7(1/2).この家族もまた秘密を抱えている - like Every Family They Had Their Secrets
オルトン・ギファードとの電話のあと、ジェムとリリーは、セイラを交えて話がしたいと言って、ヴィンスと共にオイスターバーを出た。クラダにいる間、ヴィンスが拠点にしているという安宿に向かいつつ、海辺を歩きながらジェムたちは言葉を交わした。
「だけど、"猫の密約"おかげで、その男のところにも護衛の猫が張り付いてるんだろ? 猫を使って連絡する方法もあるんじゃないか?」
取り次ぎのことを聞いたヴィンスは、思いの外その役目をあっさりと承諾したが、それとは別に疑問を口にした。色弱のため足許が覚束ないからと、唯一自分の足では歩かずリリーに抱き抱えられていたセイラが疑問に答えた。
「猫たちのなかには、人間の言葉を理解できない子もいるの。きちんと情報を伝達したいなら、人を使った方が確実よ」
「なるほど、あんたみたいなのは、やはり稀有な存在なわけか」
「アルフォンス・ギファードと話したことは?」とジェムがヴィンスに訊ねる。
「前に、ジェムの家の前で見たやつだろ?」と記憶を手繰りながら、ヴィンスは言う。「人伝にどんなやつかは聞いてるけど、話したことはないな」
「オルトンはわたしの兄代わりなんです」とリリー。「心配性で口煩くて、最初は攻撃的なことを言うかもしれないけど、悪い人ではないので」
「なあに、おれを心配するなんて。そんなに気難しい人なの?」
「ある意味ではな」とジェム。
「まあ、どんなやつだろうと構わないけどさ、きみらと連絡取るときはどうしたらいいの? スミスの探偵以外は、屋敷の中に入れないんだろ?」
「それは、ワタシに任せて頂戴」とセイラ。「誰にも気付かれず、どこにでも潜り込めるヒトを知っているわ」
「またその方法か」
ヴィンスはセイラの申し出に溜め息を吐いた。おそらく、彼が急遽クラダへ来たときにも、その"ヒト"が関わっているのだろう。ジェムは、ヴィンスが苦手としているその"ヒト"に心当たりがあったが、それ以上追及するのはやめておいた。
ジェムとリリーはヴィンスの宿泊先に到着したあと、彼らと別れることにした。セイラはクラダの猫たちと話があると言い、一方のヴィンスは一度ブランポリスに戻り、オルトンと顔を合わせたのち、連絡先を交換したらこちらに戻ってくるつもりだと言う。
「これから何度も連絡を取り合うんだから、直に会っておかなくちゃな。向こうだって、顔も知らない人間なんか信用できないだろ?」
「でもヴィンス、またブランポリスに戻るのは大変じゃない? まだこっちに来たばかりなのに」
しかし、ヴィンスはリリーの心配を笑って受け流した。
「行ったり来たりは、おれの日常さ。気に病むことはないよ」
そうしてヴィンスたちと別れたあと、ジェムたちはカートと待ち合わせを約束したヨットハーバーへ向かうことにした。白い帆のヨットが夕暮れにに赤く染まり、停泊しようと港に近付いているのが見えた。町を彩るランタンが、次々に明かりを灯していく。
ヨットハーバーの手前で、カートはトランクケースを携えた女性と向かい合って話していた。子鹿のような淡い茶髪のその女性は、ジェムたちに気付くと屈託ない笑顔で彼らを迎えた。
「おーい、そこの若者たちー!」
「セニヤー!」とリリーが手を振って応える。
「リリアーヌー!」と呼びかけを返す女性は、カート・オルブライトのワトソン役のセニヤ・マキラである。
駆け寄るリリーの後ろで、歩く速度を変えずにジェムはカートたちと合流した。「お久しぶりです、ミセス・マキラ」
セニヤは所帯持ちであった。元々はスミシー探偵社で事務員として働いていたのだが、カートに誘われ、彼のワトソン役になったのだという。結婚して会社からは退いたものの、彼のワトソン役は今も継続して務めている。カート曰く、彼女の夫は家事ひとつできない腑抜け者らしいが、泊まりがけの依頼にも関わらずこのように彼女を送り出したのは、夫婦間で対等な関係を築けているからだろうか。――または、その屈託ない笑顔の裏に、途方もない苦労を隠しているのかもしれない。
「久しぶりね、ジェームズ。見ないうちに、精悍な顔になったんじゃない?」
「言うほど時間は経ってないですよ」
異見するジェムに、セニヤは訳知り顔に微笑んだ。
「顔付きっていうのはね、心境や環境の変化で日に日に違っていくものなの」
セニヤの表情や話し方に、ジェムは妙なむず痒さを感じて、曖昧に微笑んだ。
「セニヤ、」とカートは彼女の持つトランクケースに手をかけ、優しい声音で言った。「取り敢えず、その荷物を持ってヴィッラに行こう。話は道中ですればいいよ」
すると、セニヤは不満そうに唇を窄めた。
「でもカート、行ったら最後、しばらく出られないかもしれないんでしょ。それなら今のうちに、もうちょっとクラダの町を堪能したいわ」
「だけど、晩餐には間に合うようにしないと。他の皆とも話をしないといけないし、」
「そんなに時間はかからないわよ。こんな機会そうあるもんじゃないし、いいでしょ? ね、リリアーヌたちも一緒に」
「まったく我儘だな、僕のワトソンは」
セニヤの我儘を笑って受け流すカートの顔は、いつになく柔和だ。その表情をふたつの視線ににじっと観察されているのに気付いて、カートは彼らから顔を背けるように目前に続く町並みを見遣った。
「……少し遠回りするだけだ、寄り道はしないよ」
「やったっ」
セニヤは無邪気に喜び、そしてリリーたちにだけ見えるようにひっそりと片目を瞬いて目配せをした。その仕草の示唆する意味が分からず、リリーはきょとんとセニヤを見つめた。一方で、彼女の意図を汲んだジェムは苦笑いを浮かべた。
「――リリー、どこか見たいところはある?」
隣の少女を見下ろして、ジェムは訊ねた。予想しなかった質問に、リリーは目をぱちくりとさせながら、彼を見上げる。
「えっと、わたし、クラダのこと、よく知らなくて」
「大丈夫よ、」とセニヤはリリーを励ます。「このセニヤ・マキラに任せて。下調べは得意なの――特に、こういう観光地はね」
セニヤの案内で、一行はヨットハーバーから少し離れた河口から、緩やかな坂になっている町中を上っていった。傘帽子を被った、川を行き来する観光向け手漕ぎボートの船頭が、時折、道行く人に手を振る。セニヤやリリーがにこやかに手を振り返せば、男性の船頭が投げキスを返した。セニヤはくすくすと笑いながらも手を振り続け、リリーは照れた様子で、振っていた手を一房の髪を耳にかけるのに使って目を逸らした。
しばらくそうして川沿いを歩いていると、クラダの繁華街の西側と東側を結ぶ有名な屋根付き橋が見えてきた。
「あの橋を渡りましょ」とセニヤが指差した。
「ブランポリスのカバードブリッジとは、少し違いますね」とリリー。
「あっちの橋は景観を意識したものだし、比較的新しいから」とジェム。
「実用的じゃないってこと?」
「役立たずではないけど、必要でもないかな」
「見た目が重要なのね」
「公園のだからね」
「こっちの橋は、クラダの町ができた時に作られたから、この国の歴史的な建築物のひとつよ」と、後ろを歩くリリーたちにセニヤは説明する。「それに、面白いものもあるわ」
欄干を花で飾り、レンガ屋根の付いた木造のこの橋は、ちょうど中央に礼拝堂を設けていた。先細の円錐屋根が可愛らしいその小さな礼拝堂には、ステンドグラスに囲われて、目を閉じた長い髪の女性と様々な動物たちが鈴蘭の群生地で身を寄せ合っている彫刻が安置されていた。女性の腕には兎が抱かれている。
「エオストラですね」
崇めるために少し高め位置に置かれたのであろう彫刻を眺めながら、リリーは言った。
「"女神"か」とジェムが返す。
「昔は、彼女の聖像が信仰の対象としてよく使われていたそうなのですが、最近では、あまり見なくなったみたいです」
「"鹿男"のせい?」
「分からないけど、確かに、カルノノスを祀っている聖堂や礼拝堂が多いですよね」
「そういう知識は大学で?」
「はい。元々、妖精のことは芸術分野として興味があったんです。まさか、宗教としてこんなにも意識して、あれこれ邪推するようになるとは思っていませんでしたが」
「邪推、か」
彼女の言葉に、ジェムは苦い感情を覚える。彼の表情に気付いて、リリーは困り顔で微笑んだ。
「ごめんなさい、ちょっときつい言い方でしたね」
「いや、間違ってないよ。ただ、この国で育っただけに罪悪感が、少し」
ジェムの科白を受けて、リリーはふと目を伏せた。
「……分かります、その気持ち」
長い睫毛を持ち上げて、曇った表情でエオストラの聖像を仰ぎ見るリリーに、つられるようにジェムも前方に目を向けた。目を閉じ感情を抑えた顔だが、口元だけは微笑みの形を伴っているエオストラは、これまでも、見る者に安らぎを与えてきたのだろう。
「――なにはともあれ、この場所は美しいね」
「ええ、本当に」
礼拝堂の前で佇む二人を、遠目に見ていたカートは、橋の下を潜るボートの音を気持ち良さそうに聞いている隣のセニヤにそうっと訊ねた。
「なにを企んでるの?」
「企んでるって?」
カートの言葉がさも心外だと言わんばかりに、セニヤは目を見開いた。
「急に観光したいとか言い出してさ、策略があるとしか思えないんだけど」
「聞き捨てならないわね、そんなんじゃないわよ」
セニヤは身体を反転させ、カートと同じようにリリーたちを見遣った。
「前に、ジェームズから聞いたの。あの子、特殊な境遇だから、こんな状況でもなければ遠出も難しいんですって。あんなに好奇心が旺盛な子なのに、それってあんまりじゃない? だから、ちょっとでも時間があるなら、いろんなものを見せに連れて行ってあげたいの」
セニヤの口振りからして、あの子、とはリリーのことだろう。それほど交流はないはずだが、何故そんなにも彼女に肩入れするのだろう、とカートは疑問に思う。
「私、あなたと違って優しいので」
そう言うセニヤは得意げだ。カートは苦虫を噛み潰したよう顔で黙り込んだ。
橋を渡って東側の繁華街に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。魔除けのランタンが所狭しと宙を飾り、視界いっぱいに広がっている。幻想的な景色にリリーの口から、ほう、と感嘆の声が漏れる。それから、はっとする。
「――大変、晩餐に間に合わなくなってしまいます!」
焦ったリリーがそう言って急かすと、他の三人はまるで息を合わせたかのように視線を交わした。カートが懐から懐中時計を取り出し、「そうだね」と同意した。しかし、続く科白にリリーは絶句する。
「遅れたら彼ら、どう対応するかな?」
「カート、」と悪戯っ子のように忍び笑いをしながらセニヤが諌めた。「初日から心象を悪くするようなことはしない方がいいわ」
「試してみたい気持ちはありますけどね」と、ジェムがカートに同調する。それをリリーは軽く肘で小突いて咎めた。まったく、探偵というのは面倒な客である。
「それじゃあ、この辺でタクシーを拾おうか。僕が見てくるから、君たちはそこで待っててくれ」
カートは持っていたセニヤのトランクケースを彼女に返すと、繁華街を抜け、車が行き交う大通りへと向かった。ジェムたちは、カートに言われた通りにその場で待つことにした。とはいえ、ここは人の往来が多い繁華街なので、通行の妨げにならないように道の端に寄って肩を並べた。店の軒先に吊り下がったランタンの横に立つと遊園地の風船売りのようだ、とセニヤが笑った。団体客が横を通り過ぎ、喧騒の中では会話もままならず、ちょうど話しかけようとしていたリリーにジェムは屈んで耳を寄せた。彼の長い睫毛を間近で見てしまい、リリーの鳩尾の辺りがぱたぱたと騒めいた。
「――ジェームズじゃないか?」
自分の名前を呼ぶ声にジェムは顔を向けると、そこに立つ、褐色の肌の大柄な男が口角を上げた。
「ロロ、」と思わず上司であるその男を愛称で呼んでしまう。聞こえなかったのかロロは気にせず傍までやってきて、ジェムに話しかけた。
「奇遇だな、ここで会うとは」
言いつつロロは、ジェムの背後に目を向け、リリーとセニヤに軽く会釈した。
「お一人ですか」とジェムが訊ねる。
「ネルとマイの付き添いをしていたんだ。あいつら、もうすっかり観光気分だよ」
「そろそろ戻らなくてはいけないのでは?」
「ああ、君たちは聞いてないのか。あちらさんの都合で晩餐はお開きとなり、我々は外で夕食を取ることになった」
「あら、」とセニヤが驚きの声を上げる。「だったらカートを呼び戻さないと」
行ってくるね、とセニヤは言い置き、カートが行った道をなぞるように小走りで彼を探しに向かった。
「セニヤは変わらずカートのワトソンを務めているんだな」と彼女の背中を見送りながらロロは言う。
「お知り合いでしたか」
「その前は、うちの事務員だったからな」
「そうでしたね」
「しかし、君のワトソンとは初めて対面すると思うのだが」
そう言ってリリーと目を合わせたロロは、にっこりと愛想笑いを浮かべ、右手を差し出した。
「妖精課課長のロナルド・ロイドだ」
少し慌ててリリーはロロの手を握り返した。
「リリアーヌ・ベルトランです」
「よろしく、リリアーヌ――リリアーヌと呼んでも良かったろうか?」
「勿論です」
「他の社員とはもう会ったかい?」
「ええと、一人だけ、まだお会いしてない方が」
誰だろうか、とロロが口を開きかけたとき、ジェムがなにかに気付いてロロの言葉を遮った。
「ちょうど、こっちに来るみたいですよ」
ジェムの科白を受けて、ロロは背後を見遣った。ロロと合流しようと歩いて来ていたネルとマイが、彼と目が合って、軽く手を振った。それから、ジェムとリリーがいるのに気付き、目を丸くした。
「あれ、ジェムとリリアーヌじゃない? なによ、アンタたちも来てたのね」と、やや遠くからネルが声をかける。
「皆考えることは同じのようですね」とジェムは軽口を叩く。
同じ時、マイはネルの横でちらちらと、興味津々な視線をリリーに向けていた。この初対面の少女について、いつ切り出そうかとマイが逡巡していると、彼女の様子に気が付いたジェムが「マイ、」と話を振った。
「彼女はリリアーヌ・ベルトラン、ぼくのワトソン役」
そして、「リリー、」と彼女の背に手を当て、前に出るように促した。「ファン・ティ・マイ、ぼくらの同僚だ」
「はじめまして」と握手を求めるリリーに、「……よろしく」と目を真っ直ぐに見てマイは応じた。
……あれ、この感じ、
リリーは、マイの眼鏡の向こうから既視感のある感情を読み取った。彼女の瞳の奥深くでは、緑にも近い黄色の光が星のように瞬いている。数年前まで、リリーが日常的に見ていた光景だ。
……わたし、この人に好かれてないみたい。
警戒心の強い人なのかしら、と都合のいいように考えもしたが、どちらにせよ好意的でないのは確かだった。
リリーの表情が強ばっているのに気が付いたのだろうか。ネルがマイの顔を覗き込んで、揶揄う調子で彼女の頬を突っついた。
「マイってば、また人見知り?」
ネルの指摘にマイは、むっとしながらも、恥ずかしそうに頬を赤らめた。その瞬間、彼女の落ち着かない視線が自分から外れたので、リリーは少しほっとする。
「ネル、」とジェムが真剣な顔で話しかける。「外でセニョール・ガルシアを見ましたか?」
「見てないわ。私たち、一番最後に屋敷を出たから」
「とすると、夕食の話も知らない可能性が高いですね」
「急な都合ってやつ? そうね、今頃屋敷に戻ってるとしたら可哀想ね」
「心配ないさ」と二人の会話にロロが割って入る。「やつのことだ、一人で屋敷の周辺を嗅ぎ回っているだろうよ」
「じゃあ、せめてお土産でも買っていってあげますか」とネル。
「そうだな」とロロ。
彼等にペドロ・ガルシア・デ・ラ・ロサを探しに行くつもりはなさそうだと悟ったジェムは、リリーにだけ声が聞こえるようにと身を屈めた。
「リリー、できればでいいんだけど、」と切り出すジェムに、リリーは顔を向けた。小柄な彼女にこんなふうに見上げられると、ついつい庇護欲を掻き立てられてしまう。はにかみつつ、ジェムは言う。
「時々、ペドロ・ガルシアの方に気を配ってみてくれないか?」
リリーは、ジェムの頼み事の裏に隠された意図に気付いて、胸許のロケットペンダントを握り締めた。それは、母から譲り受けてからリリーが肌身離さず身に付けている、"妖精の遺物"である。
「――ええ、やってみます」
ありがとう、とジェムは微笑んだ。
* * *
繁華街でジェムたちが心配し、ロロが予想したように、ペドロ・ガルシア・デ・ラ・ロサは単身で屋敷の調査をしていた。ドアマンの男から、急な都合で主人の帰宅が叶わず、夕食の準備も云々かんぬんと伝えられ、外食を勧められたが、ペドロは従うふりして敷地内にある雑木林のなかに身を隠した。そうして、ヴィッラの従業員たちの動向を窺っていたのだが、別段変わった様子もなく、彼らは慌てた素振りひとつ見せなかった。
だがそもそも、箝口令を敷いている割にたいした警備もされていないのが不審なのだ。ペドロは雑木林を通って、屋敷の裏側に回ってみることにした。
朝食室の外側から舞踏室のテラスの方に回ったところで、地下へと続く階段を見つけた。石造りの凝った装飾のテラスの横に、かなり質素な木のドアが蔦植物の陰で隠されるようにして見えた。宿泊客から極力見えないようにして設置されているそのドアは、従業員用の出入口だろうなと見当をつけつつ、ペドロはこの辺りで屋敷の様子を探ることに決めた。庭園の植木に身を隠し、異変が訪れるのを待つ。
ちょろちょろちょろ、と水の流れる音がこの場を支配していた。きっと、カヴァナーが入ったとかいう噴水の音だろうな、と推測する。
しばらくして、噴水の水音がごぽごぽと不快な音を立て始めた。円盤から吹き出る水のかさが増し、綺麗な弧を描いていたものが、ばしゃばしゃと不規則な軌道を作った。じっ、と邸宅から目を離さずにいたペドロは、その変化を視界で捉えるのに僅かに遅れてしまった。頭から水を被り、思わず飛び上がって、植木からその身を曝け出してしまった。
「ミスター・ガルシア!」
女の甲高い声が聞こえた。そちらに顔を向けてみれば、邸宅の2階の開け放しの窓からひっつめ髪のバトラーが庭園を見下ろしていた。
……見つかるのがあまりにも早い。
そうペドロが訝しんでいると、がさがさと対面に位置する植木が動いた。
……なにかいる。
「ミスター・ガルシア、」と屋敷の方からメイドらしき女が駆けてきた。「お風邪を引いてしまいます、早く、お屋敷の中へ!」
後方で何者かが走っていく気配を感じながらも、身を隠して屋敷の人間を監視していた手前メイドを無視することはできず、ペドロは深い溜め息を吐き、承服して邸宅へ向かった。




