第二十二話 隠された才能
■エルヴィン視点■
一旦アイリーンと別れた僕は、学園の中にあるとある部屋へとやってきた。
「失礼します、エルヴィンです」
「どうぞ」
部屋の中に入ると、とてもご年配の男性が僕を出迎えてくれた。腰が曲がってはいるが、優しい笑みを浮かべる彼からは、独特な凄みのようなものを感じる。
「学園長、お忙しいところに突然の来訪をしてしまい、申し訳ございません」
「いえいえ。どうぞおかけください」
学園長に促されて長椅子に座ると、彼もその対面にゆっくりと腰を下ろした。
「エルヴィン様、当然お越しになられて、どうされたのですか?」
「少々おいたをする生徒がいるようでしてね。セレクディエ学園の名誉に傷をつけようとしております。まあ、彼らの目的は別にあって、それに巻き込まれる形ですが」
「なんと、それは穏やかではありませんな」
ずっと笑顔だった学園長の表情が、険しいものへと変わる。すると、さっきまで感じていた凄みが、より一層強くなって僕に襲い掛かってきた。
「それで、その者達はなにを?」
「今年の特待生で編入した生徒について、彼女が編入できたのは、何か不正をしたのではないかと言いふらすつもりです」
「なるほど、そういうことですか。確かに彼女の知識は素晴らしく、この学園の歴代の生徒の試験の中で、トップクラスの成績でした」
「それは、今の生徒会長よりも上ですか?」
僕の質問に、学園長は小さく頷いて見せた。
生徒会長……ゲオルクは、社交界でも有名な頭脳と魔法の才の持ち主で、十年に一人の逸材と言われるほどだ。
社交界でも人当たりがよく、誰からも愛されるような人間だったのだが……アイリーンが関わると、随分と性格が変わるようだ。
実際に、先程も人前なのに、随分と恥ずかしいことを惜しげもなく言っていたくらいだ。
……そのような発言が、築き上げてきた信頼を崩すのが、どうしてわからないのだろうか。わからないほど、アイリーンのことをバカにしたいとか?
「生徒会長? ああ……なるほど、そういうことですか。ええ、彼もとても優秀な成績を収めましたが、彼よりも彼女の方が上でした」
「やはりか……」
「ただ、彼女の魔法に関しては……はっきり申し上げると、その辺りにいる人間の方が優れているでしょうね」
実技試験はダメだったと落ち込んでいたから、そうだとは思っていたが、やはり学園長もそのような判断を下さるを得なかったか……。
「甚だ遺憾ですが、それに関しては僕も同意見です。なので、受かったことが嬉しく思う反面、どうして受かれたのか、少々疑問だったのです」
「あなた様もご存じでしょうが、実技試験の際に、魔法の腕と共に、受験者に秘められた魔法の才能も見ています」
確か、生まれ持った才能があるのに、適切な環境にいなくて眠っている才能を見逃さないために、初代の学園長が考案した魔法……だったかな。
「そのデータがこれでして」
よっこらせっと立ち上がった学園長は、棚にしまってあったファイルから数枚の紙を取り出し、僕に手渡してくれた。
その資料には、今年の受験者の結果の一覧と、歴代の上位の成績の一覧が記載されていた。
「この資料は……学園長、何かの冗談というわけではありませんよね?」
「そう思うのも無理はないでしょうね。ですが、これは紛れもない事実なのです」
その資料に書かれた今年の受験者のトップの、魔法の才能を示す数値は、測定不能と書いてあった。
「我々の魔法で測定ができない数値……これは異常といってもいいくらいです」
「これは、なんというか……強烈なインパクトがありますね」
「ええ。幼い頃のあなたの魔力や才能も驚きでしたが、彼女はいとも容易く凌駕してきました。なので、本来なら魔法の実力が基準に満たしていなくて不合格となるのですが、慎重に協議した結果、合格という形になった次第です」
そういう事情があったのか。確かにこんな結果を見たら、手放すのは惜しいだろう。
アイリーンの力を目覚めさせて最高の育成が出来れば、セレクディエ学園がとんでもない生徒を輩出したとして、さらに名声が広まるだろうからね。
「おかげで、疑問が晴れてスッキリしました」
「では、その見返りというのも恐縮ではございますが……一つお教え願いたい」
「はい?」
「どうして、彼女にそこまで肩入れをするのですか? あなたも、例の彼も」
「ああ、それは――」
僕が知っている、アイリーンとゲオルク達との因縁を、学園長に全て打ち明けた。
こんなことをペラペラと話してもいいのかと思う人もいるだろうけど、彼は信頼できる人物だから問題ない。
「なるほど、彼女にそんな過去が……あの三つ子には、不思議なカリスマ性があって、生徒達から支持されていますが……裏ではそんな外道なことをしていたとは、思ってもみませんでした」
「外道……まさにその通りです。あんな素敵な女性を良いように騙していただなんて、腸が煮えくり返る思いです」
自分の身に起こったことではないのに、自分のことのように腹が立って仕方がない。いや、自分のこと以上に腹立たしい。
「……まだあなたのことをお聞きしておりませんが……エルヴィン様、もしかして彼女のことを?」
「ええ。まだ父が僕に与えてくれた期限は来ていないので、もう少しだけ彼女とは今の生活を満喫して……いずれは伝えるつもりです」
いつからか僕の中に居座り、片時も離れることが出来ないこの想いを、今すぐにでも伝えられるなら伝えたいが、それは今じゃない。
僕と同じ気持ちならいいが、実際はそんなことはなくて、アイリーンが僕を見る目が変わり、距離を置いてしまうかもしれない。それだけは、絶対に嫌だ。
「……老人の戯言だと思ってくださると幸いなのですが……伝えられるものは、できる時に伝えた方がよろしいかと。無くしてしまってから後悔しては、遅いのです」
「ありがたいお言葉、大変痛み入ります」
「とにかく、彼らの行動については、学園側でも注意しておきます。もしあらぬ噂が流れた際には、即座に対応させていただきます」
学園長がそう言ってくれると、とても心強い。これでアイリーンの平穏な学園生活を、少しでも守れただろうか。
「ありがとうございます。では、僕はそろそろお暇させていただきます」
僕はそう言うと、スッと立ち上がって部屋を後にしようとする。
話は終わったし、多忙な学園長の時間をこれ以上奪うのは、忍びないからね。
「エルヴィン様、最後に一つだけ」
「なんでしょう?」
「ぜひ彼女と、忘れられない楽しい日々を送ってくだされ」
「……はい、ありがとうございます、学園長……いえ、先生」
深々と頭を下げると、今度こそ僕は部屋を後にした。
忘れられない、楽しい日々……か。大丈夫ですよ、先生。僕は既に、アイリーンと一生忘れることのできない日々を送っていますから。
――今までも、もちろんこれからも。
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