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とある魔獣研究員の調査手記  作者: 金平ごぼう
草原の魔物たち
1/2

花咲きヒツジ


 駆け出しの冒険者が初めて討伐する魔獣と聞いて何を想像するだろうか?

おそらく、多くの人は花咲きヒツジを思い浮かべるだろう。

穏やかな平原に生息し、性格も温厚で繁殖力も高い。それでいてやわらかい肉と、手触りの良い白い毛を持っているのである。

そんな有難い魔獣である花咲きヒツジの生態をここに記す。



 まず、花咲きヒツジという名前の由来についてだ。

草食であるこの魔獣は小柄な体に見合わぬ大食漢であり、一日の大半を食事に費やしている。

良く茂った青草を好み、茂みをつついてみれば簡単に姿を見せるだろう。

その食事の際に、豊かな体毛が植物の花や種子を絡めとるのである。

まるで体から花を咲かせているように見えることから、この名前が付いたのだろう。



 ここまでを見たら、特筆することのないような魔獣に思えるだろう。

ここからは、その特異な繁殖形態を記す。

通常、花咲きヒツジは5匹程の小規模の群れで暮らしている。

しかし、一年に一度の繁殖期が訪れると、複数の群れが集まり大規模なコロニーを形成するのである。

このコロニーは3つに区分される。

外周部、内周部、そして中心部である。

外周部では老いた個体や相手が見つからず、繁殖からあぶれた個体が集まり、周囲の警戒を担当している。

内周部では若い個体がパートナーと交尾をし、約2週間ほどで出産に至る。

子羊は、生後1週間ほどは母親のミルクを吸うが、その後は中心部で草を食べ始める。

ここからがこの魔獣の特徴的な部分である。

中心部では、そのコロニーの中でも大柄な個体が数匹集まり、他の個体により喉を踏みつぶされ、殺害されるのである。

その死体に、他の個体が身を震わせ、体毛の種を振りまくのだ。

種は死体を糧とし、豊かに草を茂らせ、子羊の餌となるのだ。

コロニーの中心で、安全にそだった子羊は3週間もすると、大人の個体と見分けがつかないほどに成長する。

それを期に、コロニーは解散され、元の小さな群れに戻るのである。



 また、記録上数件ではあるが、人間が襲われた例もある。

農村に住む好奇心旺盛な子供、もしくは呆けた老人が村をでてしまい、運悪くコロニーの形成に巻き込まれたのであろう。

大きな個体とみなされた彼らは、殺害され、種を振りまかれ、植物の苗床となるのだ。



これにて花咲きヒツジの調査は終了とする。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



以下、王立魔獣研究所により検閲。



 人間を苗床とした植物を食べて育った個体は、通常と異なり、その体毛を赤く染め上げるのだ。

もちろん、簡単に見つかるものではないため、希少価値も高く、この赤い毛を用いられた衣服は、主に貴族の女性の間で高価で取引される。

人が襲われた例よりも多くの女性たちが赤いドレスを纏い、夜会に花を咲かせているのは何故だろうか?

報告されていないだけの襲撃事例があるのだろうか? それとも……。


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