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第十八話 憧れの学園生活

「着いたようだ。足元に気を付けて降りるんだ」


 以前来た時と同じ道のはずなのに、緊張とワクワクで凄く時間がかかったような気分になりながら、エルヴィン様と一緒に馬車を降りた。


 この前来た時は、学園自体はお休みの日だったから、あまり人がいなかったのだけど、今日は登校する多くの生徒が、校舎に向かって歩いている。


 私も、この生徒達の一員なんだ……何度考えても、何度も嬉しくなってしまう。


「みてみて、エルヴィン様よ!」


「春休みの間お会いできなくて寂しかった~! やっぱりカッコいい~!」


 校舎に向かう生徒の中に、きゃっきゃと騒ぎながらこちらを見つめる女子生徒の姿があった。

 それも、一人や二人ではなく、十人くらいがエルヴィン様を見て、何かしらの反応をしていた。


「あはは……」


『きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 エルヴィン様が軽く手を振ると、今日一番の叫び声が、学園中に広がる。


 あの人達、エルヴィン様のファンなのかな……まあ気持ちはよくわかるよ。エルヴィン様はカッコいいし、気配りできるし、優しいし。

 魔法の教え方がへたっぴというのも、ギャップがあっていいよね。


「あの人達、随分と熱心なファンみたいですね?」


「そうなんだよね。せっかく僕のことを良く思っているのに、やめろなんて言えなくてさ……」


 なるほど、エルヴィン様の性格では、そんなことを言うのはちょっと無理がありそうだ。


「おはよう、みんな。今日から新学期、頑張ろう」


『きゃああぁぁぁぁぁ!!』


 再び喜びに満ちた絶叫が、学園に響く。

 こんな状況でも、普通に登校している生徒達は、何か特別な訓練か魔法でもかけられているのだろうか? このスルーっぷりは、目を見張るものがある。


 ……それにしても、なんだろうこの気持ち。胸の辺りがモヤモヤするっていうか……良い気持ちじゃない。


 その気持ちがさせたことなのか――私は、エルヴィン様の裾をつまみ、控えめに引っ張った。


「アイリーン?」


「…………」


「なるほど、そういうことか。ごめんよアイリーン。全て僕の責任だ」


「えっ?」


「とりあえず、今日は一緒に職員室に行こうか。そこで、担当教員と合流しよう」


「あ、ちょっ……!」


 有無も言わさせてもらえないまま、私はエルヴィン様に手を引っ張られて、校舎の中に向かって歩き出す。


 ……背中から、とてつもない殺気が私に飛んできている気がするのは、きっと気のせい……じゃないよね……。


 そりゃあ、いきなり出てきた見知らぬ狐族が、あこがれのエルヴィン様に手を引かれてどこかに行く光景を見せられたら、良い気持ちなんてするはずがない。


 彼女達には、悪いことをしちゃったなぁ……とはいっても、じゃあエルヴィン様を彼女達に渡していいのかってなると、答えは断然ノーだ。


「あれ、エルヴィン様が誰かと一緒にいるなんて珍しいな……」


「一緒にいる女子って、確か二年に編入してきた特待生じゃね? たしか、狐の尻尾が特徴って聞いたぞ」


「それは俺も聞いたな。噂だと、平凡以下なのに特待生になれたのは、コネがあるとか学園長に色目を使ったとか」


「う、羨ましい……エルヴィン様と手を繋いで……一緒にいるなんて……ゆ、許せない……絶対に汚いことをしたに違いない……き、きっとエルヴィン様は弱みを握られてしまったんだな……」


 目的地に向かう途中、明らかに根拠のない噂話に興じる男子生徒や、自分のハンカチを噛みながら、私に呪詛をまき散らす女子生徒の恨み節が聞こえてきた。


 私としては、長年ゲオルク様達にいじめられてきたから、あの程度の悪口なんて全く気にならない。


「ふむ、彼らは随分と面白いことを言うね。アイリーン、少し待っててくれ。彼らと少々話をしてくる」


「話をしてくるって雰囲気じゃないですよね!?」


 私の嘘を見抜く鼻が無くても、確実にそんな穏便に済ませるつもりがないエルヴィン様の方が問題だった。


 怒ってくれる気持ちは嬉しいし、逆の立場だったら私も文句を言いに行ってるだろうけど……さすがに初日から問題は避けたい。

 そう思い、私はエルヴィン様をなだめてから、改めて職員室に向かっていく。


「まったく、あんなくだらない噂、どこから流れたのやら……」


「あの、エルヴィン様……そろそろ手を離してくれると助かるんですが……周りの目もあるので」


「まあいいじゃないか。ほら、あそこが職員室だよ」


 校舎の二階にあった部屋の入口には、職員室と書かれた小さな表記がある。中に入ると、多くの教員が自分の席に座り、何か作業を行っていた。


「失礼します。本日から編入するアイリーンさんを連れてきました」


「あら、エルヴィン君。わざわざありがとう。あとは私が引き継ぐから、新しいクラスに行きなさい」


「わかりました。アイリーン、また後でね」


 エルヴィン様と離ればなれになるのは心細いけど、先生の言うことには逆らえないものね。もう子供じゃないんだから、我慢しなきゃ。


「はじめまして、アイリーンさん。私はペティ。あなたのクラスの担任よ。よろしくね」


「はい、よろしくお願いします、ベティ先生」


 差し出された手をそっと握りながら、簡単な挨拶をする。


 すらっとした美人の先生だなぁ……顔も綺麗なら、指も細くて綺麗だ。ちょっと触っただけで壊れちゃいそう。


「もう少ししたら始業式なんだけど、その前に新しいクラスでホームルームをするの。そこであなたのことをみんなに紹介するつもりだから、そのつもりでね」


「わ、わかりました」


 初めての学園で、はじめましての人達に挨拶をするなんて、上手く出来るか心配だ。


 でも、ここで失敗したら、変な印象を植え付けてしまい、この先の学園生活が上手くいかなくなる可能性がある。気を抜かないようにしなきゃ。


「それじゃ、さっそく行きましょっか」


 私はベティ先生に連れられて、これから一年過ごす教室へと向かい始めた。


「ここの生徒は、みんな良い子ばかりでね。きっとアイリーンさんもすぐに仲良くなれると思うわ」


「そうだといいですね」


 ペティ先生の言っていることは、全て嘘の臭いがする。


 そもそも、職員室に来る間に多くの生徒が私に対して変な噂話をしていたし、醜い妬みもぶつけてきた。


 これはあくまで私の想像だけど、ここの生徒は貴族やお金持ちの子供が多いから、変な噂話が好きだったり、自分の思い通りにならないとイライラする、ワガママな子が多いんだと思う。


 そんな生徒達が良い子とは思えないし、仲良く出来るはずが無い。それはペティ先生もわかっているんだ。でも、それを正直に言うなんて出来るはずがないから、今みたいな言葉が出たのだろう。


 まあ……この学園の生徒全員が、酷い人ってことは無いと思う。少なくとも、エルヴィン様は素敵な人だしね。


「着いたわ。ここがあなたの所属するA組よ」


 二年生の教室がズラッと並ぶ中で、2-Aと書かれた教室の前に連れて来られた。


 セレクディエ学園では、学部が三つに分かれていて、その学部ごとにクラス分けがされる。


 基本的な座学や魔法を学ぶのはどこも同じだけど、学部によってそれに追加して専門的な授業がある。


 AとBは魔術師を目指す学部。学ぶ魔法の範囲を更に広げて様々な魔法を学ぶことで、魔法に関係する多くのことを学ぶことが出来る。私やエルヴィン様、ゲオルク様、ルシア様がここに所属している。


 CとDは騎士を目指す学部。主に剣術と魔法を組み合わせた、魔法剣術という特殊な技を学ぶことが出来る。セシリア様がここに所属している。


 EとFは魔法医学を学ぶ学部。薬の開発に魔法を使う魔法薬学という知識を学ぶことが出来る。ミア様がここに所属している。


「私が先に入ってあなたのことを話してから呼ぶから、そうしたら入ってきてね」


「わかりました」


 緊張しながら教室のドアの前で待っていると、中からベティ先生が私を呼ぶ声が聞こえてきた。


 緊張するけど、ここまで来たのだから、怖気づいてる暇はない。しっかり挨拶をして、憧れの学園生活の第一歩を成功させよう!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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