第七十三話 結婚式に向けて
「なんだかんだで、随分と遅くなってしまったね」
「そうですね。ごめんなさい、私が中々合格できなくて、勉強に時間を費やしてしまって……」
あれから五年後。私は、都会から離れた自然あふれるところにある、綺麗な浜辺へとやってきた。
結論から言うと、五年という歳月の中で、私は無事に宮廷魔術師になることができた。
でも、その道は優しいものではなかった。
孤族の力が覚醒したことで、元々高かった魔力が更に向上すると同時に、魔力をコントロールする力も身についたが、それでも宮廷魔術師になるには未熟だった。
だから、学園に在籍中も、卒業してからも、毎日血反吐を吐くくらい、勉強と魔法の練習をした。
試験も何度も落ちて、心が折れかけたこともあったけど、エルヴィン様や多くの人に励まされて、合格を勝ち取った。
これも全て、支えてくれたパパやママ、ソーニャちゃん、勉強を教えてくれたエルヴィン様、そして魔法を教えてくれた、ヴァーレシア先生のおかげだ。
ただ、ずっと勉強と練習の日々だったから、エルヴィン様とのデートはたまにしかいけてないし、ソーニャちゃんと遊ぶ頻度も減っちゃったし、海に行こうって約束も、こんなに遅くなっちゃった。
「予定よりも早くに着きすぎてしまったみたいだから、その辺を散歩しないかい?」
「いいですね、行きましょう」
私はエルヴィン様とギュッと手を繋いで、浜辺をゆっくりと歩き始める。
だいぶ慣れてきたとはいえ、やっぱり男の人に触れられると緊張をしてしまう。でも、こんな時間がずっと続けばいいのにって思っているんだ。
「この辺りは眺めがいいね。ここで、すこし海を眺めようか」
「はい」
波が来ない、小さな高台に腰を下ろした私達は、のんびりと海を眺める。そのうち、私の方が自然とエルヴィン様の肩に頭を乗せ、それを迎えるように、私の肩に手を回してくれた。
「学生の時に、夏休みに海に行こうって約束をしたけど、こんな形になるなんてね」
「ダメですよ。ここにソーニャちゃんがいません」
「そうだね。もちろん、ちゃんと三人で行くことも考えているが、今日は先に二人だけの海ってことさ」
「予習は大事ですからね」
「予習……なんでも勉強に結び付けるアイリーンも可愛いね」
「きゃあ!?」
この五年で、エルヴィン様の愛情表現は過剰なものになっている。
こうやって抱きついてくるのは日常になっているし、別れの際には必ずキスしてるし、一緒の時間が長く取れそうなら、その……いや、この話はやめておこう。
とにかく、慣れているとはいえ、急にされると驚いちゃうからやめてほしい。ヴァーレシア先生の研究のおかげで、元の一本に戻せるようになった私の尻尾が、驚いてピンッとしちゃうよ。
「もう、エルヴィン様ってば……もう少しゆっくりしたいですけど、そろそろ行きましょう」
「ああ、そうだね。ところで、体は大丈夫かい?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ならよかったが……まさか、ようやく僕の仕事の区切りついて、君の試験も終わり、羽目を外して濃密な時間を過ごした結果が、こうなるとはね」
「まだみんなには言ってませんけど、言ったらきっと驚くでしょうね」
まったくだ。結婚式の日程は、三ヶ月くらい前にはわかってたのだから、自重するべきだった。
とはいっても、大変喜ばしいことだし、いつかは……とは思っていたから、何の問題もない。
「ここが式場か……」
「私達、ここで結婚式を上げるんですね」
私達は、浜辺の近くにある小さな教会へとやってきた。この教会で、これから式をあげる。
王族の結婚式でもあるのだから、もっと大々的にやるのが一般的だろうけど、そういうのは後で披露宴として開き、結婚式は身内や親しい人だけを呼ぶことにしたの。
「あ、アイリーンさん! エルヴィンさん!」
「ソーニャちゃん!」
教会を眺めていると、ソーニャちゃんがご両親を連れてやってきた。
ソーニャちゃんのご両親とは、この五年でたくさんお話しているから、とても仲良しなんだよ。
「今日は招待してくれて、ありがとうございます……!」
「こちらこそ、きてくれてありがとうだよ!」
いつも可愛いのは知っているが、結婚式に参加するためのドレスとお化粧をしているソーニャちゃん、可愛すぎるんだけど? 目の前に天使がいるんだけど?? 今すぐに抱きしめたいんだけど!?!?
って……ダメよ私。ソーニャちゃんがせっかくドレスアップしてくれているんだから、欲望に負けて、それを崩すようなことをしてはいけない。冷静に、冷静に……。
「ソーニャちゃんのお父さん、お母さん、お久しぶりです。本日はお越しいただき、ありがとうございます」
「ごきげんよう、アイリーン」
「ごきげんよう~。ふふ、娘のお友達の結婚式なんて、参加するに決まってるじゃないの~」
そう言ってもらえると、凄く嬉しく思える。だって、それくらい祝福されてるってことでしょう? ずっと虐げられていた身からすると、普通の人よりも幸せに感じられるんだ。
「アイリーン!」
「あ、パパ! ママ!」
後で現地で合流する予定だったパパとママが、手を振りながらやってきた。
ふふっ、二人のために、エルヴィン様と一緒に選んだドレスとタキシード、良く似合っているなぁ。
「くぅ……ついに娘が嫁いでしまうのか……娘の晴れ姿を見られて……我が人生に、一片の悔いなし……」
「ちょ、ちょっと! 私の結婚式を見てないでしょ!」
「そうだった! あやうく無駄死にするところだった!!」
「あなたなら、何度死んでも蘇りそうだけど」
「あはははは!」
結婚式でもいつもと変わらないパパとママと一緒に、いつもの様に楽しく話していると、ヴァーレシア先生がのそっとやってきた。
いつもはシワだらけであちこち汚れている白衣を着て、無精ひげだらけのヴァーレシア先生が、今日はピシッとしたタキシードを着て、無精ひげも綺麗に無くなっている。髪もしっかり整っていて……まるで別人だ。
「ヴァーレシア先生、来てくれてありがとう。ちゃんとしているほうが、かっこいいよ」
「けっ、見た目で研究の結果は変わらんからな。よほどのことがなけりゃ、今日で見納めだ」
「アイリーン、あの人が……?」
「うん、そうだよ」
ヴァーレシア先生については、両親には話している。だって、私の出自に関係する大切なことだもの。言わないわけにはいかないよ。
「改めてになるが、結婚おめでとさん。それと、無事に宮廷魔術師になれて、万々歳だな」
「はい! まだ宮廷魔術師になったばかりなので、右も左もわかりませんが……頑張ります!」
「ああ。っと、家族団らんの時間に、部外者の俺は邪魔だな。んじゃ」
「まって! 私、パパとママは大切だけど……あなただって、大切な人なんだから!」
「……お前がそう思うなら、そう思えばいいさ。てか、俺は式の前に一服したいんだよ。それくらい察せ」
今日もいつもの様にぶっきらぼうな話し方を残して、私の前を去ってしまった。
一匹狼……いや、狐? らしいといえばそうなんだけどね。もう少しくらいはコミュニケーションを取っても……なんて思ったりする。
「あ、アイリーンじゃん!」
「ミトラ様、国王陛下! 来ていらしたのですね」
「少し無理やりだったけど、なんとかスケジュールを詰めてきたよ!」
ニカッと笑うミトラ様から、嘘は一切感じない。私のために、スケジュールを詰めてくれたのかと思うと、嬉しくもあり、申し訳なくも思う。
「せっかくの縁なのだからな。せっかくなら大切にしようと思い、こうして参加した次第だ。もうすぐ君の父もやってくるのではないかね?」
「はい。もう少ししたら到着予定なのですが……」
「エルヴィン様、そろそろ準備を始めないと、間に合わないかもしれません。それじゃあ、私達は一旦失礼します」
私はエルヴィン様の手を引っ張り式場の中に入ると、今回の結婚式を運営するスタッフさんに連れられて、とある部屋に入れられた。ちなみに、エルヴィン様は隣の部屋だ。
「本日はよろしくお願いします」
部屋に入り簡単に挨拶をされるや否や、スタッフの皆さんの怒涛の準備が始まった。
皆さんは分担して、私の髪のセットやアクセサリ、顔のお化粧、爪の整え。そして、事前にエルヴィン様といっしょに買いに行った純白のドレスに着替えさせてくれた。
「とてもお綺麗ですよ」
「は、はぁ……」
鏡の中にいる自分の姿が、あまりにも綺麗すぎて実感がわかない。でも、エルヴィン様に見せたら喜んでくれるかな?
「隣はもう準備できたのでしょうか?」
「えーっと……大丈夫です。そうだ、私が用意した手紙は?」
「それも準備してあります」
「そうですか、ありがとうございます!」
「本番まで少し時間があるので、新郎様とお顔を合わせておきますか?」
「はい」
短く答えると、隣の部屋を繋ぐカーテンがシャーっと音を立てながら開くと、そこには純白のタキシードを着た、エルヴィン様の姿があった。
「…………」
「…………」
じりじりと間合いを詰めながら、互いに頭の先からつま先まで、じっくりか確認し…………結果、二人揃ってその場に座り込んでしまった。
「アイリーンが……」
「エルヴィン様が……」
「「美しすぎる……!」」
互いに言葉を合わせ、互いに片膝をつけて愕然とする。付き合いが長くなってきている影響なのか、最近似てきた部分がとても多い
「えっと……と、とりあえずお座りになった方がよろしいかと。シワになってしまうので」
スタッフに言われて、思わず顔を赤くしながら、私達はソファに隣り合わせに座った。
「では、我々は失礼させていただきます。準備が出来次第、お呼びいたしますので、ここでお待ちください」
スタッフを代表して、一番年長者っぽい女性が挨拶をしてから、揃って部屋を出て行った。
残された私達は、寄り添いながら、エヘヘと笑う。
「もう少しで開宴だから、すぐに呼ばれると思う」
「はい。それにしても、こんなふうにお祝いしてもらえるなんて、いまだに信じられません」
いつかはエルヴィン様とお付き合いしたい、結婚したいというのは、前々から考えてはいた。
でも、それは叶わぬ夢か、叶えられたとしても相当先か……なんて思ってたんだけどね。人生ってわからないね。
「…………」
「……どうかしたのかい?」
「…………」
「…………」
何も言わずにジッと見つめていると、察してくれたのか、エルヴィン様は、私の肩にそっと手を置き、そのまま顔を近づけて、互いの唇を合わせた。
本当のことを言ってしまうと、キス自体はもう数えきれないほどしているんだけど、ウェディングドレスを着ているからなのか、初めての時くらいは緊張したよ。
「ああ、幸せだな……」
「私も、幸せです」
大きな窓から、さんさんとお日様の光が差し込む部屋の中で、光をたくさん浴びながら、エルヴィン様と何か話したりはせず、ただのんびりと二人の時間を共有する。
何もしていないけど、エルヴィン様と一緒の時間を、隣り合わせで共有している……それだけでも、胸の奥が暖かくなって、ちょっとフワフワして……ああ、これが幸せなんだなって思えるんだ。
「お待たせしました。準備が出来たので、こちらにどうぞ」
「よし、いこうか。調子が悪くなったら、すぐに言うんだよ」
「はい、わかりました」
私は、もう一度だけ軽くキスをしてから、エルヴィン様と腕を組んだ状態で、会場へ続く大きなドアの前に立った。中からは、オルガンの綺麗な音楽が聞こえてくる。
「き、緊張しますね」
「堂々としていればいいのさ。僕が一緒にいるから大丈夫」
「ふふっ、頼りにしてますね」
私達はニッコリと笑い合いながら、式場の扉をゆっくりと開いた――
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