4
9
それから一週間経ったが、かなり状態が落ち着いた。落ち着いたことが良いことかというと難しいところで、トモキにもなるべく近づかないようになった、なってしまった。最初から、そもそもの始まりから、オレさえ無理をしなければ、何事も起きることはない。
それに気がついたら、本当に平和になった。残念だけど。でも無理したら頭がおかしくなりそうだったので、仕方なかった。
トモキはネットにも来なくなってしまった。さすがに気まずいのかもしれないし、オレとの縁を切りたいのかもしれないし、だけどそれはオレのことも思ってのことかもしれない。それを思えば責められない。
サヤさんはオレをかばってくれて、色々言ってくれる。
「姿が変わったからって友達を止めるなんて、最低だよ!」
とはいえオレもサヤさんにトモキがどう思ってそういう風にしたかを説明していないから、男友達の気持ちがわからないのかもしれない。まあ、状況が異常すぎて想像もつかないのは無理もない。
っていうよりオレがこうなってさみしくしているから、励ますためにサヤさんはあえてそう言ってくれてるのかもしれない。だったとしたら申し訳ないな。
「フリスタさんも来ないですね」
なんとなく話をするために話題に出したけど、いないなんてのは別に数日いない程度だ。ただ、再婚するという話があったから、無事に暮らしているのかという心配はあった。
「そうよねえ、ちょっと電話したんだけど、なんか、すごく喜んでたわ。生活が楽になったし、お母さんも安定してるんだって。前は結構、家の中がヒステリックな感じらしかったから……」
「まあ最初のうちはそうやって仲良くできるでしょうけどね」
「ユキくん、意外と辛辣だね」
「悪いですか?」
「悪くはないけど……フリスタさんともっと仲が良いかと思ってた」
「仲が悪いなんてことはないです」オレはかなりツンツンした感じで返事をする。「むしろあいつのこと思ってるだけです。だってまた裏切られたらつらいですし……」
「ユキくん! あのね! 裏切るなんて考えないでもいいと思うのだけど!」
「何言ってるんですか、当たり前じゃないですか」
「いや、言ったのはユキくん……」
「自分が言ったのはそっちの当たり前じゃなくて……考えるのが当たり前だって……一度離婚したし……裏切ったんじゃないですか」
「そうだけど、それを反省してまたやり直すつもりでいるのだから、それを信じてあげないと……フリスタさんもご両親を信じているのよ」
「それが大人の対応というわけですか」
「というより……優しさ?」
「ぼくが優しくないっていうの?」
「そういう意味じゃないってば!」
自分でも謎だが、とにかく精神的にカリカリきてて、せっかく楽しむ時間のはずが、なんだか嫌な気持ちになった。だいたい、元々いつも四人いたのに、今は二人になってしまっていることが嫌だった。寂しかったのかもしれない。そしてその二人すらも集まらなくなってしまうかも、ということも考えず、イライラした気持ちをぶつけてしまっていた。結局、話もしないでそれぞれ一人で遊んでいて、そのうちオレが先に落ちた。
それからはオレもログインしなくなった。
ついでに学校にも行かなくなった。なんでかって、嫌になったから。オレが我慢することで成り立つ平和なんて嫌になった。どうにかするためには、このまま我慢するか、自分を変えるか、まったく別のところに行くしかない。本当はネットがオレにとってそれ、つまり逃げ場のはずだったんだけど……。
でも休んだからといって……前にも考えたけど先の展望があるわけでもない。悪くなることはあっても良くなることがない。オレの青春はどうなるんだろうとしくしく泣いてしまう。行くも行かぬもつらい。ただ、今は純粋に休むことが必要なのは確からしい。端的に言ってすっごい疲れてる。とにかく色んなことがあったから。
だけど罪悪感のある平日だ。しかももう三日目だ。ネットにログインするのもなんだかはばかられる。またサヤさんとかに会うと気まずいしサボって悪いことしてるみたいで……。
そういうわけで漫画読んだり一人のゲームやったりしていた。それ自体ははっきりいって楽しい。見たかったアニメも一気に見た。素晴らしい作品で、感動してすごい泣いてしまった。そういう意味では充実していた。
夕方頃に、お母さんから買い物を頼まれた。かまわんよ、と引き受けてかなり油断して家を出た。するとすぐに変な女性に捕まった。
「なんですか? 誰ですか?」
見覚えがあるようなないような感じだが、かなり派手な外見で、本来ならちょっと近寄りがたいと思った。あっちから近づいてきているのだけど。それで思い至ったが、火野の先輩の不良だったかもしれない。
「氷室さんに会いたくて、急に来てしまってごめんなさい、家の場所を聞いたから」
はあー?なんなんだこれ、一難去ってまた一難どころじゃないよ、家の場所知られてるとか戦慄する。頭にげんこつ振り下ろして、記憶を失わせたいくらいだよ。とはいうものの、かなり怯む。相手が見るからに不良だったらまだしも、なんか、派手とはいえおしゃれできっちりした感じもあるし……よくわからないが、大人っぽい。これを殴るのはだいぶん気が引ける、しかも女相手に……それって卑怯だよな。とはいえ前回はそもそも相手が複数だったからしょうがないじゃん、あっちが先にそういう感じだったからこっちも敵対して身構えてるんだ。いつまでも良い人じゃいられない。
「迷惑なんですけど、やめてもらえませんか」
強い思いでそう言った。警察を呼ぶことも……辞さない……。
「違うんです、私、ファッションの勉強してて、もし良かったら……」
「間に合ってます。本当に間に合ってます。飽き飽きするくらいに。申し訳ないですけど、じゃあ、用事があるのでさようなら」
そして相手がぽかんとしてる間にまた駆け足で逃げた。やはりオレの方が速い。相手にも事情があったかもしれないけど、これで良かったんだ。急に何かが吹っ切れて、楽しい気持ちになってきた。
そうだ、これからはもっと自分のやりたいようにやっていこう。言いたいことを言うようにしよう。だってみんなオレのことが好きらしいんだから。
それに気がつくと楽しくなって、その勢いのまま翌日は登校した。久しぶりだったので、女子が話しかけてきた。
「雪くん体調悪かったの? もう元気になった?」
「ああ、元気だよ、ちょっと疲れてたけど、もう元気、だと思う」
「疲れてた? ふーん、生きるのって大変だよね」
「まあね」
なんか意味もなく意味ありげな会話におかしみを感じつつ自分の席に座った。
隣の山下くんも声をかけてきた。
「今日はトモキと揉めたりしなかったか?」
「ああ、もう大丈夫……じゃないかな……まあ、色々あったけどね」
久々の学校はあまりにも平和で若干拍子抜けするくらいだ。もちろんそれによる悪いことなんて何もない。すごくのんびりして、授業中ですら楽しくて笑顔までこぼれるような朝の学校だった。そうしていたら周りの人まで楽しい気持ちになったらしい。それは良い副産物だ。
トモキの話が出たけど、まあ今はいい、彼のことは。急ぐ必要はないんだ。なんとなく万能感に包まれた気持ちでオレはいる。いっそ事件が起きてくれ!とくらいに思ってるんだが、待ってる時は事件は起きない。
火野さんが来た。複雑な表情でオレの前(席の横)に立つ。
「どうしたの? オレに何か用事?」
そういうと周りを気にするようなそぶりで、顔を近づけささやくようにした。
「先輩が会いに行ったのに、断ったわね」
「ああ、断ったよ」オレは普通の声で答える。まあ、相手が耳に口をつけてるから、こっちの口は火野さんの耳から遠いし。「だって連絡しないでって言ったのに、会いに来たからセーフなんてならないからね」
「私はそれでいいけど、先輩反省してたから、許してあげてね」
「反省してるから会ってくれってならない限りはオレは全然怒ってないよ」
「うん、まあ……そうね……」
曖昧な感じに彼女は言葉を濁す。彼女もどっちとも言えない立場なのだろう。
「喧嘩なんかになりたくないから、火野さんが頑張って止めてくれよ」
「わかった、わかったわよ」
火野さんが逆に怒りながら戻っていった。どうでもいいけど彼女はちゃんと出席してるのかしてないのか、オレに会うためにわざわざ来たのなら、それはそれで人の役に立てているのかもしれない。何もしてないけど。
学校終わって家に帰ると、ネットに接続した。都合の良いことにフリスタだけがいたので、話しかける。
「フリスタさん、あれからどうですか? うまくやれてますか?」
「あ、ユキくん。うちはね、まるで昔に戻ったみたいだよ。とっても嬉しい。心配してくれてありがとね」
「そんなそんな……でもそれじゃもううちには来なくなるね」
「来てほしい?」
からかうような返事が返ってきた。
「さあね? ただ、来たくて泣いちゃうのはフリスタさんの方かと思ったから」
「うっ……まあ……今のところは大丈夫よ」
こんなこと言って、いざ来たらああなのを知っているから笑ってしまった。文字で喋ってるから笑い声は届かないけど。
「でも良かったよ、もしかしたらって心配もしてたから」
「うん、ユキくんの心配もわかるよ。真剣に考えてくれてありがとう。でもずっと仲良くやれるから」
本当に仲がいいなら最初から離婚なんか……とは思ったけどさすがに言わないことにした。それに、だったら仲が悪いのに結婚もするはずがないかもしれない。
「フリスタさんはオレよりずっと賢いから、心配しなくても上手にできるよね」
「あはっ、もちろんよ」
色々言ったけど、やっぱり来なくなったら少しだけ寂しい。
10
料理の授業があって、どのグループに入るかというのを選ぶことになった。誰でもいいやと隣の山下くんが誘うのに入ったら、そのグループの他のふたりも喜んでた。そんなに喜んでも何もないけどなとは思うが。
全然、料理がうまいこともないけど、まあ指導のままみんなで作るとそれなりにおいしくできた。食事のそのままのグループで食べたけど、オレが作ったのはおいしいらしい。
「別に変わらないよね?」
「おいしいよ」
「どれがオレが作ったやつかわかる?」
ニコニコしながらそう聞くと、その子はわからないので冷や汗をかいている。笑ってオレは言った。
「オレも覚えてないや、適当に何か言ってたら正解だったな」
「何を言ってもバツでも良かったんじゃない」
別の子が冷やかした。
「まあおいしく感じるならなんでもいいけど」
それは確かにそうだとみんなで言った。
その日の放課後にはもうその子から校舎裏に呼び出されて告白された。
「す、好きです、付き合ってください」
かなり腰が引けているが、そういう彼はけして悪い感じではない。性格も良さそうだし、陽キャじゃないのがいい。顔はまあ……及第点だろうか。でも、当然ながら付き合うとかいうつもりはない。だって今日始めて話をしたくらいだし。ていうか男だし。そろそろオレが自分を男だということを忘れたとでも思ったか。そんなわけないじゃないか。
「悪いけどそういうのまったく考えてないから」
そう返事すると、一応食い下がってきた。
「どうしてもだめですか、最初だけお試しでもだめですか」
「お試しってなんだよ! せめて、興味があってからのお試しだろ、たぶん。はっきりいって興味全然ないから! でも念の為、嫌ってるわけじゃないから、そこは勘違いしないように。いや、勘違いしたから今こうしているのか」
「勘違いってのは、俺がお前を好きになったことが勘違いなの?」
「いやそうじゃあなくて……君の気持ちは尊重はするよ、でもこっちにその気がない」
「つまり振られたってことなんだ……」
彼は諦めて帰っていった。意外と物わかりがよくて、ホッとする自分がいた。なぜ自分にとって興味がないのか、興味がある方がおかしいと思う。今、自分にとって一番大切なのは自分自身を守っていかなくちゃいけないってことで、そのことにしか興味がない。そういう点ではオレからしたら、彼はちょっと、軽々しすぎるかな。
オレも家に帰ろうと思ったら、さっきから男子女子が数人、告白の場面を覗いていたみたいだった。
「いやさあ、お前らさあ!」
ついつい叫んだ。男子は逃げたというか振られた彼を追っかけていって、女子はそのまま逃げずにぬけぬけと残った。別に責めたりどうこういうつもりはないけど、あんまりいい気持ちじゃないよ。
「だって私たち心配だったんだもん。ユキくんは私たちの彼氏だから」
「ああ、そういえばそういう設定だったなあ、忘れてた」
「ひどーい!」
「ひどいと言われたって……」
「だいたい、私たち朝迎えに行ってるのも、雪くんの護衛のためだし、だから変なことされないか見守らないと」
「確かに……」
「納得しちゃった」
「でもこっちは良いけど、あっちには許可取ったのか」
「それは……」
「うん」
「どちらかといえば……」
「取ったんだね」
「取ってない」
なんだよ!
「でも彼、私らには気づいてなかったから、大丈夫だよ」
「そういう問題じゃないよ……」
なんだかあいつがかわいそうになってくる。でも笑いものにはしてないから、まだいいのか? 興味津々て感じではあるけれど。帰りながら根掘り葉掘り聞かれたので、とっても困った。オレだってこういうのは初めてだから。
ネットにはフリスタもサヤ師もいる。トモキだけいない。
「声かけてもだめなの?」
フリスタが尋ねる。
「声はかけてない、話もできないから」
「ええ……じゃあ、もういいんじゃない?」
「いい、ってなんだよ」
「もう関わるの諦めようよ。それよりメンバー増やそう、女の子がいいな」
「それじゃ男はますますオレひとりになっちゃうよ」
フリスタの沈黙があった。サヤ師は何か言おうとしているようでしかし喋れないでいる。やがてフリスタのメッセージが届いた。
「もう認めた方がいいんじゃないかな、ユキくんだって女の子だよ」
「そ、それは人それぞれの考えだから……」とサヤ師が横から言う。
「はっきりさせた方が今後のためにもいいかと思って……」
「ならはっきり言うよ」オレは口を開いた。「オレは男! 絶対男だ。なんのためにオレがオレって言い続けてるのか。他の何者にもなりたくないんだ、せめて心の中だけは、絶対に他人なんかにならない!」
「あ、やっぱり無理して言ってたんだ……」
「無理してじゃないけど、男としての自分を保つために……」
「それっておかしくない? 男らしいことがユキくんじゃないじゃん。それとも前はそんなに男の中の男だったの?」
「痛いところつくなあ」
「ユキくんはどんな自分が本当の自分なの?」
サヤ師が尋ねた。
「それがよくわからない……わからないけど、自分ってそもそもはっきりしたものじゃないのかもしれないなあって思う」
「だから色んなことにこだわったりしたのね」
「そうかもね」
「自分っていうのは人とのつながりだって聞いたことがあるよ。どんな人が周りにいるかを見たら、その人のこともわかるのよ」
「誰かが言ってたの?」
「本に書いてあったんだったかな……」
サヤさんも大人に見えてちょっと不安になるところがある。そこが個人的にはホッとするし偉ぶらないのはむしろ大好きだ。そもそもみんな仲が良いからこうやって集まってるんだ。
「でもそうなると、やっぱりトモキが……あいつは昔から大事な親友なんだ」
「そ、そうね……これは余計なことを言ってしまったかもしれないわ……彼がまたここに来るかどうか」
「いや、来るよ! きっと、信じてるさ」
「私は来ないと思うけどね」
「なんでそんなこと言うの!」
フリスタをサヤさんが叱った。
「だって、本当のこと言った方がいいじゃない、信じたら後から傷つくでしょ?」
「それは前にも話題になったけど! やってみないとわかんないから! 起きてから心配したらいいんだから!」
どっちが正しいのかもうよくわからない。ただ一回言われたからもうとっくに不安が入り込んでるし、そもそもサヤさんだって不安なこと何個も言ってるしな……。とにかく、覚悟はしておかなくてはいけないみたい。でも、ぼくは……誰からも好かれる美人だから……たぶん強引にいけばトモキも連れてこれるだろうと思う。男らしさからは遠ざかった気もするが、背に腹は代えられない。今回だけだ。
登校する時に、女子たち、ぼくの彼女たちにも聞いてみた。
「トモキって、ぼくのこと好きだよね?」
「そうだと思うよ」
「最近……ちょっとあって、距離ができてるんだけど、大丈夫かな」
「心配ならお化粧する? 私、ちょっと上手になったから」
新木さんはやりたくてしょうがない感じだけど、そこまでやると違ってくる気もする。
「興味はあるけど、またね」
「いつもやらせてくれない、たまにはお願いよ、せっかく練習してるんだから」
「今日はそれどころじゃない」
少しだけ苛立ってしまった。新木さんがすまなそうな顔をしてるので心が傷んだ。女性の間に入るのは難しい、学校に着くだけでなんだか疲れちゃった。
トモキのやつは楽しそうにしている。なんか腹立つ。けど、機嫌がいい方がこちらにも都合がいいのかもしれない……から許す。どうも雰囲気が変わった気がする……。別人のような顔に見えることもある。
お昼に一人になったのを見計らって、ぼくはやつの手を引いた。むりやり廊下に出て、階段を上り、屋上に出た。やはり大事な話をするのは屋上だと相場が決まっている。
トモキは意外と大人しくついてきているが、こいつも何か思うところがあるのかもしれない。
しかし、屋上に出るところのドアの前で腕に力を入れて止められた。それまで引っ張れていたのがびくともしない。ぼくより小さいくせに……!
「そこ、空いてないよ、いつも」
「え、そうなのか。残念だな……」
仕方ないので、階段に腰掛けた。ここでも人がいないので、まあいいだろう。他に移動する時間ももったいないし、あてがない。隣にトモキが座る空間を空けたつもりだったが、彼は座らなかった。
「話があるんだ。といっても、そんなめんどうな話じゃないよ」
ぼくはごくごく自然に切り出した。実際、言う通りで難しい話じゃないはずなのに、それでもなぜか緊張で心臓が速くなっていた。
「あのさ、サヤ師さんとか、フリスタさんとか、まだ覚えてるよな?」
「ユキ、息切れしてるけど大丈夫か?」
「そんなことどうでもいい! ふたりも会いたがってるんだ、いい話もあったし、また来いよ」
「いい話って何?」
「フリスタさんの両親が再婚したんだ。あ、離婚してたことも知らなかったか。よりを戻したんだよ」
「それはよかったなあ」
「よかったなあじゃねえよ!」つい熱くなった。「いや、よかったのはそうなんだけど、そうじゃなくて、来るのか、来ないのか、どっちなんだよ」
「いかない」
その返事がぼくには思いっきり冷たく聞こえた。
「知ってるかもしれないけど、俺、彼女ができた」
「し……知らない……」
「そうか。今はそっちで忙しいから、行く暇ないんだ」
「でもそんなの、ちょっと顔を見せるくらいでも……」
「どうせそれじゃ終わらないだろう? それより、彼女ができたのをお祝いしてくれよ」
「あ、ああ……おめでとう」
「お前よりは美人じゃないけどな、さすがに」
「言われたって全然嬉しくないけど」
「まあ、お前もお前の新しい友達を作りな、恋人でもいいし」
「それは男か、女か」
「それは俺に言われても……」
「わかったよ。お前はかなり変わった。変わってしまったんだな。これじゃあもう意味がない、例えいまさらお前が来たところで、元のお前じゃない」
「なんのことだ?」
「お前にはもう用がないってこと、さよなら! 色々迷惑かけたね」
「泣いてるのか?」
トイレに寄ってから教室に戻ると、新木さんが寄ってきた。
「どうしたの、雪くん? 顔が赤くなって、ひどい顔になってるよ」
「そうかな? そうかもね」
言葉を出す気も起きずに黙っていたが、ふと思いついて頼んだ。
「そうだ、せっかくだから、少しはましな顔に見えるようにお化粧してよ、いいでしょ?」
そういうと、女子は久しぶりの機会にみな喜んだ。