及ばないほど、優しくて魅力的だと知り、もっと助けになりたいと思ったんだよ」


 フッと優しく笑うエルヴィン様にドキッとしながら、照れ隠しで視線をそらした。


 自分では、育ててもらった両親への恩返しは当然だと思っていたから、改めて正面から褒められると、どんな反応をすればいいかわからない。


 ちなみにだけど、私が捨てられていたことに関しては、話していない。それと、すごくいじめられていることも。だって、余計な心配をかける必要はないからね。


「そ、そうだったんですね。私も、あなたはとても優しくて魅力的な人だと思います」


「っ……! アイリーンからそんなことを聞けるなんて、とても嬉しいな。今日は帰ったらお祝いが必要そうだ」


「さすがにそれは大げさなような気がしますが……とにかく、本当にありがとうございます」


 嘘偽りのないエルヴィン様の言葉を胸に、私は再び知識を得るために羽ペンを走らせる。


 応援してくれているエルヴィン様や両親のためにも、必ず試験に合格して特待生にならないといけないね。


「あ、でも……もし他に用事とかあったら、そっちを優先してくださいね。例えば、お友達とお出かけとか……」


「心配してくれてありがとう。残念だけど、僕には君以外に親しい友人というのはいなくてね。そういう意味でも、君は特別な人なんだ」


「あっ……その、ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ……」


「あはは、大丈夫。全然気にしてないから」


 よくよく考えたら、今までずっとエルヴィン様の口から、学園のお友達の話って聞いたことがない。

 それなのに、私ってば……気を使ったつもりになって、余計なことを口走ってしまった。


「ほら、おしゃべりはここまでにして、勉強に戻ろうか」


 エルヴィン様に促されて、止まってしまっていた手をまた動かしはじめる。


 私のことを、特別な人って言ってくれるけど、それって具体的にどのようなものなんだろう……それに、特別な人って言われると、どうしてドキドキするのだろう。


 まあ、このドキドキは、エルヴィン様と一緒にいるとよく起こるから、今更という話でもあるんだけどね。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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