12. エピローグ
「ベティーナ、クレヴァー伯爵夫人をこちらへ取り込めたのはあなたのお陰よ」
「ありがとうございます。ケルステン子爵夫人の助力もあってのことですわ」
「クレヴァー伯爵が女好きという噂は、本当だったようね」
「ええ。ケルステン子爵夫人の誘いにホイホイ乗ってきたようです。こちらの策とも知らず……ふふっ」
私の執務室で報告を行っているのは、ベティーナとフランツィスカ、ヘンリーケ。放逐された王太子側近の元婚約者たちである。
側近たち――アレクシス、ハインツ、ルドルフの婚約は卒業前に解消された。私は側近の解任へ動いていることを伝え、ご令嬢たちに婚約の解消を勧めたのだ。勿論、新しい婚約者も紹介済み。
彼らは婚約が解消されたと知って、大層驚いたらしい。アレクシスなんて「俺を見捨てるのか!?」とベティーナへ縋ったそうよ。ライナルトもそうだけれど、婚約者に対してあれだけ不義理をしておいて、どうしてまだ相手が自分を好いていると思えるのかしらね。
元婚約者の凋落へ巻き込まれずに済んだと、彼女たちからは大変感謝された。今は忠実な私の側近として活躍してくれている。有能な部下をゲットできたのは私にとっても有難いことだ。
聖女愛菜は庭師の男との結婚をグラウン子爵から反対され、駆け落ちした。だが紹介状の無い使用人に、碌な勤め先が見つかる筈もなく。路頭に迷い掛けていた彼らを救ったのはローラントだ。勿論、私の命で。今は王宮御用達の商家へ、夫婦で庭師として勤めている。
放っておくよりは私の監視下に置いておく方が良いと思ったのだ。愛菜の治癒能力が高いのは事実だから、何かの役に立つかもしれないしね。
グラウン子爵は目論見が外れてがっかりしていたようだけれど、叩き潰されなかっただけ有り難いと思って欲しいわ。
ライナルトは心を入れ替えたのか、今は王太子として執務や外交へ真摯に取り組んでいる。
貴族たちは未だに『聖女に惑わされた王子』と陰口を叩いているようだ。そんな彼を献身的に支える私は「婚約者の浮気に目くじらを立てなかったカサンドラ様は、器が大きい。さすがは次代の王妃だ」と言われているらしい。私にとってプラスになる噂だから否定はしなかったわ。どんどん広めて頂戴。
王太子の新しい側近は、全て侯爵家の息のかかった家の人間で固めた。重臣たちにも徐々に調略を進めている。王太子の評価がいつまでも最底辺では困るもの。私と有能な家臣の力で、ライナルトを良き君主に仕立て上げるのだ。時間はかかるだろうが、いずれは貴族たちの評判も戻っていくだろう。
意外にも、籠の鳥となることにライナルトは反抗しなかった。自分の役割を淡々とこなしている。ちょっとは大人になったのかしらね?
それはそれで有難いわ。次期国王ともあろうものがいつまでも思春期の子供のようでは、フォローが面倒だもの。
その上、何だか私への態度が軟化しているように感じる。時折、切なげな瞳を向けられることさえ。あれだけハッキリ愛してないと伝えたのに、不思議だ。
まあいいわ。大切にしてあげるわよ、未来の国王様。私の傀儡として、ね。
これからもずっとずっと、私は悪を貫くわ。だって私、悪役令嬢なんですもの。
これにて完結となります。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
(気が向いたら続編を書くかも…?)
面白かったと思われましたら、下の☆マークから評価やお気に入り登録をして頂けると嬉しいです!