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ウィリアムは、前のめりになってかかっているカートを見上げていた。躊躇いを覚えているのか、感情を押し殺しているのか、ウィリアムの瞳は揺れていた。
……畳み掛けるべきか? 考える時間を奪って、無理矢理にでも話を引き出そうか? だが、相手も馬鹿じゃない。警戒心が働いて、拒否反応を示すかもしれない――これ以上、こちらの心証を悪くするのは得策ではない。
カートはウィリアムが動くのを待った。こうした腹の探り合いが続いたのは、どれくらいの間であっただろうか。やがて、ウィリアムの唇が弧を描き、部屋の空気が和らいだ。
「……貴方々は、他の部署の探偵たちとは、少し違うのですね」
「――と、いいますと?」
カートが話の先を促す。
「グレタが君たちのことを悪く言ったとき、これまでの探偵たちならば、誰かひとりにその責を押し付け、難を逃れようとしたでしょう。しかし君たちは、互いを弁護した。手柄を得るために競い合うのではなく、情報を得るために助け合う――。きっと、それこそがスミスの目指していた探偵像なのでしょう」
カートとネルが顔を見合せて表情を歪めた。社員歴がそこそこ長い彼らには、思い当たる節があったのだろう。二人の様子を眺めながら、ウィリアムは椅子に背中を預ける。それから程なくしてウィリアムは、この家の主らしい威圧的な声で「グレタ、」と部下に呼び掛けた。
「すまないが、しばらく外してくれないか」
科白とは裏腹に、少しもすまなそうではない。グレタは不本意そうに、「……承知しました」と恭しく腰を折って、執務室から退出する。がちゃり、と扉が閉まる音を確認できてから、ウィリアムはようやく固く結んでいた唇を解いた。
「正直なところ、『妖精課』なんて大層な名前の部署を作ったと聞いたときには、どれほど立派な大義を掲げて高尚な人間を集めたのだろうと捻くれた見方をしていたのだが――実態は、予想していたものとは随分違うようだ」
これまでの紳士然とした態度とは打って変わって、ウィリアムは砕けた口調で話し始めた。そんな彼の変化を、探偵たちは怪訝そうに見つめた。一方で、愛想笑いのなくなった自然な表情のウィリアムに、希望を見出していた。長いこと有耶無耶にされてきたこの仕事だが、とうとう進展するのではないか、と。
「ミス・ベルトラン、」ウィリアムは、探偵たちの中心に立っているリリーに目を向け、口角を吊り上げた。「良い職場を選びましたね」
「いいえ、ミスター・ハフナー」リリーははっきりとウィリアムの言葉を否定し、それはそれは美しく微笑んだ。「わたしは善き人々との出会いを大切にしているのです。場所を選んだのではありません」
少し気障に聞こえたかしら。恐れる気持ちをリリーは笑みの裏に隠した。しかしながら、彼女の心配は杞憂だった。リリーの発言にウィリアムは失笑し、目尻には笑い皺が浮かび上がっていた。そして、執務机前に並ぶ二脚の椅子を右手で指し示した。
「どうぞ座って――人数分の椅子がなく申し訳ないが、どうか寛いでほしい」
ウィリアムの勧めを受けて、仲間たちに促されながら、リリーは椅子に座った。その右隣の席に、ロロから監督役を引き継いでいるカートが座る。場が整ったのを確認して、ウィリアムはこれからする自己開示のために喉のつっかえを取ろうと咳をした。
「さて、どこから始めたものか……」
手慰みに、机の上を軽く叩く。
「……少し遠回りになるかもしれない。だが、私たちの問題を理解するのに、知れば助けとなるだろう。これは、私の祖父が、このヴィッラを所有する前にあったことだ」
* * *
その部屋に見覚えはなかった。だが、その絵には覚えがある。
ジェムは新しく訪れた部屋で、壁面に飾られた四枚の油絵を凝視していた。それほど大きな絵ではないが、大きさの割に内容の詰まった緻密な絵である。そのうちの一枚は、ジェムたちの泊まる『赤の部屋』に飾られていた母子像だった。ここが、かつてのヴィッラ・エリジウムということだろうか。それとも――。
廊下の方から、ぱたぱたと床を蹴る音がする。聞くからに子どもか、かなり小柄な人物の足音だ。
ジェムは逡巡した。次に自分はどうするべきだろう。あの足音は、この部屋に向かって来るだろうか。だとしたら、このまま迎え入れるべきか、隠れるべきか。やって来る人物は、果たして知り合いだろうか。
結局のところ、探偵としての習慣が勝った。気付いたときには、ジェムは逆側の壁沿いに設置されていた衣装箪笥に身を隠していた。
がちゃり、とドアの開閉音がし、先程の足音が鮮明になる。音が間近にまで迫ってきて、ジェムは腹を括った。勢いよく衣装箪笥の扉が開き、光が射し込んだ。小さな子どもがそこに居た。薄茶色の髪に水色の目の、膝丈の若草色のローブを着た子どもだ。子どもはジェムを見て、目と口とをまん丸くしていた。
廊下からまた、人の気配がした。今度は重量感のある足音がばらばらに聞こえた。少なくとも二人以上のものによる音だ。はっとした子どもは、躊躇なく衣装箪笥の隙間にに入り込み、扉をギリギリまで閉じた。程なくして、足音の正体とみられる大人の男女が入室した。
「あなた、離して! 腕が痛いわ、これが紳士のすることなの?!」と女性が早口で捲し立てた。
「五月蝿い!」と女性の腕を捻り上げながら、潜めた声で男性は言う。「不義を働いておいて、よくもそんな口を!」
「私がいつ」と女性が言い返す。「やっと帰ってきたと思ったら、ありもしない罪で私を糾弾なさるのね。あなたが外で女を作ろうと、私は責めることさえできないのに!」
「なれば、あれをなんと説明する? 私にも君にも似ていないあれを!」
「私の子よ――私と、あなたの。お屋敷から出られもしない女が、お腹を痛めて産んだ私たちの子よ!」
「あんなのが私の子であるはずがないだろう!」
「あんなのなんて呼ばないで!」
ジェムは隣で息を潜めている子どもを見遣った。子どもは、衣装箪笥の扉の隙間から、言い争いをする男女を空虚な目で見つめていた。まるで、この光景を何度も見てきたかのように、慣れて感情の伴っていない目だった。
「あの子は贈り物なの――子に恵まれなかった私たちを哀れがって、女神様が授けてくださったのよ。あの目が、あの髪が、あの身体が、その証拠なのよ」
そう言って縋るように手を伸ばす女性を、男性は押し退けた。
「取り替え子か――くだらない。そんなものは、私生児を正当化させるための方便だ! 覚えておきなさい、妖精なんてのはね、神に背いた悪霊なんだ。弱い心につけ入れて、人間を堕落させようとしているんだよ。いずれ彼らは己の罪を、その身をもって贖うことになるだろう」
一体どんな顔して宣っているのだろうと好奇心に駆られて、ジェムは男性の顔を見ようと扉の僅かな隙間を広げた。
目に飛び込んできた光景に、ひゅっ、と息を呑んだ。男性には顔がなかった。目鼻口があるはずの場所には大きな穴が空いていた。先も見通せず、底も見えない、真っ暗な穴が……。その穴が、時折ぐにぐにと形を変え、分裂して虚ろな目のようになったり歪に広げた大口のようにも見えた。正体不明の穴が常に蠢いているというのは、なんとも気味の悪い光景だ。対する女性はというと、目を隠すようにぐるぐると包帯を巻いていて、ちょうど目がある辺りの布が水に濡れたようにじっとりと湿っていた。それらだけでも異様なのに、更に男女を不気味に見せているのは、彼らの服装がこの廃墟のような屋敷で際立って煌びやかだからであった。生地を惜しみなく使い、色彩豊かな刺繍を施し、まるで『風と共に去りぬ』に出演している銀幕のスターの如き装いだ。
……なんだ、あれは。
「記憶だよ」
ジェムの疑問に答えるように、隣の子どもが囁く。
「実際はどんな顔をしてたかなんて、今更どうでもいいんだ。あの人たちが、あんな見た目で記憶に刻まれていることが、重要なんだ」
……つまりは恐れていたのか、彼らを。
「――誰だ?!」
男性が衣装箪笥の方に身体を捻って叫んだ。ジェムは身構えた。声を聞かれたのだろうか。だとしたら、なんて耳聰い男だろう。男性が衣装箪笥に向かって来て、その扉を思いきり開いた。ぐにぐにと蠢く顔と対面する。穴ぼこの顔では、目線がどちらにあるかも分からない。
「この悪魔! 盗み聞きとは、なんと卑劣な! 恥を知りなさい!」
大口を開けて怒号を放った男性は、迷いなく腕を伸ばして、子どもの細い手首を掴んで衣装箪笥から力任せに引っ張り出した。
「待て!」
子どもの悲鳴を聞いて、堪らずジェムは声を上げ、男性の手を払い除けようとした。しかし差し出した手は、へどろの中に腕を突っ込んだかのような不快感と共に、男性の身体をすり抜けてしまった。
ジェムは反射的に引っ込めた手を見下ろした。なにひとつ異常は見られないが、手に残る感触は本物だった。今し方、なにが起こったのだろう。
「――来なさい、その腐った性根を叩き直してやろう!」
罵声を浴びせながら、男性は子どもを引っ張って、大股でずんずんと部屋を出ていこうとする。お仕置き部屋にでも連れていくつもりだろうか。
「やめて! その子に手を出さないで!お願い、あなた、やめて、やめて頂戴!」
やめて、お願い、を繰り返し口にしながら、女性は力なく男性に追い縋った。それを男性はすげなく押し遣って、女性は泣き叫び、それでも残る力を振り絞って、床を這いながら二人を追いかけていく。
衣装箪笥から出たジェムは、部屋の真ん中に立って、彼らを呆然と見守っていた。この状況が辛くて介入したくても、そもそも認知されないのでは、どうすることもできない。これ程の無力感を味わうのも久しぶりだ。
「だから言ったでしょ、記憶だ、って」
背後から子どもの声が聞こえて、ジェムは振り返った。先程男性に連れ去られた子どもと全く同じ姿なのに、どうしてか、ずっとそこに居たような気もした。
「君たちの喧嘩が、この記憶を思い起こさせたんだよ」
こちらを責めるような言い草だ。
「ぼくたちのせいだって言いたいのか、イスメネ」
ジェムの科白に子ども――イスメネは首を振った。
「この日のことは、よく思い出すの――ボクの最後の記憶だから」
「……最後?」
不穏な響きのある言葉をジェムは復唱して問い質す。イスメネは考え込むように首を傾げて、視線を左の方へ彷徨わせた。
「死んじゃったっ、て意味じゃないよ。ただ、この後のことは、今はもう思い出せないの。思い出しても意味がないから、ってことはわかるけど」
話を聞きながら、ジェムはイスメネの姿をそれとなく観察した。頬骨よりやや下で切り揃えられた髪は、癖毛で内側に巻かれていた。幅広の二重と薄い唇はやはり中性的で、今は聖職者のようなローブを着ているせいか、どちらかというと少年っぽく見えた。
「イスメネ、」ジェムの呼びかけに、イスメネは視線を戻した。「嫌な質問だったら答えなくていい、きみは男の子なのか?」
「それが重要なの?」
「分からない。でも、知っておいた方がいいときもある」
「……ボクにもよく分かんないんだ。もっと小さかったときはドレスを着てたけど、大きくなってからはトラウザーズを履くように言われた。多分、母様がメイドにそう言ったんだ。胸にも布を巻き付けなくちゃいけなくなって、苦しかった。かわいいものが好きだったけど、父様が勧める兵隊ごっこは嫌いだった。トラウザーズもあんまり好きじゃない。腰のところがぴっちりして歩きづらいし、着心地が悪いから」
「分かった。話してくれてありがとう」
イスメネは愛想の良い笑顔を浮かべた。ジェムは「別のところへ行こう」と移動を促した。この部屋にはもう居たくなかった。息苦しくて仕方がなかった。イスメネはジェムの提案を快く受け入れて、彼の手を引いて廊下へ向かった。
部屋を出る前に、ジェムは壁の絵にふと目を向けた。皮肉にも、あの四枚の絵は四枚とも愛を描いたものだった。
「イスメネ、どうしてぼくに、あの記憶を見せたんだ?」
イスメネに手を引かれて、陽光に照らされた薄暗くも温い廊下を歩きながら、ジェムは訊ねた。イスメネは、その小さな手でジェムの指を握り締めながら、言った。
「ジェムに知ってもらいたいと思ったの」
「なぜ?」
「あなたならわかってくれると思って」
「……なにを?」
「ボクのこと」
ジェムはずっとイスメネの小さな頭の方へ視線を落としていたのだが、イスメネはじっ、と行く先を見つめたままで、彼らの身長差では顔色を窺うことができなかった。未だ得体の知れないこの子どもに、どう接するのが適切なのか分からない。だけども、この小さな子どもになにができると言うのだろうという考えも捨てきれない。
「イスメネ、」ジェムはまた、賭けに出ることにした。「きみが、ぼくを呼んだと言っていたな? どうしてぼくなんだ?」
その質問には、答えはすぐには返ってこなかった。永遠にも思える、とてつもなく長い廊下を歩きながら、ジェムはイスメネが喋り出すのを待った。
「……ジェムが"ブルー"に来てたから」
「"ブルー"は、そう簡単に迷い込める場所じゃないんだろ?」
だんまり。
「"ブルー"の方から、ぼくたちに近付くこともない。ぼくがここに来たのには、誰かの介入があるはずなんだ。誰かがぼくを呼んだんだよ」
また、だんまり。
「正直に話してくれ。どうして、ぼくを呼んだんだ?」
「ボクじゃない」
「でも、前に来たときは――」
「そうだけど、ボクじゃない。最初にジェムを呼んだのは、ボクじゃない」
イスメネは頑なに否定し続けた。その口調だけは、これまでで一番子どもらしかった。こうなっては、どんなに諭したって、それ以上のことを話してくれはしないだろう。子どもとの交流が多いジェムは、それをよく分かっていた。彼は話題を少しずらすことにした。
「きみも、誰かに呼ばれてここにいるんじゃないのか?」
イスメネの足が止まった。ジェムも同じように立ち止まった。回り込んで、イスメネの顔を覗き込むなんて無粋なことはしない。調査対象から話を聞き出すためには、信頼を損ないかねない行動は控えるべきだ。
「……着いたよ」
「え?」
そこ、とイスメネはジェムの背後を指差した。恐る恐る示された方へ振り返れば、いつの間にやら階段室の前に辿り着いているではないか。
……いや、待て。さっきまで、こんなのあったか?
ジェムは驚愕と混乱とで、イスメネへの警戒心などすっかり忘れてしまった。それゆえに、イスメネが手を引っ張っるまで、自分の前を歩いて階段を下りようしていることに気付かなかった。ぴん、と伸びた彼の腕を怪訝そうに見てから、イスメネは久しぶりにジェムと顔を合わせた。
「……行かないの?」
ジェムは返事をしようと口を動かした。だが、喉が詰まったみたいに言葉が出なかった。イスメネは階段の下を眺めてから、なにかを思いついた様子で、そうか、と呟いた。
「大丈夫だよ、今回もちゃんと、帰すから」
そう言ってジェムに笑いかける真意はなんだろう。安心させるためだろうが、なんのために? 罠に誘い込むため? それとも、悪意はないことを伝えるため?
ジェムは重りのような足を動かして、イスメネについて行った。明かりのない階段を下りる間は、どちらも口を閉じていた。喋って舌を噛みたくはなかったし、この暗がりの中で人にも周辺にも注意を向けるなぞ、できそうになかった。一度に他方を警戒するなんて芸当は、そう簡単に誰でもできることではないのだ。
階下に着くと、イスメネはさっとジェムの手を離して、目先の部屋へ走っていった。こういう突飛な行動は本当に子どもらしいのに、とジェムは思う。口を開いた途端、言葉を口にした途端、その姿が異様に感じられるのはどうしてだろう。
「こっち」
部屋の出入口からひょっこりと頭を出して、イスメネが手招きしている。アーチ開口の出入口を抜けた先はキッチンだった。煉瓦造りの竈を前に二つの粗末な木製の椅子を並べて、イスメネはジェムに座るように勧めた。言われた通りに腰を落ち着けると、今度はクッキーが均等に置かれた天板を目の前に差し出された。
「おひとつ、いかが? ボクが焼いたんだよ」
ジェムはしばらく天板のクッキーを見つめ、それから「ごめん、」と断った。
「甘いものは好きじゃないんだ」
ジェムの返答にイスメネは素直に引き下がって、残念そうに一枚のクッキーを自らの口に運んだ。
「イスメネ、」顔を綻ばせながらクッキーを咀嚼するイスメネに、ジェムは話しかける。「どうしてぼくを呼んだんだ?」
イスメネは無邪気に聞き返す。
「理由がなければ呼んじゃいけないの?」
「理由はあるはずだ。ないと不自然なんだ。きみがぼくに言ったんだ――"ブルー"には近付くな、と」
「そうだっけ?」
……なんだろう。目の前にいる子どもが、昨日会った子のように思えない。同じ顔なのに、違う人間と話しているみたいだ。まるで、お化けに欺かれているかのような……そんな気分になる。
ジェムは危険を冒す決心をした。
「ぼくは探偵だ」
ジェムの発言に、イスメネは顔を顰めた。訝しげに、こちらの腹の底を探ろうと動く目は、やはり子どもらしくない目付きだった。
「頼まれたものを調べたり、探したりするのが仕事だ。きみが今窮地に立たされていて、助けが必要なのであれば、ぼくが力になれるかもしれない。――それともきみはまだ、なんの理由もなくぼくを呼んだと言うつもりか? あんな記憶を見せておいて?」
……さあ、なにか言ってくれ。ぼくを頼れ。そうすれば、ぼくは心置きなくきみを調べられる。
イスメネは抱えていた天板を傍の作業台の上に置いた。
「ボクは知りたい」
なにを?
「ボクがここに囚われている理由を。ボクだけがここにいる理由を。どうしてボクはずっと、独りぼっちなの? どうしてみんな、ボクを置いていくの? どうして……」
イスメネは溢れ出す涙を鬱陶しそうに袖で拭った。
「……どうしてボクは、みんなと違うの?」
ジェムは膝の上でひっそりと拳を握った。必死になって、自分を律した。決してぶれるな。惻隠の情に流されるな。お前の仕事に必要なのは、公平で冷徹な曇りなき眼だ。ジェムは変わらず淡々とした口調で訊ねた。
「きみは"魔法"を信じるか?」
「魔法がなかったら、こんなことは起きてないよ」
「……そうだな。なら答えは簡単だ。きみは本当に"女神の贈り物"だったのさ」
イスメネはくすり、と笑った。少しは慰めになっただろうか。これで少しは疚しい気持ちも薄れるだろうか。これから自分は、他人の秘密や過去を無神経にも暴いていくことになるのだから。
「見つけてみせるよ、きみが"ブルー"に捕らわれている、その理由を」
この時は分からなかった。知る由もなかった。まさかこの些細な認識の違いが、クラダの町全体を脅かす事件にまで発展することになるなんて。




