【BL】都合の良い理想の生活を君と
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。凪さん」
マンションに帰ってくると夕飯を作っていた華奢な彼が俺を出迎えた。
金髪の少し長い髪の毛が、たまに女子だと勘違いさせる。
俺の仕事用の鞄を受け取る胸元は確かにぺったんこなのに、何故俺はこの人と一緒に暮らしているんだろうか。
「今日は、凪さんが好きなそぼろ丼にしたんです」
優しくはにかむ姿も女子に見えなくもない。
「どうかしました?」
「あ、いや…なんでもない」
手を洗って食卓につく、目の前の彼は男性なのに妻というカテゴリーを手に入れたら完璧な存在にできあがることだろう。
「いただきます」
自分のために作られた食事を口に運ぶ。少し甘い味付けも醤油加減も米にとてもあっている。
彼は、そんな俺が感想を言うのをいつも静かに待っている。
「いかがですか?」
「うん……美味いよ」
「そうですか」
俺の愛想のないどこがそんなに好かれているのかよくわからないけれど、彼は満足そうに微笑むと自分も自らが作った食事を口に運ぶ。
夕飯を食べ終わるとソファーに座った。
「すぐにお風呂に入られますか?」
「…………………うーん」
なんとなく気のない返事を返したからか、彼が俺の隣へとやってきた。
「疲れてますか?」
身長の低い彼が俺を見上げて首を傾げている。
「(…かわいい」
無愛想にその唇に口を寄せると、相手から頭を撫でられる。そのまま彼の腰をギュッとつかまえる。彼がそっと俺の背中を撫でる。
この安らぎを知ってしまったら、もう一度女と結婚することなど、出来ないだろうなと思う自分がいる。
女は、男に完璧を求めすぎる。故に俺は、人に甘えるっていう事がうまく出来ない。それもこれも目の前の彼が俺に甘すぎるのがいけないんだ。
…何も考えなくても一緒にいられるから、好きだ。けれど、「好き」と言ってしまえば、また俺は目の前の人と別れなければいけない時がやってきてしまいそうで、口を閉ざした。
「凪さん……好きです」
彼はそんな俺にいま必要な言葉をくれる。
これは、寂しがりな俺が見せる夢で、理想的な彼は本当はこの世に存在などしていなくて……と、考えたあたりで彼は俺の顔を持ち上げると、俺の頬にキスをする。
現実的な存在感が確かにあると俺に知らしめる。