第十五話 デートじゃありませんっ!
「ふふっ、君のご両親は、とても優しくて面白い人なんだね」
「昔からあんな感じではあるんですけど……エルヴィン様のことになると、いつも以上に凄い気がします……」
私が家を飛び出してから間もなく、私の後を追いかけてきたエルヴィン様と一緒に、シャルム家の馬車に揺られていた。
どうして馬車に乗っているのかというと、今までずっと頑張ってきたのだから、お疲れ様会をしようと誘われたからだ。
それを了承した私は、一度帰って身支度をしてから、馬車に乗り込んだ。
ベッドに籠っていた時の私だったら、落ち込み過ぎて動く気になれなかったけど、さっきの一件があったおかげか、少しだけ元気が戻ってきている。
あ、もしかして……私の元気を出すために、三人が口裏を合わせてあんなことを言ったのかも? でも、誰もその場に合わせて嘘をついてはいなかった。
……それに、あれが嘘だったら、それはそれでなんだか寂しいというか……考えるだけで、勝手にしっぽが下がってきちゃう。
「仲がよくていいじゃないか。僕はとても好きだよ」
「私も、パパのこともママのことも、大好きです」
「知ってるよ。君がご両親と話している時、仲の良さがよく伝わってくるからね。君が頑張って恩返しをしたくなる気持ちが、改めてわかったよ」
えへへ、エルヴィン様に両親のことを褒められると、まるで自分が褒められてるように嬉しい。
これからも、三人が仲良くしてくれると、もっと嬉しいんだけどなぁ。だからって、さっきみたいなことを言われたら、また恥ずかしくて逃げちゃいそうだけどね。
「さて、それじゃあどこに行こうか。今日はアイリーンが行きたいところに行こう」
「行きたいところですか……そうですね……あっ」
当然言われても、急には出てこない――そう思った私を救うためか、はたまた辱めたかっただけなのか。突然私のお腹の虫が、盛大に鳴きだした。
そういえば、昨日家に帰ってきてから、何も食べていないんだった……は、恥ずかしすぎて死んじゃいそう……。
「お腹がすくということは、元気な証拠さ。恥ずかしがることはない。何か食べたいものはあるかい?」
「食べたいもの……おあげ!」
「おあげ……おあげ……? どういう食べ物か知ってはいるが、食べたことがないな……僕の知っている店で、おあげを扱っている店があったかな……?」
咄嗟に大好物のものを言ってしまったが、よく考えればエルヴィン様が私を連れて行ってくれるお店は、貴族が好んで利用しているような高級なレストランや、おしゃれなカフェが大半を占めている。
そんなお店で、安くておいしい庶民の味方のおあげを扱っているお店なんて、あるはずがない。どうしよう……あ、そうだ!
「その、今日までたくさんお世話になったお返しに、私が好きなお店にご招待しますよ! いつも連れて行ってくれるような、高級なお店ではないんですけど……」
「いいのかい? それはとても楽しみだよ!」
「よかった! ここからさほど遠くないので、すぐに着くと思います!」
「それじゃあ、御者に場所を伝えてもらえるかな?」
「はいっ!」
いつも馬車を安全に動かしてくれている御者に場所を教えると、十分もしないうちに目的のお店に到着した。
ここは簡単に言ってしまうと、庶民の人達に愛されているうどん屋さんだ。安くておいしいって評判で、なかでもきつねうどんが絶品だから、お金に余裕がある時に利用しているんだ。
「うわぁ!? な、なんでこんなところに貴族の馬車が!?」
「あまりにも場違いすぎるわ……」
「……? アイリーン、どうして彼らはあんなに驚いているのだろう?」
「この辺りのお店に、貴族の人が来るのは見たことがないですからね……驚くのも無理はないです」
「そうなのか。それは申し訳ないことをしてしまったね。次に来る時は、歩いてくるとしよう」
謝罪の陰に隠れて、次もまた来る事を匂わせるエルヴィン様と共に、店の中に入ると、威勢の良い男性の声に出迎えられた。
「らっしゃい! お、アイリーンちゃんが男連れとは驚きだ! ひょっとして……彼氏か!? デートか!?」
「かれっ!? その……ち、違いますよ! それに、デートじゃありませんから!」
このお店の大将は、私と同じ狐の獣人で、遠い東の国からやってきた料理人だ。
とはいっても、私は狐の尻尾がある以外、普通の人間と同じなんだけど、大将は先祖返りという稀な体質で、見た目は完全に服を着た、二足歩行の狐だ。
「そうか、デートじゃないのか……それはとても残念だ」
「えっ!? そ、その……デートって思われることが嫌ってわけじゃ……」
「なんでい、てっきり食べに来るといつも話している、例のかっこいい彼氏がそいつだろ? 尻尾は正直なんだから、素直に言っちまいやがれってんだ!」
「ほ、ほらエルヴィン様! 窓際の席が空いてますよ! 大将、あそこ座りますから!!」
思い切り視線を泳がしながら、エルヴィン様と一緒に窓際の席に座る。
まさか、こんな形でエルヴィン様のことを話していたことがバレるだなんて……今日はとことん恥ずかしい思いをする日なのかもしれない。
とにかく、今はこれ以上エルヴィン様に言及されないように、なんとかして注意を逸らさないと。
そうじゃないと、私が恥ずかしすぎて耐えきれなくなって、その場でジタバタともがいてしまうかもしれない。
「これがメニューですよ!」
「へぇ、ここはウドン? というものを主に扱っている店なのか。確か東の国で好まれている麺類だったと記憶しているが……東の国の料理を食べる機会なんてほとんど無いから、とても楽しみだよ」
恥ずかしがる私とは違い、エルヴィン様は満面の笑みでメニューとにらめっこをしている。
「ん? そんなにジッと見つめて、どうしたんだい?」
「なんだか、凄く嬉しそうだなって思いまして」
「そりゃそうさ。君が連れて来てくれたのは嬉しいし、初めての料理は楽しみだし……なによりも……いや、これ以上は君が恥ずかしがって逃げてしまいそうだから、やめておこうか」
「はうぅ……そ、そうしてください……」
口に出さなくても、確実にさっきの大将の話だってわかる……。
エルヴィン様が嫌がってる感じではなくてよかったし、何なら喜んでもらえたのが嬉しくて、尻尾が動いちゃってる。後ろの席にお客さんがいなくてよかった。
「アイリーンちゃん、ご注文は~?」
「私はいつものきつねうどんで! エルヴィン様は?」
「色々知らないものがあって、どうにも決めかねてしまってね。アイリーンのオススメはあるかな?」
「それなら、私と同じのがオススメですよ!」
「ならそうしようかな。ご婦人、僕も彼女と同じものを」
「あらやだ~ご婦人だなんて! すぐに準備するから、待っててちょうだいね~!」
大将の奥さんで、この店の接客を担当している名物おばちゃんは、豪快に笑いながらその場を後にした。
「この店は、とても活気に満ち溢れているね。見ているだけで、元気がもらえるよ」
「よかった。いつも落ち着いた雰囲気のお店に連れて行ってくれるので、エルヴィン様には合わないかも……って、ちょっとだけ不安だったんです」
「あはは、問題ないよ。こういった民達の生活を見るのは僕の目的……ごほん、趣味だからね」
「……?」
最後の言葉に、一瞬嘘の臭いがした。多分、途中で言い直したことが本当なんだろうけど……別に言い直すようなことだろうか?
貴族の人が、一般の人達の生活に馴染みがなくて、興味を持つことはおかしなことじゃないと思うんだけどなぁ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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