第十話 いざ編入試験へ
ついに迎えた試験の当日。私はガチガチに緊張しながら、忘れ物がないか入念にチェックをしていた。
「え、えっと……えっと……受験票は持った、筆記用具も持った、ハンカチ持った、あとは……」
「大丈夫よ、一緒に何度も確認したじゃない」
「そうだけど~……!」
エルヴィン様とたくさん勉強して、魔法の練習もしたのに、いざ当日に忘れ物をして駄目になりました、なんてなったらと思うと、何度チェックしても足りない。
それに、結局私の魔法の腕は、全然上達しなかったせいもあり、緊張が一向に治る気配がない。
エルヴィン様が言うには、魔法が成功しなくても、受験者の魔法の魔力量や扱える属性の数といった、魔法の潜在能力も見ているから、可能性がないというわけではないそうだ。
「ほら、そろそろあの人が迎えに来てくれるんでしょう?」
「もうそんな時間!?」
家の中に置かれた古い時計を確認すると、あと五分もしないうちに約束した時間になってしまう。
実は昨日、エルヴィン様がわざわざ私のために、学園の近くまで送ってくれるって言ってくれて、そのお迎えの時間が迫ってきている。
いつもは時間の確認を忘れることなんて無かったのに……こんなに緊張していたら、ただでさえ低い合格の可能性が、より低いものになってしまう。
「アイリーン、落ち着いて。あなたならきっと受かるわ。だって、ずっとあなたは努力をしてきたのだから。パパも、きっと同じことを言ってくれるわ」
「ママ……」
「さあ、胸を張って行ってきなさい!」
「……うんっ! ありがとう! それじゃあ、いってきます!」
ママにお礼を言ってから家を出ると、ちょうどこちらに向かってくる馬車の姿が目に入った。
「おはよう、アイリーン。待たせたかな?」
「おはようございます。全然待ってませんよ」
馬車から降りてきたエルヴィン様は、今日もいつも通りの、爽やかな笑顔だ。この笑顔を見るだけで、不思議と緊張が少し和らいだ……気がした。
「ここでゆっくりおしゃべりしていたいけど、遅刻したらいけないからね。さあ、僕の手を取って」
「あ、ありがとうございます」
差し出された手を取って馬車に乗ると、カタカタと音を立てて、セレクディエ学園へと向かい始める。
相変わらず、男の人に触れると緊張してしまう。せっかく緊張が少しほぐれたのに、別の理由で緊張しちゃいそう。
「昨日はよく眠れたかい?」
「実は、緊張でほとんど寝られなくて……」
「無理もない。学園に着くまでに少し時間がかかるから、少し休むといいよ」
「いえ、少しでも時間を無駄にしたくないので、頭の中で復習しようかと」
「なら、僕が問題を出してあげよう。ここ十年の試験の傾向から考えたものだから、良い復習になると思うよ」
なるほど、それはとっても良い復習に……ちょっと待って? それって、私のためにわざわざ昔の問題を調べてくれたの?
「ははっ、君のことだから、私のためにわざわざそんなことを? って思ってるのかな?」
「はい。正直、凄く驚いてます」
「これくらい当然さ。だって君は――」
「僕の特別な人だから、ですか?」
「正解だ。よし、今日の試験は満点をあげよう」
笑いながら軽口を言うエルヴィン様につられて、私もクスクスと笑った。
こうやって、私の緊張を少しずつほぐしてくれるなんて、本当にエルヴィン様って優しい人なのね。
****
出発してから三十分ほどで、馬車はゆっくりとその動きを止めた。
ここまでの時間で、エルヴィン様に色々と試験対策の過去問を出してもらえたおかげで、随分と自信がついた気がする。
「ここからまっすぐ行けば、学園に着くよ。本当は正門まで送りたいけど、学生と受験生が一緒にいるのを見られたら、変な勘違いをする人がいるかもしれないからね」
「それは良くないですね。エルヴィン様が悪く言われてしまったら、私は後悔で寝込んでしまうと思います」
「そこで自分の受験のことについて考えないで、僕の心配をしちゃうのが、君の優しさを物語っているね。っと……足元に気を付けて降りて」
「は、はい」
さっきとやっていることはほとんど同じなんだから、少しは慣れなくちゃいけないのに、結局本日二回目のリードも、ドキドキして顔が熱くなってしまった。
きっと耳まで真っ赤になってるだろうな……熱が出たって誤解されないと良いんだけど。
「…………」
「エルヴィン様? どうかしましたか?」
どうしてそんなジッと見つめて……そんなに見られたら恥ずかしい……あ、もしかして本当に熱があるって誤解されたんじゃ!?
「いや、送り出す時になにをすればいいか、色々考えてきたんだ。大声で声援を送るか、頭を撫でて安心させるか、いっそのこと抱きしめてあげるか……」
「だきっ!? そ、それはその……恥ずかしすぎて、倒れちゃうといいますか……!」
「そう言うだろうと思って、不採用にしたから安心してほしい。僕としては、とても残念だけどね」
そ、それならよかった……のかな? ちょっと残念って思っている自分がいる……。
「それで、他にも色々考えて、気づいたら朝になっててね。家の使用人に声をかけられるまで、ずっと考えていたんだ。何とも間抜けな話だろう?」
「そんな、間抜けだなんて。私のためにそこまで考えてくれて、本当に嬉しいです」
「それならよかった。それでね、考えた結果……僕からこの言葉を送るよ」
ふーっとお腹から息を吐き、一瞬で凛々しい表情になったエルヴィン様は、私の肩に手をそっと乗せた。
「君なら出来る」
「っ……!!」
一秒にも満たない、とても短い激励の言葉。
でもその言葉には、エルヴィン様が私を応援してくれている気持ちがたくさん詰まっているのを感じて、励みになった。
「ありがとうございます! 私、必ず特待生として合格して、エルヴィン様と一緒に学園で勉強しますから!」
「楽しみにしているよ。いってらっしゃい!」
「いってきますっ!!」
いつもの作法を使った挨拶なんてすっかり忘れ、ブンブンと大きく手を振りながら、学園へと続く街道を歩きだす。
あれだけたくさん応援してもらったんだ、きっと合格してみせる。そして、エルヴィン様と一緒にたくさん勉強して、ゆくゆくは魔法使いとして大成して、宮廷魔術師に……なりたいなぁ……いや違う、必ずなるんだ!
「……ここが、セレクディエ学園」
歩きだしてから数分で、ついに目的地へとたどり着いた。
この芸術と表現してもいいくらい美しくも、厳かな雰囲気のある学び舎に、何度憧れて、何度諦めたことか。
今度こそ、諦めないで夢に向かって挑戦できるんだ!
……なんて思ったのも束の間。私の夢への挑戦は、出だしから最悪になってしまった。
その理由は――
「ふん、まさか本当に貴様がいるとはな……アイリーン」
学園の中庭で、受験者の対応をしている人の中に、二度と顔も見たくない、ゲオルク様がいたからだ――
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