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【書籍化】悪役令嬢ってのはこうやるのよ  作者: 藍田ひびき
第一章 聖女なんて要らないのよ
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0. プロローグ

本作は、短編版(https://ncode.syosetu.com/n9479jn/)に加筆を行ったものになります。大まかな流れは同じですが、細部の変更及び短編では省略したところを追加したりしています。

「この悪女が!そんな汚い手をつかってまで、王妃になりたいのか!」


 待ち望んだこの瞬間。裁判官の如く私を断罪しようとしていた彼らを、私は眺める。

 

 蒼白な顔に虚ろな目で「嘘だ……」と呟く者。あるいは私を憎々しげに睨み付ける者。

 私は背を伸ばして胸を張り、努めて上品に見えるように、しかし酷薄な笑みを浮かべた。

 

 悪女ですって?当たり前じゃない。

 だって私、悪役令嬢なんですもの。

 

  ◇◇



 14歳になったばかりの頃だった。私が前世の記憶を思い出したのは。



 ――本当に出来損ないだな、お前は。

 ――この案件が欲しいんだろ?だったら……

 ――死ね!このクソ女!!


「何、これ……!?こんなの知らない……!!」

 

 流行り病にかかり高熱でうなされる私に、突如奔流のように流れ込んできた自分のものではない記憶。前世と今世のソレがめまぐるしく入れ替わり、気が狂いそうになる。何度か気絶を繰り返し、徐々に落ち着くにつれて理解した。これは前世で私が生きた追憶の残滓である、と。


 片倉玲子。それが前世の私の名前。


 実家はそれなりに裕福だった。エリート官僚の父と名家のお嬢様である母。彼らは常に優秀な兄を贔屓し、私を貶めた。

 勝気な私は何度もそれに反抗したが、「あの子はストレートで東大に入るくらい優秀なのに、あんたはどうして」「女のくせに生意気な。出来損ないなんだから、せめてもう少しお淑やかに出来ないのか」と詰られるだけだ。


 いつしか、私は彼らに期待するのを止めた。そして大学を出て、とある芸能プロダクションに就職した。

 元々芸能界に興味があったのもあるが、何よりこの選択は両親が一番嫌がるだろうと思っていたからだ。芸能人を「あんなもの、底辺の人間がやることだ」と馬鹿にしていた彼らは予想通り激怒し、私は縁を切られた。


 いっそ清々とした気分だったわ。私を貶める両親からも兄からも、ようやく解放されたのだもの。


 だが、入社したプロダクションも腐っていた。テレビ局のお偉いさんの親族だという無能な上司に振り回され、セクハラまでされる日々。

 それでもいずれはのし上がってやると、歯を食いしばって仕事を続けた。おかげで多少は認められるようになったと思っていたが、考えた企画を上司に横取りされたことで気が付いた。

 

 私はずっとうちの家族がクソなんだと思ってた。だけどそれは違う。この世の中そのものがクソなんだ。

 

 ブチ切れた私は会社を辞め、自ら芸能プロダクションを立ち上げた。無能上司に振り回されていた同僚数人も一緒だ。


 仕事はなかなか軌道に乗らなかった。弱小の無名プロダクションに依頼をくれるのは、以前の職場で繋がりのあった顧客くらいなもの。

 だから会社を大きくするために、私はなんだってやった。自分で言うのもなんだが、辣腕だったと自負している。表の面でも、裏の面でも。


 若手女優を使った枕営業は勿論、自分の身体を使ったこともある。

 セクハラは嫌がるのに、身体は売るのかって?何の益もない相手にセクハラされるのと、自分の意思で身体を使うのとは違うわ。相手は大手スポンサーの営業部長だったから、しばらくは愛人になって色々と便宜を図ってもらった。


 ライバル会社の看板女優に若い男優をあてがい、スキャンダルで追い落としたこともある。目障りなアイドルグループを麻薬にハマらせて刑務所送りにしたことも。売り出し中の若いアイドルにSNSで誹謗中傷を煽り、引退へ追い込んだこともあったわね。


 そのおかげで、会社は業界ナンバーワンとなった。

 あの頃が人生の絶頂だったと思う。それは突然に終わりを迎えた。

 

 専用車(ハイヤー)から降りたところで、警備を振り切った男が「死ね!このクソ女!!」と叫びながら私へナイフを突き立てた。腹から流れ出る生温かい液体と全身に広がる痛み。「あ、これ駄目かも」と考えながら、倒れこんだところで意識が途切れた。


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