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【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません  作者: ゆうき


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第五十八話 学園祭、開幕

 もう少ししたら、学園祭が始まる――それもあってか、放課後の学園内は、その準備に追われる生徒達が行き交っている。


 セレクディエ学園の学園祭は、多くの団体から融資を受けている影響で、普通の学園の学園祭よりも、遥かに規模が大きくなっていると聞いたことがある。


 これでも一応、私は大切な目的があって編入してきた。でも……学園祭を楽しむことくらいはいいよね? ねっ!?


「アイリーンさん、一緒に学園祭を回りませんか?」


「いいよ~! 全部のお店、制覇しちゃうんだから!」


「そ、そんなに食べられませんよぉ」


「私達の胃袋なら、きっとやり遂げてくれるから!」


「…………」


 少しわざとらしく、いつも言わないようなことを言って明るく振る舞ってみせたけど、エルヴィン様は上の空だった。


 最近の彼は、こんな感じでボーっとしていることが多い。それでも何とかしてこっちを見てもらっても、気まずそうに視線を逸らされる。


 まさか、私……エルヴィン様に嫌われてしまったのだろうか? そんなことをした覚えはないのに……私の被害妄想だろうか?


「エルヴィン様、最近ずっとぼんやりしてますけど……大丈夫ですか?」


「え? あ、ああ……大丈夫だよ」


 これで、一体何度目の問いだろうか。何度聞いても、エルヴィン様の返す言葉は同じだ。

 そして、その言葉が嘘だということも……全て同じだ。


「すまない、少し気分がすぐれないから、先に馬車に行っているよ」


「あ、待って……!」


 私の静止の言葉はエルヴィン様に届くことなく、ただ去っていく背中に虚しく響くだけだった。


 さっきの言葉だって、やっぱり嘘の臭いがした。きっと、エルヴィン様は調子が悪いわけではなく、別の理由で私達の元を離れたんだ。


「エルヴィンさん、本当にどうしたんでしょう……?」


「わからない……ソーニャちゃんも、心当たりが無いんだよね?」


「はい、全く……様子が変わってから、ずっと見ているんですけど、原因もわからずで……」


「私もなんだよ……」


 ソーニャちゃんと同じように、私もエルヴィン様に何があったか確かめるために、様子を伺ったり、それとなく事情を聞いたりしたんだけど……収穫は何も得られずに、今に至っている。


「きっとエルヴィン様のことだから、私達に心配をかけないようにするために、黙っているんだと思う……」


「そんな、水臭いじゃありませんか……! わたし達だって、エルヴィン様の力になりたいのに……!」


「そうだよね。うん……決めた!」


「決めた?」


 私の力強い言葉に、ソーニャちゃんは可愛らしく小首を傾げて見せた。


「私ね、文化祭のキャンプファイヤーの時に、エルヴィン様に告白するつもりだったんだ」


「えぇ!? そ、そうだったんですか!?」


「でもね、エルヴィン様があんな調子だから、別の機会にって思ったんだけど……やっぱり、告白する。私の気持ちを、誠心誠意伝えるよ。そして、何があったのかちゃんと聞いてみる。きっと、私の気持ちをちゃんと伝えれば、エルヴィン様も伝えてくれると思うんだ」


 このタイミングで告白しても、成功しないかもしれない。私の気持ちなんて関係なく、何があったか打ち明けてくれないかもしれない。


 でも、今の私には……これ以外の方法が思いつかなかった。


「わたしも、きっと伝わると思います! お二人が幸せになれるように、陰ながら応援してます!」


「ありがとう、ソーニャちゃん……!」


「ひゃん!? アイリーンさん、急に抱きつかれたら恥ずかしいですよぉ……!」


 全面的に応援してくれたのが嬉しくて、いつもより強めに抱きしめちゃった。


 きっとしっかりと向き合えば、エルヴィン様だって悩みを打ち明けてくれるよね。どんな悩みだって、みんながいればきっと解決できるよ!


「あの、一つ思ったんですけど……告白って、キャンプファイヤーの前でするんですか?」


「そのつもりだけど……」


「キャンプファイヤーって、去年は多くの人で賑わっていました。その中で告白するのは、あまりお勧めできないと思うんです」


 ……い、言われてみれば……大勢の前で告白して、エルヴィン様の事情を聞かなければならないって考えると……かなりハードルが高そうだ。


「ど、どうしよう!? キャンプファイヤーの前で告白しないと、永遠の愛と幸せが手に入らないよ!?」


「それって……生徒の間に広まっている話でしょうか……? 気持ちはよくわかりますけど……大切なお話は、静かなところでした方がいいような……」


「…………」


「あっ、ごめんなさい! わたし……余計なことを……」


「ううん、ソーニャちゃんの言うことはもっともだよ。そんな噂なんか信じなくても、気持ちがあればきっと大丈夫だよね!」


「アイリーンさん……はい、その通りです! あ、そうだ! この前、少しヴァーレシア先生とお話する機会があったんですけど、その時に二人に教えてやれって言われてたことがあるんです!」


 ヴァーレシア先生が? なんだろう、この場で出すってことは、今回の一件に役立ちそうな話なのかな……?



 ****



 ついに向かえた学園祭当日。学園内は多くの出店が並び、多くのお客さんで賑わっている。

 聞いたところによると、なんと国外からわざわざ来ている人もたくさんいるそうだ。さすがは天下のセレクディエ学園だね。


「もぐもぐもぐ……とっれもおいひいれふね……!」


「ソーニャちゃん、随分食べてるけど大丈夫?」


「らいりょーふれふ!」


 両手に持ちきれないほどの料理を持ち、頬をパンパンに膨らませながら幸せそうな笑顔を浮かべるソーニャちゃん。これでは犬族じゃなくてリス族だ。とっても可愛い。


 一方のエルヴィン様は、一応私達に付き添ってくれている感じだけど、その表情は優れない。どこか上の空って感じで、心ここにあらずという表現がしっくりくる。


「エルヴィン様、もう少ししたら演劇部の劇が始まるみたいですよ。行ってみませんか?」


「……ああ、いいよ」


「やった! ソーニャちゃんもいいかな?」


「ひひれふよ~」


 空返事をするエルヴィン様と、さっきよりも頬を膨らませるソーニャちゃんと一緒に、劇やダンスバトルを見に行ったり、お化け屋敷に行ったりと、キャンプファイヤーが始まるまでめいっぱい楽しんだ。


 これだけ遊んだのだから、少しはエルヴィン様の気が晴れればいいんだけど……それは期待できそうもない。やっぱり、根本的な部分をどうにかしないと。


「そろそろキャンプファイヤーの時間ですね……あの、わたしはそろそろお父さんとお母さんが来てくれるので、ここで失礼しますね」


「あれ、ご両親が来るんだ?」


 キャンプファイヤーの前には、理由をつけて解散する算段ではあったけど、まさかご両親が来るのは驚きだ。ゆっくり挨拶したいけど、それでは計画が崩れてしまう。


「なので、続きはお二人で楽しんでください」


「わかったよ。またね、ソーニャちゃん」


「…………」


「エルヴィン様、ソーニャちゃんにお別れの挨拶は?」


「えっ? ああ……またね、ソーニャ」


「はい。また」


 ぺこっと頭を下げたソーニャちゃんは、とてとてと走ってその場を去っていった。


 あとは、そろそろ始まるキャンプファイヤーのところに行って、告白して……事情を説明してもらおう。


「エルヴィン様、もう少ししたらキャンプファイヤーが始まるみたいなので、一緒に見に行きませんか?」


「いいよ」


「ありがとうございます。行きましょう」


 そっけない返事をするエルヴィン様の手を引いて、私は目的地に向かって歩き出す。


 いつもは私がリードされる側だけど、今日だけは私がリードする側だ。そんな私が向かった先は……旧校舎の使われていない空き教室だ


 ここからは、ちょうどキャンプファイヤーが綺麗に見える場所だ。ソーニャちゃん曰く、どうやらヴァーレシア先生が、わざわざ私達のために解錠してくれたそうだ。


「エルヴィン様、ここからキャンプファイヤーがよく見えますよ」


「ああ、そうだね」


 ここなら、誰にも邪魔はされないだろう。ここで、エルヴィン様に告白を……き、緊張しすぎて、口から色々出てきそう……。


「え、エルヴィン様! 今日は伝えたいことがあって、この場に来てもらったんです!」


「…………?」


「すー……はー……」


 深呼吸を何度も繰り返しながら、自分に大丈夫だと言い聞かせた私は、意を決して口を開いた。


「私、エルヴィン様のことが……」


「っ……!? や、やめろ!!」


 好きです。そう伝える前に、今まで聞いたことが無いくらいの怒号で、私の告白は邪魔された――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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