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とある魔獣研究員の調査手記  作者: 金平ごぼう
草原の魔物たち
2/2

灯火スズメ


 穏やかな平原といえど、そこには弱肉強食の世界が広がっている。

生存競争に敗れた弱き獣、老いや病に倒れたかつての王者、不幸にも命を落とした人間だっている。


 そんな彼らの骸には、なにやらうごめいている影が見つかるだろう。

体長10cm程で、暖炉の煤のような色の羽をもった小さな鳥、灯火スズメだ。


 穏やかな風の吹く環境を好み、ときに町の中で見かけることすらある。

暑さには強く、溶岩の流れる火山地帯での発見報告もあるようだ。

逆に、寒さには弱く、雪の降る地方で見かけることはほとんど無い上、たまの厳冬が訪れた翌年の春には個体数を大きく減らしている。


 餌は主に小さな虫や種子で、小さな嘴で地面をつついている姿はかわいらしく、庶民の間では灯火スズメをモチーフとしたデザインの雑貨も流通している。

しかし、農産物への食害も多発しており、農家からは好まれていないようだ。


 春から夏にかけては繁殖行動が確認され、3m程の高さの木の洞を好み、営巣する。

一度に生まれる卵は5~10個ほどで、抱卵から約10日で孵化、そこから20日ほどで巣立ちとなる。


 繁殖シーズンが終わると、数十から数百羽の群れを作るようになる。

ヒエラルキーなどは無いようで、主に外敵の対策、体温の維持のために群れを形成しているようだ。


 さて、ここまでを読めば、「ただのかわいらしい鳥じゃないか。」と思う者もいるだろう。

ここからは灯火スズメの名前の由来ともなっている特殊な生態について記すとしよう。


 灯火スズメの寿命は約6年ほどと考えられている。

寿命が近づいた彼らの体には、ある変化が起きるのだ。

胸のあたりに小さな窪みが生じ、窪みはどんどんと広がり、やがて体を貫通して大きな穴となる。

このころになると、内臓のほとんどは機能を停止し、食事を摂ることも無くなるようだ。

老いた彼らは自由の利かないであろう体で、平原を巡り、朽ちた骸を探し出すのである。

そして、骸を嘴で突き、骨をすこし削り取ると、体に開いた穴に放り込むのである。

この行為を数回繰り返すと、目を瞑り、じっと5分ほど動きを止める。

すると、パチパチとした音とともに体の穴に火が灯るのである。

火の勢いが増してくると、灯火スズメは空に向かい、急速に飛び立つのである。

飛び立った灯火スズメは火が全身に燃え移り、やがて体の全ては灰となってしまう。

なぜこのような行動をとるのか、どのようにして火を熾しているのかについては、未だに判明していない。

また、火を熾していると思われる、動きを止めた個体の捕獲を試み、実際に複数の個体の捕獲に成功した。

しかし、捕獲した個体のすべてが火を灯すことなく、生命活動を停止していた。

死体に開いている穴の内部を確認したものの、わずかに煤けた骨の破片があるだけで、原因の究明には至らなかった。


 以上を持って灯火スズメの調査報告を終了する。

生態の解明に至らなかったことが悔やまれるので、個人的な観察、および調査は継続する。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



以下、王立魔獣研究所による追記


 灯火スズメについては、とある仮説が立てられている。

口伝による古い伝承が主な根拠のため、信憑性にはかけるが、一考の余地あり。

火山地帯で古くから暮らす一族に伝わるわらべ歌を下に記す。



朝にひよひよ 煤け鳥

ちいさな羽の 煤け鳥


昼にひよひよ 煤け鳥

空のどこへか 煤け鳥


夜にきらきら 朱い鳥

朽ちてふらふら朱い鳥


誰より燃える 朱い鳥

たった一羽の 朱い鳥



また、先日の調査により、火山地帯の遺跡では灯火スズメと見られる煤色に描かれた鳥と、朱く描かれた大きな鳥の壁画が複数見つかった。

以上のことから、灯火スズメはなんらかの条件を満たした上で寿命を迎えると、御伽噺の存在と思われていた不死鳥となるのではないだろうか。

繰り返すが、根拠としては不十分なため、あくまで仮説である。



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