第二十話 気弱な犬族の少女
教室を後にした私は、昇降口で一人でボーっと立って、エルヴィン様が来るのを待っていた。
あの人なら、きっと私の後を追ってきてくれるだろうから、ここで待っていればきっと合流できると思ったんだけど……あっ、来た!
「アイリーン! よかった、まだ残っていたんだね」
「ここにいれば、きっと合流できると思ってまして。ズバリ的中ですね。ふふんっ」
さっきのことで変に心配をかけないように、胸を張ってみせる。
こんなこと、普段は全くしたことがないけど、こんな感じで合っているのだろうか?
「すまなかった。君に友達が出来るかもしれないと思って、見守るだけにしていたんだが……まさかあんなことになるとは、想定していなかった」
「そんな、謝らないでください。私のことを考えての行動だって、わかってましたから。それに、パパのことをバカにされた時に、いの一番に助けようとしてくれたのも、わかってますから」
「それこそ当然だろう。君のお父上は、慈愛と威厳に溢れた素晴らしい人じゃないか」
「そうなんですよ! パパは凄く優しくて私を愛してくれて、決める時はビシッと決めてくれる、強くてカッコいいパパなんです!」
力説していながら、パパのことを知りもしないでバカにしてきたクラスメイト達に対して、再び沸々と怒りが湧いてきた。
「実は、悪口を言っていたクラスメイトは、朝に陰口を言っていた連中や、僕のファンを自称する連中もいてね。大方、気に入らない君に嫌がらせをしつつ、評判を落としたかったんだろうね」
「そうだったんですか? 全然気づきませんでした……なら、全員があんな人じゃないってことですね」
「そうだね。そうそう、一人の女子生徒が止めようとしてたけど、なんだかオドオドしてて、結局止める前に事態が収束していたよ」
酷い人達ばかりだと思っていたけど、良い人もちゃんといて安心した。機会があったら、お礼を言いたいな。
「それにしても、その人達って暇なんですね。他にやることは無いのでしょうか?」
「権力や財を持っている人間なんて、そんな人間ばかりだよ。社交界じゃ、あんなのは日常茶飯事さ」
私は貴族じゃないから、社交界って出たことがないのだけど……そんな陰湿な場なのか。
ゲオルク様と順調に結婚していたら、私もその場に関わっていたと思うと、背筋がゾッとする。
……あ、でも……エルヴィン様と一緒にいたら、いつかは結局社交界に行くことに……って、私ったら何を考えているの!?
「顔が赤いけど、どうかしたのかい? もしかして、初めての学園生活で疲れて、体調が悪くなったとか!?」
「な、なんでもないです! とっても元気ですから!」
「それならいいんだけど……つらかったら、無理せずに言うんだよ」
「はい。ありがとうございます」
あんなクラスメイトを見た後だと、エルヴィン様の優しさがいつも以上に染みわたる。
クラスメイト達も、ここまでとは言わないから、少しはエルヴィン様を見習っても、罰は当たらないんじゃないかな。
「それじゃあ、一緒に帰ろうか。家まで送っていくよ」
「あの、よければなんですけど……帰る前に、学園の中を案内してくれませんか? 事前に学園から送ってもらった資料で、一応把握はしているのですけど、この目で見て回りたくて」
「案内? ああ、僕でよければ喜んで! ふふっ、初日からアイリーンと校内デートが出来るだなんて、思ってもなかったよ」
「で、デートじゃなくて案内ですからね!」
……や、やっぱり見習わなくていいかも……こんなドキドキさせてくる人が増えたら、多分耐えきれなくて、いつか倒れるような気がしてならない。
「君がそう言うなら、今日はそういうことにしておこうか。さて、どこから行こうか……ちょうど近くだし、中庭から行こうか」
「わかりま――」
「あ、あのぉ……」
出発しようとしていると、一人の女子生徒が声をかけてきた。
ピンク色の髪をおさげにしている、犬の獣人の女の子だ。垂れ気味な犬耳と目が特徴的だ。怯えているのか、視線は泳いでいるし、尻尾も垂れ下がっている。
「あれ、あなたは確か……えーっと……そう、ソーニャ様!」
「さっき話したのが、彼女だよ」
「あ、そうなんですね!」
最初のホームルームでみんなが簡単な自己紹介をした時に聞いた名前を言うと、彼女はあたふたとし始めた。
「様っ!? 呼び捨てで大丈夫です! あの、みんなで人の親御さんを馬鹿にするなんて、良くないので……止めようとしたのですけど、わたし臆病で……中々声が出なくて……ごめんなさい、すぐに助けられなくて」
「そんな、気にしないでください、ソーニャ様……じゃなくて、ソーニャちゃん! むしろ、ありがとうございます! 助けに来ようとしてくれただけで、凄く嬉しいです!」
「は、はわわ……その、わたし……ごめんなさいっ!!」
ソーニャちゃんは獣人らしい素早さを駆使して、止める間もなく去ってしまった。
とても良い子そうな感じだったし、お友達になりたかったんだけどなぁ……。
「クラスメイトなんだから、すぐに話す機会はあるよ」
「そうですね。では改めて行きましょう」
てっきりいつものように、私の手を取ってリードしてくれるのかと思ったら、何もしないで中庭に向けて歩きだした。
さすがにさっきあんなことがあった後だから、自重してくれたのかもしれないけど……なぜか寂しくて残念と思っている自分がいる。
「中庭は生徒たちの憩いの場で、美しい自然と大きな噴水がシンボルなんだよ」
「本当に綺麗ですよね。今朝登校した時にも見ましたけど、思わず見惚れそうになりましたよ」
一言に噴水と言っても、町中にある普通の噴水とは全然違う。
大きさはもちろんだけど、作りがとても細かくて綺麗だし、水の出方が時間の経過で変わるから、見ているだけでも飽きない作りになっている。
そんな噴水の近くのベンチで、三人の男女が楽しそうに談笑しているのが目に入った。
ただ談笑しているだけなのに、さっきのエルヴィン様みたいに、近くの女子生徒達がキャーキャー言ったり、男子生徒が見惚れるような視線を送っているのが、少し気になって視線を向けたが、すぐに三人に視線を送ったことを後悔することになる。
なぜなら、その三人とは……私をずっと騙し、いじめていたあの三つ子だったからだ。
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