第十九話 バカにされる筋合いなんて……!
覚悟を決めて教室に入ると、今日から一緒に勉強をするクラスメイト達の視線が、一斉に私に向けられる。
私が生きてきた中で、こんなに注目されることは無かったから、これだけでも胸がキュッとしてしまったけど、その緊張は一瞬で消えた。
「あっ……」
向けられる視線の中に、私がクラスメイト達の中で、唯一見慣れた顔があった。
よかった、エルヴィン様も一緒にクラスだったんだ! Bクラスに所属になってたらどうしようって思ってたけど、本当にホッとした!
「アイリーンさん、自己紹介をお願いね」
「はいっ。はじめまして、アイリーンと申します。今年から特待生として、セレクディエ学園の一員になりました。セレクディエ学園に通うことは、私の長年の夢だったので、こうしてここに立ててるのが、本当に嬉しいです。一年間、よろしくお願いしますっ!」
深々とお辞儀をして挨拶を終えると、エルヴィン様が我先に私を歓迎する拍手を送ってくれた。
それに続くように、一人、また一人を拍手をしてくれて……すぐに教室は拍手に包まれた。
「みんな、仲良くしてあげてね。アイリーンさんの席は、廊下側の一番前ね」
「わかりました」
唯一空いていた席に腰を降ろし、ふう……と小さく息を漏らす。
とりあえず、無難な挨拶が出来たんじゃないかって思う。教室に入った時には一気に緊張したけど、エルヴィン様がいるのを見ただけで、一気に気持ちが楽になった。
信頼している人がいると、こんなに気持ちが楽になるんだって、改めて知ったよ。
****
始業式が終わり、その後のホームルームも終わった後、私はエルヴィン様と下校――なんてことは出来ず、十名近いクラスメイト達に囲まれていた。
「アイリーンちゃん、特待生なんだって!? 話聞いた時、オレビックリしちゃったぜ!」
「アイリーンさんって狐の獣人なんだよね。そのフワフワな尻尾、ちょっと触ってみてもいい?」
「ここに来る前って、何をなされていたのですか?」
「あ、あわわ……し、質問は順番にお願いします! あと、尻尾は遠慮してもらえると嬉しいです……!」
いくつもの質問攻めや尻尾に対するお願いに、混乱しながらも何とか対応する。
編入してきたら、こんなに質問攻めに合うだなんて、思ってもなかった。尻尾に関しては、獣人が珍しいから予想はしてたけど……さすがに親しい人以外には触られたくない。
「ふふっ」
エルヴィン様に助けを求めて視線を向けると、まるで子供を眺める親のような頬笑みを浮かべるだけだった。
この感じだと、私一人で何とかしないとダメそうだ。これも学園生活を円滑に過ごせるようにするためと思って、頑張って乗り越えないと。
「えっと、ここに来る前は仕事をしていました。少しでも家計のためになればと思って」
あえてゲオルク様と出会う前のことを話す。変に深掘りされたら、色々と面倒なことになりそうだからね。
「えっ? その歳で仕事してたとか凄いじゃん! オレ尊敬しちゃうな~」
「しかし、普通家計のために子供の時から働くものですの?」
「普通はしないと思うけど……ちなみに、アイリーンさんのお父さんって何をしている人なの?」
「土木関係の仕事をしていますよ」
「土木? あ、そうなんだ……ふ~ん。素敵なお父さんだね」
私がパパの仕事を話した途端、クラスメイトの一部から、クスクスと笑ったり、バカにするようなヒソヒソ声が聞こえてくる。
……なに、この人達。パパの仕事がそんなにおかしいの? 私を拾ってここまで育ててくれた人を、よく知りもしないでバカにするだなんて……!
「っ……!」
さっきとは打って変わり、エルヴィン様が私を助けに行こうと動き出したけど、小さく首を横に振って、必要ないと牽制をした。
ここでエルヴィン様を頼るのは簡単だ。でも、頼ってばかりでは成長できないし……なにより、大好きなパパをバカにされて黙ってるなんて出来ない。出来るはずが無い。
「みなさんの家族が、どんな仕事をしているかは知りませんけど、私は父のことを尊敬してますし、世界一の父だと思っています。だから、笑ったりバカにするようなことは言わないでください」
「あ、ごめんね。そんなつもりはなかったの。ただ、この由緒ある学園に通う生徒の家族が、泥に塗れて、汗水流して働くのって、似合わないって思っただけなの」
なるほど、こんな人達がいれば、ペティ先生が内心では仲良く出来ないって思うのも仕方がない気がする。
「父のお仕事の、何がそんなに悪いのですか? 面白いのですか? 貴族やお金持ちがそんなに偉いのですか?」
「そんなの当たり前ですわ。貴族は国に認められた、地位のあるべき人間達が務めるものですもの。そんな人間が肉体労働なんて、ありえませんわ」
「労働に一体どんな差があるのでしょうか? 私にはさっぱり理解できませんから、ぜひみなさんにご教授いただけますか? さぞかし素晴らしい言葉を聞けるんですよね? 早く、納得できる説明をしてください」
怒りは胸の内に抑え込み、あくまで笑顔で言いたいことをはっきりと言うと、揃って口を紡いでしまった。
こんな生意気なことを言ってしまったら、順風満帆な学園生活を送れなくなるかもしれないけど……パパの悪口を言われて、黙ってるわけにはいかないもの。
「あ……あらまあ、特待生に選ばれて随分と調子に乗っていられるようですわね。それくらい、自分で考えるべきではありませんこと?」
「自分の家族のことですし、それが一番ですね。では、自分で考えて答えをだしますので、もう二度と部外者のあなた達が、私の家族に口出しをしないでくださいね。まだ出会ってから一日も経っていない人に、バカにされる筋合いはありませんから」
「っ……!」
私に絡んできた、いかにもお嬢様なって感じのクラスメイトは、青筋を立てて頬を強張らせていた。
これ以上ここで話をしていても、時間の無駄みたいだ。さっさとこんなところは後にして、セレクディエ学園の中を見て回ろう。
「それじゃあ、私はそろそろ。さようなら」
私はカバンを手に持ち、そそくさと教室を後にした。
これでは、クラスメイトの私に対する第一印象は最悪だろう。きっと誰も私に近づかないし、いじめられるかもしれない。
でも、こうなってしまった以上は仕方がないし、彼らに色々教わるわけではない。面倒を見てもらうわけでもないのだから、あまりに気にしないでおこう。
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