第三十四話 あなたと、君と、ずっと一緒に
「アイリーン」
エルヴィン様は私の肩に手を回すと、そのまま私の肩を抱き寄せてきた。
エルヴィン様の暖かい温もりに加えて、今までの積み重ねによるドキドキで体が熱くなっている私には、それだけで汗がダラダラ垂れて来ていた。
……臭ったりしないだろうか……一応汗とか体臭の対策はしてるから、大丈夫だとは思うけど……。
「大丈夫、僕は君の過去にどんなことがあっても、君を見捨てたりしない。それに、何があっても君を守るから」
「……やっぱり、見えちゃったんですか?」
おかしい、さっき見たか聞いた時は、嘘の臭いは……あ、そうか。聞いたけど答える前に、私が勝手に判断しちゃったから、わからなかったんだね。
「ああ……黙ってた方が良かったかな? もしそうならすまない……」
「全然大丈夫ですよ。エルヴィン様には、いつか話さないといけないと思ってましたから……」
私は決意を固めてから、エルヴィン様に話し始める。
今までゲオルク様の所にいた話をした時は、抽象的だったというか……酷いことをされてきたとか、暴力を振られたとか、フワッとしたことしか話していない。
でも、真実は違う。孤族の血があることで、人間よりも多少は頑丈なのを良いことに、私は散々酷いことをされてきた。
ストレス発散と称して、シンシア様に魔法の実験台にされた。
ゲオルク様にはムチで叩かれたこともある。
ミア様には、ボロボロになった私を蔑むように、あらゆる言葉で私の尊厳を踏みにじり、精神的苦痛を与えてきた。
そんな生活をして出来た傷跡が、エルヴィン様が見てしまったものだと話すと、エルヴィン様は黙って立ち上がり、うろの中から出ていった。
「エルヴィン様? どこに行くんですか?」
私が引き止める声なんて一切耳に入っていないようで、そのまま進んで行き……それなりの大きさの木の前に立った。
「ふざけるな……ふざけるな!!」
「っ……!?」
「民を何だと思っている!? 権力者は、多くの民の上に立ち、民を助け、導くのが役目だと言うのに、よってたかって一人の少女を虐げて……何が貴族だ!? そんなの、ただの犯罪者じゃないか!!」
今までに見たことがないくらい、荒れに荒れるエルヴィン様は、この森全体に聞こえるくらい、大きな叫び声を上げながら、目の前の木を叩く。
すると、木はミシミシと音を立てて……その場で横たわってしまった。
「エルヴィン、さま……」
「はあ……はあ……すまない、アイリーン……自分を抑えきれなかった……」
「いえ……お気になさらず。さあ、まだ降ってますから、中に戻りましょう」
いつもは私が引っ張られる側なのに、今日は私がエルヴィン様の手を引っ張って、うろの中に戻った。
「エルヴィン様、手をケガしてますよ!?」
「本当だね。あれだけ木を殴れば、こうなるのも無理はないよ」
「私、手当てをする道具を持って来てるので、すぐに手当てをします!」
私は、持ってきていた荷物から包帯や薬を取り出すと、慣れた手つきでエルヴィン様の手の治療を進めていく。
「アイリーン、凄く上手だね」
「森に出ると、ケガをすることが結構多いので、慣れちゃいました」
話しながらでも手は止めず、五分もしないうちに手当ては無事に完了した。見た目よりも酷いケガじゃなかったのは、不幸中の幸いだった。
「エルヴィン様も、あんなに怒ることがあるんですね」
「そりゃあ人間だからね。特にアイリーンが絡むと、今みたいに爆発することもある」
私のためなんかに……って一瞬思ったけど、もし逆の立場で……エルヴィン様が誰かにいじめられてる、それも体に消えない傷跡が残ってるって知ったら、今のように怒ると思う。
「待遇は良く無いと聞いていたけど、まさかそこまでとはね……本当につらかったね、アイリーン。一緒にずっといてあげられなくて、本当にごめん……ごめんよ……」
「どうしてエルヴィン様が泣いてるんですか? 私は平気ですから」
「平気なものか! それだけの傷をつけるまで、どれだけ酷い目に合ったかと思ったら、あまりにもいたたまれなくて……」
「平気ですよ。だって――あなたに会えたから」
確かに当時はつらかった。パパとママのために必死に耐えてたけど、それでつらくなかったって言ったら、嘘になる。
でもね、そこで頑張ったご褒美として、神様はエルヴィン様に会わせてくれた。両親の元にも帰ってこられた。セレクディエ学園に入学できた。新しい友達も出来た。
私は……過去の悲しみなんて帳消しになるくらい、幸せになれたんだ。
――そのことをエルヴィン様に伝えると、エルヴィン様は私のことを強く抱きしめてきた。
「え、エルヴィン様!?」
「アイリーン」
「……はい」
「もっともっと一緒に幸せになろう。あいつらが泣いて悔しがるくらい、もっと、もっと」
「エルヴィン様……!」
どんな時でも私の幸せを願い。一緒にいようとしてくれるエルヴィン様の気持ちが嬉しくて、私は触れるとドキドキすることなんて忘れて、エルヴィン様の胸に顔を思い切りうずめた。
「これからも、一緒にいてください。ずっと、ずっと……私、あなたから離れたくありません」
「ああ。僕も離れるつもりは無い。これからもずっと一緒さ」
――結局その後、雨が止むまで二人で寄り添い合いながら雨宿りをし、雨が止んだ頃に家に戻っていった。
その手は、いつもリードする時の握り方とは違い、互いの両指を絡めた、いわゆる恋人繋ぎというものだった。
……このあと、恋人繋ぎをしてしまったことで、翌朝まで悶えて眠れなくなったのは、また別のお話。
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