最悪のルームメイト登場
「なっ、な、なんで、人間の男がこんなところに…?」
絶叫の主はこの部屋の主なのか、綺麗な金髪に抜群のスタイルの美人だった。
「お〜、結構好み」
「ふ、不審者!」
玄関に立ち尽くした女は杖をこちらに構えたままワナワナと震えている。
いま不審者だと思われて通報されたらマズイので(俺はビザも持っていないし追われる身である)、シーッと人差し指を唇に当てる。
「ちょっと通報は勘弁してくれない?俺今通報されたらマズイのよー」
「犯罪者じゃないの!」
「本当に、アンタに迷惑はかけないからさ。ちょっと麻雀でイカサマしたらバレちゃってさ、怖いお兄さんたちに追われてるわけ。殺人犯とかじゃないから!アイツらが出ていくまでやり過ごしたいだけなのよ」
クッと親指で窓の外を指すと、首までタトゥーを彫った男がウロウロしているではないか。
今度こそ女は目眩で膝を打った。
「…賭け麻雀は違法よ。本当に忌々しい、ギャンブルって。人間の前で言うことじゃないけど、人間界と関わってから賭け事だのインターネットだの、魔法使いを堕落させるものばかり輸入されて…」
ブツブツと文句を言い始めた女は相当人間界に不満があるようだった。
こういう魔法使いは少なくなく、いわゆる保守派と呼ばれる層で、魔法も使えないくせに魔法使い達を堕落させるものばかり輸出する人間界に批判的な立場をとっている。
まあ人間の立場から言わせてもらえれば、魔法界では魔法に甘えて科学と呼ばれるものは全く発展しておらず、人間界から輸入されるまでケータイもインターネットも電車もなかった魔法界のほうがよっぽど遅れていると言いたいところであるが────
「まあまあ、お喋りでもしようよ。ここってさァ、王立魔法大学の学生寮で合ってる?」
女が被っている金の紋章が輝く黒いローブ、それはリー連邦最難関と言われる王立魔法大学の生徒であることを示すもの。
(あの茶色いレンガの塀と建物、確かに見覚えあったんだよなー。魔法大だったのか)
「そうよ。もちろん人間禁制だけど、ドアを開けたら人間の男がいて倒れるかと思ったわ」
女は肝が据わっているようで、俺の存在に数分もしたら慣れたらしく、気にせずローブを脱いでスウェットを上から着始めた(スウェットも人間界からの輸入品だが、保守派とはいえどそこは気にしないようだ)。
まあ、女は王立魔法大に通うくらいだし、俺のような人間の男が何かしても魔法ですぐ倒せると言う自信もあるのだろう。
(まあ実際、強そうだしな…)
魔法界に来てから数年経ち、魔女と付き合った経験もそれなりにある俺だが、見てきた魔法使いの中でも彼女は特に魔力が強そうだ。
「ああもう、忙しいのに不審者までいてたまらないわ。今日はレポートも実験もあるのに洗濯物も洗い物もこんなに溜まってるなんて…!」
イライラした独り言が後ろから聞こえてきて、空気が読める俺は振り向いた。
「ねーねー、俺が洗い物と洗濯物やっとくからさー、アイツらが出ていくまでここいていい?」
「私は綺麗好きなの。水滴一粒も残さないなら考えてもいいわ」
従うしか道はない。
俺は腰を上げ、女は満足げな顔で机に広げた髪に何やら難しそうな魔法陣を書き込み始めた。