第六十五話 愛する人を取り戻せ!
二ヶ月後、ついにエルヴィン様の結婚式がやってきた。
私とソーニャちゃんは、予定通りヴァーレシア先生の知り合いの人と一緒に、結婚式場に潜入するという形をとることになった。
設定としては、私達は知り合いの人のお付きの人ということになっている。その人から借りた着慣れないドレスは、とても動きにくいけど、ワガママは言っていられない。
「アイリーン、本当に大丈夫なの? ママ、とっても心配だわ……」
「ははっ、ママは心配性だなぁ! お、おお、俺達の自慢の娘なら、どんなことでも出来る!」
ここに来てくれたメイドさんの手を借りて着替えた後、ボロボロの姿見で変なところが無いか確認していると、ママがとても心配そうに声をかけてきた。隣では、気丈に振舞ってるけど、心配と不安の涙が隠せていないパパの姿もある。
「うん、大丈夫。パパ、ママ、心配かけてごめんね」
私は、指にはめられた綺麗な指輪をそっと撫でながら、両親に謝罪をする。
この指輪は、ヴァーレシア先生が作ってくれた魔法の力が宿っている。私の魔力に反応して、強力な魔法を打ち消す魔法が発動する仕組みだそうだ。
それと、もう一つ魔法を仕込んだと言っていた。その魔法とは、結界魔法だ。
この結界魔法を使うことで、現場から逃げ出そうとする犯人を逃さないための処置だと言っていた。
この魔法を使って、王女様にかけられた魔法の解除をし、犯人を捕まえるという作戦だ。ちなみに失敗しても、人に害は出ないみたい。
「私、絶対にエルヴィン様を取り戻して、ここに帰ってくるから」
「……わかったわ。気をつけてね、アイリーン」
「うぉぉぉぉぉん!! アイリーン、絶対に無事に帰ってきてくれよぉぉぉぉぉ!! お前がいなくなったら、パパはもう生きていけないからぁぁぁぁ!!」
「ぱ、パパ……苦しい……あと、せっかくのドレスにしわが付いちゃう……」
男泣きをながら抱き着くパパからなんとか解放された私は、いってきますと伝えてたから家を出ると、家の前で待っていた馬車に乗り込んだ。
「うむ、似合っているようで何よりじゃ」
「ありがとうございます、エインワード卿」
私に声をかけてくれたのは、エインワード家の当主様だ。伯爵の爵位を持つ家で、ヴァーレシア先生の古い知人と聞いている。
「それにしても、意外じゃったな。ヴァーレシアがこんなことに手を貸し続けていたとは。まるで若い頃のようじゃった」
馬車に乗せられ、そのまま揺られていると、エインワード卿が興味深そうに私を見ながら、口を開いた。
「えっと……ヴァーレシア先生って、昔はあんな感じではなかったのでしょうか……?」
「うむ。研究熱心なのは変わらないが、昔はもっと情熱的で明るい男じゃった。じゃが、あることをきっかけに、かつての覇気が無くなり……今のようなヴァーレシアになってしまっての」
なんだか、暗い雰囲気の話っぽい……のはわかっているのに、なぜかその話が聞きたくて仕方ない。
何も意識をしていなかったら、唐突にその事情ってなにって聞いてしまいそうだ。気をつけておかないと。
「ほれ、ついたぞい」
いつもは私はリードをされる側だけど、今はあくまでエインワード家のお付きの人だ。だから、私は慣れない手つきでエインワード卿をリードして、馬車から降ろした。
「うむ。ご苦労様。新人がやると、初々しくて良いものじゃな」
「す、すみません……」
「なぜ謝る? 最初は出来ないのは当然じゃろう?」
エインワード卿と話していると、もう一台の馬車がやって来て、中から女の子が下りてきた。
「お、おはようございます……!」
「おはよう!」
女の子……ソーニャちゃんの着ている服がカッコよくて思わず抱きしめそうになったけど、悪目立ちするのは良くないね。
ちなみに、私はフリフリのドレスだけど、ソーニャちゃんは男の人が着るような、燕尾服だった。
いつもぽわぽわとした可愛さが特徴的なソーニャちゃんだけど、今はとてもきりっとしていて、可愛いんだけど、そこにカッコよさを詰め込んだような……とにかく、良く似合っているということだ。
「しっぽ、大丈夫そう?」
「だいぶギッチギチですけど、とりあえずは。アイリーンさんは?」
「私は大丈夫。ただ、凄く動きにくい……」
二人共、ある程度の変装は出来ているみたいだ。本当は、魔法で完璧にした方が良いんだけど、そこまでやると逆に魔法の探知に引っ掛かってしまうらしいので、手作業で出来る範囲にしている。
「でもでも、凄く可愛いですよ! 落ち着いたら、あの人にも見せませんとね!」
「うん、そうだね!」
「二人共、揃ったな。では行くとしよう」
緊張で胸がバクバクしているけど、そんなものにかまけている暇はない。この先には、この先の未来を掴むための作戦があるのですから。
――なんてことを思っていると、建物の小ホールにある受付で、一人の男性の姿があった。
「あれ、ヴァーレシア先生!? どうして先生がここに!?」
「招待されたからに決まってんだろ。ほれ」
そう言ってみせてくれたのは、確かに結婚式の招待状だった。
でも、おかしい。今までそんなものを貰ったのなんて、聞いたことが無い。
それに、ヴァーレシア先生が招待されたのなら、わざわざ知り合いの人にお願いして、私達をお付きの人に仕立て上げる必要は無いよね?
あと、いつもくたびれた白衣だから、正装だとかえって変な感じだ
「ま、ガキンチョにはわからない、大人のやり方ってのがあるんだよ。いいから、お前らはお前らのやるべきことをやれ」
ヴァーレシア先生は、私とソーニャだけにしか聞こえないように、近くでそっと耳打ちをする。
きっと、何かあった時のために来てくれたのだろう。本当は、この人はお人好しなんじゃないかと思ってるんだけど、違うのかな?
「ソーニャ、例のは合図をだしたらやれ」
「わかりました」
……? 何のことかわからないけど、それは後で知ればいいことだ。とりあえず私は、なるべく目立たないように結婚式場にって……あれは……。
「はっはっはっ! 今日はなんてめでたい日なのだ! 俺様は気分が良い!」
「だからって、お酒飲むのは良くないよ、お兄様~」
「これはノンアルコールだから問題ない! それにしても、こうもうまくいくとはな……最近のアイリーンの落ち込みよう! 見ててスカッとする!」
「あたしもわかる~! 落ち込んでるところに更に煽ってあげると、むきになったり落ち込んだり、色々あって面白いよね~」
「ワタクシには理解出来かねますわ。快楽は痛みの先にあるものですからね」
咄嗟に隠れて様子を伺ってみたけど、やっぱり今回の事件はゲオルク様がやったってことだね。今のが記録する術があればいいのに……。
「アイリーン、こっちじゃ」
「あ、はい!」
私は物陰をうまく使ってエインワード卿と合流すると、結婚式が行われる会場へと立ち入った。
綺麗なステンドグラスに、大きなグランドピアノの存在感が凄い。神様を象徴する像も、とても美しくて、見惚れてしまいそう。
「とりあえず、ここで座ってっと……あら?」
私は、長椅子にソーニャちゃんやエインワード卿と一緒に腰を降ろすと、紙でできた、小さな人形がやってきた。
「これは……?」
私のところにやってきた人形は、普通の紙切れになった。
そこには、『絶好のチャンスは誓いの口づけだ』と書かれていた。
きっとヴァーレシア先生の手紙ね。前に教えてくれたことを、再度教えてくれた感じだ。
あの人は本当に過保護だけど、やるべきところはちゃんと私にやらせるのよね。誰かの親になったことがあるのかも?
そんなことを思っていると、結婚式は始まり、新郎新婦が入場した。
エルヴィン様……とても綺麗でカッコいいけど、その表情は浮かない。かくいう私も、見ていて気分のいいものではないせいで、自然としかめっ面になってしまう。
一方の王女様……確か、ミトラ様といったっけ? 彼女はとても嬉しそうに、エルヴィン様と腕を組んでいる。
もしかしたら、本当にエルヴィン様が好きで、ちょっとやり過ぎちゃっただけとか? 王族だもの、やることが大胆になってもおかしくない。
……それでも、私はエルヴィン様を取り戻す! 相手が誰であっても、どれだけ愛していても、負けたりしない!
「…………」
――結婚式は順調に進んでいき、気づいたら指輪交換と誓いの口づけをする場面となっていた。これが完了してしまうと、神に祝福されてしまい、結ばれた二人を引きはがすのが困難になる。
でも、これをやる際に、警備は邪魔しないように離れる。その隙を突いて、この指輪の魔法を使う!
「っ……!」
失敗をすれば、私達は襲撃者として捕まり、極刑に処されるだろう。
考えるだけでも恐ろしいけど、エルヴィン様を助けられない方が恐ろしいし、危険を承知で力を貸してくれる皆の報いるためにも、逃げられない!
「エルヴィン・セレクディエ。貴殿は健やかなる時も病める時も、妻を愛することを誓いますか?」
「………………はい。誓い……ます」
「ミトラ・エイハースト。貴女は健やかなる時も病める時も、夫を愛することを誓いますか?」
「はい、誓いますっ!」
「では、指輪の交換を」
着々と、口づけまでのカウントダウンが始まっている。チャンスは絶対に逃せない。
「では、両名に神からの祝福を授けます。祝福を受けるかの資格があるか……そして、未来永劫愛を育めるのか……それを示してください」
進行をしていた神父様の言葉に、エルヴィン様は少しだけビクッとしていたが、そのままミトラ様の方に向いて、両肩を抱いた。
助けに行くなら……このタイミングしかない! 指輪よ、私達の未来へ進むための道となって!!
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