第六十二話 作戦会議
「さて、助けると啖呵を切ったはいいが、まだわからないことが多い。少し状況を整理すんぞ」
さすがは年長者のヴァーレシア先生は落ち着いている。コーヒーを飲みながらタバコに火をつける仕草だけで、大人の余裕を醸し出している。
「さっきの話に出た隣国の王女とやらは知らないが、そいつの父親には何度か会ったことがある。義を重んじる人格者で、とても人質を取って娘を結婚させるような人間とは思えん」
「で、でも……実際に、婚約の話は来ましたよね……?」
「婚約の話は出てるが、人質どうこうってのは、あくまで俺達の憶測でしかねーからな」
そんな王族として立派な人が、卑怯な手を使うなんてことが、本当にあるのだろうか? 考え方が変わったといえばそれまでだけど……あまり納得が出来ない。
……王族……あれ? エルヴィン様もお相手も王族ってことは、警備は厳重だよね? そんな所に、いくら貴族といえど、簡単に入れるわけないよね?
なのに、どうしてルシア様は、二人が仲睦まじくしていたのを知っていたんだろう?
その情報を知れる立場の人って、限られてるよね……。
「……もしかして……ヴァーレシア先生、隣国の偉い人の中に、ラーナーって名前の家がありませんか?」
「ラーナー? そりゃ、あっちで宰相を務めている家だな。昔から魔法の才が飛びぬけている家で、それを買われて長年宰相を務めている家だ。それがどうした?」
宰相ですって!? そうか、それだけ権力がある人が父親なら、ルシア様がエルヴィン様達の事情を知れたのも頷ける。
「その家の人が、生徒としてこの学園に通ってるんです。それで……その人に、エルヴィン様と王女様が、とても親しくしているという話を聞かされたんです」
「そ、そんな話をされたんですか? なにかヒソヒソ話しているのが見えただけだったので……知りませんでした……」
「わざわざそんなことを話すとは、随分とくそったれなご趣味をお持ちのようだな」
「まあ、彼女の婚約者であるゲオルク様とか、ゲオルク様の妹二人も、良い性格してますからね……はは……」
そういえば、どうして今回の一件は、どうしてこんなに噂話がすぐに広まったのだろう?
エルヴィン様が王女様と婚約したのを知ってるのって、流れてきにルシア様だけだよね? 最悪、ゲオルク様達に知らせていた可能性もあるけど……。
そもそも、どうしてこんなに都合よく、ルシア様の耳にエルヴィン様の情報が入ってきたの……?
……ま、まさか……いや、きっとそうだ! この仮説が正しければ、どうして婚約話が急に出てきたのかとか、無理やりな話にしたのかとか、この話がすぐに学園に広まったのかとか……色々と説明が出来る!
「ヴァーレシア先生、ソーニャちゃん。私、とある可能性が思い浮かびました」
「ほう、言ってみろ」
「この前の期末試験の実技試験で、私はとある魔法に苦しめられました。その魔法の正体はわかりませんが……エルヴィン様は、それが幻覚を見せる魔法か、認識を歪める魔法かもしれないって言ってたんです。もし後者が正しいのなら、その魔法で隣国の国王様や王女様の認識を歪めて、婚約を申し込んできたのかもしれません」
私の突拍子もない推理に、二人は目を丸くさせて驚いていた。
「ルシア様は、宰相の娘ですよね? それだけ立場がある人間で、ラーナー家の魔法の才があるのなら、王族の人に魔法をかける機会は十分にあるでしょうし、気づかれないように魔法をかけることも容易いと思うんです」
「で、でも……どうしてそんなことを? バレれば極刑になってもおかしくないですよね……?」
「ルシア様は、ゲオルク様を心から愛しているんだよ。それは、ゲオルク様と同じ屋敷で過ごしていたから、嫌ってほど見せられたんだ。そのゲオルク様は、あの試験以降、評判がガタ落ちしている……その復讐をしてきたのかもしれない!」
いくら好きな人の為とはいえ、大罪人になる可能性がある方法を取るなんてって思う人もいると思うけど……あの人達ならやりかねない。
「早くエルヴィン様を取り戻さないと……でも、いつエルヴィン様を取り戻せばいいんだろう? 普通に助けに行っても、捕まるのがオチだろうし……」
「だろうな。結婚を控えた王族の周りなんて、いつも以上に厳重に決まっている」
魔法でどうにかできれば良いんだけど、生憎私はそんな都合のいい魔法が使えるはずもない。
それに、前に聞いたことがあるんだけど、お城を守るための結界が、お城を囲うように張られているらしく、外部から魔法で攻撃して、その隙に助けるということもできない。
……まあ、そんな暴力的な方法は、なるべくならやりたくないから、ある意味助かってるかもしれない。
「一番ベストなのは、結婚式の当日だ」
「どうしてですか?」
「結婚式の中で、遥か昔に縁を司る神によって生まれた魔法を使い、夫婦の永遠の愛を誓う。それは、いかなるものにも邪魔されてはいけないから、周りの警備がいなくなるんだ」
「そのチャンスを活かすんですね」
そのタイミングなら、警備という条件はクリアできるだろう。あとは、どうやって侵入するかと、助ける方法についてだけど……。
「ど、どうやって結婚式の会場に入るのですか……?」
「俺の古い知り合いに、王族のような権力者のパーティーに呼ばれるくらい、地位のあるやつがいる。きっと今回も、結婚式に呼ばれるだろう。その従者として、お前らが付き添えばいい。そうすりゃ、招待状なんて無くても、堂々と入れる。話は俺から通しておく」
そうしてくれるのは、とてもありがたい。私達だけでは、エルヴィン様に近づくことすら難しいだろうから。
でも、どうしてヴァーレシア先生がここまでしてくれるのだろうか? 初めて会う前に聞いた話だと、こんなに人のために動く人だなんて、思ってもなかったんだけど……。
「あと、俺はこれから、あらゆる魔法の効果を打ち消す魔法の開発をする」
「魔法を打ち消す魔法?」
「連中は認識を歪める魔法を使ってくんだろ? それを使われてお前らの認識を歪められたらどうする?」
そんなことをされれば、エルヴィン様と王女様が結婚するのが当然と思わされて……何も出来ずに終わってしまうだろう。
「それに、これを使って王女と国王を正気に戻せるかもしれない。準備しておくに越したことはないだろう」
「……ヴァーレシア先生、本当にいろいろありがとうございます」
「礼なんか必要ない。お前らにも、当日まで働いてもらうんだからな」
「働く、ですか……? わたし達に、何が出来るのでしょう……?」
「魔法の製作に当たって、大量の魔力が必要だ。だから、アイリーンは例の水晶に魔力を注入して、俺に寄こせ」
「はい!」
それなら私の専売特許だ。魔力の量だけで言えば、誰にも負けない自信があるもの。
「そ、それじゃあ……わたしは、また買い物に……」
「いや、ソーニャには当日にしてもらうことがある。それを遂行するために、本番までやってもらうことがある」
「わかりました。それでアイリーンさんの助けになれるのなら、喜んで!」
――こうして今後の目標が決まった私達は、エルヴィン様の救出作戦を実行するために、それぞれ出来ることを始めた。
待っててくださいね、エルヴィン様。私はきっとあなたを取り戻して、こんどこそこの想いをちゃんと伝えますから!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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