第十四話 たった一つのお願い
翌日のお昼頃、私は今日は一回もベッドから出ないまま、頭から布団をかぶって丸くなっていた。
今は誰にも会いたくないし、何も食べたくない。しばらくは、放っておいてほしい。
そう思っていたのに、突然私の布団は無理やり退けられてしまった。窓から差し込む太陽の光が、今の私には眩しすぎる。
「夜勤から帰ってきてみりゃ、いつまでカタツムリみたいになってんだ! 俺の知らないうちに、狐からカタツムリに進化したのか!? あ、それか新種のフトンツムリか!?」
人が落ち込んでいる時に、無駄にテンションが高い状態で絡んでくるのは、何もパパが嫌がらせをしているわけではない。
パパは昔から、私が落ち込んでたり泣いてたりすると、少しでも忘れさせようと、いつも以上に私に明るく振舞うのが、一種の癖だったりする。
それがわかっているから、パパに怒ったりすることはしないし、気にかけてくれてるってわかって嬉しいんだけど……今回だけは、もうちょっとだけ、そっとしておいてほしいかな……。
「パパ……今日もお仕事お疲れ様。私、今日はちょっとね……」
「ママから話は聞いたぜ。結果がどうであれ、お前は本当に立派だ。俺はお前の父親であることを、未来永劫誇りに思うぜ!」
「うぅ……ぐすんっ……ありがとう……」
昨日から、悲しくてずっと泣いていたというのに、嬉しいとまだ泣けるんだね。
「ほれ、泣いてる場合じゃないぜ。彼氏が遊びに来たぜ」
「か、彼氏って……?」
よろよろしながらも立ち上がり、そーっと隣のリビングを見ると、そこには申し訳なさそうに頭を下げるエルヴィン様が、ママと話をしていた。
「さっきからあの調子だ。今回の件は、自分の力不足が原因だった、アイリーンとご両親に深くお詫びしたいってな」
そんな、エルヴィン様は毎日自分の時間を削って、私のために色々と教えてくれたのに……どうしてエルヴィン様が謝らなくちゃいけないの!?
こんなの、絶対におかしい。そう思ったら、寝間着姿で髪がボサボサの状態だというのに、部屋を飛び出してしまった。
「あ、アイリーン……」
「エルヴィン様は悪くありません! エルヴィン様のおかげで、筆記試験は凄く自信を持って挑めたんです!」
「しかし、実技は僕がちゃんと教えられていれば……」
「それも、私の魔法の才能が、想像を絶するほどないのが原因ですから! だから、頭を上げてください!」
目の前で落ち込んでいるエルヴィン様を見ていたら、さっきまで自分の方が落ち込んでいたのが、どこかに行ってしまった。
私にとっては、自分のことなんて二の次で、エルヴィン様が第一優先になっているということね。
「しかし、僕の力不足というのは、れっきとした事実だ。これでは、僕は僕を許せない……だからアイリーン、お詫びに君の言うことを何でも聞かせてくれ」
なんでもと言われても、エルヴィン様にそんな命令みたいなことができるわけがない。
でも、エルヴィン様も引き下がる気配は全然ないし……そうだ!
「なら、一つだけ……お願いと言いますか」
「ああ、何でも言ってくれ」
「これからも、仲良くしてください」
いつもだったら、男性にほんの少し触れられるだけで、顔を真っ赤にしているというのに、今回は自分からエルヴィン様の手を両手で包み込み、ギュッと握りしめた。
「そ、そんなことでいいのかい?」
「はい。私、お友達がいないので……エルヴィン様がいなくなると、一人ぼっちで……寂しくて」
「アイリーン……わかった。僕は、君が僕のことを嫌いになって、二度と会いたくないってなるまで、ずっと離れないからね。まあ、最初からそのつもりではあったけどね」
さっきからずっと暗い表情だったのが、ようやくパッと明るくなってくれた。
うん、エルヴィン様はこうして笑顔でいる方が良く似合っている。
もう私のために、エルヴィン様が悲しんだり、責任を感じないことを願うばかりだ。
「アイリーン、本当に素敵な男の人に出会えたのね」
「くぅ~! これが娘を嫁に出す親の感覚かぁ! 嬉しいような、寂しいような……なんとも複雑な気持ちじゃねえか!」
ちょっと、その言い方だと、まるでエルヴィン様と結婚するような雰囲気だと思うけど!? 私、エルヴィン様とは、まだそういう関係じゃないんだけど! 多分! きっと!!
「ご安心ください。僕が必ずアイリーンを幸せにしますから」
「え、エルヴィン様も乗らないでください! パパもママも、変な冗談を言わないでよ~! 私達は、まだそういう関係じゃないんだから!」
「まだって言ったぞ! 俺は聞き逃さなかったからな!」
「ええ、そうね。それに見て、アイリーンのしっぽ! 嬉しくてあんなに振っちゃって! あんな凄いの、見たことないわ! 可愛いわね~!」
「~~~~っっ!! も、もう知らない!!」
ついに恥ずかしさの限界に達してしまった私は、真っ赤になった顔と揺れ続ける尻尾を無理やり押さえつけながら、家を飛び出した。
確かに嬉しいけど……嬉しいけど! すっごく恥ずかしいことには変わらないんだから~!!
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