怪盗イディオ
この世はつまらない
私は人々が欲するものを全て手に入れた
しかし、手に入れたものが多ければ失うものも多い
私は人生で二度大切なものを失った 私の家族と私の絵画だ
同じ日々の繰り返し 刺激のない日々
退屈だ
と、昔は思っていた
私はある趣味を見つけた
私は画家、レオナルド・リオ
そして私のもう一つの姿、怪盗イディオだ
六月二十四日 ヴェスタン美術館にて怪盗イディオが天才画家、レオナルド・リオの作品「魔術師」を窃盗。怪盗イディオは仮面を被っており素顔をまだ誰も知らず、未だ逃亡中
アレン巡査「クソ!また逃げれた!今月だけでもう四回目だ!」
ニック巡査部長「まあ落ち着けアレン。もう盗られるのは慣れっこだ」
アレン「ニック部長、そんなこと言ってないで早く捕まえないと全部盗られちゃいますよ!」
ニック「ふっ 彼はそんなことしないよ」
アレン「?」
ニック「彼に目的はないからね」
ニック巡査部長は怪盗イディオの正体を知っている。そう。全てを知って彼の行動につきあっている。
六月二五日 レオナルド・リオ邸
レオナルド「なぜ私が怪盗イディオと言い切れる?えっと・・・」
エアロ・カレン「エアロ・カレンです。私はあなたのことずっと見ていました」
レオナルド「警察のものか。怪盗イディオ・・・私も何度か新聞の記事で見たが、なぜ私が私の作品を盗んだ?」
カレン「いいえ。私は警察ではありません。あなたの作品にとても支えられ、怪盗イディオの盗みにとても魅力を感じました!私を・・・怪盗イディオの弟子にしてください!!!」
私は一瞬頭が真っ白になり、次には全てを悟った。この女性は嘘しかついていない。おそらくクロムウェルが手配したものだろう・・・潮時か、クロムウェル・・・
レオナルド「いいだろう。しかしお前はこれから私と同じ業を背負うのだ。命の保証もない。覚悟はできているか?」
カレン「もちろんです!」
レオナルド「・・・では三日後、ヴェスタン美術館にこい。そこで私の作品を盗む」
カレン「はい!!」
ああ、私はふと我に返った。 なぜ怪盗など始めたのだろうか・・・
六月二八日 ヴェスタン美術館
怪盗イディオ「本当に来たのか。 まあいい。準備はできているな? ではいくぞ」
カレン「はい!」
美術館には容易に侵入できた。あとは私の作品を探すのみ
カレン「これが・・・! 天才画家、レオナルド・リオの名作、『愚者』! なんという迫力!」
作品に感銘を受けるカレンと作品に手をかけるレオナルドの二人の元に警察官が現れた
アレン「今日こそは逃がさんぞ!!怪盗イディオ!!」
イディオ「今日はやけに到着が早いじゃないか。まあ私は幾度となくこの状況から逃げて来たわけだが・・・」
すると背中にいたカレンから銃口を突きつけられる。私は手を挙げるしか他なかった。
カレン「すみません。レオナルドさん。 あなたを窃盗の容疑で逮捕します。私は秘密警察のエアロ・カレンです」
イディオ「秘密警察。 誰の回し者かね」
こんなことを聞くが私は知っているんだ。こんな愚かな私の茶番につきあってくれている男の名を・・・
そこにもう一人の警察官が現れた
ニック「もういいだろ怪盗イディオ。 いや天才画家、レオナルド・リオ!」
そうか・・・!私は怪盗を始めたきっかけを今、思い出した。刺激が欲しかったのだ全てを得て、その全てを失った虚無感から私の怪盗人生が始まったのだ。そして自分の目的にようやく気づき、ようやく辿り着けそうだ。
イディオ「・・・分かった。 降伏しよう。私を逮捕してくれ」
アレン「ふっ これで」
アレン巡査が何かを言おうとしたが、ニック巡査部長がそれを遮る
ニック「いい加減にしろ。 どうして怪盗なんぞに手を染めてしまったんだ。レオナルド・・・!そしていきなりなぜ降伏を選んだ?どういう気持ちの変わりようだ!」
イディオ「私は思い出したんだよ。クロムウェル・・・盗みを始めたきっかけを・・・ それは全てを失った虚無感によるもの。全てを得て、全てを失ったつまらない人生に刺激が欲しかった。私は過去に大切な作品を盗まれた。当時はひどく憤りを感じたが全てを持っていた私の器は大きく、数日後には何も感じなかった。 が、その盗んだ者と同じ者が私の家族を全員殺した。私は絶望し生きる意味を失い、家族の後を追うとした。だがクロムウェル、お前が止めてくれた。私は君に私の全てを奪った者を見つけるよう協力した。何年も。 しかし一切足取りを掴めず、私はまた絶望し、虚無に陥った。これでは生きている意味がない。でも犯人をどうしても捕まえたいと脳裏によぎる。 私は犯人がどうして私の全てを奪ったのか考えてみた。 そこで私がたどり着いた答えが、『刺激』だったんだ。そして私はどうすれば刺激が味わえるか考えた。考えた結果、今に至るというわけだ。 私は十分刺激を受けた。これで満足だクロムウェル。もう一度言おう。 私を逮捕してくれ」
ニック「・・・!?クソ!!!! どうしてこの道を選んだ!レオナルド!あと、あと少しで!!!」
最後に何かを言おうとしたニック・クロムウェル巡査部長の言葉をアレン巡査が遮る
アレン「ニック部長!!イディオが!!!!」
怪盗イディオは瞬時に背にいるエアロ・カレンから向けられていた銃を奪い取り、自分のこめかみに銃口を向けた。
ニック「やめろ!レオナルド!!頼む!それだけはやめてくれ!!!!」
イディオ「すまないなクロムウェル」
次の瞬間銃から弾が発射され、見事に怪盗イディオの頭を貫いた。
カレン「嘘・・・でしょ・・・? きゃーーーーー!!!!!!」
アレン「嘘だろ・・・・・」
ニック「クソ・・・クソクソクソーーー!!!!!! もう少しで、もう少しで分かったんだ!!!犯人の居場所が・・・ すまない。レオナルド・・・・・ でもなぜ今頃・・・」
私は全てから解放された。もはや盗まれた私の作品などどうでもいい。 ようやく会えるよ。ヘレン、マック、ルーア。あの世でも私たちは家族だよ。
初めて考えてみました。よろしくお願いします。